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ラブレター(11)

ラブレター(11)





 その頃、残念会に出席しなかった付き合いの悪い新人は、法医第一研究室にいた。
「三好先生。もうダメです。薪さん、あの女と結婚する気です」
「はあ? なにバカなこと言ってんの」
 青木が愚痴を言う相手は、彼女しかいない。だれかに聞いてもらわなくては、青木自身耐えられなくなりそうだった。

「そんなわけないでしょ。薪くんの好みとはかけ離れてるわよ、あの娘」
 雪子の理屈は、慰めにもならない。
 青木がむかし聞いた話では、薪は少しぽっちゃりした女の子が好きだと言っていたが、理想とは違う女性に恋をすることは珍しくないし、逆に好みの女性と結婚できる男のほうが実際は少ない。
「薪さんの好みって?」
「頭が良くて胸が大きい女性」
 ……それは、雪子のことではないのだろうか。

「すごく展開が速くて。オレが努力してきた1年なんて、あっという間に消されちゃいました。女の子には敵わないです」
 恋に落ちるときなんて、こんなものなのだ。
 運命というか、もののはずみというか。あれほど鈴木に夢中だった薪のこころを、みどりは簡単に捕らえていった。悔しいが、自分には薪を振り向かせることもできなかった。
「三好先生にも色々協力してもらったのに。ホントすいません」
 雪子にも悪いことをした。今まで彼女はとても親身になって、青木の相談に乗ってくれていたのに。

「ちょっと、諦めるの早すぎない? まだ婚約したわけでもないのに」
「薪さんが認めてるんです。彼女と付き合っていることも、特別な関係を持ったことも。オレには何もできません」
「そんなわけ、ないんだけどなあ」
 雪子は、薪がみどりに恋をしているという事実に、どうしても納得がいかないようだった。もちろん、青木だって認めたくはない。しかし。

「オレ、見たんです。あのふたり、昼休みに室長室でキスしてました」
「え、ウソ! 現場を見たの?」
「いいえ。でも、薪さんの唇に彼女の口紅が付いてたんです。そりゃもう、べったりと。今夜だってMホテルで会う約束してるんですよ」
 法一の助手の女の子が帰りがけに淹れてくれた紅茶を啜りながら、青木はぼそぼそと呟く。
「それ、薪くんから聞いたの?」
「机の上に、メモが」

 雪子はふいに席を立った。
 ロッカールームに入って行ったかと思うと、白衣から薄い水色のシャツブラウスに着替えて出てきた。7月だというのに長袖の上、襟元には幾何学模様のスカーフを巻いている。
 さすが女薪。暑さに強いところも同じらしい。
 
「行くわよ」
「行くって、どこへ」
「Mホテルでしょ」
「行ってどうするんですか」
「決まってるじゃない。邪魔するのよ」
 研究室の机すべてに鍵がかかっていることを確かめて、雪子はドアの前に立つ。チャラリ、と鍵の音をさせて、青木のために自分の車を出してくれるつもりらしい。

「それはさすがにちょっと」
「なに言ってんの。好きな相手が自分以外の人間とデートするって分かったときにやることって言ったら、徹底的に邪魔してデートをぶち壊すことに決まってるじゃない」
「決まってないです。てか、普通はそんなことしないです」
 そんな無茶苦茶なことを考えるのは、雪子だけだ。
 雪子らしいといえば雪子らしいが、青木にはそれはできない。いくら辛くても、相手を不快にする言動は慎むべきだと思うし、何よりも薪に嫌われたくない。

「青木警部。これは職務よ」
「はあ?」
「室長が自分の権力にモノを言わせて、女子職員に無理やり関係を迫ろうとしてるのよ。警察官として、放っておけないでしょ」
 青木を説得するために、雪子はむちゃくちゃな理屈を捏ね上げてきた。
「無理やりって、メモは彼女のほうから」
「あんた、キャリアでしょ。警大で習わなかったの? 警察っていうところはね、大義名分さえあれば事実関係は二の次なのよ」
 強引な理論展開は、だれかにすごくよく似ている。

 どうやら青木は、相談相手を間違えたようだ。雪子はお祭り騒ぎが大好きなのだ。
「薪くんのこういう場面に乗り込むのは、これで2度目なのよね。あ~、腕が鳴るわ」
 雪子の顔が、悪戯っ子のように生き生きと輝いている。
 彼女がこういう顔をしたら、もう誰にも止められない。たぶん、鈴木にも彼女の暴走を止めることは不可能だったのじゃないだろうか。
 青木は覚悟を決めて、立ち上がった。

「どういう関係なんですか? 三好先生と薪さんって」
「言ったでしょ。ライバルで、親友なの」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Rさまへ

こんにちは、Rさま。

ぜんぜん大丈夫、と言ってくださって、ほっとしました(^^
Rさまの広いおこころに、感謝いたします。

つづきはRさまのブログに、後ほどお邪魔しますね♪

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Aさまへ

5/12に拍手コメントいただきました Aさま


> アー本当に青木と雪子がこんな関係だったら・・
> 雪子にはもう、結婚は諦めて姉代わりのスタンスでいて欲しかった!

婚約解消した時点で、こういう関係(青木さんの相談役)に落ち着いて行くものと思ってました。 
雪子さん、完全に青薪さんのこと認めてたし。 
「たったそれだけで恋愛対象にならないの?」って言ったってことは、「それさえ取っ払えば成り立つ」と思ってるってことですよね? そうしたら普通は、協力する側に回るんじゃないのかなあ……自分に恋愛感情が芽生えたら、そんなこと忘れちゃうのかなあ……また新しい雪子さんになっちゃったのかなあ……。


> 薪さんの「結婚しろ」もね・・でも、岡部さんが青木と代わらなければ言うことなくアメリカに行ったんですよね。カップルを見たりしなければ・・

これは、言うだろうと思ってました。
そして、青木さんはそれに頷かないだろうとも思ってました。
本当に、雪子さんの「やり直しましょう」以外は、予想通りの展開だったんですよ。 自分でもびっくりするくらい思った通りで。 こんなに予想が当たったの初めてでした。


> 青木が家族団欒で居る時、薪さんは一人と思うと辛いです(;;)
> 青木もそんな時、胸が痛むと思う。

ここなんですよね、ガリガリ引っかかってるの。(><)
青雪さんの結婚は、薪さんの孤独がクローズアップされるから嫌なんですよ。 だからって、アメリカで新しい恋人を見つければいいとか金髪美人と結婚すればいいとか、それはもっと嫌なの。 
だってわたし、あおまきすとだもんっ。 薪さんの人生の伴侶に青木さん以外の相手は認められません。
だけどこうなった以上、それを認めないと薪さんは永久に孤独と言うことに……
あおまきすと辞めますか、人間辞めますか、という所まで追い詰められてる自分の腐り具合がメタメタ残念です。(T∇T)

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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