ラブレター(19)

ラブレター(19)







 Mホテルの1122号室に最後に残ったのは、第九の室長と新人のふたりだった。
 嵐の後のような部屋で、青木は途方にくれている。岡部が蹴り壊したドアと、雪子が叩き壊したテーブルについて、ホテルの人に何と説明したらいいのだろう。

 とりあえずフロントに赴き、支配人に謝罪の言葉を述べると、既に間宮のほうから事情は聞いていると言う。
「素晴らしい。本格的な実地訓練でしたね」
「はい?」
「間宮様が立てこもり犯で、そちらの方が人質役で、さっきの怖い顔をなさった方が踏み込む役だったんでしょう? さっきお帰りになられた女性の方は、鑑識と監察医だと」
 そういう設定にしたのか。
 間宮の職業と肩書きがあれば、嘘くさい話も本物になるらしい。

「修理代は、間宮様のほうへとのお言葉をいただきました」
 支配人から詳しい話を聞くと、間宮は岡部に殴られた後すぐに、ホテル側に訓練のことを説明し、同じ階のホテル客には高級ワインの試飲会の名目で、別室に移動してもらったと言う。道理であれだけの騒ぎに、野次馬がひとりも現れなかったはずだ。

 しかし、金曜の夜のこの時間、しかも飛び込みの訓練要請に、このホテルはよく協力を承諾する気になったものだ。
「間宮様には、いつも当ホテルを大変ご贔屓にして頂いておりますし。手前どもに出来ることは、喜んで協力させていただきます」
 つまりここは、間宮が愛人たちとの時間を過ごす隠れ家ということか。
「それに……わたくしは、間宮様の熱いお気持ちに打たれました。あんなにお顔を腫らした間宮様を見たのは、初めてでございます。お仕事のために、そこまで熱心になられる方だったとは」
 支配人の誤解に、青木は曖昧に笑う。
 本当のことは絶対に言えない。警察官がウソを吐いてはいけないが、黙秘権は認められている。

「あなたは何の役だったんですか?」
「え、オレですか? えっと」
「こいつは、ただの野次馬役です」
 ……せめて、監察医の助手くらいの配役にして欲しかった。

 お騒がせしてすみませんでした、と頭を下げて、ふたりは地下駐車場への階段を下りる。岡部が薪の帰宅用にと、自分の車を置いていってくれた。自分は間宮の車で帰るから、と青木にキーをくれた。
 助手席に座った薪は、シートベルトをつけると窓のほうに顔を向けた。
 きっと鈴木のことを思い出して、青木の顔を見るのがつらいのだ。亡くした親友と瓜二つのこの顔を、薪は時折、懐かしいような切ないような瞳で見つめている。

 ナビに薪の住所を入力して、車をスタートさせる。
 あんなことの後で、何を話していいのかわからない。
 彼女のことはあまり気にしないで、元気を出してください。そう言いたいが、薪の心情を考えると、とても言葉にはできない。
 どんな言葉を使っても、取り返しがつかないくらい、傷つけてしまう。
 そんな気がして、何も言えない。

「だれにも責められなかったんだ」
 窓に映った自分の顔に話しかけるように、薪は語り始めた。
「あの事件のとき、僕は誰にも責められなかった。鈴木の両親も雪子さんも……僕を責めたのは、マスコミや顔も見たことのない一般人や敵対していた捜一の人間や、そんな僕にとっては、どうでもいい人たちばかりだった」
 それでも、薪はズタズタに傷ついた。誰よりも強く薪を傷つけたのは、薪自身だった。
 2年が過ぎようとしている現在も、自分を責め続けている。永遠の責め苦は、薪の生ある限り続くのだろうか。

「あんな風に断罪されたのは、初めてだった。僕は彼女がしようとしていることを、否定するわけにはいかなかった」
 誰にも責められないということは、裏を返せば誰にも許してもらえないということだ。
 弁解の余地も、自分がどんなにそのことを悔やんでいるか口にする資格も、持たせてもらえないということだ。

 だからきっと、薪はみどりの非難を、心のどこかで嬉しく思っていた。彼女に責められることで、自分の罪が浄化されていくような錯覚を覚えていたのだろう。

「彼女に償うためには、そうするしかないと思った」
 しかし、それは錯覚に過ぎない。
「そんなやり方は、間違ってます」
 そんなことをしても罪は消えない。薪の傷が増えるだけで、薪は決して救われない。
「他にどうすれば良かったんだ? どうしたら、彼女に詫びることができたんだ?」
「あなたを恨むのは筋違いだって、教えてやれば良かったんですよ。三好先生のやったことが正解です」

「……僕にはそれはできない」
 静かな声で、薪はぽつりと言った。
「僕が鈴木を殺したのは、事実だから」

 これからこのひとはきっと、だれもいない部屋に帰って、自分が殺した親友の写真を見ながら、ひとりで泣くのだろう。薄暗い寝室のベッドにうずくまって、いつものように膝を抱えて。朝まで泣き明かすに違いない。
 その涙を止めることができるのは、たったひとり。
 でも、その人物はこの世にはいない。

 ……いないのなら、呼び戻せばいい。

「青木?」
 マンションの玄関前を通り過ぎて、地下駐車場に車を止めると、薪は不思議そうな顔になった。助手席で首を傾げている薪に、青木は切羽詰った表情で頭を下げた。
「薪さん、すいません。トイレ貸してください」


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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もう‥蹴り出されそうです‥

しづさん‥またもやストーカーのようにあなたの後ろに‥
わたくしが‥

‥だってこの節に書いてあるっておっしゃるんだもの~っ
お伺いするべきですよねーーっ?
‥すみません‥うそです‥自分が来たいから来たんです(>_<)

間宮さん‥大人なんだから♡
でも‥いくらくらい払うのかしら?
ドアが30‥いや、20万くらいで
テーブルは‥輸入品だったら‥15はするでしょう。
でも、あの方お金持ってらっしゃるから、痛くも痒くもないのね。

ってお前は誰なんだ?!‥しづさん、今、そう思ってましたね‥
いえ、否定なさっても分かります
だってお仲間ですもの‥。

‥妄想及び、のり突っ込みをお許し下さい(笑)
いつもこうではないんです(T_T)

えっと‥しづさんのお話にもどって‥
どうなるのでしょう?
トイレにかこつけて何をなさるのでしょう?
ドキドキ‥。
‥もう何かこのコメもついでのように思われそうで‥(-_-;)ごめんなさいっ!


しづさん、ヘンという最大級の賛辞、ありがとうございます(泣く)

嬉しゅうございます。
連ちゃんでお邪魔し、ほんとうにお邪魔な奴になってしまい‥
申し訳ございませんでした!!
ご迷惑でしたら暫く反省室に行きますのでおっしゃって下さい。

ほんとに失礼しました‥ruruharuでした(^◇^)

次回は絶対まともなコメ目指しますので、今回ばかりはご勘弁ください<m(__)m>

ruruharuさんへ

いらっしゃいませ、ruruharuさん。

> 間宮さん‥大人なんだから♡
> でも‥いくらくらい払うのかしら?
> ドアが30‥いや、20万くらいで
> テーブルは‥輸入品だったら‥15はするでしょう。
> でも、あの方お金持ってらっしゃるから、痛くも痒くもないのね。

そんなにするの?
うひゃあ、高いんだなあ・・・・そうですよね、ホテルに使ってる品物ですものね。
デート費用や洋服代も掛かるだろうし・・・・間宮、借金まみれだったりして(笑)

> ‥妄想及び、のり突っ込みをお許し下さい(笑)
> いつもこうではないんです(T_T)

え?そうだったんですか?
ruruharuさん、うちに来るといつもこのスタイルのような・・・・・あわわわ、な、なんでもないです(^^;

> えっと‥しづさんのお話にもどって‥
> どうなるのでしょう?
> トイレにかこつけて何をなさるのでしょう?
> ドキドキ‥。

トイレだけ借りて帰るんですよ、きっと(笑)

> しづさん、ヘンという最大級の賛辞、ありがとうございます(泣く)

賛辞!(爆)
褒め言葉なんですか?あれ。
あ、そっか。
わたしもすぎさんのところで、ドヘンタイのウルトラSって言われたとき、うれしかったっけ。それと同じ心理・・・・・一緒にしてはいけませんね。(^^;)はい、反省します。

> 嬉しゅうございます。
> 連ちゃんでお邪魔し、ほんとうにお邪魔な奴になってしまい‥
> 申し訳ございませんでした!!

いえいえ、コメはうれしいです。
おしゃべり、大好きですから♪

ありがとうございました。
またお待ちしてます。(^^

Aさまへ

Aさま、こんにちは~。


> なるほど、ここで間宮に借りができたのですね。

そうですよね、やっぱりこれって「借り」ですよね。
……薪さん、お礼も言わないんですよね(^^;) だって、今迄さんざんなことをされてるから。


> 実際には鈴木さんの両親に責められたし、エレベーターで雪子に泣かされましたが(´`)
> 責められる方が薪さんには救いなのかな。

うーん、これを書いた頃は未だ、「一期一会」が掲載される前だったので、鈴木さんの両親に責められたとは思わなかったんです。 
公式発表では正当防衛だったわけだし、発砲したのは鈴木さんの方が先でしょう? だったら、「うちの息子の不始末で室長さんにとんだことを」ってなったのかな、って思ってました。 
雪子さんもあの調子で、薪さんを恨んだり責めたりした様子はなかったし。 だから誰にも責められなかったのかなって。 
それで余計に自分を追い込んでしまったものと解釈してたんですけど……実際はがっつり責められてましたね。 しかも葬儀の場で。 辛かったろうな、薪さん。


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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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