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新人騒動(2)

新人騒動(2)






 春の人事異動は、1年のうちで最も大きな人事である。
 新しく配属になるもの、昇任するもの、多くの人々が新しい部署と役職を得る。心機一転、みながやる気に溢れたこの季節、ここ第九にも新しい人員が配属されることになった。

 万年人手不足に嘆く第九研究室では、職員の数が増えるのは喜ばしいことだが、問題はその職員たちの経歴だ。
彼らは大学を出たばかりの新米キャリア。優秀な頭脳を持った3人もの新人が、この研究室に来ることになったのだ。

 一般の部署なら歓迎される人事だ。優秀なキャリアは、どこの部署でも引っ張りだこだ。しかし、ここ法医第九研究室の室長の考えは、違っているようだった。

 明日から配属になる新人たちの経歴書を見て、薪は形の良い眉を寄せる。不満そうに歪められたつややかなくちびるから、チッと舌打ちする音が聞こえた。
 新人というのは、すぐには役に立たない。つわもの揃いの第九では、完全に足手まといだ。
 しかもキャリア。イコールそれは、大学を出たばかりで机の上でしかものを考えられない、口ばかり達者な頭でっかちの若造ということだ。

 それがわかっているから、薪の口調はつい辛辣なものになる。
「シロウト4人も抱えて、どうしろって言うんだ!」
 室長の厳しい未来観を、岡部は苦笑いで受け止めた。薪のこういう物言いには慣れている。
「新人は3人ですよ」
「もうひとりいるだろが。大きなお荷物野郎が」
 これは青木のことだ。相変わらず、薪は青木に厳しい。

「青木はもう、素人じゃありませんよ。あいつは努力家だし、この頃だいぶやるようになったじゃないですか」
 岡部は、いつものように青木を庇う。
 最近気付いたことだが、薪はこんな風に自分で青木のことを酷評するくせに、それを岡部が否定すると、微かに嬉しそうな顔をする。どうも複雑な心理のようだ。
「捜査官としての経験のことを言ってるんだ。努力でどうにかなるなら、年功序列は社会に存在しない」
「まあ、年数も大事ですけどね。ところで、教育係はだれがやります? また俺ですか?」
「青木にやらせろ。素人は素人同士で隔離して、捜査の邪魔にならないようにしとけ」

 その冷たいセリフが口先だけのものだと、岡部にはもう分かっている。
 いざ新人が配属されてきたら、彼らの精神と身体を気遣って、シフトを組み直したり研修と称して外に出してやったり、その負担をなるべく軽くしてやろうとするに決まっている。
 青木のときもそうだった。薪は、見えないところでひとの世話を焼くのが得意なのだ。

「青木で大丈夫ですか? 俺がやったほうがいいんじゃないですか?」
「おまえはダメだ。おまえには今年から、副室長の役職についてもらう」
 薪の人事命令に、岡部は目を丸くする。
「新人が入れば、職員の数は10人になる。副室長が選任できる。僕の女房役は、おまえしかいないからな」
 薪の言葉は、とてもうれしい。が、岡部には、その役目を引き受けることはできなかった。
「お気持ちだけ頂いておきます」
 何事にも抜け目のないこの上司が、こんな基本的なことを忘れているなんて。薪でもそんなことがあるのだな、と岡部は苦笑した。

「室長。俺は警部です。副室長になれるのは、警視からです。連中の中では年齢も考慮して、今井あたりが適任ではないかと」
 残念そうに首を振った岡部の顔の前に、二枚の紙が突きつけられた。
 一枚は法医第九研究室副室長の任を命ずる、と書かれた任命書。もう一枚は所長宛に出された、特別就任人事の決定書だった。
 岡部のこれまでの実績と、高い実力を評価した室長の推薦文が添えられたその書類には、所長の田城の印も押してある。

 薪から任命書を渡されて、岡部は我が目を疑う。
 任命書には人事部長の朱印もあって、つまりこれは正式な人事ということだ。まさか警部の自分が、警察庁で管理職に就けるとは。
 その特別人事の裏側のことを推し量って、岡部は困惑する。
 役職が上がるのは嬉しいが、この任命書に警務部長の印を貰うために、薪はまた厭な思いをしたのではないだろうか。

「……そんなに僕の片腕はいやか?」
 岡部の複雑な表情を見て、薪はまたいらぬ気を回している。
 このひとは時々、とても弱気になる。普段の意地悪で皮肉屋な態度が嘘のように、今の薪は不安げでとても可愛らしい。
「いえ、そんなことはありません。ただ、この人事部長の印を押してもらうのに、あなたがまた無理をしたんじゃないかと」
「いや。間宮は変態だけど、仕事はきちんとやる。人事評価に私情は挟まない。おまえのことも、高く評価していた」
「間宮を殴った俺をですか?」
「たったあれだけの情報からあの場所を探り当てて、僕を助けに来てくれただろ。さすが捜一の元エースだって、褒めてたぞ」
 そこで薪は何を思い出したのか、くくくっと笑った。
「おまえ、あいつの顔、何回殴ったんだ? まるで風船みたいになってたぞ」
 あんなことをされたのに、薪はえらくさばさばしている。
「きっと1ヶ月くらいは、女遊びもできないんじゃないかな。あの顔じゃ、どんな口説き文句も笑い話にしかならないだろ。いい気味だ」

 いつものように意地悪そうに笑って、薪はその件は水に流すつもりらしい。
 大きく騒ぎ立てて、噂にでもなったら傷つくのは薪のほうだから、岡部も間宮の犯罪を告発するつもりはないが、このまま泣き寝入りというのも腑に落ちない。
「いいんですか? あんなにひどい目に遭わされたのに」
「いいんだ。あんなの大したことじゃない」
 あれが大したことじゃなかったら、この世に性犯罪は成立しない。
 薪の裸身を見てそういう状態になった、というだけの理由で全人格を否定されそうになっていた誰かに比べたら、えらく寛大な態度だ。
「おまえのおかげで未遂だったし。……大事なこともわかったから」
 間宮に付けられた心の傷は深かったはずだが、薪はすっかり立ち直っているようだ。このひとは、いつの間にこんな強さを身につけたのだろう。

 しかし、薪が元気でいてくれるなら、それに越したことはない。間宮に復讐するよりも、あんな嫌な出来事は、早く忘れてしまったほうがいい。
「ありがとうございます。謹んで拝命します」
 任命書を押し頂いて、岡部が敬礼すると、薪はにこりと微笑んで目を輝かせた。
「これから僕がいないときは、おまえが室長だ。室長の仕事も合同会議の進め方も、きっちり覚えてもらうからな。ビシビシいくから覚悟しとけ」
「はい!」
 背筋を正して、力強く返事をする。

 これで薪の激務を、少し軽くしてやることができる。岡部はそのことが純粋に嬉しかった。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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間宮…

風船みたいになっちゃったですか…どんだけ殴ったんだ、岡部さん(笑)
ドラッグ騒動、雪子さんの鬼畜さと、青木の我慢強さに大笑いして感服しました。
しづさん、エピソードの使い方が上手いですわ~。
こうして少しずつ、薪さんの気持ちに青木は入り込んでいくんですね…。

でもって新章の新人くん!!
これまた良いキャラです、続きが楽しみです。
こてんぱんにやられて欲しいわ♪

Re: 間宮…(めぐみさんへ)

こんにちは、めぐみさん。

> 風船みたいになっちゃったですか…どんだけ殴ったんだ、岡部さん(笑)

ええ、そりゃあもう。
遠慮なしにサンドバック状態です。SPを投げ飛ばすお方ですから。(^^)

> ドラッグ騒動、雪子さんの鬼畜さと、青木の我慢強さに大笑いして感服しました。

笑っていただけて、うれしいです。
そうなんですよ。この話ってたしかにヒドイことされてるんですけど、冷静に考えると笑える話ですよね。あの状態のところに男送り込まれて、『僕にどうしろと!?』というあたりで笑ってもらいたかったんです。あとは『これは男の悲しいサガで!』とか。あくまでR系ギャグですから。
ウケていただいて、本望です。

> しづさん、エピソードの使い方が上手いですわ~。
> こうして少しずつ、薪さんの気持ちに青木は入り込んでいくんですね…。

そうですね。
早く薪さんのからだにも、入り込んで欲しいもんですね・・・(うおっ!いきなり腐った!す、すいません。昨日あたりから急に暑くなって・・・・・腐りやすくなっております)

> でもって新章の新人くん!!
> これまた良いキャラです、続きが楽しみです。
> こてんぱんにやられて欲しいわ♪

もう、完全にヤラレ役ですね。
書きやすいんですよね、こういう性格の悪い子。自分をそのまま書けばいいから(笑)

今回も長丁場なので、どうか気長にお付き合いください。

間宮ぁぁ(°Ⅲ°;;)キリキリキリ

こんばんは
間宮・・・・許しちゃうんですか・・・・・・・?薪さん・・?
だって後10秒・・・10秒遅かったら絶対・・・・・・入っ・・・

ああああああああ   Σ〃/(°Д°;;;)\ヾ~ガシガシガシ
               ~            ~~
                ↑
                抜け毛

ぜーはーぜーはー(@_@;)
失礼、取り乱してしまいました・・・・。

いいんですか・・・?薪さん、こいつを見逃して?
いいんですか・・・?こいつを小野田さんに突き出さなくて・・?

「ずっと後悔していた、あの時恥を恐れず変態を告発していれば・・・」ってことにならないんですか・・・
\(゜ロ\)(/ロ゜)/

こんな奴許しちゃだめです(T_T)
絶対また同じようなことを・・・・。

ところで薪さん、青木をけちょんけちょんに言ってますが、ここで万一岡部さんが同調したら、いきなり青木フォローに回るんでしょうね・・・。
そして別の人が青木をこけにしてたら、怒るんでしょうね・・。

Re: 間宮ぁぁ(°Ⅲ°;;)キリキリキリ(わんすけさんへ)

こんばんは!わんすけさん。
夢のつづきがとても気になってます。第二夜は、まだ見れませんか?(←まだ引っ張るか。すいません、あまりにもツボにはまってて・・)

> こんばんは
> 間宮・・・・許しちゃうんですか・・・・・・・?薪さん・・?
> だって後10秒・・・10秒遅かったら絶対・・・・・・入っ・・・
>
> ああああああああ   Σ〃/(°Д°;;;)\ヾ~ガシガシガシ
>                ~            ~~
>                 ↑
>                 抜け毛
>
> ぜーはーぜーはー(@_@;)
> 失礼、取り乱してしまいました・・・・。

きゃー!
わんすけさんのおぐしが!と、叫びつつも、爆笑!!
抜け毛って!
もー、わんすけさんの突っ込み、楽しすぎです。

> いいんですか・・・?薪さん、こいつを見逃して?
> いいんですか・・・?こいつを小野田さんに突き出さなくて・・?
>
> 「ずっと後悔していた、あの時恥を恐れず変態を告発していれば・・・」ってことにならないんですか・・・
> \(゜ロ\)(/ロ゜)/

どこかで聞いたような(笑)

> こんな奴許しちゃだめです(T_T)
> 絶対また同じようなことを・・・・。

やるでしょうね、きっと。(笑)
ここで薪さんが、間宮を告発しなかった(できなかった)のには理由があります。
次のお話(2061.5 つむじ風)で出てきますので、もうちょっと待っててください。

> ところで薪さん、青木をけちょんけちょんに言ってますが、ここで万一岡部さんが同調したら、いきなり青木フォローに回るんでしょうね・・・。
> そして別の人が青木をこけにしてたら、怒るんでしょうね・・。

うふふふ。
見抜かれちゃいましたね。
行間を読んでくださって、うれしいです。

わたし、もう、すっかりわんすけさんのツッコミにはまってしまいました。いつも大笑いしてます。
西のお方の血と、若さのなせる技ですね。もはや芸術の域に達してます(笑笑)
楽しいコメント、ありがとうございました。

Aさまへ

8/11に鍵拍手くださいました Aさまへ

Aさま、こんにちは~。
毎日暑いですね~。


>ええっ、間宮は野放しですかッ!?あいつは立派な性犯罪者ですよ(>皿<)

ですよね、犯罪ですよね、これ。(^^;
薪さんにも考えるところがありまして・・・・この辺の理由は、次の『つむじ風』に書いてあります。 部下を守るのは上司の務め、という信念をうちの薪さんは持っているのです。


>前回の須崎君と青木の激突が面白そうですね(^^

真っ向からはぶつかりませんが、内心はモヤモヤです。 
『新人騒動』とか『ラブレター』とか、青木くんがヤキモチ妬く話は書いてて楽しいです~。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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