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ラストクリスマス(2)

ラストクリスマス(2)







 職員食堂のランチのボリュームは大きい。科学警察研究所という施設がら、ここの職員は圧倒的に男性が多い。その需要に合わせて、働き盛りの男子向けに分量が定められているからだ。
 よって、普通の女子が定食を頼むときには、ほぼ例外なく半ライスを頼む。半ライスでも、小ぶりの茶碗2杯分はある。女の子には充分すぎる量だ。

 しかし、どこにでも例外というのは存在するもので、女性の中にもこの量を食べきる猛者はいる。しかもごはんは大盛り、さらにはおかずをもう一品追加するという非常識な食欲の持ち主も、わずかではあるがいたりするのだ。

 半ライスのごはんを更に半分にして、菅井祥子は隣に座った上司を呆れ顔で見ている。
 菅井の所属は法医第一研究室。主に遺体の解剖をし、死因を確定するのが仕事だ。菅井の職種は監察医の助手で、隣の上司は監察医だ。
 上司の名前は、三好雪子。年は37歳。
 仕事一筋のキャリアウーマンで、当然独身。女だてらに柔道4段の腕前で、やっぱり独身。第九研究室の室長で警察庁一怖いと評判のだれかさんの名をとって、「女薪」とのあだ名があることから結局独身。

「どうしてかしら。急にムカついてきたんだけど」
「食べすぎじゃないんですか? それとも昨日のお酒ですか? 30女の自棄酒はみっともないから、控えてくださいね。ひとり淋しく急性アルコール中毒で亡くなってる先生を発見するなんて、わたし、イヤですからね」
「心配してくれて、どうもありがとう! スガちゃんのやさしさには、毎度、涙がちょちょぎれるわっ!」
 どういたしまして、と平気な顔で切り替えして、菅井は雪子の茶碗に自分のごはんの半分を入れてやる。これだけ食べて太らない雪子の体質を、実は密かにやっかんでいる。

「ところで。来週のご予定は決まったんですか?」
「来週? 何か入ってたっけ?」
 この季節、この時期に『予定』という言葉に反応しないのは、雪子くらいのものだ。今は高校生だって、クリスマスは家族ではなく、彼氏とパーティという時代なのに。
「クリスマスですよ。今年もおひとりで過ごされるんですか?」
「ほっといてよ。べつに、スガちゃんに迷惑掛けてないでしょ」
「迷惑ってほどじゃないですけど。いまごろ雪子先生は、ひとりでチキンを齧って、ケーキをホールごと食べて、ヤケ酒飲んで、あの汚い部屋にいるのかと思うと、心の底からのデートを楽しむ気になれなくて」
「よけいなお世話よ!」

 強い口調で叫んで、雪子は大きな酢豚の肉を丸ごと口に放り込む。菅井なら3口に分けて食べる、いや、カロリーが気になるから、酢豚なんて始めから食べない。
「仕方ないから、これ、差し上げます」
「ふぐふぐ?」(なに、これ?)
 頬を大きく膨らませてモゴモゴ言っている雪子の前に菅井が差し出したのは、コンサートのチケットだった。

「クリスマスコンサートのチケットです。ほら、第九とか合唱するやつ」
「これ、ひとりで行けっての?」
「青木さんを誘えばいいじゃないですか」
「はあ? なに、その人選」
「またまた。素直じゃないんだから」
「あのねえ、スガちゃん。なんか勘違いしてるみたいだけど」
「カンチガイじゃありません。37にもなって恋人のひとりもいない雪子先生が、恋愛マスター菅井祥子に意見するつもりですか?」
「だから大きなお世話だっつのっっ!!」
「うわ!」
 思わず立ち上がった雪子の背中にどん、と押されて、後ろを歩いていた人物がよろめいた。

「あ、ごめんなさい……あら、薪くん」
 不幸な事故でトレーに山菜そばの汁をこぼしてしまったのは、第九の室長で雪子の友人の薪だった。
 それほど強くぶつかったわけではないから、普通の体格の男ならよろめくこともなかったかもしれないが、薪は小柄だ。菅井といくらも変わらない、華奢な身体をしている。
「大丈夫? やけどしなかった?」
「はい。平気です」
「服は汚れなかった? ごめんね。いま、新しいの買ってくるから」
「大丈夫です。ちょっと汁がこぼれただけですから。食べられますよ」
 薪はにこっと雪子に笑いかけ、一緒に来ていた第九の副室長の方へ歩いていった。

「はあ。薪室長って、本当に素敵ですねえ」
 雪子より自分の方が遥かに幸せだといつも思っている菅井だが、これだけは雪子がうらやましいと思ってしまう。氷の警視正の異名をとる薪が笑いかけるのは、ごく限られた人間だけだ。
「薪室長のクリスマスのお相手は、だれかしら」
「薪くんはクリスマスなんて関係ないから。どうせ今年も仕事でしょ」
「まさか。あ、でも、官房長も間宮部長も家庭があるから……そうだ、竹内さんがいるじゃないですか」
「なんで男限定なの?」
「薪室長に女の人なんて、許せません」
「どういう理屈?」
 このニュアンスが解らないところが、雪子の恋愛オンチの証だ。雪子は現実主義で、オトメゴコロに欠けるのだ。

 菅井の3倍の量の食事をぺろりと平らげて、更にデザートにとお汁粉を頼んだ上司に、菅井は深いため息をついたのだった。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Kさまへ

こちらに鍵拍手いただきました、Kさまへ。

>竹内様を推薦してくれて、スガちゃんありがとおー!!

いいの!?
Kさん、「たけまき」派?(笑)

そう、雪子さんじゃなくて、薪さんの相手・・・・・・ん?待てよ。
この先、Kさんにとっては、まずい展開になるのか?

今のうちに謝っとこ。
ゴメンナサイ。

Kさまへ

こちらに鍵拍手いただきました、Kさまへ

・・・・・・ばれました?(笑)
はい、お察しの通りです。ていうか、実は彼は最初から、そのつもりで作ったキャラだったんですよ。
なんか、ヘンにみなさんに気に入られてしまって、当初の予定通りにしたらブーイングが来そうで、ちょっと困ってます。
事実、雪子さんとかスガちゃんと絡ませないで、というご意見もあったりして。
これからどうしたものかと思ってるんですけど・・・・・どうしましょう。

なーんて、悩んでるフリして、結局自分が書きたいように書いちゃうんだよ、わたしってやつは(笑)

Aさまへ

Aさま。

> こちらのスガちゃんのセリフは原作でも言いそうですよね(笑)

うちの話で原作に一番近いのはスガちゃんだ、と言われたことがあります。 自分でもそう思います。(笑)

青木さんじゃありませんが、
薪さんと雪子さんの仲が良いとホッとします。(^^;
この二人、憎み合ってもおかしくない関係だと思うだけに、ケンカされるとシャレになりません。


> 新シリーズはやはり、過去編のようですね(^^)

Aさまは、すずまきお好きでしたよね?
期待しちゃいますね。(^^
10年続いた長期連載でしたからね、続編は諦めてました。 それだけに、新しい薪さんに会えるの、嬉しいですね。 (過去なのに、「新しい薪さん」てヘン?)

コミックスの加筆は嬉しいですねっ!
本誌のページ数が360P位なので、充分2冊分になると思うのですが、いつもの巻に比べると若干薄いので、その分増えるといいですね。 どーんと60Pくらい。←エピより多いやんけ。
10月末が、今から待ち遠しいです。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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