FC2ブログ

土曜の夜に花束を(1)

 ここから第3部に入ります。

 再三申し上げました通り、これまでとはカラーが違いますので、ご注意ください。具体的にはBL色が強いです。
 これまでのお話は恋愛問題ばかりではなく、色々なことを書いてきたつもりなんですけど。仕事のこととか、青木くんの成長とか、薪さんの苦悩とか。
 でも、ここからはそれしか書いてないです。まるっと恋愛小説です。ギャグは入れてるんですけどね。なので、お好みの方だけ読んでいただきたいです。
 Rも当たり前みたいに出てくるので、18歳未満の方、Rが苦手な方はご遠慮願ったほうがよろしいかと。

 そ、それと~~、
 3部以降の作品につきましては、勝手ながら、
 Rに関する苦情は一切受け付けません。(言い切ったよ、サイテー)
 すみません、自分でグロイの分かってるので~~~、でも美しく書けないの、あれで精一杯なの、見逃してくださいっ。


 どうか、女神さまのように広いお心をお持ちいただいて、(いや、女神さまはこんなもん読まないだろ)
 よろしくお願い致します。






土曜の夜に花束を(1) 






 井之頭通りに何軒かある花屋の中で、閉店時間が一番遅いのは『しらいし』という店だ。
 亭主に先立たれた女主人が経営する小さな花屋ながら、花の種類は豊富で質も良く、値段は安くはないが、そのぶん長持ちする。加えて、店主のラッピングと花束のセンスはなかなかだと、近所でも評判の店だった。
 ホステスへの手土産にと夜更けに花を買う客が多い銀座や歌舞伎町と違って、吉祥寺では夜の9時過ぎまで営業している花屋はめずらしい。ここは夜の店が少ない街だからだ。が、これには理由があって、実はこの店を訪れるひとりの客が仕事の関係で、この時間に花を買いに来ることが多かったからなのだ。
 といっても、彼はそう頻繁に店を訪れるわけではない。それほど大量の花を購入する上得意客というわけでもない。しかし彼女には、彼のために店を開けておいてやろうと思えるだけの理由があった。

 初めて彼がこの店を訪れたのは、たしか3年前の夏だった。
 その日はバイトの娘が花の配達先を間違えて、そのフォローに回ったため、閉店時間を1時間も過ぎてしまった。明日は早いのにと心の中で愚痴りながらシャッターを閉めようとしたところに、彼が現れたのだ。
「すみません。まだ間に合いますか?」
 亜麻色の短髪に同じ色の大きな目。長い睫毛とつややかなくちびる。夏の夜だというのにダークグレーのスーツをピシリと着こなして、そのひとは涼やかに佇んでいた。お客を外見で判断するわけではないが、かれがこれほどの美貌の持ち主でなかったら、「どうぞごゆっくりお選びください」と言うセリフは出てこなかったかもしれない。
 そのとき彼は、迷うことなく白い百合の花を選んだ。その花はまさに彼のイメージにぴったりで、店主はこころの中で密かにこの青年に『白百合のきみ』という乙女チックなあだ名をつけた。

 最近この近くに越してきたばかりで、前に住んでいた街と違って、どの店も早く閉まってしまう事に驚いている、と話した。仕事の関係で9時前に自宅に帰ることは殆どないので、平日は買い物を諦めていたが、今日はこの店が開いていて良かった、と微かに笑った。
 それはひどく悲しそうな微笑で、店主はそのことに違和感を覚えた。花屋に花を買いに来て、悲しそうな顔をする客というのは少ないからだ。
 店主の持論は『花はひとを幸せにする』というものだった。たいていの客は自分が花束を作って渡すと嬉しそうな顔になるし、中には「わあ、きれい」と感嘆の声をあげてくれる人もいた。
 そこで店主は、頼まれてもいないラッピングをこの客にサービスすることにした。自分もこの技術にはひとかどの自信を持っていたし、なにか悲しい出来事があったらしい青年を元気付けてやることは、悪いことではないと思えたからだ。
 店主が花束用に花を重ね始めたのを見て、ラッピングは不要です、と青年は声を掛けてきた。謙虚で気遣いを含んだ態度に、店主は好感を抱いた。

「初めてのお客さんですから、これはサービスです。奥さんだってこの方が喜びますよ」
「僕には妻はいません」
 左手に指輪はなかったが、男の人が自宅用に自分で花を購入することは少ないから、てっきり妻帯者だと思った。
「それは失礼しました。じゃ、恋人ですか?」
 苦笑して首を振る。口元は優雅に微笑みの形を作るが、今にも泣き出しそうな顔だ。
 どうして彼がこんなふうに笑うようになったのか、店主は気になった。
 彼はまだ若く身なりも良く、とてもきれいな顔をしているのに、まるで年老いた老人のように人生を諦めた表情をしていた。

「それじゃ、ご自分へのご褒美ってことで。リボンは何色がいいですか?」
 リボンの見本を差し出すと、青年は困ったように目を伏せて低い声で言った。
「お祝い事ではないので。リボンは結構です」
 これはしくじった。さては弔事用だったか。それなら先刻からの悲しそうな表情も頷ける。もしかしたらこの青年は、大切なだれかを亡くしたばかりで、この花はそのひとに供えようとしていたのかもしれない。

「そういうことなら、シルバーのリボンはいかがですか? こちらならお供え物にしても」
 おずおずと申し出た店主に青年は頬を緩めて、亜麻色の頭を掻いた。
「すみません。よけいな気を使わせてしまいましたね。そういうわけでもないんです」
 それから青年は、リボンの見本の中から濃い緑色のリボンを選ぶと、これでお願いします、と切ない目をして言った。
「ありがとうございました。これからもどうぞご贔屓に」
 大きな花束を抱えて、夜の街に消えていく頼りない背中を見ながら、店主はその青年のことが気になって仕方なかった。今日はたまたまバイトの娘の失敗のせいでこんな時間になってしまったが、もしもあの青年がこれからもここに来るようだったら、この時間までは店を開けておいてやろう。

 果たして、それから彼は月に2回くらいのペースで、この店に来るようになった。
 彼が買う花はいつも決まって、白い百合の花だった。その端麗な容姿を見て、アルバイトの娘も、店主がこっそりとつけたあだ名で彼のことを話すようになった。
 白百合がお好きなんですか、とかれに訊くと、自分ではなく大切なひとが好きだった花なのだ、と語った。過去を振り返る話し方に、やはりこの青年は自分と同じように大事な人を亡くす痛みを知っているのだ、と店主は確信した。

 季節が移るごとに、少しずつではあるが明るくなっていく彼に、店主は安心を覚えていた。特に最近は花を渡す際に笑顔を見せてくれることが多く、それは彼女にとっても喜ばしいことだった。
 かれは痛手から立ち直りつつあるのだ。もしかしたら、亡くしたひとに代わる誰かを見つけることができたのかもしれない。

 その青年はここ1年ばかり、仕事が忙しくなったのか、1月に1度くらいの割合でしか店を訪れなくなっていたが、この店の白百合の売り上げは変わらなかった。別の固定客がついたからである。
 新しい白百合のリピーターは、黒髪のメガネをかけたとても背の高い男だった。
 彼は『白百合のきみ』とはまったく逆で、最高に嬉しそうな顔をしてこの店を訪れた。店主の花束作りの技術を絶賛し、どの花屋よりもきれいだと言ってくれた。

「恋人へのプレゼントですか?」
「いや、まだ恋人ってわけじゃ」
 テレテレと頭を掻いている。独り者の店主にしてみたら、後ろからどついてやりたくなるようなヤニ下がった顔だ。 
「花は白い百合だけでいいんですか? 他の花も混ぜたほうが、華やかになると思いますけど。お値段もその方が抑えられますよ」
 女の子は、色とりどりの花束を好むものだ。それに百合は夏の花だから、冬の季節はかなり値が張る。他の花を加えてバランスを取ったほうが、安く上がるのだ。
 が、店主の提案を、彼は申し訳なさそうに断った。
「白い百合が好きなひとなんです。そのひと自身も白百合の化身みたいなひとで」
 白百合の化身とは恐れ入った。この男の想い人と白百合のきみと、果たしてどちらの美貌が上だろう。
「おきれいな方なんですね」
「はい。身も心も、すごくきれいなひとです」
 恋人に贈るための花束を買いにくる男は大勢いるが、ここまで言い切った男は初めてだ。後ろからではなく、横から蹴りを入れてやりたい。

「リボンはどれにします?」
 彼が選んだのは、濃い緑色のリボンだった。20種類以上ある色の中から、白百合のきみと同じものを選ぶなんて、人物像は正反対なのに面白い、と思った。
「ありがとうございました」
 スキップでも踏みそうな弾んだ足取りで、かれは去っていった。選ぶ花は同じでも、両極端なふたりだ、とその当時の店主は思っていた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Aさまへ

Aさま。


はじめまして。
コメントありがとうございます。
拙作をお読みいただいて、ありがとうございました。


原作未読の方なのですね。
MRI捜査の仕組みや人間関係など、意味は通じましたでしょうか?
最初の頃の話に概略は書いたつもりですが、あれだけの説明でお分かりいただけたでしょうか。少々心配です。

当たり前ですけど原作は、
もっともっともっと×1000000∞ に面白いので、ぜひ読んでみてください。
薪さんの美しさと切なさと健気さに心奪われること、保証いたします。
薪さんの事ばかり考えすぎて日常生活に支障をきたすかもしれませんが、それはご容赦くださいね(笑)


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: