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23日目の秘密(7)

23日目の秘密(7)







 朝食の後片付けを引き受けて、青木は食器洗いに精を出していた。
 食事をした後、薪はダイニングの椅子に腰掛けたまま眠ってしまった。2日間は徹夜だったらしいから、とうに限界だったのだろう。
 ベッドに寝せてやりたいが、寝室には入るなと言われたので、仕方なくリビングのソファに運んだ。
 薪を抱き上げて、また軽くなったな、と思う。無茶をするからこんなに細くなってしまうのだ。自宅ではさすがに防弾チョッキは着ていないから、その華奢な身体の線がはっきりわかる。

 相変わらず、きれいな寝顔だ。
 初めて会ったときも、室長は眠っていたっけ。あの時は驚いた。「泣く子も黙る法医第九研究室の鬼室長」とか「氷の警視正」とか、とにかく厳しい人だと言う噂を聞いていたから、その外見とのギャップに驚いたのだ。中身は噂以上にキツかったが。
 でも、実際に彼の下で仕事をしてみると、室長は鬼でも冷血でもない。どれだけ忙しくても、部下たちにはできるだけ仮眠と休暇を取らせるし、体調には気を使ってくれる。室長が冷酷なのは部下に対してではなく、むしろ自分に対してだ。

 なぜ、あんなに捜査に夢中になるのだろう。

 不眠不休で何度も貧血を起こして、自分の身体を苛め抜く。まるで何かの罰のように、聖職者が自分で自分を鞭打つように、室長の仕事ぶりは少し異常だ。
 初めは仕事に対する熱心さの表れだと思っていた。しかし、そんな単純なものではない。おそらくは、昨年のあの事件が尾を引いている―――― 夏のことだと記憶しているから、もう1年になるのだろうか。

 キッチンをきれいに片付けて、風呂を簡単に洗い、洗濯機を覗き込む。終了までの時間を示すタイマーが、残時間を20分と表示している。
 それにしても大きな洗濯機だ。
 よくコインランドリーに置いてあるような、業務用の洗濯乾燥機である。確かにまとめ洗いには便利だし、洗濯物もしわにならなくて良いが、普通の家にあるのは珍しい。

 リビングに戻ると、薪はまだ眠っていた。
 寝返りを打とうとしてソファの狭さに中断したのか、上着の裾がめくれあがって形の良い臍が見えている。何か掛けてやらないと寝冷えしてしまうかもしれない。
 あいにくリビングには毛布は置いてない。あるとしたら寝室だが、そこは立ち入り禁止区域だ。仕方なく脱衣所から乾いたバスタオルを持って来て、お腹の辺りに掛けてやろうとしたとき、薪が目を覚ました。

「―――― すずき?」
「いいえ。青木です」

 間違われるのは、これで何度目だろう。
 そんなによく似ているだろうか。写真を見た限りでは、それほど瓜二つと言うわけではないと思うのだが。
 共通しているのは、長身と黒髪くらい。岡部には、雰囲気が似ていると指摘されたことがある。が、その岡部に鈴木と間違われたことは一度も無い。

 薪はだるそうに身体を起こすと、すっかりきれいになった部屋を見回した。びっくりしたように、あちこちを見渡している起き抜けの薪の姿が可愛らしい。
 机や本棚に積もっていた埃はきれいに拭き取られ、木目が美しく磨き上げられている。薪が眠っている間に窓から電灯から床磨きまで、青木は掃除は得意なのだ。
「僕がやるよりきれいだな」
「薪さんの部屋は、物が少ないですから。やりやすいです。もともとそんなに汚れてなかったですし」
「気持ち悪くなるくらい臭かったけどな」
「あれは不可抗力です」
 その時、洗濯機のブザーが鳴って、ようやく薪は着替えることができた。
 休みの日なのでワイシャツにネクタイではなく、半袖のパーカーに膝丈のジーンズだ。ごく普通の服装なのだが、絶対に高校生にしか見えない。普段、きちんとスーツを着込んでいてさえ学生に間違われることがあるのだ。ブレザーにネクタイの制服は珍しくもない。

「ご苦労だったな」
「いえ。薪さん、買物に行くんですよね。オレ、荷物持ちしますよ」
 野菜や果物は結構重い。一人暮らしとはいえ、次の休みまでの1週間分を買い込むとなれば、かなりの量になるだろう。
「いいから帰って勉強」
 言いかけて止め、薪は何か思いついたように立って台所へ行く。後ろから着いていくと、米びつと戸棚を覗いて在庫のチェックをしているようだ。両方とも、ほぼ空である。

 公用車を個人の買い物に使ってよいのかどうか、迷うところだが。
「車、出してくれるか?」
「はい」
 青木はにっこり笑って、頷いた。



*****

 新婚さんは一緒にお買い物に行くものです。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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