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ラブレター(9)

 ついに発売されました、コハルさんの「秘密日和2」!
 早速、申し込みました~! ←夏コミに行けないので、通販。コハルさんに会いたかった。(TT)
 今からワクワクドキドキ! してます。

 みっひーさんのところで、うっとりするようなイラストをいただいてきて、デスクトップを見るたびに幸せな気分だし。
 みなさんにも、この幸せのおすそ分けを、と思ったら。
 すみません、こんな話で(^^;







ラブレター(9)








 青木が出て行った後の部屋には、憂鬱そうに頬杖をつく室長の姿があった。
 室長席について背中を丸め、一枚の写真を見ている。小さなくちびるが微かに開き、親友の名前を呼んだ。
「鈴木。彼女はおまえの代理なのか……?」
 物言わぬ親友は、写真の中からにっこりと笑いかけている。
 そうだよ、と言っているようでもあるし、ちがうよ、と否定しているようでもある。生きていても死んでいても、他人の本当の気持ちなんて分らない。

「室長、岡部です。ちょっといいですか」
 室長室のドアがノックされ、薪は慌てて写真をしまう。目の縁に涙がないことを確認して、入れ、と声をかけた。
 不機嫌な顔で部屋に入ってきた部下を見て、薪は苦笑する。
 この顔は、どうせまた小言を言いに来たのだ。ここは先制攻撃だ。
「どうした、渋い顔して。昼の弁当にシイタケでも入ってたのか」
 岡部はシイタケが嫌いなのだ。

 第九の副室長は、薪の冗談に乗ってくれる様子はなく、眉を寄せたままデスクに近付いてきた。室長会の議事録ファイルを薪に差し出すと、威嚇するような低い声を出す。
「今回は、なにを考えてるんですか」
「そうだな。こないだ青木が金星挙げた、双子の事件なんかどうだ。過去の双子が絡んだ事件をリストアップして」
「違いますよ。横川みどりのことです」
 そろそろ言ってくるころだと思っていた。
 この部下には、薪の嘘は通用しない。青木のような単純バカなら、言いくるめることなど造作もないのだが、岡部は簡単には騙せない。

「青木のやつが喋ったんだな。誰にも言うなって、あれほど言ったのに」
「青木じゃありませんよ。あいつはあなたの言うことには、絶対服従ですから。彼女が自分で喋ってるんですよ」
 岡部は顔をしかめて、彼女の吹聴を非難した。
 細い眉を寄せると、ただでさえ怖い顔がさらに凄みを増す。この顔を見せるだけで、それまで黙秘を貫いていた何人もの被疑者が自発的に供述を始めたという、捜一ではその話はもはや伝説になっている。

「署内に広まるのも、時間の問題ですよ。噂が大きくなったら、最終的に傷つくのは彼女なんじゃないですか? どんな目的で彼女の言葉を否定しないのかは知りませんけど、彼女と付き合う気なんかないんでしょう」
「そんなことはないさ。彼女とは、結婚を前提とした付き合いをしようと思っている」
「無理ですよ。好きでもない女と付き合えるほど、あなたは器用じゃありません」
 薪はマグカップを取り上げて、鼻先に近づける。
 浅薄な香に、心が沈む。薪はカップに口をつけようとせず、机の上に戻した。

 青木のコーヒーが飲みたい。
 最後にあいつのコーヒーを飲んだのは、先週の木曜だから、10日近くも前だ。このところ調子がいまひとつなのは、そのせいかもしれない。

「どうして僕が、彼女に好意を持っていないと言い切れるんだ」
「一般的な殺人事件の動機の8割は、金と女です。男が惚れた女をどんな目で見るか、俺にはよくわかってます」

 青木のコーヒーは、薪に活力と元気をくれる。
 あのコーヒーさえあれば、この取調べに対抗できる力が湧いてくるのに。岡部どころか、相手が小野田だって煙に巻いてみせるのに。

「それに、進展が急すぎます。先週の木曜まではただの女子職員とその上司だった。それが翌日になったら恋人になっていて、その夜には体の関係を持った」
「おかしくないだろ。金曜日に恋をして、土曜日にベッドへ連れ込んで、日曜日に結婚式を挙げるカップルだっているだろ」
 自分でも、声が弱くなっているのが解る。表情も自信がない。
 青木と違って、岡部に室長の仮面は通用しない。岡部なら薪の弱点を衝いて、簡単にこの仮面を壊すことができる。

「日本中探せば1組くらいはいるかもしれませんけど、あなたにそんなインスタントな恋愛はできませんよ。薪さんのは、スローライフです。ゆっくり始まって、周りがイライラするくらいのんびり進行して、そして長ーく続くんです」
「おまえに、僕の恋愛スタイルが分かるってのか」
「あなたの顔を見てりゃわかりますよ」
「僕の顔見てすべてを読むの、やめろ」
「すべて分かるわけじゃありません。ただ、あなたの目は彼女を恋人として見ていない。それだけですよ。他の事情は一切わかりません。だから説明を求めてるんじゃないですか」
「この件には手出し無用だ。おまえには関係のないことだ」

 薪は、再びカップに手を伸ばした。
 やっぱり、カフェインは必要だ。こんな脆弱な心では、岡部の攻撃には耐えられない。こころを強くしないと、このベテランの捜査官に何もかも見破られてしまう。
 ところが、薪の考えを見透かしたかのように、ボーンチャイナのマグカップは、無骨な手に取り上げられた。代わりに、来客用の白いコーヒーカップを持たされる。
 
「おっと。これは俺が貰いますから、こいつを試してもらえないですか?」
「まさか、おまえが淹れたのか? おまえのコーヒーって」
 岡部の淹れるコーヒーは、めちゃめちゃ苦い。粉を多く入れすぎるのか、メーカーで淹れてもエスプレッソ並みの濃さなのだ。
「カフェインさえ入っていれば、いいんじゃなかったんですか?」
 岡部は馬脚を現した。やっぱり青木と喋っている。
 でも、これは多分、わざと言ったのだ。

 ため息を吐いて、コーヒーカップに口を近づける。
 思いがけない芳香に、薪の目が細められた。
 つややかなくちびるが白い陶器に接吻し、魅惑の液体を啜る。口中に広がる甘い苦味と、うっとりするような深い味わい。さらりとした後味。このコーヒーは……。

「泣くほど美味いですか?」
「え?」
 言われて初めて気がついた。
 自分でも信じられない。

 こんなことで涙なんて。しかも、ここは職場じゃないか。

「あっ……」
 とっさに薪は回転椅子を回して、岡部に背を向けた。
 この馬鹿げた感情の発露を、どうにかしなければ。
 でも、止まらない。
 必死で止めようとしているのに、止まらない。
 だめだ、嗚咽まで上がってきた。

 腹心の部下が部屋から出て行く気配を背中で感じて、薪は自分を恥じた。
 きっと、呆れられている。これまでも岡部には、何回もみっともないこところを見られてしまっているが、今度のは最低だ。

 とんだ見込み違いだ。
 岡部と渡り合う勇気をくれるはずの液体が、逆に自分を弱くするなんて。

 誰もいなくなった室長室で、薪は肩の力を抜き、椅子の背もたれに身体を預けた。
 コーヒーカップを両手で大切そうに持ったまま、靴を脱いで膝を抱える。

 すっかり冷えてしまったコーヒーを口に含み、薪は再び涙をこぼした。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、こんにちは。


> 一番わからないのは本当にみどりは薪さんのことが好きなのか?ですが・・

さあ、どうでしょう。(^^


> もし、原作で雪子が「私と結婚して克洋君の代わりに幸せにして!」と言ったら「わかりました」て、答えるかな!? 青木が現れる前だったらありえたかも!?

昔は可能性ありと考えていたのですけど、「一期一会」の二人を見たら、彼らが仲良くするのはやっぱり難しいなって思いました。
だから結婚もあり得ないかも~、それに、原作薪さんはどうもガチっぽいし……。 


薪さんへのご心配、ありがとうございます。
しかしまあこの頃の薪さんて、コーヒー飲んで泣いちゃうほどナイーブだったんですね~。(@@) 自分で書いといてびっくり☆
今はこれくらいのことで泣いたりしないですね。 強くなったと言うか、ふてぶてしくなったと言うか。
 男も女も年を取ると図々しくなる  
青木さんの愛情と時間が彼を強くしてくれたと、そういうことでお願いします。(^^;
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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