FC2ブログ

ビアガーデン(2)

 お話を書くときには、環境も大切だと思います。
 その世界に入るために、身の回りを整えるのです。
 わたしのアイテムは、白百合の花とコーヒーです。書斎(オットにはオタク部屋と呼ばれています)のドアを開けると、ふわっと百合の匂いがして、薪さんのような清楚な花が目に入ります。そこに薫り高いコーヒーを持ち込んで、この世界の扉を開けるのです。

 そして。
 できたものが、こんなん!!(爆)


 余談ですが。

 わたしは必ず白百合を蕾のまま買ってきます。長持ちするし、花が開いていくのが楽しみだからです。
 でも、ファイヤーウォールを書いていたときだけは、花屋の店員のミスで、ピンクの百合が咲きました。思わず笑ってしまいました。(^^;





ビアガーデン(2)








 霞ヶ関のタワービルの屋上は、毎晩ビールを楽しむ人々で賑わっている。
 ここのビアガーデンは、時間制の飲み放題方式で、料理も美味しく値段も手ごろだ。ちょうどホテルのバイキングのように、客がカウンターに酒や料理を取りに行く形式を取っているのが安値の理由だ。酒の種類もビールだけでなく、カクテルやワインなども置いてあるから、女性だけで来ているグループも少なくない。

「かんぱ~い!」
 特別な祝い事がなくても、酒宴というのは乾杯の音頭から始まるものだが、今日の飲み会は青木の誕生祝という名目である。乾杯、という言葉の後に「おめでとう」と言葉が続く。例えそれが飲み会の理由付けに過ぎないとしても、こうして自分のために職場の仲間が集まってくれるのは、嬉しいものだ。
 一番うれしいのは、これまで一度も職場の飲み会に顔を出してくれなかった室長が来てくれたことだ。
 騒がしい場所が嫌いな薪を口説くのは一苦労だったが、こうして顔を出してくれた。「最初の1杯だけ」という条件をつけられてしまったが、それでも青木は舞い上がるほどに幸せな気分である。

 初めて室長がこういう席に来た、と他の職員たちは内心の驚きを隠せないでいる。
 薪がアルコールを飲む姿を見たことがあるのは、薪の腹心の部下と、薪に憧れて、べったりとくっついている新人だけだ。今日はその新人の誕生祝だから、薪も顔を出してくれたのだろう。なんのかんのと言っても、この新人は薪に気に入られている。
 しかし、そのことをやっかむものは、ここにはいない。仕事中の薪は、その新人の未熟さに、ことさら厳しく当たるからだ。

 青木は、第九の捜査官になって1年半。
 まだ駆け出しの域を超えていないのだから、他の職員たちと同じレベルの仕事をこなすのは無理だと誰もが思うのだが、薪だけは容赦しない。ベテランの捜査官と同じクオリティを新人の青木に求め、青木がそれに応えられないと、何度でもやり直しをさせる。
 見所があると思われている証拠かもしれないが、薪に気に入られることによって、あの厳しさが自分に降り注ぐことを考えると、青木が羨ましいとはとても思えないのだ。

「薪さん。枝豆食べます?」
「こっちに冷奴ありますよ」
「焼き鳥、塩のほうがお好きでしたよね」
 薪の周りに群がって、職員たちはあれこれと世話を焼く。
 普段の飲み会では薪の悪口ばかり言っているクセに、本人が来たらこの調子だ。おべっかを使っているわけではなく、本当は、みんな薪のことが好きなのだ。

 仕事のときは、警察庁中で右に出るものがいないくらい厳しくて怖い薪だが、オフのときはそうでもない。職員たちの話に耳を傾けて、静かにビールを飲んでいる。外部の目があるせいか、あまり酒を飲んでも乱れる様子はない。
 いつも一緒に酒を飲んでいる岡部や青木は知っていることだが、薪はこういう開放的な空間で、ワイワイ騒ぐのはあまり好きではない。薪の好みは日本酒だし、つまみは白身魚の刺身が好物で、和食のうまい店で少人数で飲むのが好きなのだ。
 しかし、たまにはこういうのも楽しいはずだ。
 薪はもっと、職員たちと交流を持つべきだ、と青木は考えている。そうすれば、自分がどんなに第九の職員たちに慕われているか分かるはずだ。
 薪は自分のことを、嫌われ者の上司と認識している節がある。その思い込みが間違っていることに気付いてほしい。自分がみなに好かれていることが分かれば、薪の意地悪も少しは減るかもしれない。可能性は低いが。

「青木。よく薪さんを口説き落としたな」
「どうやったんだよ。岡部さんでもムリだったんだぜ」
「企業秘密です」
 にっこり笑って口を閉ざす。室長室の会話は、他人には言えない。
「でも薪さん、楽しんでくれてるかな」
「うん。こういうところ、苦手だって言ってたもんな」
 やさしい気遣いを見せる職員たちに、青木の胸が暖かくなる。やはりみんな薪のことを大切に思っているのだ。

「薪さん、本当はビールがあまり好きじゃないんですよ。今日はオレのお祝いだからって飲んでくれてますけど。薪さんの好みは日本酒です」
「マジ? ぜんぜん似合わねえよな。ビールも似合わないけど、日本酒はもっと似合わねえ」
「ワインかカクテルだよな。あのひとのイメージだと」
「まあ、焼酎飲まれるよりはいいか」
「焼酎も飲みますよ。冬は梅干入れて、お湯割で」
「うわ。見たくねえ! まるっきりオヤジじゃん」
「……まあ、薪さんも今年で37ですから。立派なオヤジですよ」
 想像するとイメージダウンになるのかもしれないが、実際見てみると、そんなことはない。
 冷たい吟醸酒を美濃部焼きのぐいのみで傾ける薪の姿は、日本人独特の色気があるし、お湯で割った焼酎の中の梅干を、一所懸命マドラーで突っついている姿はめちゃめちゃかわいい。
 どちらも他人には見せたくないので、青木は彼らの誤解を敢えて解かない。

 青木が2杯目のビールを飲み終えたころ、薪のジョッキはようやく空になった。薪にしては遅いペースだ。1杯だけ、という約束を守りつつ、なるべく長くここに居てくれようと気を使ってくれたのかもしれない。
「薪さん。次は日本酒いきますか?」
「いや。僕はもうそろそろ」
 気を利かせた今井が、新しいビールを持って来る。薪はそれを断って、席を立とうとした。
「一杯だけ付き合う約束だったんだ。あとはおまえらで」
「薪さん。ここ、日本各地の地酒が置いてありますよ」
 腰を浮かしかけた格好で、薪の動きが止まる。薪の好みはリサーチ済みだ。

「北海道の千歳桜が入ってたなあ。秋田の山田錦も」
 亜麻色の瞳がくるめいている。ここで王手だ。
「そうだ、京都伏見の大吟醸もありましたね」
「京都伏見の?」
「薪さんの好きな『綾紫』かもしれませんよ」
「飲み放題のこんな店で、そんなにいいもの置かないだろ。まがいもんじゃないのか」
「さあ? 飲んでみたら分かるんじゃないですか?」
「……そうだな。確かめてみるか」
 チェックメイト。

 今井が持ってきたビールは青木が引き受けて、薪には地酒のサーバーからジョッキに吟醸酒を注ぐ。ビアガーデンなので、グラスはジョッキ以外置いてない。ワインやカクテルも、ここではジョッキで飲むのだ。そこが面白いと受けている。

「青木。おまえ、すげえな」
「いつの間に薪さんを操れるようになったんだよ」
 小池と今井が、青木の手腕を褒めてくれる。今のお手並みは、岡部以上かもしれない。
「仕事のとき以外は、けっこう気さくなんですよ。あのひとは」
「それにしてもさ。あんな薪さん、初めて見るよ」
 ジョッキの底に少しずつ入った日本酒を、薪は片っ端から飲んでいる。前々から飲んでみたかった銘柄の酒を色々と試せるのが嬉しいとみえて、研究室ではついぞ拝んだことのない笑顔つきである。

「コツは、薪さんの男らしさを、さり気なく褒めることです」
「男らしさって。ないものをどうやって褒めるんだよ」
「そんなことないですよ。男らしいところ、たくさんありますよ。薪さんは」
「仕事中ならともかく、なあ」
「あれじゃあさ」
 薪は女の子がするように、両手で挟むようにジョッキを持っている。つややかなくちびるをすぼめて、そうっとジョッキを傾けている。
 日本酒はビールのように呷るものではないから、1回に口に入る量を調節するためにそうしているだけなのだが、その様子は隣のテーブルで豪快に大ジョッキを呷っているOLより、遥かにかわいい。

「大丈夫です。薪さん、自分のことは男らしいって信じてますから。試してみましょうか?」
 自信たっぷりに言い切って、青木は薪のほうへ近付いていく。薪の後ろから千歳桜のジョッキを差し出し、自分の言葉を証明するべく、気難しい上司に話しかけた。
「やっぱり日本酒はキツイですね。アルコール度数がビールの倍以上ありますものね。酒に強い男の人じゃないと、飲めませんよね」
「なんだ情けない。日本男児なら日本酒くらい飲めなくてどうするんだ」
「いや、オレにはムリです。これ、どうしよう」
 本当に飲めないわけではないのだが、ここで自分の不甲斐なさを見せることがポイントなのだ。それが薪の優越感を高めて、さらには機嫌を良くしてくれる。
「よこせ。僕が飲んでやる」
 酒が強いほうが男らしいと思い込んでいる薪は、青木に見せ付けるようにジョッキを呷る。ここで一気におだて上げる。
「すごい! ゴクゴクいけちゃうんですね」
「まあな。僕は大人だからな。おまえみたいなガキとは、味覚も違うんだ」
「カッコイイなあ、日本酒が似合う男の人って」
「こんなもん、水の代わりだ。もっと強い酒持って来い」
「はい」
 空になったジョッキを持って、青木は小池に片目をつむって見せる。ざっとこんなもんだ。

「見事だ」
「ていうか、薪さんて意外とちょろいんじゃ」
 冗談じゃない。
 ここまで薪を懐柔するのに、青木がどれだけ苦労してきたことか。その積み重ねがあったからこそ、薪が自分のオダテに乗ってくれるのだ。

 青木は、去年の春からずっと薪のことを見てきた。
 秋からは岡部と一緒に薪の家を訪れるようになり、薪の好みや性癖を、こと細かく観察してきた。研究に研究を重ねて、ようやく薪のツボを押さえられるようになったのだ。
 第九に入ったのはいちばん後でも、薪を見ていた時間なら誰にも負けない。岡部にだけは、まだ敵わないかもしれないが、他の職員には絶対に引けを取らない。
 青木はそう信じていた。だから、ジョッキに新潟の月山を注いで席に戻ったときには、思わず我が目を疑ってしまった。
 
「室長って、日本一いい男ですよね。女が放っておかないはずですよ」
「頭が良くて凛々しくて。男の中の男ですよね」
 いくらなんでも露骨すぎる。薪は、そんな見え見えのオダテに乗るほど単純では。
「おまえらも、ひとを見る目ができてきたじゃないか」
 ……乗るんですか。

「最近、ますます筋肉ついてきたんじゃないですか?」
「肩とか胸とか、惚れ惚れしますよ」
 大嘘だ。さすがにこれはお世辞だとわかるだろう。
「当たり前だ。僕は普段から鍛錬してるからな」
 ……どこまで単純なんですか。
 
「おまえらも体を鍛えろよ。この仕事は、体力勝負だぞ」
「はい。でも、室長ほどの見事な体躯はちょっと」
「ボディービルダーみたいですもんね」
「よく分かってるじゃないか。そうだ、僕は脱いだらすごいんだぞ!」
 …………好きにしてください。

 馬鹿馬鹿しくなって、青木は月山のジョッキをゴクゴクと呷った。喉を刺すような日本酒特有の辛さ。これは薪の好みには合わない。薪の好みはやや甘めの酒だ。
 第九の職員たちに囲まれて、にこやかに笑っている薪の姿を離れた席から見て、青木は少々複雑な気持ちになる。
 みんなと仲良くして欲しいと思ってここに連れて来たのに、目の前でその光景を見せられると、なんだかあまり面白くない。酒に酔って笑ったり怒ったりする薪を知っているのは、岡部と自分だけだと、そんな優越感があったのかもしれない。
 だいたい今日は自分の誕生祝なのに、自分より他の人と仲良くするなんて、とわけのわからない苛立ちまで感じてしまう。

 理不尽な気分を流すように、青木はジョッキの酒を一気に飲み干した。



*****


 ああ、楽しい。
 オヤジあほ薪さん。(←そのうち誰かに刺されそうです)

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Aさまへ

Aさま、こんにちは。


薪さんが日本酒好きなのは、わたしも一期一会で初めて知りました。 
意外でしたね~。 原作薪さんはあの雰囲気なので、フランス料理に赤ワインとか、そういう洒落たイメージだったんですけど。 
ガンガンいけるクチ、と言うのも驚きました。 普段着が、あそこまでラフなのも。 絶対、お洒落なシャツに細身のスラックスとか、モデルさんみたいに決めてると思ってたのに。 少年ルックを地で行くとは。
一瞬、どこの二次創作だ、って思っちゃいました。(・_・;) 



> 簡単にオダテにのっちゃう薪さん、酔っているのか?(笑)

うちの薪さんは、オダテにはとことん弱いんですよ。 男爵だから。(笑)
青木さんは、お酒、強いんですかね?
うちのは強い設定ですけど、原作の青木さんは弱そうですね。 薪さんの方が強いんじゃないかな? でも多分、一番強いのは岡部さんだと思います。
酔いつぶれた第九のみんなを肩に担いで居酒屋を出る岡部さんとか、見てみたいですねえ。(^^
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: