土曜の夜に花束を(2)

土曜の夜に花束を(2)




 青木の家のカレンダーには、毎日バツマークが付けられる。
 それは4月の3週目の月曜から始まった習慣で、今朝は4つ目のバツマークを書き込んだ。二重丸の付いた目標の日まであとわずか。その日が近付くにつれて、青木の頬は緩んでいく一方である。その日はきっと、青木にとって生涯忘れられない日になるはずだ。
 今週末の土曜日。2年も掛けてようやく口説き落とした可愛い恋人と、初めて一夜を過ごす予定なのだ。

 青木が2年もの長い間、わき目も振らずに恋をしてきた相手は、自分でもびっくりすることに12歳も年上の男の人だ。しかも職場の室長という役職に就いている。自分など足元にも及ばない、とても優秀な捜査官である。
 そのひとの名前は薪剛。年は37歳。しかし見た目が異様に若くて、どう見ても青木より年下にしか思えない。

 先週の日曜日。玉砕覚悟で望んだ勝負に、青木は見事に勝った。前半戦であっさり敗退したときにはすべてを諦めたのだが、物事はやってみなければわからないものだ。勝算はマイナスだと思っていた後半戦、何故か相手は青木の気持ちに応えると言ってくれた。
 正確には『受け入れられるように努力する』と言われたのだが、これは恋人になってくれる、という意味にとって間違いないはずだ。青木としては2年近くも恋情を募らせていたのだから、その場で抱いてしまいたいくらい相手のことが欲しかった。せっかく相手がその気になってくれたのだ。このチャンスを逃す手はない。

「薪さん。これからオレの家に来ませんか?」
 愛しさを掻き立てる華奢な体を抱きしめたまま、青木は薪に誘いを掛けた。が、明日の仕事を理由に、その誘いは断られてしまった。その理由付けはいかにもとってつけたようで、まだそこまで許す気にはなれない、という意味かと思ってしまった。
 しかし、それは違った。

「週末なら。土曜日に、家で待ってるから」
 恥ずかしげに顔を伏せたまま、薪は固い声で言った。
 その場凌ぎの言葉ではない。このひとは、自分の言ったことには責任を持つ人だ。
 受け入れると言ったからには、心も身体もすべて受け入れる。そこまでの覚悟がなければ、初めからそんなことは言わない。

 青木はその言葉を信じて、こうしてカレンダーに印をつけている、というわけである。まったくおめでたい男だ。彼のそんな特性も、勝因のひとつだったのだが。
 そんなわけでその週の青木は、傍目から見ても浮かれていて、それを第九の先輩たちに指摘され「春だから」という曖昧な理由で追求を逃れていた。薪はさすがに大人の余裕か冷静そのもので、これまでとなんら変わりがなかったから、青木に巡ってきた春と氷の室長とを結びつけるものは誰もいなかった。

 そして決戦の土曜日。
 その日はたしかに青木にとって、生涯忘れられない日になったのだ。
 ただし――― とても苦い思い出として。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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