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つむじ風(2)

つむじ風(2)






 警察庁内において、各部署の人事権を持つ責任者と警務部長が出席する部長会議は、人事異動の季節に頻繁に開かれる。春と秋の大掛かりな人事の後、その経過報告やあるいは変更といった人事に係るもろもろの調整を、警察庁全体で行なうためである。
 第九の室長という立場上、いくつもの会議に出席しなければならない薪だが、この会議は薪にとって鬼門であった。
 会議の主役とも言うべき警務部長と薪は、何故か昔から相性が悪くて、前任の三田村という警視長とは正に犬猿の仲だった。新しい警務部長は間宮という46歳の男だが、これまた薪にとっては頭痛の種だ。

「薪くん。君のところの新人の件だけど」
 第九に来た3人のキャリアの話題を手土産に、間宮は薪の肩に手を載せる。毎回会議が始まるまでの待ち時間に、間宮はこうして必ず薪に話しかけてくる。
「もう二人も辞めちゃったんだって?」
「申し訳ありません。せっかく優秀な人材を送って頂いたのに、室長の僕の力不足で」
 肩に置かれた間宮の手をさりげなく払って、薪は神妙な顔つきで自責の言を口にする。本当は二人とも使い物にならなかったのだが、そこは大人の会話だ。

「いや。最近の新人は根性がないからね。君が気に病むことじゃないよ。また優秀な人材が見つかったら、回してあげるから」
 間宮は三田村のように、薪を毛嫌いしているわけではない。しかし、薪にしてみれば、その方がまだマシだった。
「ありがとうございます」
「水臭いな。俺と君の仲だろ?」
 別に、仲というほどの間柄ではない。ただの他人だ。

 懲りもせず伸びてきた間宮の手を、絶妙のタイミングで避けて、薪は会議資料を取り上げた。
「すみません、間宮部長。会議の前に、資料を読んでおきたいので」
 既に中身は頭に入っているが、こうでも言わないと、間宮との会話から逃げられない。
 間宮は薪の言い訳を受けて、口を閉ざした。しかし、その場を離れる気配はない。薪の隣に腰を下ろし、会議用のテーブルに頬杖をついて、薪の顔を見つめている。薪は心の中でため息をつき、資料を読むふりをした。

 この間宮という男は薪の苦手な人種で、つまりゲイだ。
 この世からいなくなって欲しいと思うほど同性愛者を疎んじている訳ではないが、自分に興味を示すとなれば話は別だ。ましてやそれを実行に移してくれた暁には、顔を見るのも嫌になっても無理はない。

 2ヶ月ほど前に、薪はこの男にレイプされそうになった。
 薬を盛られてホテルの部屋に連れ込まれ、あわやというところで岡部が助けに来てくれた。岡部はこの不埒な警務部長の顔を風船のように腫れ上がるまで殴り飛ばし、薪は事件を水に流すことを決めた。
 もちろんその裏には、岡部の部長に対する暴力を不問に付すことと、警部である彼の副室長への特別就任人事の承諾という条件があったのだが。

 これに懲りて、間宮も自分との距離を置こうとするはずだと薪は踏んだが、その読みは完全に外れた。
 間宮が大人しくしていたのは、顔の腫れが引く2週間ほどの間だけで、元のダンディな色男に戻ると同時に薪へのセクハラも再開された。
 全体会議や捜一との合同会議なら、他の誰かと一緒にいることができるが、この部長会議には室長しか出席できない。これが重役会議なら官房長の小野田がいてくれるが、官房室の人事権は官房室長が握っているから、この会議に小野田は出席しない。よって間宮はやりたい放題というわけだ。

 会議資料に目を落としている薪の太ももに、間宮の手が伸びてくる。薪は、俯いてくちびるを噛み締める。
 手をつかんで投げ飛ばしてやりたいところだが、公衆の面前だ。この男の体面に気を使うわけではなく、男の自分がセクハラの被害に遭っていることがみんなに知られてしまう。それは薪にとっては、耐え難い屈辱だ。

「あの、間宮部長。そろそろ時間です。お席へ戻られては」
 水面下で激しく水を掻く白鳥のように、平静な面を保ちつつ、薪はテーブルの下で必死の抵抗を試みる。周りに気付かれないように間宮の手を払い、間宮の椅子を足で押しやった。
「今日はここで司会を務める。君の隣が俺の指定席だよ」
 相変わらず、気障くさいセリフを真顔で言う男だ。恋愛オンチでムードを作ることが苦手な薪は、こういう男が大嫌いだ。
「できたらプライベートでも、君の隣の席を確保したいものだな」
 間宮はぐっとこちらに身を乗り出してきて、薪の耳元でそんなことを囁く。払われた手を再び薪の膝にのせて、おかしなことを言い出した。
「この間は、素敵な思い出をありがとう」
 なんのことだろう。
 間宮の言う『素敵な思い出』に心当たりはない。薪が訝しげな顔をすると、間宮は薪の手を掴んで椅子の上に押さえつけた。

「手錠があんなに色っぽく映えるなんて。この手にしかできない芸当だよ。君のあの姿を、俺は何度も夢に見たよ」
 Pホテルの強姦未遂事件のことを言っているのか!? どういう神経だ!
「君の肌の感触が忘れられないよ。あの続きは、いつさせてくれるのかな」
 続きってなんだ! 顔を殴られた後は、尻でも叩いて欲しいのか!
 
 怒りのあまり、目の前が真っ赤になった。この男はちっとも反省していないのだ。
「事件のことは水に流す」なんて、軽々しく言うんじゃなかった。自分があっさりと例のことを許してしまったから、あれが監禁・傷害事件だと認識されなかったのかもしれない。
 でもあのとき、岡部を査問会から守るためには仕方なかった――――。

 会議の開始時刻が訪れて、薪への嫌がらせは中断された。さっきの座席の話は冗談だったようで、間宮は司会の席に歩いていく。この男は色ボケだが、仕事はきちんとやるのだ。
「残念、時間切れだな。薪くん、その気になったらいつでも連絡しておくれ。例え真夜中でも飛んでいくよ」
 北極でも砂漠でも、好きなところへ飛んでいけばいい。そして自分の前から永遠に消えて欲しい。

 周りの課長連中が、いやらしい目でこちらを見ている。絶対に誤解を受けていると思うが、それをいちいち否定して回るわけにもいかない。
 この連中が自分の部署に戻って、部下達にどんな話をするのか。
 その内容を憂いて、室長は深いため息をついた。



*****


 くはははっ!
 やっぱり間宮サイコー!(←ドひんしゅく)








テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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鍵拍手いただきました、Mさま

べつに、鍵じゃなくていいですよ~~。
みなさん、Mさんと同じこと思ってますから!!
間宮は気持ち悪くて、汚らわしい男です。いいんです、それで。(^^
だって、これだけやっておけば、次の時には・・・・ふふふ。
ハラハラドキドキを高めるためなら、わたしは鬼になります(笑)

しかし、この間宮を面白いというツワモノもいたりして。
世の中広いわ・・・・。

Aさまへ

>ギャーッ!ここでまた出てくるとはっ(>д<)しかも、全く反省してないし!!(するわけないか)

そ、そんなに嫌わなくても~、って無理ないですね。(笑)
間宮は最初こそこんなですけど、そのうち薪さんの役に立つ男になる予定なので~、
どうか大目に見てやってください。
あ、でも、セクハラは一生やめません★ (ダメじゃん)
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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