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岡部警部の憂鬱Ⅱ(7)

 メロディ10月号、読みました。
 わたし的には、大満足でした(^^
 日本酒にパーカー……くくくっ!

 考察みたいな難しいことはわたしの脳ではムリなので、みなさまのレビューを楽しみにしてます♪
 わくわく。
 特にYさんのレビューは楽しみなんだあ……いつも鋭いから。
 それからWさんのレビューも楽しみなんだあ……おなか痛くなるくらい面白いから。(褒めてるってわかるよね? Wさん!)





岡部警部の憂鬱Ⅱ(7)





 着物の裾を捲り上げたいのを我慢して、薪はゆっくりと廊下を歩いている。
 料亭の玄関で部下が待っている。この拷問のような拘束具を外してくれるはずだ。

 着物を着るときも、大騒ぎだった。
 雪子に着付けを頼んだところ、自分はできないが、助手の菅井に何度も着せてもらったことがあると言う。着物と帯しか手元にないことを告げると、雪子たちは様々な小物を持って懇親会の料亭に来てくれた。
 長襦袢に何本もの帯紐、からだのラインを整えるための宛て布やタオル、帯の形を作るための帯まくら。腰紐に仕立て襟。かんざしに化粧道具。一枚の着物を着るのにこんな大量の小道具が必要になるとは、知らなかった。男の着物とはだいぶ違う。なんでも女性のほうが大変なのだ。
 それに、この締め付けのキツイこと。
 動くと型崩れしますから、と菅井は着物の上から、薪のからだを細帯で縛った。あの小柄な身体のどこにそんな力が潜んでいたのか、ものすごい力で締められて、薪は呼吸が止まりそうだった。そこに更に帯を巻かれて、普通に歩くことも出来なくなった。
 胴が細すぎて帯の模様がうまく表に出ない、と何度も結び直され、薪は舞台に上がる前から疲れきってしまった。かんざしも化粧も菅井の言うがまま、もう好きにしてください、とヤケクソ気味にこの美女は作られたのだ。

 日舞の稽古だって、めちゃめちゃキツかった。ゆったりとした踊りのイメージにそぐわずとてもハードで、この2週間というもの身体中の筋肉が張って寝苦しい夜が続いた。柔道や空手とは使う筋肉の種類が違うらしく、薪はかなりの体力を消耗していた。実はさっきも貧血寸前で、失礼な言葉に言い返す元気がなかったのだ。
 だから、岡部の心遣いは嬉しかった。薪のことをここまで理解してくれるのは、岡部だけだ。

 ……いや、もうひとり。
 岡部に近付きつつある男がいる。その男は玄関口に立ったまま、薪の姿を呆然と見ている。
 熱っぽい視線を感じる。顔や体に突き刺さってくるようだ。
 しかしそれは、何故か不快ではない。先刻、広間で受けた興味本位の視線とは違うやさしさを含んでいるからだろうか。

 料亭の仲居が草履を出してくれる。それを履こうとして、薪は顔をしかめた。
 花緒の部分に足を差し込もうとするが、きつくて入っていかない。無理矢理入れようとすると、足の指がすごく痛い。
「新しい草履ですか? 痛いんですよね」
 この草履は雪子が買ってきてくれたものだ。雪子のものでは大きすぎて、菅井のものでは小さかったのだ。
 仲居が鼻緒を手で広げてくれるが、それでも痛い。いくらほっそりしていてもやはり男の足だし、サイズが合っていても女性用の草履を履くのはムリがあるのだ。

 こうなりゃ裸足だ、と決心した和服美人の腰を大きな手が捕らえた。ひょいと抱えあげられて、薪は慌てる。
「なにすんだ、バカ!」
 仲居がびっくりした目でこちらを見ている。恥ずかしさに頬が染まる。これじゃまるで、女の子みたいだ。
「車まで運びます」
「下ろせ、みっともない!」
「足が痛くて泣きながら歩いてるほうが、よっぽどみっともないですよ」
「裸足で行くからいい!」
「裸足も相当、みっともないと思いますけど」

 着物のせいで身体が思うように動かせないから、抵抗できるのは口だけだ。喚いている間に、薪は料亭の外に連れ出されてしまった。
 外には幸いだれもいない。駐車場は裏手にあるから人目に付きにくいし、外灯の明かりだけなら、自分が男ということはバレないかもしれない。
 ……真っ昼間でも男には見えないが、薪にも思想の自由を認めてやろう。

 車に乗るときが、これまた不便だ。
 帯が邪魔で、シートに寄りかかることができない。薪は後部座席に横向きに座った。シートベルトは勘弁してもらいたい。というか、二度と着物はごめんこうむりたい。
「青木。帯だけでもほどいてくれないか。もう苦しくって。車酔いしそうだ」
「車の中じゃ狭くて無理です。少し我慢してください」
「だって僕のマンションまで1時間位かかるだろ。1時間なんてとても……そうだ、おまえのうち、ここから近いだろ。着替えは持ってるから、部屋を貸してくれ」
「わかりました」
 青木は言葉少なに応えを返すと、そのまま黙って運転に集中した。

 青木のそんな態度に、薪は些少の違和感を感じる。
 なんだか、素っ気無い。
 自分を見る目には相変わらず熱いものが含まれているから、自分への気持ちが無くなったわけではないと思うが。
 この2週間はずっと日舞の稽古をしていて、休日もアフターの付き合いもしなかった。そのせいで、いくらか拗ねているのだろうか。
 でも、今日でそれもおしまいだ。着替えたら食事に行こう。今日こそ、オードヴィのラムローストだ。薪は1ヶ月も前から騒いでいるのだ。

 10分ほどで青木のアパートに到着した。
 車が止まり、薪は当然のように青木に手を差し伸べる。部屋は2階だ。もう、ここまで来たら、抱えて行ってもらったほうが楽だ。
 部下に抱かれて部屋へ入り、居間のカーペットの上で帯をほどいてもらう。青木は固い結び目に、四苦八苦しているようだ。

「結構きつく縛ってあるんですね」
「だろ。SMプレイとほとんど変わらん」
「これって、菅井さんに着せてもらったんでしょ? すごい力ですね」
「彼女、脱いだらボディビルダーみたいだったりして」
「聞かれたら怒られますよ。可愛い顔して性格キツイって三好先生が言ってましたから」
「雪子さんに言われるようじゃ、相当だな。近寄らないほうが懸命だな」
 菅井は薪のために金曜のデートをキャンセルしてきたのに、ひどい言われようだ。本人の耳に届くことはないが。

 長襦袢を止めた帯紐を解くと、ようやく呼吸が楽になった。それから洗面所を借りて、化粧を落とす。クレンジングなんて気の利いたものは男の部屋にはないから、石鹸をつけてゴシゴシ洗った。口紅が取りきれないが、仕方ない。
「あー、腹へった。青木、おまえメシは?」
「まだですけど」
「じゃ、オードヴィに行こう。金曜の夜だから、電話で予約とってくれ。ラムローストのコースで」

 青木が携帯から電話を掛ける様子を、薪は長襦袢を羽織っただけの、だらしない格好で見ていた。淡いピンクの薄布一枚の自分の姿が他人からどう見えるか、多少は自覚があったが、とにかく一息つきたい。
 無理に締め付けられた身体が、ギシギシいっている。レストランに行くにはスーツが基本だが、まだネクタイは締めたくない。
 
「はい、2名です。コースはラムローストの……え? 入らない? 2ヶ月も前から?」
 困った顔をして、青木がこちらを見る。席は空いていたらしいが、何か他のトラブルがあったようだ。
「ニュージーランドの提携先にトラブルがあって、ラムが手に入らないそうです」
「ええ!?」
「どうします?」
「もういい。ラムローストが無いなら、行かない」
「他のもので我慢しようとか思わないんですか?」
「だって、僕は1ヶ月も前から食べたかったんだぞ! それが無いなんて!」
 食べ物の恨みは深いのだ。竹内に譲った山水亭だって、2ヶ月くらい思い出しては悔しがっていた。

 青木は携帯を閉じてポケットにしまう。レストランの予定が無くなったというのに、何故か嬉しそうだ。
「彼女と食事に行かなかったって、本当だったんですね」
 青木がいう彼女とは、横川みどりのことだ。3週間前まで第九の雑用係を務めていて、薪の恋人と称されていた女性だ。
 青木は彼女の嘘に惑わされて、右往左往していた。薪にも彼女の言動を否定できない理由があって、青木はずいぶん辛い思いをしていたようだった。

「僕を疑ってたのか?」
「だって薪さん、初めから彼女にはやさしかったから。食事くらいは行ったのかと思ってました」
「彼女の人事が遠藤のすぐ後だったから。様子を探ってたんだ」
「はい?」
 青木は、きょとんとした顔になっている。薪の言葉の意味が解らないらしい。

「遠藤のやつ、鈴木の写真を見せてもらったって言ってただろ」
「え?そんなこと言ってましたっけ?」
「言ってた。だれに見せてもらったのか、ずっと気になってたんだ」
 遠藤は、『鈴木さんの写真も見せてもらいました。青木先輩に何となく似てますよね』と言っていた。
 たしかに、新聞記事にも被害者である鈴木の写真は掲載されたが、それは人事データ用の証明写真で鮮度も荒く、青木に似ているとは薪でさえ思えない。ということは、遠藤は誰かに鈴木の写真を見せられた上で、薪が鈴木への独占欲から彼を射殺したと吹き込まれたのだ。
 薪が鈴木に恋をしていたことを知っているのは雪子だけだが、彼女は絶対にそんなことはしない。他に誰か、遠藤にその事実を伝えたものがいる。おそらくは自分を恨んで。
 その人物が自分の前に現れるかもしれないと、薪はずっと警戒していたのだ。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Yさまへ

鍵拍手いただきました、Yさまへ。

わたしも同意見です。
青木くん、まだ24歳ですから。警視正昇任は33歳と半年以上、でしたよね?
もっとも、特別人事とかあるのかなあ・・・・。

なんか、そういうのまったく無視されそうな気もするし(笑)

どちらにせよ、先が長いことを祈りましょうね。(^^

Aさまへ

Aさま、こんにちは。

> あら、しづさんは2009の一期一会も大満足だったのですね。

はい、けっこう満足してました。 てか、
この時点では青雪さんの結婚を受け入れてました。 この状態から別れて薪さんに行くってどう考えても修羅場になるじゃないですか。 わたし、ドロドロの三角関係は苦手だし、秘密はそういう話じゃないと思ってたので。 それに、青木さんの男としての責任を全うして欲しいという気持ちもありました。 婚約して男女の関係にまでなっておいて、他に好きな人ができたからサヨナラって、そんな真似はわたしの男脳が許さん。
でも、あの事件が起きて、雪子さんを危険から遠ざけるために婚約を解消して、そのときの雪子さんの引き際に、希望を持っちゃったんですね。 絶対に青薪さんの後押ししてくれると思った。 大ハズレでしたねっ!


青木さんが黙って運転してるのは、
彼いま、落ち込んでるんです。 「ラブレター」で、鈴木さんに勝てない自分を認めてしまったので。
でも大丈夫、このお話は「ラブレター」で落ちた青木さんを、薪さんが浮上させる話なんです。 (←転がすとも言う)
楽しんでもらえるといいな~。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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