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つむじ風(4)

つむじ風(4)






 昼日中の、明るい時間に風呂に入るのは快感だ。
 窓からの自然光が気持ちいい。夜の入浴は生活の一部だが、昼間の風呂は贅沢だ。休みの日には必ず朝風呂を楽しむ薪だが、平日にこんなおいしい思いができるなんて、気の利く新人に感謝だ。
 ……どうせ黒幕は、あのバカだろうが。

 湯の中の自分の足を見て、薪は眉をしかめる。
 洗い流しきれない汚れが残っているような気がして、タオルで何度も擦ったせいか、薪の太ももは少し赤くなっている。
 その原因はもちろん、先刻の会議室での不愉快な一幕だ。

 最近ようやく忘れかけていたのに、今日の接近でまた思い出してしまった。
 あの事件は、簡単に記憶から抹消できるほど、薪にとって小さな出来事ではなかった。もう少しでレイプされるところだったのだ。男の自分に実害(妊娠)はないとはいえ、そのショックと恐怖は被害に遭った女性と同じだ。

 身体中を撫でまわされた感触も、自分がそれに反応してしまった恥辱も、薪の記憶から消えてはくれない。自分の中に入ってきた男の指も、その痛みも―――― 間宮は何度も自分を夢に見た、と言っていたが、それは薪だって同じだ。無論、こちらは悪夢だが。
 手錠で身体の自由を奪われて、間宮に無理やり犯される夢を何度も見た。そのたびに跳ね起きて、鈴木の写真を抱きしめて、心を落ち着かせて。
『かわいそうに。酷い目に遭ったな、薪』
 そう言って、鈴木は僕を慰めてくれた。早く忘れろよ、と夢の続きで頭を撫でてくれた。

 ……でも、夢はそれだけでは終わらなかった。
 その事件の顛末も、夢に見てしまった。こっちは鈴木には報告してない。というか、できない。
 つまり、特効薬の夢だ。

 間宮に触られたときには鈴木を裏切らなかった身体が、あいつにされたときには、あんな―――――。
 男の身体ってのは、残酷なまでに正直で。鈴木のことを思い出しながら、自分でしてたときにはありえなかった感覚が、僕を夢中にさせた。
 あいつの大きな手は、とてもやさしく僕を慰めてくれたけど、その動きは自分の手によるものとはまるで違っていて。力加減も緩急の付け方も、まったく予想がつかなかった。だから、もたらされる快感も驚きに満ちていて。自分でも信じられないくらい興奮して、恥ずかしい声を抑えることも、キスを止めることもできなかった。

 あれはクスリのせいだ。断じて僕がそれを望んだわけじゃない。

 だけど、その夢を見て僕の身体は……僕の男の部分は、夢から醒めても夢の中と同じ状態になってた。
 冷たいシャワーを浴びれば自分を取り戻せたかもしれないのに、僕はそうしなかった。夢の余韻が、僕にそれをさせなかった。そのまま自分で自分を慰めて……朝からあんなことをしちゃうなんて、と終わった後は自己嫌悪でいっぱいになったけど。
 でも、僕だって、生身の男なんだ。あんな体験をしてしまったら、それを夢に見ても仕方のないことだと思う。夢は識意下のことだから、反応を抑えることなんかできない。だから、これはただの生理現象で、僕が愛してるのは鈴木のことだけだ。
 自分ではその理由付けに納得したつもりでいたのに、何故か妙に焦ってしまって。
 女の子とのセックスを夢に見ても、鈴木を裏切っているとは思わないのに、どうしてあいつが相手だとちょっとしたことでも罪悪感を感じてしまうのだろう。あいつが同性だからとか12歳も年下だからとか、そういう一般的な問題じゃない気がする……。

 湯船に浸かりながら、とりとめのないことを考えていた薪は、自分がひどく汗をかいていることに気づいた。
 どうやら、湯あたりしてしまったようだ。昼間は気温も高いし、こんなに長く風呂に入っていたらのぼせるに決まっている。早くロッカールームで涼まなくては。
 薪は立ち上がって、湯船から出ようとした。
 が。

「……あれ?」
 バシャッ、と水音を立てて、薪は湯船に逆戻りした。
 バスルームが回っている。貧血と酷似した感覚が薪を襲い―――― 目を閉じたが最後、何もわからなくなった。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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