岡部警部の憂鬱Ⅱ(1)

 久々に、本来のスタイルに戻ります。
 ええ、ここはギャグ小説サイトなんです。
 笑っていただけると嬉しいです。



岡部警部の憂鬱Ⅱ(1)






 今年の春から第九の副室長を務めている岡部靖文は、強面のベテラン捜査官である。
 年は38歳。階級は警部。ノンキャリアでこの年齢のこの階級は立派なものだ。現場で相当の殊勲を立てなければ獲得できない。しかも、生え抜きのエリートばかりが集まる第九の副室長という役職。キャリアの上に立つノンキャリアとして、キャリア組からは畏怖を、そうでない者たちからは尊敬と憧憬を集めている。
 岡部は武道にも秀でている。柔道5段剣道4段の実力は、ヤクザが束になっても敵わない。署内の武道大会では、毎年優勝争いに必ず残っている。身長180cm体重75キロの堂々たる体躯。隆々とした筋肉。男の中の男とは正に彼のことだ。

 その大きな身体を丸めて。
 岡部は追跡者から身を隠すように、デスクの陰にしゃがみ込んでいた。

「だから、違うんですってば!」
 携帯電話を使って誰かと話をしている。強い口調だが、囁き声だ。他人に聞かれたらまずい内容らしい。
 ものすごくコソコソしている。指名手配で逃げ回っている犯罪者のようだ。
「信じてくださいよ、水谷副室長。うちの室長が得意なのは巴投げで……違いますよ、巴御前の踊りじゃなくて!」
「岡部。水谷副室長からか?」

 冷たい声に、岡部は思わず電話を閉じる。
 上司が腕組みをして、デスクの脇に立っている。細い顎をつんと反らして、氷のような眼で岡部を見下ろしている。岡部は副室長だから、上司は一人しかいない。つまり、彼は室長ということだ。
「い、いや、あの」
 突然切られた電話に、水谷副室長は面食らっていることだろう。しかし、電話の内容を声の主に知られることは何としても避けたい。

 さらさらした亜麻色の髪に、同じ色の大きな目。長い睫毛に小作りな鼻。幼さを残す輪郭に、つやつやした小さな口唇。ボーイッシュな女性と言われれば頷いてしまいそうなきれいな顔立ちと、少年めいた小柄な体つき。身長は岡部の肩までしかなく、横幅は岡部の半分くらいしかない。
 そんな華奢な人物に対してプロレスラーのような岡部がタジタジとなっているのは、ひどく不自然で滑稽な状況だった。

「その電話は、こないだから僕のところに何通か来てる『踊りの教室を開いて下さい』っていう室長会のメンバーからの訳の分からない手紙と、どう繋がって来るのか……」
 岡部のネクタイをグイッとつかみ、室長は不機嫌な顔を近づける。岡部のいかつい顔が情けなく歪み、口元が笑いとも恐怖ともつかぬ形に引き攣った。
「な」
 自分の怒りを効果的に思い知らせるために、室長は間を置いて締めの言葉を放つ。完璧に整った美しい顔から、冷気が流れてくる。
 7月下旬の暑さの中で、岡部は寒気を感じている。特に真っ向からぶつかってくる視線は、絶対零度の冷たさだ。亜麻色の瞳から、冷凍ビームが発射されているようだ。

「すいません……」
 氷の警視正のブリザード攻撃に、岡部警部は年貢の納め時を知った。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: