ウィークポイント(3)

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「アタマいた……あんなにガミガミ怒鳴らなくたって」
 耳元でサラウンドで騒ぎ立てられて頭痛がする、と室長はぼやいた。睡眠不足のせいだとは考えない薪である。全然、反省の色がない。
 
「薪さんが悪いんですよ。みんな心配してるんですからね」
「小言は聞き飽きた」
 言い捨てて、ベッドから降りる。横になっていたせいで、ワイシャツはしわくちゃになっている。着替えが必要だ。
「どこいくんです? 今日はもう仕事は」
「汗かいて気持ち悪い」
 心配そうな顔つきで自分を見る新米捜査官に、わざとつっけんどんな返事でその先を言わせない。岡部や雪子ならともかく、こんな若造にまで小言を言われる筋合いは無い。
 が、青木の本当に心配そうな顔つきを見ていると、それも大人気ないかと思ってしまう。青木はとても正直な男で、心の中がそのまま表情に表れる。見せ掛けの心配顔ではないと分かるから、突き放すのも気が引けるのだ。

「シャワーを浴びたら、ここに戻って寝る。それならいいだろう」
「……本当ですね?」
 素直に信じてもらえない。
 無理もない、青木はこのパターンで何回か騙されている。
「岡部さんに薪さんを見張るように言われてるんですけど」
「バカ! そんなことしてるヒマがあったら、捜査を進めろ!」
「今はオレの仮眠の時間です」
「だったらここで寝ろ」
「平気です。一日くらい寝なくたって」
「睡眠も摂らずにMRIを見続けたらどうなるか、分かってるのか?幻覚や幻聴に悩まされて、捜査が手につかなくなるのがオチだ」
「……今の薪さんには言われたくないです」
 たしかに説得力がない。
 しかし、上司のプライドは崩れない。
「僕は大丈夫だ。慣れてるからな。おまえみたいな半人前と一緒にするな」

 冷たく言い放って仮眠室を後にする。青木は黙って薪の後ろを着いてきた。大人しいくせに、意外と頑固なのだ。
 軽く舌打ちしてシャワー室へ向かう。本当はこのままモニタールームへ行こうと思っていたのだが、舌の根も乾かぬうちにと言うのはさすがに拙い。貧血を起こした時の冷や汗が背中を濡らしていて、気持ちが悪いのも事実だ。

 脱衣所代わりのロッカールームで、薪は服を脱いだ。
 どうせだったら、シャワー室じゃなくてユニットバスが欲しい。脱衣所と洗濯機も置けば完璧だ。第九に何日でも泊り込める。
 洗濯しなければならないワイシャツはロッカーの床に丸めてズボンを脱ぐ。恥ずかしげも無く下着も取って全裸になる。そのまますたすたと歩いて、シャワー室へ入っていく。
「何やってるんだ、青木。僕を見張るんじゃなかったのか?」
 何故か後ろを向いてしまった青木に、薪が声を掛ける。長身が硬直している。ワイシャツの襟足からわずかに覗く首と耳が真っ赤だ。

「いえ、あの……すいません、オレ、見てませんから」
「? 何言ってるんだ? 男同士だろ。おまえと同じ身体だぞ」
「同じじゃないです」
「べつにヘンなものは付いてないぞ? おかしな奴だな」
 最近の若いものの考えは良く分からん―――― オヤジくさいことを心の中で呟いて、シャワー室へ入る。温かい水滴の飛沫が心地よい。でもやっぱり湯船が欲しいよな、と風呂好きの薪は思う。
 髪と体をきれいに洗いあげて、気分は上々だ。これで仕事の能率も上がる。仮眠室に戻って休むと青木に約束したことは、薪の記憶から早くも消去されたようだ。

 シャワーを止めてふと気づく。しまった、タオルを忘れてきた。
「青木、タオル取ってくれ。僕のロッカーに入ってるから」
「はい」
 返事は聞こえたものの、青木はなかなかこちらへ来ない。しびれを切らして、薪はシャワー室のドアを開けた。

「青木、まだか? そうだそれ、こっちへ持って……どこへ行く!?」
「すいませんっ!」
「ちょっと待て、タオル!」
 薪の制止を振り切って、青木は走り去ってしまった。
 びしょ濡れのままではここから出られない。が、タオルは青木が持って行ってしまった。仕方なく水滴をたらしながらロッカーまで歩いて、さっき脱いだワイシャツで髪を拭く。
「まったく、最近の新入りは……うう、ぜんぜん拭き取れない……」
 吸水性の悪い布に四苦八苦しながら、新人の謎の行動に首を傾げる室長だった。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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