ビアガーデン(11)

ビアガーデン(11)






「そういえば、一昨日の事だけど」
 中華街の朱雀門をくぐったとき、薪は自分から例の件を持ち出してきた。
「僕、竹内にすごいことしたんだな」
「誰から聞いたんですか」
 第九の中では、あのことは秘密にしようと決めた。だから薪が情報を仕入れるとしたら、外部の人間ということになるが、それを知るものといったら。

「昨日、岡部とカフェテリアに行ったら、竹内に会っちゃってさ」
 岡部がついていながら、何て不始末だ。どうして竹内に口止めしてくれなかったのだ。
 いや。岡部が何と言っても、竹内がそれを素直に聞くとは思えない。
 竹内にしてみれば、これは薪との距離を縮められる、絶好のチャンスだ。うやむやにしてしまうはずがない。

「あいつ、窒息しかけたって言ってた」
「でしょうね。いくら酒の席のこととはいえ、あれはひどいですよ」
 この際だ。
 薪にははっきりと、自分の困った性癖のことを知っておいてもらったほうがいい。そして自分以外の人間の前では、二度と酒を飲まないようにしてもらおう。

「酔ってたからな。普段から考えてることが、行動に出ちゃったんだな、きっと」
「他の場所ならともかく、くちびるはまずい―――― はあ!?」
 青木の大声に、何人かの通行人がこちらを振り向いた。
「なんでそんなにびっくりするんだ」
「だって……薪さん、竹内さんのこと、そんなふうに思ってたんですか」
 初めは反目しあっていた男女が次第に惹かれ合う、というのはドラマの王道だが、まさか。

「あれ? おまえ、僕の気持ち、知らなかったのか」
 知らない。というか、知りたくなかった。
 いつの間に竹内は、薪の心を捕らえていたのだろう。薪は、鈴木だけを見ていたのではなかったのか。

「いつからですか? きっかけは?」
「2年くらい前からかな。なんかあいつ、妙に僕に絡んできて」
 なんてことだ。
 自分が薪と知り合う前から、竹内は薪を見ていたのか。もしかすると、あの仲の悪さはカモフラージュで、優先権は竹内にあったのか。竹内が次々と女を変えるのは、ひょっとすると薪との仲を隠すためだったのか。

「そんな」
「おまえには何度も注意しただろ。竹内と付き合うのは止めろって」
 あれはそういう意味だったのか?竹内は自分のものだから、手を出すなと?
 ……次の射撃訓練のときに、誤った振りをして撃ち殺してしまいそうだ。

 目の前が真っ暗になってきた。なんだか、足元がふらふらする。
「どうしたんだ。熱射病か? 少し休むか」
 薪が、心配そうに声を掛けてくる。
 下手にやさしくしないで欲しい。
 竹内がうらやましい。
 なんでこのひとは、こんなに残酷なんだろう。自分の気持ちを知っているくせに、どうして他の男と……。
 でも、責めることもできない。自分の気持ちは、一方的なものだ。
 薪は、青木のことは永遠に受け入れられないと言った。竹内のことは受け入れられた、ということか。
 無理もない。竹内は大人だし、男の自分から見てもカッコイイし。捜一のエースだし、射撃の腕前は全国大会で優勝するほどだしで、とても敵わない。

「喜んだでしょうね、竹内さん」
「なにが?」
「だって、みんなの前で、薪さんにあんなことしてもらえて」
 隠さなければならない関係というのは、辛いものだと思う。
 きっとふたりとも、堂々と人前で愛を交わしたいと、心の底では思っていたに違いない。それが酔った拍子に、表面に現れてしまったのか。

「してもらえて? おまえもして欲しいのか?」
「して欲しいですよ。オレだって」
「そうなのか? なんならここでやってやろうか?」
 してくれる気などないくせに、むごいことを言う。
「できるもんなら、してみて下さいよ」
 つい、挑戦的な口調になってしまった。薪の目が、生意気なやつ、と言っている。でも、これは薪のほうが悪い。
 ところが薪は、本気のようだった。

「じゃあ、ちょっとかがめ」
 青木の首に、華奢な手が掛かる。
 本当にキスしてくれるつもりだろうか。こんな人目につくところで?
「薪さ……ぐえええ!」
 細い指が、思い切り首を絞めつけてきた。かなり痛い。
 
「何するんですか!?」
「おまえがしてくれって言ったんだろ」
「はあ?」
「僕、竹内の首を絞めたんだろ?」
 ……やっぱり薪は何も憶えていない。
 竹内の『窒息しかけた』という言葉の意味を、首を絞めたと解釈したのか。
 薪が早とちりの達人で、助かった。
 飛び抜けて頭が良いくせに、薪はこういう勘違いがとても多い。そこがまたかわいいのだ。思わず苦笑してしまう。
 
「竹内のやつ、僕の顔見てびびっちゃってさ。サラダにかけてたマヨネーズのチューブを、握り締めちゃったんだ。皿から溢れるほどマヨネーズかけちゃって。僕に首絞められたのが、よっぽど怖かったんだろうな。いい気味だ。憶えてないのが残念だけど」
 薪の困った酒癖のことは、本人にはやはり内緒にしておこう。一昨日のことは、ずっと誤解させたままにしておきたい。竹内が本当はいいひとだということも。

「もう二度と竹内は、僕が酒を飲んでいるところには、近付かないと思うぞ。脅しかけといてやったから」
「竹内さんにはなんて?」
「この次は窒息死するまでやめないかもしれない、って言ってやったんだ」
 ……まっしぐらに走ってきそうだ。

 薪の勘違いには振り回されっぱなしの青木だが、今回は竹内もその気分を味わったに違いない。ということは、また竹内も薪のかわいらしさに惚れ直すということか。
 ますます油断できない。どうやって息の根を止めてやろうか。

 周りの人間は青木のことを、嘘がつけないとかバカ正直だとか思い込んでいるようだが、かように恐ろしいことも考えている。それを薪の前では完璧に隠しているあたり、詐欺師の才能もまったくないとは言い切れない。

「青木。どこまで行く気だ?」
 金香楼の入り口で、薪がこちらを振り返っている。竹内のことに気を取られて、目的の店を通り過ぎてしまった。
 青木は心中の黒い思考を見事に隠し、照れ笑いを浮かべて薪に近付いていった。


 ―了―




 (2009.3)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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こんばんは★

こちらではお久しぶりです!
なかなかコメントは残せませんでしたがちゃんと読んでました!

今回はとにかく竹内ですね!!!
竹内がかなりイイ味出してましたwww
マヨネーズとかソースとかしょうゆとかウケますってwww

これからも竹内にはもっともっとイイ思いしてもらいたいなぁ♪
青木は結局一番ウハウハなんだから少しくらいは竹内に譲って欲しいです!

あ、あとブラック青木が何気に好きですvvv
今井かわいそー(笑)
そっか~、みんな実はこっそり薪さんとそういうことしたいと思ってるんですね~
(倒れた薪さんを仮眠室に運んだ人間は薪さんにキスしてるって書かれてたし。笑)
宇野だって、「別に俺たちにせまってくるわけでもないし」って言ってたくせに♪
まー薪さんはみんなの姫ですからね★

それにしても、勘違い薪さん、実は自分がキス魔だって知ったら・・・
どうなるんでしょうね?(^^;
見てみたい気がしますvvv

次ですか?次ですかね?!核爆弾は?!うわーん恐いよ~~
薪さんが辛い悲しい思いをするのはイヤなのら~うわーん(><;

うぅ、でも読んじゃうんですよね(;;)
遠藤の時は、辛くて、早く楽になりたくて続きを待ってましたから(><;
核爆弾編は全部UPされてから読んだ方が心臓に優しいですかね?!

それにしても、しづさん土木建設関係のお仕事されてるんですね~!
コハルの実家と一緒ですよ!
ま、うちはとうの昔に倒産しましたけどね!!!あはははは!!!
でも、この業界は◯いずみのせいでかなりの大打撃を受けましたからねー。
(結局あの政策はプラスにはならなかったし意味なかったー!怒)

そういえば、前々から気になってはいたんですが、しづさん漫画も描かれるんですね!
小説も、漫画もって凄いです!きゃー!才能ってコワい!
ぜひ見てみたいです★見せてくださいませ★お願いします!!!

ていうか、じゃあシースルーの女装薪さん、
しづさんが描かれた方が良かったのかも(^^;
イメージ違ってて全然ダメだったらスミマセン、本当に(ー▽ー;

久しぶりだったんで長くなってしまいました。
それでは失礼します~!

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こんばんは

毎日マメに通わせて頂いてます(笑)むぅでございます(*^_^*)
今回のお話を拝読させて頂いて感想‥‥ふーっ(幸)・:*:
着かず離れず、またそれが自然な形になってきたなぁと、真夜中に何だか妙に満たされる気持ち‥♪
今までもそうだったように、色々あっても乗り越える時はいつも青木と一緒でいて欲しい‥と願ってやみません
次回も期待しております(*^-^)b

コハルビヨリさんへ

わあい、コハルさん!
いらっしゃいませ~~!!今夜のしづのビアガーデンは、ご来店の方全員に、脳内薪さんのあっついベーゼをプレゼントしております!どうぞお受け取りくださいませ!

ちゅうううう!!

> 今回はとにかく竹内ですね!!!
> 竹内がかなりイイ味出してましたwww
> マヨネーズとかソースとかしょうゆとかウケますってwww

何気に竹内、人気ありますね。(^^
えへへ、あの調味料のところは狙ってたので、ウケてくださってうれしいです!

> これからも竹内にはもっともっとイイ思いしてもらいたいなぁ♪
> 青木は結局一番ウハウハなんだから少しくらいは竹内に譲って欲しいです!

本当に、コハルさんたら。薪さん、総受け主義なんだから(笑)
ダメです。薪さんは、青木くんのものですから。(^^

> あ、あとブラック青木が何気に好きですvvv

あ、あれ・・・・・ちょっと、思惑と違ったご意見が・・・・・青木はそういう男じゃない、と言われるとばかり・・・・・うーん、コハルさんには、この布石が効かないかも・・・・。
さすがコハルさん。しづの予想の遥か上を行きますね!

> 今井かわいそー(笑)
> そっか~、みんな実はこっそり薪さんとそういうことしたいと思ってるんですね~
> (倒れた薪さんを仮眠室に運んだ人間は薪さんにキスしてるって書かれてたし。笑)
> 宇野だって、「別に俺たちにせまってくるわけでもないし」って言ってたくせに♪
> まー薪さんはみんなの姫ですからね★

ち、ちがいます!
第九のみんなは、薪さんのことをいやらしい目で見てないです。おかしいのは青木くんだけです(^^;

> それにしても、勘違い薪さん、実は自分がキス魔だって知ったら・・・
> どうなるんでしょうね?(^^;
> 見てみたい気がしますvvv

見ものでしょうね(笑)
この事実は、第九のトップシークレットになるんでしょうね(^^

> 次ですか?次ですかね?!核爆弾は?!うわーん恐いよ~~
> 薪さんが辛い悲しい思いをするのはイヤなのら~うわーん(><;

ありゃりゃ。
わかっちゃいました?
不自然に明るいお話を導入しましたからね。
嵐の前の静けさ、というか、上げておいて落差をつける、というか・・・・・・すいません、ドSで・・・・・。

> うぅ、でも読んじゃうんですよね(;;)
> 遠藤の時は、辛くて、早く楽になりたくて続きを待ってましたから(><;
> 核爆弾編は全部UPされてから読んだ方が心臓に優しいですかね?!

その方がよろしいかも。
わたし自身は、それほどひどい話だとは思っていないのですが、みなさま繊細なおこころの持ち主のようで・・・・・・でも、どんな方向にせよ、自分が書いたものでこころを動かしてくださる方がいてくれる、ということは、物書きにとってものすごくうれしいことで・・・・・・コハルさんも、同人誌を買われたお客様からファンレターとかもらうでしょう?あれって、すごくうれしいですよね!しづも同じです!
だから、やめられないんです(^^

はい。
土木建設業界は、ピーピー言ってます。(^^;
まったく、小○は、余計な事をしてくれました。(わたしも、怒)

> そういえば、前々から気になってはいたんですが、しづさん漫画も描かれるんですね!

・・・・・・・あの、これは誤解です。
漫画を描いていたのは16年くらい前で。いまはぜんぜん、描けなくなってしまいました。
それに、あの流麗な清水先生の画は、とてもわたしの筆の及ぶところではなく、一度もトライしたことはありません。これからもしません(^^;

> ていうか、じゃあシースルーの

そんなことはないです!!
もうもう、ずーっと前から楽しみにしてたんです!!
だって、コハルさんのあのきれいな薪さんが・・・・・・ミニスカートから、おみ足は見えるのかしら・・・・・ う腐腐腐腐♪♪(すいません、ヘンタイヤローで・・・・・・)
ああ、早く見たいです!

ありがとうございました!

むぅさんへ

いらっしゃいませ、むぅさん!
いつもご来訪いただきまして、誠にありがとうございます!
今夜のコメに来てくださった方には、もれなくうちの脳内薪さんのキッスを・・・・い、いらないですか?(^^;

> 今回のお話を拝読させて頂いて感想‥‥ふーっ(幸)・:*:

あ、よかった。
幸せになってくださったんですね。
わたしの作品の中では、珍しいかも(笑)

> 着かず離れず、またそれが自然な形になってきたなぁと、真夜中に何だか妙に満たされる気持ち‥♪

うふふ。
うちのふたりも、けっこういい感じになってきたでしょう?
雰囲気を読み取ってくださって、うれしいです。

> 今までもそうだったように、色々あっても乗り越える時はいつも青木と一緒でいて欲しい‥と願ってやみません

そうですね。
薪さんひとりでは乗り越えられなかった壁も、青木くんがいれば乗り越えられる。
なぜなら・・・・・青木くんは背が高いから!
違いますね、はい(^^;

> 次回も期待しております(*^-^)b

ありがとうございます。がんばります。
またお越しくださいませ!

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Mさまへ

Mさまへ

楽しんでいただけたみたいで、良かったです!

> 薪さんがあほうだと思ったら、青木さんはおばかでしたね……

はい!
うちにはあほとバカしかいません!
だって、わたしの脳から生み出された脳内キャラだもん。お利口さんがいるはずないです(笑)

> あの…とっても、気になったのは…
> 薪さん…喪服のまま…?

そうですね。
喪服のまま、中華街で食事ですね。
わたし、しょっちゅう会社の付き合いで葬儀に出席するんですけど、帰りに平気でファミレスとか喫茶店とか寄るから、なんとも思わなかったんですけど。言われてみれば、不自然かも(^^;

コメント、ありがとうございました!

Aさまへ

Aさま、こんにちは。(^^


> 薪さんの勘違い大王ぶりが可愛くて仕方ないです(´▽`)
> 薪さんの推理力は事件以外、働かないようで(笑)

ええ、バカな子ほどかわいいと言うのはこのこと!(>m<)
このカンチガイが仕事に現れたら、冤罪バンバン出しちゃう…… そうか、それで死体相手の第九の室長になったのか。(笑)



> 竹内さん、危うし!ですが(^^;)

さりげに殺されそうになってますね。(・∀・)
うちの青木くん、黒すぎ☆



> しづさん、キスなら鈴木さんと青木以外がしても構わないのですね。
> 間宮だけは勘弁して欲しいです(><)
> 滝沢は原作でちょっと可哀想だったので良しとするか(´`)

そんなことないですよっ。 本音では、指一本触れて欲しくないです。 薪さんに触れる男は青木さん (or鈴木さん) だけであって欲しい。 薪さんが望んだ人以外はイヤだし、薪さんが二人以外の人を選ぶのはもっとイヤです。
……………………………作品の内容と合いませんね………… うちの薪さん、キスは大安売りですものね…… 竹内、二階堂、今井さんともしてたし、滝沢さん、豊村君、多分東条も。  
こう書くと、マジでファムファタールですね、うちの薪さん。(^^;


> 真っ直ぐでお人好しな青木の黒い部分に薪さん、気づくのかしら?

一生気付きませんね。(笑)
好きな人のことは良く見えるものですから。(^^
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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