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ラストクリスマス(1)

 2061年、最後のお話です。
 いつの間にか、季節を追い越してしまいました。

 クリスマスは、うちの薪さんの誕生日。
 去年は青木くんのお父さんが亡くなって、お流れになってしまったデート。
 今年こそ、楽しいクリスマスデートをさせてあげたい、と考えて書いたお話です。

 この次のお話が、最終話になります。
 なので、これは薪さんが青木くんに落ちる直前のお話です。




 余談ですが。
 実は一昨日いただいたコメと拍手コメが、12件中10件も鍵だったんです。
 なんでみんなして、鍵??
 あまりの確率に、大笑いしました。(^^




ラストクリスマス(1)





 冬空に、びっしりと敷き詰められた雲が妙に明るく、白む昼。
 ふわりふわりと上空から落ちてきたのは、冬の女神が花びらをちぎって下界に撒いたかのような、人の手には作り出せないうるわしき結晶体。この季節にしか楽しめない、自然が作り出した幻想的な風景。
 以前はとても美しいと感じ、その白さに飲み込まれた景色を楽しんでいた薪だったが、今年ばかりは苦々しい思いで窓の外を眺めている。先々月に見舞われた、災難のためだ。

「わあ。降ってきましたね」
 室長室にコーヒーを持ってきた青木が、窓から空を見上げて弾んだ声を出す。第九のバリスタの特製ブレンドに口をつけて、薪は呆れ果てた声で言った。
「おまえ、あれだけの目に遭っておいて。まだ雪がうれしいのか?」
「雪に罪はありませんから」
 罪はなくても、そのせいで死にかけたのは事実だ。薪の神経では、とてもそんな呑気なことは言えない。
「今年、二度目の初雪ですね」
「それは初雪とは言わんだろ」
 それもそうですね、と笑って、青木は薪の傍らに立つ。
 コーヒーを置いてすぐに出て行かないところを見ると、薪になにか話があるらしい。
 机の前に立たないということは、仕事の話ではない。青木が自分の隣に立つのは、プライベートの話があるときだ。

「薪さん」
 やっぱりそうだ。
 仕事中の青木は、薪のことを室長と呼ぶ。苗字で呼ぶのは、友人としての話があるときだ。
「あのですね」
 この時期。この季節。
 別に何を期待しているわけでもないけれど。
「実はその……」
 じれったいな、早く言え。

 マグカップを机に置き、右隣に立っている男を見上げる。
 不安そうな黒い瞳に視線を絡ませ、薪は瞬きを2回する。小首を傾げて、くちびるをすぼめる。理由は不明だが、薪がこうすると青木は、臆せずに物が言えるようになる。

「クリスマスの夜。今年こそ、ディナーを一緒に」
 だと思った。
「だけど、すみません。山水亭の予約が取れなくて。青山のベルギューイにしたんですけど」
 たしか、魚料理が美味い店だ。フレンチだけど日本人の好みに合わせて、あまり脂っこくなくて、乳製品の臭みが無い料理を出す。
 薪の好みを掌握している青木ならではの選択だったが、薪は即座に首を振った。
「いやだ」
「どうしてですか?」
「男ふたりでクリスマスのレストランなんか行けるか。みっともない。周りはカップルばかりだぞ」
「そこをなんとか」
「だめだ」
「お願いですから」
「ぜったいに、行かない」
 取り付く島もない口調で言い捨てる。その言葉の温度は、降り積もる雪よりも冷たい。

「……どうしておまえ、そんなにうれしそうなんだ? 僕は断ってるだろ?」
 訝しげな薪の問いかけは、無理もなかった。
 薪の隣に立った大男は、何故かにこにこと笑っていて、メガネの奥の切れ長の目を細めていた。
「まだ日にちがありますから。ゆっくり考えてくださいね」
 薪の問いには答えず、青木はそう言うと室長室を出て行った。

「??」
 青木の態度に納得がいかない薪は、目をぱちくりさせつつ首を捻った。
「やっぱり、最近の若いもんはよくわからんな」
 薪の理解の及ばない若造と入れ違いに、岡部が入ってくる。
 議事録の綴りを小脇に抱えている。生真面目な岡部は、会議の記録をいちいち薪に見せに来る。捜査会議以外の会議をあまり重要なものに捉えていない薪は、議事録は適当でいいといつも岡部に言っているのだが、これも副室長の役目としっかりしたものを作ってくるのだ。

 ファイルを開けると思った通り、きちんと書き込まれた室長会議の記録。渡された資料を抜粋して綴じておけばいい、と以前も言った気がするが、これは岡部の努力だ。正当に評価してやろう。
「薪さん。なにかいいことありました?」
「……なんで?」
「いや、なんか。お顔が緩んでます」
「寝ぼけたこと言ってないで。ほら、この議事録。こことここ、書き直し!」
 ファイルを突き返して、岡部を部屋から追い出した。

 岡部まで、意味不明のことを言い出した。この雪、放射能でも入ってて、人の脳に作用してるんじゃないだろうな。
 バカなことを考えつつ、薪は私用のロッカーの扉を開けた。扉の内側に取り付けられた鏡で、自分の顔を見る。

 げっ。なんだ、この顔。
 頬は赤いし、口は緩んでるし、眼はキラキラしちゃってるし……。

 くっそ、青木のやつ。やけに余裕かましてると思ったら!

 ふらふらと後ずさって、寝椅子に座り込む。ため息をついて、頭を抱え込んだ。
 食事に誘われたくらいで、こんなにニヤケちゃうなんて。
 そりゃ、本音を言えば、今年も誘ってくれるかな、なんて期待してたけど。
 親父さんの1周忌のために、青木は再来週から実家に帰る。その前に一度、ゆっくりとふたりで過ごしたい、なんて、ちょっとは……考えたりもしたけど。

 思いどおりにならない自分の中の衝動に、薪はため息を吐く。
 この頃、自分の気持ちに歯止めが利かなくなってきている。たしかに、青木と過ごす時間は、とても楽しくて。今の僕にはかけがえのないものだと自覚はしているけれど。
 それでも、やっぱり超えられない一線はあって。そこを超えたがっている青木と絶対に死守したい僕との間で、密かに攻防戦が繰り広げられている。

 許す気がないんだから、誘いも断るべきだと思うけれど……それは、どうしてもできない。
 できるはずがない。食事に誘われただけで、こんな顔になっちゃうくらいだ。
 さっきだって、あれくらいで青木が引き下がるはずがないと分かっていて、行かないと言ったのだ。もう、これは言葉遊びみたいなもので。青木も了承済みの駆け引きなのだ。

 薪がいやだ、と言えば、青木はもっと丁寧な言葉で誘ってくる。
 瞳に熱を込めて、「お願いします、あなたと一緒に過ごしたいんです。あなたが生まれた特別な日を、オレにお祝いさせてください」なんて、僕を有頂天にさせるようなセリフを言ってくる。
 べつに、そんな言葉が欲しいわけじゃないけど、キリストの生誕に埋もれて忘れられがちな自分の誕生日を祝ってくれる人間がいるということは、決して悪い気分ではない。

 昼食後のコーヒーを持ってきたときにでも、承諾の返事をしてやるか。それとも、2、3日、気を揉ませたほうがいいかな。あんまりすぐに返事して、尻尾振ってるみたく思われるのも業腹だ。

 ……いいや。昼に返事をしてやろう。どうせこの顔で、自分の気持ちはバレてるし。

 自分がOKの返事をしてやったときの青木のうれしそうな顔を思い浮かべて、また頬が緩む。それを窓の外に広がる雪景色の美しさのせいだと自分に言い聞かせて、薪はブラジルベースのコクのあるブレンドを飲み干した。



*****

 薪さんのオトメ化が進んでる。 ツンデレの研究までしてる。
 いったいどこまで行っちゃうんでしょう、このひと。(笑)



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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押してもダメなら引いてみる?!

‥こんにちは、しづさん。

‥薪さん‥ツンデレって‥秋葉行って研究したんじゃ‥はははっ♪
またまた、薪さんが青木に傾きつつある‥みたいなこと言っちゃって‥
騙されないぞーーっ‥(笑)

すごいしっぺ返しというか、衝撃的なことが待ってるんでしょ?
ああ‥かわいそうな青木(^◇^)って笑ってるけど‥

こうなりゃ無理やり‥ああして、こうして‥
そうすれば薪さん、もともと●●●なひとだから
青木の●●●無しじゃいられなくなると思うんですけど…
‥だめ?

薪さんが色々作戦たてているんなら青木も
押したり、引いたり、●●たり、●●たりしちゃったりして‥‥

もう、しづさんたら、やらしーんだから‥‥‥‥鍵?‥これ鍵?

久々に真面目なコメしてしまいました。ごめんなさい!!

本領発揮にはまだほど遠い‥?‥ruruでした(-_-;)




ruruさんへ

いらっしゃいませ~、ruruさん。

> ‥薪さん‥ツンデレって‥秋葉行って研究したんじゃ‥はははっ♪

きっと、小池さんに教えてもらったんですよ。アキバ系でしょ?

> またまた、薪さんが青木に傾きつつある‥みたいなこと言っちゃって‥
> 騙されないぞーーっ‥(笑)
>
> すごいしっぺ返しというか、衝撃的なことが待ってるんでしょ?

ruruさん、学習しましたね!(って、こら!)
うっふっふ。
お楽しみに♪

> ああ‥かわいそうな青木(^◇^)って笑ってるけど‥

でたよ、ruruさんの青木くんイジメ(笑)
わたしも好きですけどね(^^

> こうなりゃ無理やり‥ああして、こうして‥
> そうすれば薪さん、もともと●●●なひとだから
> 青木の●●●無しじゃいられなくなると思うんですけど…
> ‥だめ?

それはruruさんのところの薪さんですよね(笑)

> 薪さんが色々作戦たてているんなら青木も
> 押したり、引いたり、●●たり、●●たりしちゃったりして‥‥

すいません、こっちの2文字は見当がつきません・・・・・やっぱり、ruruさんの方が上だわ。

> もう、しづさんたら、やらしーんだから‥‥‥‥鍵?‥これ鍵?

ruruさんには、かないませんって!!

> 久々に真面目なコメしてしまいました。

はあ!?
こ、これ、マジコメだったんですか?
・・・・・・・・・すいません、土下座して謝るので、許してください・・・・・・(途中からげらげら笑ってた)

Aさまへ

Aさま。

> 命がけで助けてもらったら多少、タイプでなかったとしても落ちちゃいますよね(^^;)

普通はそうなんですけど~、うちの薪さんの場合はちょっと違ってて~、
自分の為に命を懸けられるのはマジでイヤみたいです。
うーんとね、鈴木さんがその形で亡くなってるでしょう? だからすっごいトラウマになってて。 ネタバレになるので詳しくは言えませんが、期待に副えないかもですー。


> オトメ薪さん!

うちの薪さんは、仕事では完璧なポーカーフェイスですけど、恋愛方面は異常に解りやすいです。(笑)

> しづさんのことだからすんなり、デート出来るとは思えませんが・・(^▽^;)

あはははー!
Aさん、学習されましたねー! (なんて言い草)


> この頃は薪さんが落ちるところが最終話だったのかな?

そうですね、いや、違うな、落ちてないもんな、あれ。
薪さんが完全に落ちるのは『斜塔の頂』のような、でも思い返してみれば『官房長の娘』辺りでとっくに落ちてたような?
青木さんの恋心を受け入れることを言葉で認めた、という意味合いで行くと、そうです。
実際に、薪さんがいつ青木さんに恋をしたのかは、わたしにもよく分かりません。i-229

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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