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岡部警部の憂鬱Ⅱ(8)

岡部警部の憂鬱Ⅱ(8)






 ネタばらしをしてやると、青木はホッとした顔になった。
 まったく、仕方のないやつだ。遠藤が口にした不可解な言葉もスルーしてしまうなんて。捜査官失格だ。

「安心したか?」
「信じてましたから」
 青木のきっぱりした答えを、薪は心の中で嘲笑う。
 よく言えたものだ。僕が彼女と関係したと聞かされて、ベソかいてたくせに。
「あの口紅も、彼女の悪戯だったみたいですよ。三好先生が言ってました」
 青木は薪の前に来て、床に正座した。薪が脱ぎ散らかした着物を手に取って、不器用に畳み始める。
「あ、そうなんだ。残念だな」
 とっくに分かっていたが、少し意地悪をしてやる。
 あんなトリックに引っ掛かる、こいつがバカだ。どうしてキスで移った口紅が、ブラシで塗ったみたく均等についてるんだ。口角の縁取りがしてある時点でおかしいと思え。

 薪がさも惜しいことをした、という表情を作ってみせると、青木はムッとした顔になった。
「薪さんの好みは、頭が良くて胸が大きな女性じゃなかったんですか」
「よく知ってるな。話したことあったっけ?」
 青木とはよく酒を飲んでいるから、そのときに話したことがあったかもしれない。酒の席ではその場限りの話も多い。何を言ったか、あまり覚えていないのが実情だ。

「僕の好みをおまえが知ってるのに、僕がおまえの好みを知らないのは不公平だな。おまえの好みも教えろ」
「前にも言いましたけど。オレ、本当に好きになっちゃえば、どうでも良くなるんです」
「それでもさ。目に付く女性のタイプってあるだろ?」
 青木は黙り込んだ。
 薪は後ろを向き、長襦袢を脱いで防弾チョッキを手に取った。熱っぽい視線を背中に感じるが、たぶん気のせいだ。
 ワイシャツに袖を通して、ズボンを穿いた。ベルトを締めたとき、青木が口を開いた。
 
「身もこころも、きれいなひとがいいです」
 薪だってそういう女性がいい。
 好きになってしまえば関係ないとか言っておいて、けっこう贅沢なやつだ。
「具体的には?」
「そうですね。髪は短いほうが好きです」
「うん、それで?」
「色が白くて。眼は二重で大きくて、睫毛は長くて。鼻はそんなに大きくなくて、耳も口も小さめのほうが好みです」
 まるで針の穴を通すような条件だ。そんなに好みがうるさかったら、相手なんて見つからないだろう。
 しかし困った。雪子に通じるものがただのひとつもない。せいぜい髪が短いことくらいか。

「身体のほうは?」
「身長は163cmくらいで、体重は45キロくらいの華奢な身体がいいです」
 えらく具体的な数字だ。っていうか、それって……。
 考え込んでいる薪の顔を見て、青木はクスクス笑いを洩らす。

「柔道と空手をやってて、ジョギングも筋肉トレーニングも欠かさないくせに、ロクな筋肉もつかないからだが好きです」
「ちょっと待て」
「スーツ姿も女装も着物も、見事に決めるユニセックスなひとがオレの理想です」
 青木の理想像が誰を指すか解って、薪は複雑な気持ちになる。
 こいつにとって一番大事なひとではいたいけど、そういう関係にはなりたくない。勝手だとは思うが、やっぱりこいつの気持ちに応えることはできない。

「おまえの理想は、永遠に手に入らんぞ」
 薪は、目を逸らしてぼそりと呟いた。声が弱々しいのは自分でも解っているが、これ以上の声は出せない。
 なんだか胸が苦しくなってきて、帯は解いたはずなのにまだ締め付けられてるみたいで。心臓がドキドキしてきて、頬が熱くなってくる。これはきっと着物の後遺症だ。
「わかってます。だから、理想なんですよね」
「え?」

 あっさり引き下がられて、薪は肩透かしを食う。
 でもオレは諦めません、といつもの得意のセリフを、青木は口にしなかった。この頃のこいつは、やっぱり少しおかしい。
 ……そんなセリフを予測している、僕のほうがヘンなのか。

 青木は畳み終えた着物を箱に片付けている。薪の体中についていたタオルやら襟芯やらをまとめて、大きな袋に入れる。
 その作業に集中している振りをして、青木は薪の顔を見ようとしない。ここに来てから、ずっとそうだ。
 薪はぐるりと頭を巡らせて、部屋の中を見た。
 ここへ来るのは2度目だ。相変わらず雑然としている。訳の分からない自動車のパーツが置いてある。あのバンパーは日常生活において何の役に立つのだろう。
 以前のことを思い出して、薪は心の中で苦笑する。
 あのときはバカな勘違いをしてしまって、えらい恥をかいた。同じ轍は踏まない。思い込みは捜査官のタブーだ。まずは、関係者に対する事情聴取だ。

「どうして僕といるのに、そんな悲しそうな顔してるんだ? 僕はおまえの理想なんだろ」
「そうですよ。だから余計つらいんです」
「どうして?」
 青木の前に回りこみ、強制的に視線を合わせる。話をするときには相手の目を見るものだ。

「僕はおまえに感謝してる。こないだ、僕におまじないをしてくれただろ? おかげで僕は立ち直って」
「薪さんを立ち直らせたのは、オレじゃないです」
 なにを言っているのか分からない。
 あのとき、こいつの他に誰がいたと言うのだろう。

「オレの中の鈴木さんが、あなたを救ったんです。オレは何もしてません」
 悔しそうな表情で、青木は本音を吐露した。
「オレはただの容れ物です。あなたと鈴木さんをつなぐ、媒介です。あなたがオレを家に入れてくれたのもデートの誘いをOKしてくれたのも、オレが鈴木さんに似てるから。遠藤が言った通り、オレは鈴木さんの身代わりなんですよね」




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

煮詰まっちゃえばいいんだ‥

しづさん、おはようございます。

‥そうですね、捉え方はほんとに様々ですよね‥
びっくりしました‥。

私は未だ買ってはおりません。表紙だけでもビリッと‥いけない、いけない‥
犯罪にだけは手を染めては‥
‥片足くらいは突っ込んでるのかしら‥捕まらないまでも‥
ねっ、お姉ぇ様!

青木くんは尾を引いてるようですね‥ふふふふふ‥
煮詰まれ‥煮詰まっちゃえばいいんだ‥鬼畜‥
そして、自分の浅はかさを呪いなさい!おバカ!

しづさんとこの青木くんに何て事を‥ごめんなさい(笑)
でも、反省の色なし‥です。

この青木に薪さんがどう出るか‥
切れるか‥諭すか、しかと(T_T)か‥
それとも‥一発、けり炸裂か?

楽しみです‥どれも違ってたらいいなぁ‥

「身代わりなんですよね」?よね?‥聞くなーーーーっ!!
否定してほしいから、よね‥? ね、を付けるな!

その通りって言われたらジャン、ジャン。でお終いじゃないかーーーっ!

‥はぁはぁはぁ‥ちょっぴり泣いていいですかぁ‥

すみません‥ちょっと傷ついてます‥
上げられ、落とされ、の繰り返しは心のダメージが深く重くなるのですね。
ほんと、いけずの清水先生のお陰で‥批判じゃないです(笑)独り言です


こんどはもっと炸裂させますから、今日はこのくらいにしといて差し上げます(笑)

こんな奴のバカなコメントをいつも許して下さるしづさんに
感謝しております<m(__)m>

ruruharuでした(^-^)





岡部警部の憂鬱はどこへ?

しづさん こんにちは

>こいつにとって一番大事なひとではいたいけど

えっ? そういうことになったんですか? 薪さんっ? あれあれあれ? とっくにそうなってましたっけ? ←真剣に読み込んでいないことがバレる(^^;

>・・・・・そんなセリフを予測している、僕のほうがヘンなのか。

そうかあ。薪さん、ついに白旗をあげたんですか。へえ~ほお~ふう~ん(^^)

とか思ったら、

>遠藤が言った通り、オレは鈴木さんの身代わりなんですよね

青木の甘ったれなことと言ったら・・・(@@
薪さんの苦労がよく分かります。
惚れた弱みって、大変ですね、薪さん(^^)

お邪魔しました。

ruruharuさんへ

いらっしゃいませ、ruruharuさん♪

> ‥そうですね、捉え方はほんとに様々ですよね‥
> びっくりしました‥。

あ、みなさんのレビュー、お読みになったんですね?
ええ、同じお話から、あんなにさまざまな反応が起こるなんて。面白いです(^^

> 私は未だ買ってはおりません。表紙だけでもビリッと‥いけない、いけない‥
> 犯罪にだけは手を染めては‥
> ‥片足くらいは突っ込んでるのかしら‥捕まらないまでも‥
> ねっ、お姉ぇ様!

ruruharuさんは大丈夫ですよ!
わたしは、存在自体が犯罪みたいなもんですが(^^;

> 青木くんは尾を引いてるようですね‥ふふふふふ‥
> 煮詰まれ‥煮詰まっちゃえばいいんだ‥鬼畜‥
> そして、自分の浅はかさを呪いなさい!おバカ!

きた!ruruharuさんの青木くんイジメ!(笑)
ruruharuさんが青木くんを許すことは、かれが薪さんを選ばない限り、無理なんでしょうね(^^

> しづさんとこの青木くんに何て事を‥ごめんなさい(笑)
> でも、反省の色なし‥です。

いいんですよ!
ガンガン言ってやってください。うちの青木くんは、まだまだ修行が足りないんです。

> この青木に薪さんがどう出るか‥
> 切れるか‥諭すか、しかと(T_T)か‥
> それとも‥一発、けり炸裂か?
>
> 楽しみです‥どれも違ってたらいいなぁ‥

抱きついてキスをする、という選択肢は無いんですね。
うちの薪さんですからね。(笑)

> 「身代わりなんですよね」?よね?‥聞くなーーーーっ!!
> 否定してほしいから、よね‥? ね、を付けるな!
>
> その通りって言われたらジャン、ジャン。でお終いじゃないかーーーっ!

しれっとした顔で、言いそうですね。
うちの薪さんですからね(--;)


> ‥はぁはぁはぁ‥ちょっぴり泣いていいですかぁ‥
>
> すみません‥ちょっと傷ついてます‥
> 上げられ、落とされ、の繰り返しは心のダメージが深く重くなるのですね。
> ほんと、いけずの清水先生のお陰で‥批判じゃないです(笑)独り言です

きゃん、泣かせちゃいました?ごめんなさい(><)
でも、でも、そんなお気持ちになられたのなら、ぜひ続きを読んでください。(図々しくてすいません!)

> こんどはもっと炸裂させますから、今日はこのくらいにしといて差し上げます(笑)

はい、ぶっとびコメ、お待ちしてますwww。

> こんな奴のバカなコメントをいつも許して下さるしづさんに
> 感謝しております<m(__)m>

わたしこそ、ruruharuさんに感謝してますよ!
あ、でも、ちょっと恨みもある・・・・・K24さんのところの、あの薪さん、ruruharuさんのお嫁さんになっちゃった・・・・・なんちゃって!冗談ですからね(^^)

ところで、ruruharuさん。
よろしかったら、わたしもruruさん、ってお呼びしてもいいですか?(K24さんのところで、この呼び方かわいい、と思いました)
お許しいただけたら、幸いです。よろしくお願いします(^^

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イプさまへ

こんにちは~、イプさま!

> >こいつにとって一番大事なひとではいたいけど
>
> えっ? そういうことになったんですか? 薪さんっ? あれあれあれ? とっくにそうなってましたっけ? ←真剣に読み込んでいないことがバレる(^^;

はい~。
あの非難囂々の『ファイヤーウォール』のときに、自覚が芽生えました(^^)
でも、無理もないです。
『青木の最優先は自分なんだ。その立場はとても気分がいい』
なんて、ひねくれた言い方でしたから。わかり難かったと思います。

> >・・・・・そんなセリフを予測している、僕のほうがヘンなのか。
>
> そうかあ。薪さん、ついに白旗をあげたんですか。へえ~ほお~ふう~ん(^^)

白旗を揚げたことは、青木くんにはひた隠しです。というか、自分でもなかなか、認められない状態です。うちの薪さんは、とにかくひねくれてますので(^^;

> とか思ったら、
>
> >遠藤が言った通り、オレは鈴木さんの身代わりなんですよね
>
> 青木の甘ったれなことと言ったら・・・(@@
> 薪さんの苦労がよく分かります。
> 惚れた弱みって、大変ですね、薪さん(^^)

前回のことが尾を引いてまして(^^;
自らの意思で、鈴木さんの代わりになったんですけどね。そのことに自分も納得しようと頑張ったんですが・・・・・やっぱり辛かったみたいです。ヘタレですから、うちの青木くんは(TT)

イプさん、10月号のレビュー、楽しみに待ってます。
どうかイプさんのペースで、おこころのままに書いてくださいね!

Rさまへ

わたしもRさまに、お会いしたかったですよ!
この次の機会には、ぜひお会いしましょう!

おあとは、Rさまのブログへお邪魔します♪
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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