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新人騒動(13)

新人騒動(13)






 青木が金星を上げた翌日。捜査は意外な展開を見せた。
 第九のミーティングルームでは、職員たちに捜査一課の竹内警視を交えて、捜査会議が行われている。
 今回の事件で、第九と捜一は協力体制に入った。被疑者は確定したものの、さらに第九の力が必要とされる事実が判明したからである。

「犯人がふたりいる?」
「正確には被疑者と思われる人物が2人いて、厄介なことに彼女たちの見分けがつかないってことです」
「一卵性双生児か」
 薪の言葉に、竹内が頷く。目と目を交わして、相手の中に自分と同じ危惧があることを知り、ふたりのエリートは同時に眉根を寄せた。

「個人データには同い年の妹がいるとあった。可能性には気付いていたんだがな」
 このふたりは普段はとても仲が悪いのだが、お互い仕事には私情を挟まない主義だ。いまも普通に話しているし、隣同士の席で額を寄せて考え込む様子は、仲の良い友人のようだ。
「双子? まさかこの事件は」
 岡部もその可能性に気付いたらしい。
「そうだ。双子のうち、どちらが犯行を行ったかを確定しないと、犯人を検挙することはできない」
「まいったな。双子に組まれたら、落とすのに苦労するぞ。あいつらテレパシーあるんだ」
 本気だか冗談だか、岡部の顔は判断がつかない。だから岡部のジョークは、他人に伝わらないことが多い。

「昨日から任意同行で引っ張ってきて、尋問はしてるんですけど、完全に口裏合わせてて。敵ながら見事なもんですよ」
「しかし、MRIで見ても一卵性双生児の見分けなんかつきませんよ。姉か妹のどっちかが映ってるわけなんでしょうけど」
 大きく引き伸ばされた2枚の写真に写っている女性の顔と、MRIからプリントした画を見比べて、小池が困惑の表情を浮かべる。たしかに3人とも同じ人間に見える。他の職員たちも一様に渋い顔だ。

「捜一の尋問の仕方が、甘いんじゃないんですか? うちはここまで容疑者を限定したんだから、あとはそちらの仕事でしょ」
 辛辣な捜一批判は、竹内と敵対関係にある室長のものではなかった。
 竹内が初めて見る顔だ。年も若い。今年入った新人と推測される。
「なんすか、あいつ」
「あれが噂の全国1位だよ」
 昔、現場でコンビを組んでいた岡部が、こっそりと教えてくれる。室長の薪に言われるならともかく、新人ごときに捜一の取り調べの甘さを貶される筋合いはない。

「全国1位? それは自称だろ。I種試験は正式な順位発表はされないはずだ」
 須崎は自分の携帯を開いて、待ち受けの画面を竹内に見せた。そこには、人事院の総裁の名前を冠した表彰状が映っていた。
 賞状には須崎武彦様とあり、国家公務員I種試験に首席で合格を果たしたこと、これからの活躍に期待している、という激励の文章が認められる。これは本物らしい。噂には聞いていたが、現実に見たのは初めてだ。

「自分たちの力不足を、こちらに押し付けてくるなんて。これだから現場の人間は。どうせロクな大学も出てないんでしょう」
「須崎。竹内さんは京大出のキャリアだぞ」
「へえ、そうなんですか。これはお見それしました」
 新人とは思えない態度で鷹揚に頷くと、須崎は竹内のほうをバカにしたような目で見た。
「面接の試験官は、女性だったんですか?」
「どういう意味だよ」
 国家I種試験には、最後に人格評定として試験官による面接がある。これがけっこうなポイントを占めている。例え筆記試験で合格しても、面接で落とされるケースもあるのだ。
「運も実力のうちって言いますからね。竹内さんの場合、顔も実力のうちですか」
「須崎、黙ってろよ! 竹内さん、すいません」
 不躾な新人を嗜めたのは、指導員の今井である。先輩に対する礼儀を教えるのも指導員の仕事だが、この新人は聞く耳を持たない。今井には心労の日々が続いている。

「申し訳ありません。うちの新人が失礼を」
 言葉だけはしおらしいが、薪は明らかに須崎の発言を面白がっている。新人の無遠慮な態度も、竹内がターゲットなら許せるらしい。
「いいえ。I種試験全国1位の新人なんて、羨ましい限りですよ。さすが第九ですね。捜一じゃとても使いこなせません。うちは試験の成績よりも、人間性を重視しますから」
 竹内も皮肉は鋭い。
 薪と対等に舌戦を繰り広げられるのは、警察署内でもこの男くらいのものだ。

「全国で1位になるくらいだ。幼い頃から勉強漬けで、他のことは何もしてこなかったんでしょう。人間的に欠落している全国1位より、礼儀を知っているノンキャリアのほうが、現場ではずっと役に立ちますからね」
「……悪かったですね。人間的に欠落してて」
 反論は生意気な新人からではなく、竹内の隣の人物からのものだった。
「は? いや、室長のことを言ったわけでは」
 とんとん、と肩を叩かれる。振り返ると岡部が苦い顔をして、小さく呟いた。
「そのひとにも届いてんだよ、さっきのやつ」
「え!?」
 薪は明らかに気分を害している。能面のような無表情がその証拠だ。
「いや、そのっ、ちが……」
 なんとも気まずい雰囲気になったところに、絶妙のタイミングで第九のバリスタともうひとりの新人が、コーヒーを運んできた。場の空気がほっと和む。

「サンキュ、青木。ここへ来ると、おまえのコーヒーが楽しみなんだよな」
 薫り高い飲み物を供されて、竹内は素直に礼を言う。竹内は青木とは仲が良い。
「でも、なんでおまえがこんなことしてんだ? お茶汲みなんか、新人の仕事だろ」
「今日は竹内さんがお見えでしたから。特別にドリップしちゃいました。時間がかかってしまって、すみません」
 捜一の迅速な働きによって、被疑者の身柄が確保され、被害増大の恐れはない。
 そうなれば第九の厳戒態勢も解かれ、薪もこうしてゆっくりとコーヒーを楽しむことができる。お客にかこつけて、青木の本心は実はこっちだ。

 竹内なんかに高い豆飲ませることないのに、と薪が小さい声でぶつぶつ言っている。それには聞こえない振りをして、竹内は話を捜査の焦点に戻した。
「第一の犯行のあった時刻、『レンガ亭』という世田谷のレストランで、早川を見たという目撃証言があります。彼女はここの常連客だったそうで、店のマスターが覚えていました。友人とふたりで食事に来ていたようです。しかし、姉か妹かは分かりません」
「どちらかがアリバイ工作をしていたということか。計画的だな」
「とにかく、彼女たちは髪型から服装までわざと合わせてるんですよ。もうずっと昔からそうしていたみたいで、母親ですら見分けがつかないそうです。もっともこれは、わざとそう言ってるのかもしれませんけど」
 竹内はとても口惜しそうだ。
 どちらか、あるいは両方が殺人犯であることは確実なのに、それを証明することができない。証拠がなければ逮捕することはできない。任意同行で引っ張っておけるのは、今日が限界だ。夕方には釈放しなければならない。
「そうだ。グラスに残った口紅から、DNA鑑定してみたらどうですか」
「DNA鑑定は役に立たない。一卵性の双子のDNAは、塩基配列が同じなんだ」
 個人を特定する最終手段まで使えないとなると、あとは尋問に当たる捜査官の落としの技術に頼るしかない。となると、生意気な新人の言う通り、やはりこれは捜一の仕事だ。

「あの」
 他の職員たちにコーヒーを配っていた青木が、控えめに進言する。
「ふたりの見分けなら、つきますけど」
 青木の発言に、会議室の全員が注目した。
「見分けられる!? 母親にもできないことが、っておまえ、まだふたりの写真も見てないだろうが」
 コーヒーを用意していたため、遅れて会議室に入ってきた青木と遠藤は、捜一からの資料をまだ受け取っていない。当然、双子の写真も見ていないはずだ。
 だいたい被疑者が双子だという情報も、今もたらされたばかりなのだ。青木が事前にそれを知っていたとは、考えられないが。

「おまえ、昨日妙なこと言ってたな。場所場所で印象が変わるとか」
 薪が思い出したように呟く。
 化粧の仕方や服装のせいで、女性の雰囲気が変わるのは当たり前のことだから、その時にはなんとも思わなかった。しかしこうなってくると、話は別だ。
「肉眼じゃ無理ですけど、MRIなら。ご説明します。モニタールームへどうぞ」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、こんにちは。
お返事遅くなりました、10日近く経ってる~。
Aさまも、コメくださったの忘れてるかも~~、ごめんなさい~~~。


>そうかあ、DNAでも判別できないんだ(><)

一卵性双生児のDNAは一致するそうで、双子の妹に罪を着せようと、姉がわざと現場に自分の毛髪を落としていく、という推理小説があります。
あとねっ、こないだ読んだので面白かったのが、
骨髄移植をすると血液型が変わることがあるでしょう? だから犯人は、骨髄移植前の自分の血液をわざと殺人現場に残して、移植後にやってきた捜査官に血液を採取させて、罪から逃れようとするの。 面白かったな~~。


>竹内にまで毒づく須崎に面白がる薪さん(苦笑)

薪さんは、竹内が大嫌いなので~、
彼が嫌な目に遭うことなら、多少常識に外れたことでも大歓迎なんですね。 コドモです。


わたしには一卵性双生児の友人はいないのですけど、テレビなんかで見ると、本当にそっくりですよね。 親でも見分けがつかないことがあるらしいので、他人には殆ど判別できないのではないかと。
缶蹴りの鬼は、あはは、それは困りましたね~、
どちらかにタスキでもかけてもらうしかないですね。(笑)
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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