岡部警部の憂鬱Ⅱ(4)

岡部警部の憂鬱Ⅱ(4)





 翌週の金曜日。
 岡部は再び机の陰に隠れて、水谷副室長と秘密の電話をしていた。

「だから! うちの室長は、女物の衣装は着ないんですよ!」
 声は低いが、口調は強い。
 水谷を説得しないことには、自分の命があぶない。
「訂正してくださいよ、このパンフレット。え? もう配っちゃった?……なんで女形限定なんですか? 顔で決めないでくださいよ!」
「なにを顔で決めたって?」
 至近距離の冷たい声に、岡部は電話を閉じた。
「いや、あの、その」
 水谷から預かった紙袋を、隠すように抱きしめる。この袋の中身を室長に見られたら、こないだ岡部を襲ったブリザードより遥かに激しい氷礫の爆撃に遭うに違いない。

「着物姿でお茶を点ててくれ、とでも言われたか?」
 近い。近いが、そんな生易しい事態ではない。

 薪は、肩をすくめて岡部の隣にしゃがみ込んだ。両肘を自分の膝に乗せ、頬杖をつく。その口調はすっかり投げやりだ。とうとう開き直ったらしい。
「もう、何を聞いても驚かんぞ。正直に言ってみろ」
「実はこれなんですけど」
 おずおずと無骨な両手が差し出したのは、濃紫の着物である。肩と裾に藤棚模様が入っていて、とてもきれいだ。
「それ、女物じゃないか。僕は絶対に着ないぞ」
 ここまでは予想していたらしい。さほどショックを受けた様子もなく、薪は持参した紙の袋を岡部のほうへ寄越した。
「懇親会ではこれを着る」
 紙袋の中には、藍色の小紋柄の男物の着物が入っている。これはこれで、薪の美貌を引き立てそうだ。肌の白さが強調されるだろう。
 女物の着物を用意される可能性を危惧して、これを持ってきたらしい。読みの深さと準備の良さには恐れ入る。しかし、この先の展開は読んでいなかったはずだ。

「この衣装でないと、詐欺罪に問われると言われまして」
「詐欺? なんでだ」
 岡部は下を向いた。怖くて顔が上げられない。
 自分の靴を見つめたまま、水谷から着物と一緒に押し付けられたパンフレットを、薪に突き出す。
 薪の顔色が変わった。
「こっ、このパンフレットをみんなに配ったのか!?」

 パンフレットには、10名ほどの室長会のメンバーの写真が掲載されている。顔写真の下に、懇親会で披露する芸の演目が書かれている。手品や長唄、ソシアルダンスに三味線の演奏など、室長会には芸達者が多いらしい。
 その中に。
 岡部が手にしている着物を着て、微笑している薪の姿がある。経歴欄には日舞花柳流の名取と書かれている。生花は池ノ坊の師範格とあり、着物もバックの白い胡蝶蘭も物すごく似合っているが、もちろん合成写真だ。
 人事部の履歴書にある証明写真では華がないから、もっと表情のあるものが欲しいと言われて、薪が微笑している写真を水谷副室長に提供したのは岡部だったが、まさか合成されるとは思わなかった。まったく油断もスキもない。

「僕にどうしろってんだ! こんな大嘘、取り繕いようがないだろ!」
「すみません!」
 思わず出した大声に、モニタールームの職員たちがこちらを見る。
 自分たちの上司がふたりして机の陰にしゃがみ込んでいるのは、彼らの好奇心を甚だしく刺激したに違いない。職員たちはたちまちふたりを取り囲み、その着物は何ですか、と聞いてきた。
「なんでもない! おまえら仕事に戻れ!」
「今は休憩時間です。教えてくれたって、いいじゃないですか」
 捜査活動において気になったことはとことん調査しろ、との室長の指導を日々実践している彼らの追及は、半端ではない。何人もの職員に口々に尋問されると、岡部のように意志の強い人間でも逃げ出したくなってくる。

 もうひとりの被疑者は、いつの間にか輪の外にいる。
 職員たちの足の間からこっそりと抜け出すのは、小柄な薪ならではの芸当だ。みなに囲まれている岡部を尻目に、薪はしゃがんだまま携帯電話を取り出した。
「雪子さん。着物の着付けはできますか?」



*****


 次回、お待ちかね(?)の女装シーンです♪

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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要ロック‥でしたか‥

えええーーーーーっっっっ!!!
って‥まじで?!皆様、鍵を?!‥
えええええええーーーーーーーっっっ‥

‥鍵‥昨日の‥

鍵かけなくて‥大丈夫‥な‥の‥? な、の??しづさん‥

‥そうか‥鍵かけないと‥まずかったのね‥

もう手遅れだわ‥おかしな人になっちゃったわ‥

今なら薪さんの日舞‥1メートル前で見ても‥驚かない自信あります、わたくし。


そして、1分後‥以下の心理状態に移行しました‥


‥負けないもん‥

こんなんでへこんでたら‥変わり者の名がすたるというもの‥

しづさんというヘンタイも‥おられることだし。

どうせ非難はドSのしづさんが受けるのよ!

そうですよね、しづお姉さま!!

では、わたくしはこれにて‥失礼いたします‥


‥あの、なんでしたら‥これ、鍵かけて下さい‥しづ様‥(T_T)

鍵は要らないです(ruruharuさんへ)

> えええーーーーーっっっっ!!!
> って‥まじで?!皆様、鍵を?!‥
> えええええええーーーーーーーっっっ‥
>
> ‥鍵‥昨日の‥
>
> 鍵かけなくて‥大丈夫‥な‥の‥? な、の??しづさん‥
>
> ‥そうか‥鍵かけないと‥まずかったのね‥

大丈夫ですよ!ぜんぜんオッケーです!!
てか、鍵なしのほうが、個人的には嬉しいです(^^

> もう手遅れだわ‥おかしな人になっちゃったわ‥

あ、それは手遅れですね。
このブログに来てる時点で、おかしなひとです(笑)

> 今なら薪さんの日舞‥1メートル前で見ても‥驚かない自信あります、わたくし。

そうですか?
わたしだったら、首筋にむしゃぶりつきたくなる・・・・・・すいません、すいません。自重します・・・・・・。

> ‥負けないもん‥
>
> こんなんでへこんでたら‥変わり者の名がすたるというもの‥

そうですよ!
このブログでは、『変わり者』『ヘンタイ』『ドS』は、褒め言葉ですよ!って、どういうブログ!?(^^;

> しづさんというヘンタイも‥おられることだし。
>
> どうせ非難はドSのしづさんが受けるのよ!
>
> そうですよね、しづお姉さま!!

はいはい!
このブログに関する苦情は、すべてわたしのところへお願いします。
どんな苦情にも、ギャグで返してみせますとも!(・・・・・ちがうだろ。反省しろよ、しづ・・・・・)

ruruharuさん、鍵は要りませんからね(^^
ありがとうございました!
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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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