聖夜(4)

聖夜(4)







 静まり返ったリビングに、月の光が差し込んで彼のひとを照らしている。
 小さく折り曲げられた細い身体。やさしい美貌。長い睫毛は涙に濡れて、白い頬にはその痕跡がある。

 膝を折り、長身をかがめて、鈴木は薪の寝顔を見つめている。
 薪の上に流れた十余年の歳月は、その美貌を損なうどころか彼をますます美しくした。あの頃より今のほうが、幼さの中にも大人の色香を漂わせて鈴木の心を惹き付ける。

 ―――― オレがいちばん大切なのは、おまえだよ。

 亜麻色の髪を撫でて、そのさらさらとした手触りに、酔う。

 ―――― おまえが好きだよ、薪。
 でも、そのために何もかもを捨てることは、オレにはできない。
 雪子のことも、確かに愛している。親や恋人や自分の将来を捨てて、おまえだけを求めることはオレにはできない。オレにそこまでの勇気はない。

 それに。

 それはそのまま、おまえのすべてを奪うことにも繋がるから。第九の室長としての地位も名誉も、おまえの夢だった警察官の職も、全部おまえから奪うことになるから。

 だから、愛しているとは言わない。

 おまえの気持ちはあの頃と変わっていない。オレには分かってる。
 だからこそ言えない。
 オレがそれを口にしたら、大学の時と同じようになってしまいそうで、それが怖い。
 あの頃のように、恋に溺れてオレに溺れて、仕事も何も手につかなくなって。今のおまえは20歳の子供じゃなくて、自分自身を制御できるかもしれないけれど。

 でもやっぱりそれは、おまえの本当の幸せじゃない。

 せっかく神様が与えてくれた明晰な頭脳を、もっともっと上まで昇りつめられる可能性を捨ててしまうことが、おまえの幸せだとはどうしても思えない。
 もしも、オレとあの頃のように愛し合ってしまったら、正直なおまえのことだ。言葉に態度にその事実を露呈させてしまうだろう。我儘なおまえは偽装のための結婚なんか思いもよらないだろうし、本当はやさしいおまえが傷つけ合うだけの関係を他人に強いるわけがない。

 仮に関係を隠し通せたとしても、一生、日向には出られない。
 そんな悲しみをおまえに味あわせるぐらいなら、オレはこの言葉を飲み込んで墓場まで持っていく。生涯ただの親友として、おまえのことを見守っていく。

 薪の頬を濡らした液体を唇で吸い、万感の想いを込めて、そのつややかなくちびるにくちづける。

 薪―― 薪……愛してる。
 これは、オレのトップシークレットだ――――。






 そして、翌年の8月。
 貝沼事件の捜査が始まる。




 ―了―



(2008.9)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

こちらに鍵拍手いただきました、Sさま。

>薪さんが可哀想で、胸が痛い。薪さんが幸せになってくれなきゃ死んじゃう。

すいません、すいません。苦しい思いをさせてしまいました。(><)

うちの薪さんはこの調子で鈴木さんに惚れてたので、なかなか青木くんの気持ちを受け入れられません。
でも、必ず幸せになりますから。ちょーっと、先が長いですが(^^;
どうか、ゆっくりお付き合いください(^^

Aさまへ

Aさま、こんにちは。
いつもありがとうございます。

泣きながら読んだ、とのお言葉、とてもありがたく感じました。
うちのSSは基本ギャグなんですけどね、すずまきさんを書くときには、どうしても切ない系に傾くみたいです。 やっぱり鈴木さんが死んじゃってるからですかね。


>原作の鈴木さんもこんな気持ちだったと思えてなりません。

すずまきすとさんが聞いたら、泣いて喜びそうです☆☆☆


>実際、恋愛関係はなかったとしても鈴木さんは薪さんを一番、大切に想っていたでしょう。きっと・・(><ヾ)

わたしもそう思います!
でなかったら、恋人も自分の将来も全部引き換えにして、薪さんを守ろうとするでしょうか?
雪子さんのことも本気で愛していたと思うのですが、恋愛感情に勝る愛情なんか、腐るほどありますからね。
清水先生も、そういうものを描こうとしてるんじゃないのかな。 最近の展開を見ていると、そんなふうに思えるのですが。


レスにもお気遣いいただき、ありがとうございました。
Aさまのまたのお越しをお待ちしております。
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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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