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フラッシュバック(2)

 あの、
 10月号の副題のことなんですけど。

 『一期一会』の意味もうろ覚えだったおバカなわたしは、辞書を引きました。
 そしたら、
 「あなたとこうして出会っているこの時間は、二度と巡っては来ないたった一度きりのものです。だから、この一瞬を大切に思い、今出来る最高のおもてなしをしましょう」という茶道の言葉。
 って、書いてあったんですけど、二度と巡って来ないって……まさか、私生活の薪さんはこれっきりって意味じゃ? あ、なんか、メールの相手もこのままわからずじまいな予感。

 あ、ちがうか。
 第九の未来のことを言ってるのか。そういう意味か。

 ヤメヤメ!
 バカオロカには難しすぎます。みなさまの考察をお待ちしてます。(←他力本願)
 わたしは、わたしにできることをします。


 はい。
『フラッシュバック』のつづきです。







フラッシュバック(2)









 美術館近くの公園を散策して、鳩と戯れたあと、ふたりは帰途についた。
 土曜日の街は休日を楽しむ人々で賑わい、その喧騒と人波に辟易した顔を作りながらも、薪の足取りは軽かった。

 こんなにたくさんの人々が、みんな笑顔で街を歩いている。それはとても、幸せなことだ。この平和を守るために自分たちの仕事はあるのだ、と肝に銘じつつ、ほんの僅かでもその幸福感を共有できることに、大きな喜びと、密かな罪悪感を感じる。
 いや、後者はなしだ。
 青木と一緒に過ごすときは、楽しいことだけを考えると決めた。
 いま、僕は楽しい。

 駅に近い交差点で信号待ちをしていたとき、青木が急に言い出した。
「薪さんが以前に住んでたマンションて、この近くなんですか?」
 どこで聞き及んできたのか。
 岡部あたりだろうと見当をつけて、薪は深く考えもせずに応えを返した。
「ここから10分くらいかな。見たいのか?」
「ぜひ」
「仕方ないな。案内してやる」

 あのマンションを出たときのことは、決していい思い出とは言えないが、あれから2年がたった今、感じるのは懐かしさだけだ。それに、そのくらいの遠回りなら夕食までの時間調整にちょうどいい。

 口に出したことはないが、薪は少しだけ青木に感謝している。
 こいつのおかげで、ずっと行きたかった動物園に、好きなときに行けるようになった。
 ヨーゼフにも頻繁に会えるようになったし、シャチのショーも楽しかった。千葉の有名なテーマパークも面白かったし、山歩きも気分がよかった。
 だから、これくらいの望みなら叶えてやってもいい。もちろんこの見返りには、自分のマンションの掃除をさせるつもりだが。

 晴美通りから1本入ったところの細い路地を抜けて、東側に進路をとる。ビルが林立する角を2回曲がり、交差点に出る。それを渡ると大きなショッピングモールがある。モールを過ぎて、30mほど進むとコンビニが――。
「青木?」
 ぴったりと後ろをついてきていた長身の男が、途中で立ち止まっている。ショッピングモールの中の、賑やかな光景を眺めているようだ。

「のど渇きません? あのスーパーで、何か買っていきましょうよ」
「あそこはダメだ!」
 反射的に言ってしまってから、薪は口を押さえた。

 不自然な言い方だっただろうか。
 顔色は大丈夫だろうか。足は震えていないだろうか。

「あそこの角にコンビニがあるから。飲み物ならそこで」
「スーパーの中のフードコーナーの方が、種類が豊富で美味しいですよ。オレ、コーヒーフロートが飲みたいです」
「コーヒーフロートなら、この先に喫茶店があるから」
 薪の言葉を無視して、青木はすたすたとスーパーに近づいて行く。薪は必死で青木を制止しようと、声を張り上げた。
「コーヒーフロートにミックスサンドもつけるぞ! ホットケーキも食っていいから!」
 青木はくるりとこちらを向いて、薪のほうへ歩いてきた。ホットケーキが効いたらしい。

 しかし、それは薪の早合点だった。
 大きな手が薪の腕をつかむ。ぐい、と引き寄せられて、思わず足がもつれそうになった。咄嗟に目の前の、白いボタンダウンシャツにすがりつく。
「大丈夫ですよ」
 
 …………こいつ、知ってる。
 知ってて、ここに僕を連れてきたんだ。

 薪はぎりっと奥歯を噛んで、青木の手を乱暴に振り払った。

 バカにしやがって。
 何を考えているかは知らないが、こんなことくらいで僕の弱みをつかめると思ったら大間違いだ。

 言葉は威勢がいいが、身体の方はギクシャクとしか動かない。足を揃い踏みにしないように動かすのが精一杯だ。
 それでもなんとか、スーパーの自動ドアの前まで歩く。あと一歩踏み出せば、ドアが開く。
 足が竦む。心臓がどきどきと激しく打ち始める。
 後ろから、子供が薪を追い越していく。子供の親が訝しげな顔をして、出入りに邪魔なところに立っている薪を見る。薪の顔色が真っ青な様子に気づいて、関り合うのは面倒だとばかりに、足早に中に入っていく。

 ドアが開いて、中の様子が薪の目に飛び込んでくる。
 一気に甦ってくる、記憶の嵐。
 カシャカシャとシャッターが切られるように、幾枚もの画が薪の目に映る。
 スーパーの店員の怒号。買い物客のざわめきと群がってくる野次馬。その中を、腕を掴まれて自分の方に引き摺られてくる、みすぼらしい男。

『第九の刑事さんですよね? TVに出てらっしゃる。こいつ、万引きしやがったんですよ』
 万引き犯が顔を上げる。つるりと禿げ上がった頭。小さな目。がっしりとした体つき。その口がにやりと笑って、薪の名を呼ぶ。

『薪さん。あいしてるぜ』
「――――― っ!」

 声にならない悲鳴が上がる。
 身体が勝手にがくがくと震えだす。背中には冷や汗が流れ、薪は貧血を起こしそうになる。
 湧き上がってくる恐怖は、薪の細胞に刻み込まれた、あの男の――――。

「薪さん、オレが悪かったです」
 ふいに目の前の風景が変わった。
 青木が薪の肩を掴んで、建物に背を向けさせたのだ。
「わがまま言ってすみませんでした。あっちへ行きましょ」
 青木に促されても、薪の足は動かない。根が生えてしまったように、足を上げることができない。

 青木は薪の前に回りこんできて、薪の手を取った。
 薪の倍はあろうかという大きな手。薪の両手はその中にすっぽりと隠れて、微かな震えだけがその存在を主張している。
 震えを止められない情けなさに嫌気がさして、薪は自分の手を見るのを止めた。長い睫毛を伏せて、深く息を吸う。
 相手の体温が、ゆっくりと伝わってくる。自分を包み込む青木の掌に、熱を感じる。血液の流れによる、わずかな脈動。
 その暖かさが、薪の冷たく冷えた心臓を、再び動かしてくれる。

 顔を上げると、青木と目が合った。
 黒い瞳は心配そうに薪を見ている。

 冗談じゃない。
 12歳も年下の部下に心配されるほど、僕はまだ落ちぶれちゃいない。

「大丈夫ですよ。オレがついてますから」
「なにが? ただのスーパーマーケットだろ」
 おせっかいな手を、邪険に振り払う。
 薪は踵を返し、足を出した。

 薪の前で、4年前と同じ自動ドアが開いた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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ああ、青木、、

こんにちは。
ここのところコメを残してませんが、毎日必ず読んでます。毎日楽しみにしています。(朝起きるとき、しづさんの新しいSSがアップされてるかも、、!と思うと楽しく起きられます。)
特別編の『一期一会』の意味ですが、ああいう飲み会や、薪さんの私生活がこれっきり、、、という意味に取ってらっしゃるかともおられましたが、
青木の言っていた、『ずっと、変わらずに薪さんの側にいてずっとみんなと捜査が出来ると思っていた』にかかってるような気がします。この世にはずっと、、なんてないのだと、、ずっとかわらないものなんてない。毎日薪さんといたとしても、昨日とは違う。生きるという事そのものが日々そのときその時の刹那的なものだと、、言うような意味に感じます。

ところで、しづさんところの青木には毎回はらはらさせられます、、、折角薪さんご機嫌だったのに、、、はあはあ、どきどき、、、

シーラカンスさんへ♪

いらっしゃいませ、シーラカンスさん!

こんなヘンテコ小説を楽しみにしていただいて、ありがとうございますっ!
嬉しいです!

> 特別編の『一期一会』の意味ですが、ああいう飲み会や、薪さんの私生活がこれっきり、、、という意味に取ってらっしゃるかともおられましたが、

あ、そうなんですよ。
それでビビっちゃって・・・・・。

> 青木の言っていた、『ずっと、変わらずに薪さんの側にいてずっとみんなと捜査が出来ると思っていた』にかかってるような気がします。この世にはずっと、、なんてないのだと、、ずっとかわらないものなんてない。毎日薪さんといたとしても、昨日とは違う。生きるという事そのものが日々そのときその時の刹那的なものだと、、言うような意味に感じます。

ですよね、ですよね!?
ああ、よかった。
自分でも、そういう端的な意味ではない、と思ってたんですけど、誰かに言ってもらうと安心する・・・・・。
ありがとうございます、シーラカンスさん。
わたしの呟きを耳に留めていただいて、コメまでくださって、感謝します。

> ところで、しづさんところの青木には毎回はらはらさせられます、、、折角薪さんご機嫌だったのに、、、はあはあ、どきどき、、、

あははは!
原作以上に地雷踏みまくりですからね、うちの青木くんは。
ちっとも穏やかな休日じゃないって?
そりゃー、しづが書くSSですから(笑)

ありがとうございました(^^

Aさまへ

Aさま。

> あの公園でのメール相手は分かりませんでしたね。カウンセラー?

とうとう不明のままでしたね。
カウンセラーは、わたしも最初はそう思ったんですけど、だったら飲酒はしないでしょうよねえ? 
飲んじゃったから「すみません、今日は行けません」だったりして。(笑)


> 「フラッシュバック」というタイトルが不吉な感じがしたんです(><)
> でも、今回は楽しいお話らしいし!?

ふふふふ。
先をお楽しみに。 ふふふふ。 

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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