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フラッシュバック(1)

 このお話は、最近書いたものです。
 メロディの4月号に影響されまして、4月ごろ書きました。(って、かなり昔じゃん。でも、これまでのお話は、もっと前に書いた物が殆どなので、比較的新しいかと)
 現在のふたりだと、この後なだれこんじゃうなあ、と思って(ナニに?)ここに入れました。

 わたしにしては穏やかで、とっても短いです。
 みなさまのSSを読ませていただいて、短い中にも起承転結があり、笑いがあり涙があり、感動があり、素晴らしい! と思いました。で、わたしも短編に挑戦してみようと。
 白状しますと、わたしは短編がとても苦手でして。まとめることができないのです。あれもこれも、詰め込んじゃう。 「ラブレター」も、60ページでしたね。あはははは……。

 なので、これはしづの初めての短編です。
 ちょっとぎこちないですが、ご容赦ください。
(以前書いた、「幸せな薪さん」は、実は先のお話にエピローグとして付け足そうと思って書いたものです。あれも、長い。30ページはある)


 ちょっと、私信です。
 8/30、8/31に、たくさん拍手をくださった方。
 どなたかしら。鍵拍手いただいたSさんかしら。それともKさんかしら。……どうしてみなさん、鍵なのかしら? ここがヘンタイブログだから?(笑)
 とにかく、ありがとうございました。
 とっても嬉しかったです。(^^





フラッシュバック(1)







 梅雨の季節から、ずっと人々を悩ませていた不快な湿気が爽やかな風に追い払われて、身を包む空気に心地よさを感じる秋の休日。
 薪は、美術館に来ている。
 隣には、えらく背の高いメガネを掛けた男の姿があって、にこにこと微笑んでいる。その顔は前方の作品に向けられていたが、視線はしょっちゅう右下方に注がれている。

 左上方から注がれる視線を感じて、薪は心の中で舌打ちする。
 またこいつは。性懲りもなく。
 青木はどこへ出かけても何をしていても、いつもこちらを見ている。うざったい視線を肌で感じつつ、くすぐったいような安心感を味わっている自分を見つけて、薪は頬を引き締めた。

 初夏の季節から始まったこの密かな交流は、夏の間もこっそりと繰り返されていて、平日のアフターに訪れた映画館も入れれば、その回数はとっくに二桁。
 最初は、休みの日に部下と二人で出かけることに対して抵抗があった薪だが、回数を重ねるにつれてそんな意識も希薄になり、薪は最近、興味をそそるテーマパークを積極的に探すようになった。
 よく考えたら男同士なのだから、余計な気を回す必要はなかったのだ。
 部下と友だちになって、何が悪い。そういうことだ。

 胸の奥がチクリと痛むのを無視して、薪は壁に掛かった別世界に思いを馳せる。
 代表作に風景画や静物画が多いこの画家の絵は、繊細で流麗。色合いは淡く、グラデーションが美しい。特に、この河川部分。アレキサンドライトを思わせる深遠で硬質な透明感――。

「わあ。これ、すっごくきれいですね」
 水路の上をゴンドラが行き交う異国の風景を、幻想的なタッチで表現した一枚の絵に目を留めて、青木が素直な感想を洩らす。その単純極まりない感動の言葉に吹き出しそうになりながら、彼の幼児性を好ましく思っている自分に気付いて、薪は慌てた。

「なんだ、その小学生みたいな感想は。おまえの言語中枢には熟語がないのか」
 心の焦りを悟られないよう、辛辣な口調で憎まれ口を叩く。軽蔑のまなざしを浮かべたつもりだったが、青木が笑っているところを見ると、効果はいまひとつだったらしい。
「難しい言葉を知らなくても、絵は楽しめますから。あ、でも」
 ときどき不自由さを感じるほどの長身をかがめて、青木は薪の耳元に口を寄せた。
「薪さんの方が、どんな絵よりもきれいですけど、痛っ!」
 ふくらはぎに薪の蹴りが決まって、青木の声が静かな館内に響いた。周りの人々がこちらを振り返らないうちと、薪は出口に向かう。やっぱり、バカには付き合いきれない。

 美術館から外に出て上を見上げると、澄み渡った秋の空が目に痛いくらいだった。
 中庭の銀杏の木の下で、連れが出てくるのを待つ。
 すぐに追いかけてくるかと思っていたのに、なかなか出てこない。何をやってるんだと苛立っていたら、どこかの子供の手を引いて出てきた。迷子らしい。
 エントランスにある管理人室に、子供と一緒に入っていく。アナウンスを頼んで、親を探してもらうのだろう。まったく、お節介なやつだ。

「すみません、お待たせして」
 子供に手を振ったあと、薪の姿を見つけて一目散に走ってくる。走れる、ということは蹴りが弱かったということか。
 何故だろう。
 先刻の青木の言葉が、不快ではなかったのか。いや、そんなことはない。
 薪にとってあの手のセリフは、侮辱以外の何ものでもない。自分の言語能力をバカにされたことに腹を立てたのだろうが、上司を侮辱するなんてもってのほかだ。

「……なんだ?」
 青木が途中で足を止めて、呆然とこちらを見ているのを不思議に思って、薪は首をかしげた。
「え、あの……薪さん、今日は本当にきれいです。そうやって立ってるだけで、一枚の絵みたいで」
 まだ言うか。今度は、向こう脛に決めてやる。
「服装のせいですかね」
 服装、と言われても、特に芸術的な格好はしていないが。
 白い詰襟のシャツにダークグレイのツイードジャケット。スラックスはジャケットに合わせた細身のもので、靴は先月買ったばかりのカルツォレリア・トスカーナ。それほど高価なブランドではないが、歩きやすいのが気に入っている。
 胸に垂らした長めのチョーカーは黒い細革製で、ペンダントトップは羽根を模った銀細工に、薪の誕生石のターコイズをトッピングしたもの。ベルトも銀のバックルで、さりげなくコーディネイトしている。
 髪はウエットワックスで後方に流して、いつもより額が見えるスタイルにまとめている。額に下ろす前髪の量を調整するのに、1時間近くもブラシを握っていたことは、こいつには内緒だ。ましてや昨夜、こいつからの電話で美術館に誘われたあと、着ていく服を決めるのに2時間もファッションショーをやったなんてことは、口が裂けても言わない。

 薪はTPOに合わせて、変幻自在に自分のスタイルを変える。服装に髪型にアクセサリ。鏡の前であれこれ悩むのは、けっこう楽しい。
 動物園や遊園地に行くときには、周りの年齢層に合わせて少年風の装いを。映画館では開襟シャツに棒タイ、スラックスといった組み合わせが多い。公園や山歩きのときは、動きやすさを重視してTシャツにコットンパンツかジーパン。それに合わせたキャップを被る。
 バングルもチョーカーも腕時計も、実はかなりの数を持っている。青木と出かけるようになってから買い求めたものも多いが、それは別に、こいつに見せるためじゃなくて、つまりええと。

「まるでモデルさんみたいです」
「そうか?」
 きれい、と言われたら腹が立つが、モデルと言われれば悪い気はしない。男性モデルは立派な職業だし、胸板が厚く足が長いのがモデルの条件だからだ。
「今度、『ターザン』の読者モデルに応募してみようかな」
『ターザン』は、薪の愛読雑誌だ。男らしい筋肉をつけるために有効なトレーニングの方法が毎月掲載されている、というのが定期購読の理由だ。

「あれは岡部さん向きじゃないですか? 薪さんはどっちかって言うと、『ビューティスタイル』とか『きらりファッション』とか『セレブ……うぎゃっ!」
 3つ目の女性向けファッション雑誌の名前を言い終わらないうちに、薪の回し蹴りが青木の腿に炸裂した。そのまま青木が口を閉ざしたので、『セレブ』が冒頭に付く雑誌の正確な名称を、薪が知ることはなかった。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

> 原作の薪さんはあまり、オシャレじゃないような・・(^^;)

びっくりするくらい無頓着でしたね。<薪さんの私服。 
鞄や靴も、それほど高級には見えなかったし。 
この話は『一期一会』で薪さんの私服が登場する前に書いたので矛盾してしまってますが、原作薪さんも、青木さんと想いが通じてデートすることになったら、それなりにお洒落するかも……いや、想像つかないな。(笑)


> 鏡の前で色々、組み合わせてみる薪さんて結構、ナルちゃんですね(^▽^)

ナルシストというよりは、相手に恥をかかせたくない気持ちが大きい、かな?
ていうかですね、これ単純に、
どうやって若く作ろうか、って感じだと思うんですけど。
12歳も年下の男の子とデートすることになったら、それなりに若く作らなきゃと思うでしょう? カレシと並んで歩いてるのに、『お母さん』に見られたくないじゃないですか。(笑)  
薪さんの場合、そんな心配はまったく無用なんですけどね、とにかく自分が見えない人だから。i-278


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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