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ウィークポイント(1)

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 スパコンのファンが、勢い良く回っている。季節は夏である。
 モニターからの放熱が不快だ。外では強い日差しがアスファルトを焼いて、今年の最高気温を記録している。こんな日は、プールにでも行きたい。いや、のんびりとクーラーの効いた部屋の中で眠りたい。
 しかし、第九の休みはコンビニより少ない。

「過労死しないのが不思議だよな……」

 誰かがぼやいた。
 このところの暑さが影響しているのか、連続した凶悪犯罪のせいで、第九は目の回るような忙しさだった。全員が既に3日、自宅に帰っていない。交代で仮眠を取り、MRIの画像と現場検証の資料に埋もれている状態だ。
「一度に事件が5件て……脳みそ、混ざっちゃいますよ」
「俺たちはまだいいだろ。それぞれ1件ずつ、個別にかかってる。薪さんは1人で5件分の資料に目を通してるんだぞ」
「あの人は特別です。頭の中、四次元空間みたいな人ですから」

 室長室のドアが開いて、噂の当人が顔を出した。両腕にたくさんの資料を抱えている。
「曽我、仮眠の時間だぞ。切りのいいところで仮眠室へ行って寝ろ」
 それぞれの事件を担当している部下のところへ資料の束を配りながらモニターを覗き込み、各々の捜査の経過報告を受ける。メモは取らない。すべて頭の中に書き留める。首の上に異次元がある―――― まんざら的外れでもない、超人的な記憶力である。

「今井、この男の6月28日の行動を調べてくれ。多分、朝のうちの行動に鍵がある」
 ただ満遍なくMRIを見ていれば、事件が解決できるわけではない。まずは捜一からあがって来る捜査資料から推理を組み立てて、事件の鍵となる画像がどこにあるか予想する。その上でポイントを絞って画像に目を通す。そうしなければ時間ばかり掛かって仕方ないし、重要な場面を見落としてしまう原因にもなる。
 薪はその聡明な頭脳で、いつも最短距離で真実に辿り着く。誰もが室長のようにスムーズに事件を解明できたらと憧れるが、なかなかそうは行かないのが現実だ。
 だから今回のように事件が立て込んでしまったときは、薪がすべての捜査資料を読む。自分の推理と部下の推理を抱き合わせにして、モニターを見るのだ。
 よって、室長は現在5件の捜査を抱えている。5件分の被害者の数20人余り。その膨大な数の画像を資料を、人の心の動きを、観て読んで捉えて推理する。室長が天才と言われる所以である。

 しかし。
 その天才にも弱点はあった。

「宇野、6月20日のこの男の行動だが」
「はい」
 話しかけられた宇野が返事を返したところで、室長は突然黙り込んだ。
 不自然に長い沈黙。宇野が訝しげに声を掛ける。
「薪さん?」
「―――― 西新宿の駅から自宅までの帰宅の間に、何かなかったか確認してくれ」
 名前を呼ばれて、我に返ったように応えを返す。その後は何事も無く曽我のところへ行って指示を出す。
 その様子を見ていた岡部が、そっと青木の傍に来た。
「そろそろだな」
「そうですね」
「用意しといてくれ、青木」
「はい」
 岡部の曖昧な指示に、青木は席を立ってどこかへ歩いていく。その間にも室長は、てきぱきと資料を配って歩いて、捜査を絞込むポイントを明らかにしていく。
「小池、この女性の勤め先に」
 そこまで言って、また黙り込む。またもや長い沈黙。
 と、ふいに亜麻色の瞳が焦点を失って、長い睫毛が重なり合った。
「おっと」
 室長から資料を受け取ろうと小池が差し出した手の中に、ふわりと薪は倒れこんできた。青ざめた美貌、冷たい頬―――― 意識は混濁している様子である。

「岡部さーん、薪さん、いっちゃいましたー」
「ああ、青木がいま支度してるから。仮眠室に運んどいてくれ」
「はーい」と間延びした返事をして、小池は薪の細い体を抱き上げた。
 室長が倒れたというのに、ここでは誰も騒がない。小池以外の職員は、自分のモニターから目を離しもしない。それが当然のように、平然と作業を続けている。
「まーったく。限界まで仕事して急にぶっ倒れるクセ、どうにかならないんですかね。こっちの身が持ちませんよ」
 薪の憔悴しきった寝顔を見ながら、小池がぼやいた。

 実は、第九の面々にはこの光景は慣れっこであった。
 仕事が混んでくると、薪は眠るのも食べるのも忘れてしまう。何かに追い立てられるように、捜査に没頭してしまうのだ。今まで何回こんなことがあっただろう。
 始めのうちこそ岡部が口を酸っぱくして注意していたのだが、やがて諦めた。どれだけ注意しても、次の時にはやっぱり同じことを繰り返すし、無理やり仮眠室に閉じ込めても携帯電話で指示を出してくるのだ。これではやりようがない。

 天才の弱点―――― それは、切れすぎる頭脳と人間離れした気力に普通の人間の体力がついていけない、というバランスの悪さであった。




*****

 やっぱり、お姫様だっこは基本ですよね。
 うちの薪さんは、第九の姫なので。
 オヤジ姫。ぷぷぷ。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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