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ファイヤーウォール(14)

ファイヤーウォール(14)







 短時間の深い睡眠は、頭脳を覚醒させる。
 しかし、それはあくまで自然な眠りによるものであり、薬品を使った場合の目覚めは、決して気持ちの良いものではない。しかも、目覚めたときに、両手が手錠で拘束されていれば尚更のことだ。
 両手を頭の上に上げる格好で、薪はベッドに仰向けになってる。その華奢な手首には手錠が掛けられ、ベッドの金枠に固定されている。ワイシャツにネクタイ、ズボンは身につけているが、ジャケットは取り去られている。上着の中の携帯電話や、緊急連絡用の発信機には手が届かない。

「手錠を外してください!」
「外したら君は逃げるだろ?」
「当たり前です!!」
 間宮は楽しげにバスローブを脱いだ。その下には何もつけていない。間宮の目的は明白だった。
 若い頃からスポーツで鍛えた間宮の身体は、46歳とは思えないくらい張りがあって若々しい。女性から見たらうっとりするような身体なのかもしれないが、薪には単なるオヤジのはだかだ。見てもうれしくも何ともない。
 
 ネクタイが取り去られて、ワイシャツのボタンが外される。その下から現れた防弾チョッキに間宮は少し驚いたようだったが、手を止める気配はなかった。

「僕がロビーにいなかったら、小野田さんがすぐにここを突き止めますよ」
「官房長は来ないよ」
 薪の髪を撫でながら、間宮は楽しそうにネタばらしをする。薪は邪険にかぶりを振って、男の手から逃れようとした。
「松永君は俺の友人の一人でね。俺の頼みなら、何でもきいてくれるんだ」
「……ホテルのフロア係も、あなたのご友人だったわけですか」
「ご明察。さすが第九の天才だね」

 薪は、自分の失態に唇を噛んだ。
 まんまと間宮の罠に引っかかってしまった。
 まさか、官房室の事務員まで陥落しているとは思わなかった。しかもホテルの人間まで引き込んで、コーヒーに睡眠薬を入れるとは。
 油断した。岡部の言うとおり、絶対に気を許してはいけなかったのだ。

「こんなことをして、ただで済むとでも? あなたがいくら次長の娘婿でも、小野田さんがこのことを知ったら、黙ってませんよ」
「官房長は何も言わないよ。だって君たちの間には、何もないんだろ?」
「身体の関係がなくたって、小野田さんは僕に手を出す人間には、容赦しませんよ」
 もちろんはったりだが、こうでも言わないとこの男を止める手立てはない。足は動くが、上体を起こすことはできない状態だ。薪には交渉術(ネゴシエイト)以外、可能な作戦はなかった。
「プラトニックラブ? そんな子供みたいな恋愛ごっこなんかより、俺が大人の恋愛の仕方を教えてやるよ」
「お断りします」
 あらん限りの侮蔑を亜麻色の瞳に込めて、薪は目の前に迫った精悍な顔を睨みつける。間宮は色事に掛けては天下一品らしいが、たしかに女がしなだれかかりそうなフェロモンを持っている。
 しかし、薪は女ではないし、自分が女にされるのはもっとごめんだ。

「決まった相手がいるわけじゃないんだろ? 恋愛は自由だ。お互い楽しまなきゃ」
「ずい分、一方的な気もしますけど」
 相手を手錠で縛っておいて、自由恋愛もないものだ。
「そう言うなよ。俺は君に惚れてるんだよ。俺の気持ちを受け取ってくれよ」
「間に合ってます」
 自分にわけの分からないことを言ってくるのは、第九の新人だけで充分だ。あれだって、かなり持て余しているのに。

 ワイシャツのボタンはすべて外され、防弾チョッキのマジックテープが剥がされた。
 薪の白い肌が曝け出される。間宮の手が、首から胸に下りてくる。薪の背中が、おぞましさに総毛立った。
「きれいだ。まるで天使の肌だね」
 この男は、こういう気障ったらしい言い回しが得意だ。若い女の子には嬉しい言葉なのかもしれないが、薪はこれを聞かされるたびに反吐が出そうになる。
「やめてください!」
「一目見たときから、ずっとこうしたいと思ってたんだ」
 間宮の顔を射殺さんばかりの鋭い目で見て、薪は奥歯を噛み締める。
「君だって、初めてじゃないだろ?」
 なんで確認なんだ! 初めてか、と何故訊かない!?
「さっきも言いましたけど、僕はこういう趣味はないです」
「駄目だよ、俺にそんな嘘は通用しない。俺はね、相手の身体を見ればわかるんだよ。君は男に抱かれたことがあるはずだよ」
 ぎくりと薪の背中が強張った。
 亜麻色の瞳が大きく見開かれる。傷つけられたプライドが、その瞳の中で怒りに震えていた。

「君の態度から察するに、たいぶ昔のことなんだろうけど。でも」
 間宮の手は薪のわき腹を滑って、腰のほうへ下りてくる。ベルトに手が掛かり、薪は必死で身を捩った。
「この身体は、男に愛されたことのある身体だよ。男に抱かれる悦びを知った身体だ。でなけりゃ、こんな色気は出ない」
 そんなことを、この男が知っているはずはない。
 たしかに、薪には大学の頃すべてを捧げた恋人がいて、それは間宮の言う通り男性だったのだが、もう15年も昔の話だ。それに、薪は男が好きだから彼に抱かれたわけではない。
 相手が鈴木だったから。
 彼のすべてが欲しくて、自分のすべてを受け取ってもらいたくて。
 この色魔の言うような、汚い色欲から発した行為ではない。

 間宮の手が背中に回される。ウエストの辺りを持ち上げられて、ベルトを抜き取られる。ズボンのジッパーが下ろされて、薪はついに観念した。
「分かりました。もう抵抗しませんから。手錠を外してください」
「ようやくその気になってくれたかい?」
「はい」
「よかった。俺も無理矢理はしたくなかったんだ」
 そう言いながらも間宮は手錠を外そうとはせず、薪のズボンと下着を脱がそうとした。
「自分で脱ぎますから、先に手錠を、あ!」
 下着の中に、間宮の手が入り込んでくる。全身に走った悪寒に、薪は吐き気を覚える。
 間宮の手は寄り道をせずに尻のほうへ降りていき、目的の場所を探り当てると、中に指を挿れてきた。冷たくてぬるっとしたゼリーの感触。力が入っているから、指1本でもかなり痛い。
 相手を蹴り飛ばしたいのを、必死で堪える。ここで下手を打ってはまずい。とにかく、両手の自由を取り戻さなければ。
 
「間宮部長、僕はこんなのは嫌です。お互い楽しむんでしょう? だったら僕にもさせてください」
「嬉しいことを言ってくれるね」
 下着の中から汚らわしい手が出て行き、薪は詰めていた息をそっと吐いた。
 クロークに掛けられたジャケットの中から手錠の鍵を取り出し、間宮は薪の拘束を解いた。
 夢中で身体を捩っていたから、手首が傷だらけだ。手首を揉み、掌を閉じたり開いたりして、感覚を取り戻す。

「さあ、どうやって俺を楽しませてくれるのかな」
「こんなのはどうです?」
 上からのしかかってきた男の体を、得意の巴投げで放り投げる。間宮の身体は見事に1回転して、床に落ちた。すかさず、左手で首の後ろを固め、足で両肩を押さえ込む。胸の上に座る形になって、薪は間宮の首に手錠を突きつけた。
「小野田さんから聞いたんでしょう? 僕は、自分が上になるのが好きなんです」
 両手さえ自由になれば、こっちのものだ。こんな男の好きにはさせない。
「なるほど。激しいプレイが好きなんだ」
「ええ。でも一番好きなのは、放置プレイですね」
 間宮の右手に手錠を掛けて、どこに繋いでやろうかと周囲に目を走らせる。
 ベッドの足が最適だ。あれなら動けまい。
 素っ裸のまま、ホテルの部屋に放置してやる。せいぜい恥をかけばいい。こいつは、ひとをレイプしようとしたのだ。当然の報いだ。

「俺はもう少し、ソフトなプレイがいいな。こんな具合に」
 間宮はゆっくりと身体を起こし、薪の胸を軽く衝いた。そのまま床に倒されて、薪はびっくりする。
 がっちりと袈裟固めが決まっていたはずだ。それをあっさり返すほど、間宮は柔道の達人だったのか?
 そんなはずはない。返し技をかけられた覚えはない。しかし、この状態は――――。

「間宮部長。僕に何を飲ませたんです?」
 身体の自由が利かない。手も足も鉛のように重い。
「コーヒーに入れたのは、ただの睡眠薬だよ。君にゆっくり休んでもらおうと思ってさ」
「嘘です。これは睡眠薬なんかじゃ……やめてください!」
 迫ってきた間宮の唇を避けて、必死でかぶりを振る。男の体を押しのけようとするが、腕に力が入らない。
 この感覚は以前にも覚えがある。忘れもしない、去年の秋のおとり捜査のときの、あれだ。

「これはドラックです。ひとにそんなものを飲ませて自由にしようなんて、卑怯者!」
「飲ませたんじゃない。塗ったんだ」
 間宮の薄い唇が、薪の首筋に下りてくる。ぬめった舌が白い肌を濡らしていく。まるでナメクジが這うような感触に、薪は全身を震わせた。
「クスリっていうのはね、直腸に塗りこむのが一番早く効くんだ」
 さっきの行為は、そういうことだったのか。道理で簡単に手錠を外してくれたはずだ。
「身体を見れば分かるって言っただろ? 俺と楽しむ気があるかどうか、きみの身体を見れば分かるんだよ。だからあれを使わせてもらったんだ。君がその気になってくれるようにね」
 間宮はサイドボードの上に置いてある、小さな茶色の小瓶を指差した。
 ラベルには、意味不明の記号が書いてある。薬瓶らしいが、その効果は不明だ。しかしこのままでは、自分にとって不愉快な結果になることは、目に見えている。

 何とかしなければ。こんな男に好きにされてたまるか。

 薪は気力を振り絞って、足を動かした。膝が相手の腹にヒットする。弱い蹴りだが、武道をたしなまない間宮には、それなりの効果があったようだ。
「訴えますよ。レイプは申告罪です。僕は泣き寝入りなんかしませんからね」
「素直じゃないな。ここはこんなに正直なのに」
 ズボンの上からそこに手を置かれて、薪は心の底から驚いた。

 信じられない。ありえない。これは何かの間違いだ。
 反応している。
 間宮の手の動きが、春物の薄いズボンを通して伝わってくる。嫌悪感で体中に鳥肌が立っているのに、薪のそこだけは間宮の奴隷になってしまったかのようだ。
 間宮は自分の右手に掛けられた手錠を外し、再び薪を拘束した。抱えあげられてベッドに寝かされる。
 腰を持ち上げられて、ズボンを脱がされる。下着も取り去られて、その中の欲望がむき出しになる。
 冷たい空気を直に感じて、薪は耐え難い羞恥に身を焼かれた。風呂上りに裸体を見られることにはあまり抵抗がない薪だが、この状態になった自分を見られるのは、まったく別の話だ。

「恥ずかしいのかい?」
 間宮は、薪の初々しい反応が気に入ったのか、ひどくうれしそうだ。その部分には手を触れず、薪の胸や太ももを撫で回し始める。首筋を吸い、胸に下りてピンク色の乳首を舐める。
 頬を赤く染めて、薪は唇を噛む。嫌だと叫びたいのに、口を開いたら別の声が出てしまいそうだ。
 狂うほどの嫌悪感が心に渦巻いているというのに、薪のからだは勝手にびくびくと動いて、その敏感な反応は間宮を悦ばせた。

「感じやすいんだね。可愛いよ」
 そんなことまで言われて、薪は目の前が真っ赤になる。こんな屈辱には耐えられない。何としてでもこの反応を止めなければ。
 やめろ、放せ、と叫んだつもりだった。
 が、薪の口から出てきたのは、部下を震え上がらせるいつもの恫喝とはかけ離れた上ずり声だった。薪には認めたくない事実だが、その声は確かに性的な愉悦を帯びていて、間宮を狂喜させた。
「素敵な声だ。もっと聞かせておくれ」
「や、やめっ……ひゃっ!」
「ここ、感じるんだ」
 ウエストは薪のウイークポイントだ。ここだけは弱い。特に背中側を撫で上げられると、力が抜けてしまう。

「いやだっ、いやっ……!」
「大丈夫だよ。一度すれば、きみは俺に夢中になるから」
「あっ、あっ」
 体中の細胞が否と叫んでいるのに。気持ち悪くて吐きそうなのに。どうして性感だけが、自分を裏切って、こんな男に迎合しようとしているのか。
 必死で欲望を制御しようとするが、生理現象には逆らえない。クスリのせいで異常に高まった性欲を抑えるのは、下剤を飲んでからトイレを我慢しようとするのと何ら変わりない。

 間宮の舌は、薪の弱点を的確に攻めてくる。自然にからだが仰け反って、背中がびくびくと震え始める。薪のそこは痛いくらい張り詰めて、もしここに何らかの刺激が加わったら、即行で爆発してしまいそうだ。
 この男の前でそんな醜態を見せるくらいなら、いっそここを切り落としたほうがマシだ。他に使う当てもないし、悲しむ女もいない。
 間宮の舌が下腹部に移ってくる。
 足の付け根や内股を舐められ、尻を揉まれる。間宮の髪が薪のそこに触れて、思わず腰が跳ね上がる。浮き上がった尻の下に指が伸びてきて、狙い定めた場所をなぞり始めた。

「ちっくしょっ……くっ!」
 もう手段は選んでいられない。薪は思い切り自分の唇を噛んだ。
 じわりと口の中に血の味が広がる。その痛みのおかげで、僅かばかりの正気が戻ってきた。
「さわるなっ、この変態!」
 動かない体を渾身の力で動かして、間宮の指から逃れる。身体が動かないから、頼りになるのは口だけだ。
「ひどいな」
 もう敬語を使う余裕もない。警視長だろうと警務部長だろうと、変態は変態だ。本当のことを言って、なにが悪い!
 間宮は薪がここまで抵抗するとは思わなかったようで、少し困った顔をした。

「君も強情だね。無理強いはしたくないんだけどな」
 言葉は穏やかだが、間宮は明らかに腹を立てていた。いつまでも自分の思い通りにならない薪に、痺れを切らしている。
 間宮は薪の秘部にもう一度指を挿れると、今度はずっと奥の方までゼリー状のクスリを塗り込んだ。
「―――― っ!」
「規定量を超えちゃうと、後が大変なんだ。でも、君が悪いんだよ。素直にならないから」

 間宮も、もう容赦はしなかった。薪のおねだりを待たずに足を抱えあげ、受け入れる体勢を取らせる。
 薪は今度こそ観念して目を閉じた。悔し涙が流れる。
 
 こんなやつに。
 こんなやつに犯られるくらいなら、あのバカのほうがまだマシだ!

「薪さん! 無事ですか?」
 聞き慣れた部下の声と共にドガガッという派手な音がして、薪の身体はベッドに投げ出された。
 目を開けると、岡部の大きな背中が見えた。ドカドカと容赦なく、床に横たわった裸の男を蹴り飛ばしている。悲鳴が上がらないところをみると、間宮の意識はすでに無いようだ。

 ……助かった。
 頼りになる部下の出現に、薪は安堵のため息をついた。




*****



 この話を書き終えた3日くらい後に、アニメのDVDの9巻が発売されることになって、アマ○ンで注文しようとネットを見たら。
 9巻の表紙が手錠プレイ!!(に、見えた)
 神さまのお導き?(何の神さまだよ)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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鍵コメいただきました、Kさまへ

ここでは一言だけ。
どんな状況でも楽しめる、そのお心の広さを尊敬いたします。

あとのお返事は、Kさまのブログにて。



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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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