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ウィークポイント(2)

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「飲まず食わず眠らずでどれだけ仕事ができるか、ギネスにでも挑戦する気?」
 忙しい最中突然呼び出されて、法一の女医はおかんむりだ。
 このパターンは既に何度も経験済みだ。どれだけ注意しても一向に改善しようとしない聞き分けの無い患者に、彼女はうんざりしていた。

「コーヒーは飲んでたんですけど」
 不真面目な患者が、言い訳にもならないことを口の中で呟く。まるで医者に酒を止められた酒好きの患者が、「ビールは酒に入らないよな」とバカ丸出しの言い訳をしているようなものだ。
「コーヒーを完全栄養食みたいに言わないでくださいよ!だいいち薪さん、ブラックコーヒーしか飲まないじゃないですか!」
 雪子の怒りを代弁して、岡部が薪を叱り飛ばす。いつもなら考えられない光景だが、自分のせいで皆に迷惑をかけてしまったと反省しているのか、薪は神妙な表情でおとなしく岡部の叱責を受けていた。
「みんなが迷惑するんですよ、薪さん。自覚してくださいよ。自分のことをロボットだとでも思ってるんですか?」
 岡部の心配9割、怒り1割の小言を聞きながら、薪はベッドの中でもそもそとあんぱんを食べている。牛乳じゃなくてコーヒーが欲しいなと思うが、とても要求できる雰囲気ではない。
 そこに絶妙のタイミングで、青木がコーヒーを淹れてきた。薪はさっさと牛乳パックを置いて、コーヒーカップを受け取った。実は薪は牛乳が苦手なのだ。

「いったい、いつから食べてないわけ?」
 薪の昏倒の原因は、睡眠不足と低血糖による貧血と分かってはいても、一応は医者に診せておいたほうが安心である。しかし、救急車を呼ぶほどでもない。眠ってまともな食事を摂れば元に戻ることが明らかだからだ。
 だからこんなときは、いつも雪子にお呼びがかかる。まったくいい迷惑だわ、とぷりぷりしながらも、薪のこととなると駆けつけてくれる。雪子は薪の数少ない友人なのだ。

「――― 指折り数えなきゃわかんないようなほど前からなの!?」
 自分が最後にちゃんとした食事を摂ったのがいつなのか、記憶を探り始めた薪の様子に、雪子は思わず声を荒げた。
 薪はこれ以上雪子の機嫌を損ねないよう、必死で言い訳を考える。彼女を怒らせると、得意の一本背負いを決められてしまう。あれはとても痛い。
「たしか、2日、いや、3日……青木、雪子さんがサンドイッチ差し入れてくれたのって、いつだ?」
 青木は雪子のお気に入りだ。彼女の怒りの矛先を逸らしてくれるよう、うまいフォローを期待したつもりだった。
「薪さん。それは4日前です」

「―――― 薪くん!」
「薪さん!!」
 2倍になった小言の嵐に、薪は人選を誤ったことを悟った。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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