ラストクリスマス(5)

 薪さん、空回り中です。
 袋小路のどん詰まりで、壁相手にいちびってます。どんだけグダグダした主人公なんでしょう。
 でも、バカな子ほどかわいいってね♪(←親バカ)




ラストクリスマス(5)





 クリーム色のソファで片膝を抱えて、薪はテレビを見ている。
 このドラマの原作は、薪の好きな推理作家だ。病院で起きる連続殺人を解明するのは駆け出しの研修医で、犯人に辿りつく重要な手がかりがこの辺で……。
「あれ? おかしいな」
 原作は読んでいるから、内容は頭に入っている。ここであのヒントがないと、事件の解決につながらないはずなのに。
 不思議に思ってビデオを巻き戻してみると、CM前にそのシーンがちゃんと入っていて、自分がうっかりと見過ごしていたことを知った。覚えていなかったのはその場面だけではなく、看護師が窓の鍵を開けるシーンや、麻酔医が手術前の注射をする重要なシーンも記憶になかった。

 薪は、ため息混じりにビデオのスイッチを切った。
 ダメだ。ぜんぜん頭に入ってない。これは電力の無駄遣いだ。

「うまくいってるかな、あのふたり」

 今年のクリスマスも、やっぱりひとりだ。去年も一昨年も、その前も。もう何年も、この日は独りだ。
 いや、3年前は鈴木と過ごしたんだった。山水亭でふたりで食事をして。土瓶蒸しが美味かった。
 その後のことはわざと思い出さないようにして、薪は親友の婚約者だった女性のことを考える。何日か前に職員食堂で聞いた彼女と彼女の助手の会話を、一字一句違えず脳裏で再生する。

『青木さんを誘えばいいじゃないですか』
『またまた。素直じゃないんだから』

 忘れてたわけじゃない。雪子さんの気持ちは、ちゃんと分かってた。
 僕だって、何回も青木にそう言ったんだ。でも、あいつは……僕が好きだって。
 何度も何度も繰り返すもんだから、僕はいつの間にか雪子さんのことを考えなくなってた。

 両膝を抱え込み、ソファにころりと横になる。身体を丸めると安心するのは、これが胎児の体勢だからだろうか。
 そのまま目を閉じて、目蓋の裏に自分の部下と友人の女性の姿を思い浮かべる。途端にきりきりと胸が痛むのは、夕飯に食べたチキンのせいか。脂が強くて、胃もたれしているのかもしれない。

 ……鈴木が死んで半年が過ぎた頃、青木が現れた。
 彼の生まれ変わりとしか思えないくらい、何もかも鈴木にそっくりで。彼を思い出させるその姿を、薪はずっと見ていた。
 1年近く経った頃、青木は何を思ったか男の薪に好きだと告白して来た。
 はっきりと断ったのに、諦めないと言われた。自分の態度のどこに青木の想いをつなぐ余地があったのか、薪は今でもわからない。だけど青木はその言葉どおりに、積極的に薪のそばに寄ってくるようになって。

 かつての親友とよく似た男と過ごすのは、とても楽しかった。
 本当に、青木は鈴木にそっくりだった。
 外見だけじゃなく、考え方や会話のセンスや、食べ物の好みまで。鈴木といるみたいな錯覚に陥って「鈴木」と呼びかけてしまったことも、一度や二度じゃなかった。
 セリフがそっくりかぶることもあった。鈴木が薪に言ったことをどこかで聞いていたのか、とバカな疑いを持ってしまうくらい。それは薪の心を千々に乱した。

 複雑な思いを重ねた2年。
 色々なことがあって、泣いたり笑ったりしているうちに、青木の存在は薪にとって、とても大切なものになっていった。それはかつての親友と同じくらいの重さで、大きさで。
 だけど。

 鈴木と違って、青木が自分に抱いている感情は、危険なものだ。倫理的にももちろんだけど、それが成就したときのことを想像するに、仕事のこととか青木の肉親のこととか、どう考えても暗い結末しか浮かばない。
 どうして青木は、そんなことを望むのだろう。
 青木が望む関係は、いつかは必ず壊れるものだということが、わからないのだろうか。

 青木は分かってない。
 男同士の恋人関係なんて、もともといびつで不自然なものなんだ。
 ずっとずっと隠し続けなければいけない、暗闇ばかりを選んで歩かなければいけない。そんなみじめな思いをし続けて。
 そんなものが、そう長く続くはずがない。
 一時期はたしかに幸せかもしれないけれど、その後には傷つけ合うだけの日々が待っている。

 第一、僕たちがそんな関係になったとして、いったい誰が喜んでくれる?
 親はどうする? 友人は?
 プライベートだけじゃない、仕事は? もしも監査課にバレたら、ふたりとも左遷だ。警察というところは、スキャンダルを嫌う。僕はおそらく第九の室長ではいられなくなるし、青木の出世にも関わってくるだろう。
 周りの人間、すべてを騙し続けなければならない状況が、正直な青木にどれだけの負担を強いることになるか。

 今の僕には、あの頃は見えなかった現実がよくわかっている。だから、青木の気持ちは受け入れられない。最終的には、ふたりとも不幸になるだけだと解っているから。

 青木とは友だちでいたい。
 友だちなら、ずっと一緒にいられるのに。だれ憚ることなく、堂々としていられるのに。

 ……それは、詭弁……かもしれない。
 僕は本当は、怖がっているだけなのかもしれない。
 そうなったときに、のめり込んでしまうのがこわいのかも。

 受け入れてしまったら、相手のすべてが欲しくなる。
 鈴木との経験から、それを制御できない自分を僕は知っている。

 鈴木とは、それでうまく行かなくなった。
 鈴木と僕の気持ちがかみ合わなくなってから、完全に壊れるまでの2ヶ月あまり。僕たちは毎日のようにケンカして、鈴木は肩を竦めて僕のアパートから出て行って、僕は泣きながら朝を迎えて。
 最後にはお互い、これ以上はないくらい傷つけあって別れた。
 雪子さんのおかげで、僕たちは友だちとしてやり直すことができたけど。おそらく雪子さんがいなかったら、あれきり鈴木とは縁が切れていた。

 青木とは、そうなりたくない。
 こわい。
 青木を失うのが怖い。
 鈴木のときみたいに、傷つくのが怖い。あの絶望感を味わうのが怖い。

 絶対に失いたくないから。
 このままの関係でいれば、完全に糸が断ち切られることはない。
 一番大切なひとになれなくてもいい。友だちでいい。鈴木との時のように、疎んじられて顔も見れなくなるより、ずっとマシだ。
 そう思っているのかも。

 わからない。
 わからない。
 わからない。

 一つだけ確かなことは。
 僕よりも、雪子さんのほうが青木を幸せにできるってことだけ。青木に平穏で満ち足りた人生を与えてやれるってことだけ。

 だから、後悔しない。
 『ラストクリスマス』は、あの二人にこそ相応しい――――。



*****


 薪さんが鈴木さんに振られた顛末は、『言えない理由sideA』に書いてあります。
 よろしかったらどうぞ。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Kさまへ

鍵コメいただきました、Kさまへ

> もしかして薪さんが見ていたドラマって

正解です!!
探偵役を研修医にしたりして、ちょっと設定を変えてますが、あれです。

わたしも原作読みました~~。
映画でもテレビでも、白鳥さんがビジュアル的にいい男になってて、笑いました。
やっぱりゴキブリみたいな外見では、映像化できないんですね(笑)

> 薪さんと青木くんには早くくっついて幸せになって欲しいと願う私も、
> 息子が将来男の恋人を連れてきたら‥‥と思うととたんに胃がキリキリと痛みます。

リアルで考えてはダメです!
これはあくまでお話ですから!誰だってそう思いますよ!

> でも、息子が連れてきた恋人が薪さんみたいな人だったら‥‥‥‥
> 即、許しちゃうかも!!(←どんだけ現金?)

きゃははは!!
そうですね、両手広げて歓迎しちゃいますね!

> あ、それから、雪子さんの結婚相手・・・・
> しづさんちの雪子さん大好きだから嬉しいです。
> すごくお似合いだと思います。

ほっ。
好意的に許していただいて、良かったです。(^^
でも、まだ4年も先の話ですから。

> 息子は快癒しました。

良かったです~~!!
子供が苦しんでいるのを見るのは、本当に辛いですよね。
最近、わたしの甥が盲腸で入院しまして。痛み止めの切れた彼の様子を見たとき、とてもこころが痛みました。甥でこうなんですから、親はもっとキツイですよね。(;;)

> 睡眠不足だとインフルにかかりやすくなるので、
> しづさんもお忙しいでしょうがしっかりお休みになって下さいね。

ありがとうございます!!
息子さんのためにも、Kさまもお体は大切になさってくださいね!

リンクのお願い。

しづさんこんばんは。夜子です。
昨夜、【月夜水の詩】【月詩Blog】よりリンクしましたので、お伝えに上がりました。
私は、まだ、少しづつ読んでいるのだし、読むのも時間がかかるんですけど。
しづさんの世界に圧倒されています。魅せられてしまって。
ぜひリンクをしたいと思ったんです。

夜子さまへ

いいいい、いらっしゃいませ!夜子さま!!(緊張してます、ものすごく緊張してます!)
座布団!お茶・・・・・あ、青木くん、コーヒー淹れてっ!100グラム3000円のブルマンをっ!!
・・・・・取り乱してわけのわからないことを・・・・・・・すいません・・・・・・。

> 昨夜、【月夜水の詩】【月詩Blog】よりリンクしましたので、お伝えに上がりました。

えええええ!
あ、どうしよう、ものすごくうれしいんですけど!!!
でもでも、うちなんかとリンクしたら、清水先生へ愛を綴った夜子さまの美しいブログが穢れませんか!??
(夜子様のブログには憧れておりましたが、うちはあまりにも腐りきってるので、とてもこちらからは口にできませんでした)

> 私は、まだ、少しづつ読んでいるのだし、読むのも時間がかかるんですけど。

あ、まだしづの本性に気づいていないんですね・・・・・・ああ、こんな純粋な方にわたしはなんてことを・・・・・(ものごっつい罪悪感が・・・・・)

> しづさんの世界に圧倒されています。魅せられてしまって。
> ぜひリンクをしたいと思ったんです。

・・・・・すいません、騙されてます、夜子さま・・・・・。
あの、うちのお話はかなりの高確率で中にバクダンが入ってまして、ギャグもRもイタグロもかなりキツク・・・・・清水先生の美しい世界を愛する正統派のファンの方には、許しがたいものかと・・・・・・うううう、どうしよう・・・・・・うれしさと罪悪感が、頭の中でシーソーゲーム・・・・・・・・。

ここはひとつ、覚悟を決めまして。

ありがとうございます、夜子さま。
こちらからもリンクを張らせていただきます。

夜子さまにつながるブログとして恥ずかしくないように、これからも精進を重ねますので、どうかよろしくお願いいたします。

リンクの承諾+相互ありがとうございます★

こんばんは、しづさん。
リンクの承諾+相互ありがとうございます。
うちへサイトもブログも両方張って下さって。。。
申し訳ありません、ありがとうございます。

え、と、かなり考えた上でのリンクですし、
覚悟は出来ています。
だから、罪悪感なんて、持たないで下さいね。
私はけっこうずるいところがある、
と自分では思っているんです。
私が私の意志で、決めたことですから。
大丈夫です。
どうかよろしくお願いいたします。m(_ _)m
リンクを承諾してくださって、うれしかったですよ。

管理人のみ閲覧できます

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夜子さまへ

こんばんは、夜子様!ようこそいらっしゃいました!

> リンクの承諾+相互ありがとうございます。
> うちへサイトもブログも両方張って下さって。。。
> 申し訳ありません、ありがとうございます。

こちらこそ!
すっごくすっごく、嬉しかったです!!

> え、と、かなり考えた上でのリンクですし、
> 覚悟は出来ています。


あははは!覚悟って!
・・・・・すいません、笑うとこじゃないのは百も承知なんですが・・・・・・ご、ごめんなさい・・・・・・根っからのオチャラケ人間で・・・・・反省します・・・・・・。

> 私はけっこう・・・・・

そんなことないです。
って、どれだけ夜子様のことを知ってるんだ、と言われそうですが、文章を読むと人柄って伝わるものだと思います。
夜子様の文章からは、誠実さと真面目さと純粋さが伝わってまいります。それと、清水先生とその作品に対する深い愛情が・・・・・・・頭が下がります。

どうか末永いお付き合いを、よろしくお願い致します!

Aさまへ

Aさま。

> 鈴木さんとの辛い過去(本人はフラれたと思っている)があるから尚更、青木と恋人同士になるのも怖いわけですね(´`)

鈴木さんと別れたとき、修羅場でしたからね~。 
すっかりトラウマになっちゃって、付き合い始めてからも余計なことを考えてしまったり。 恋愛に不器用な人って、失恋から間違った教訓を得てしまいがちなんですよね。(^^;
でもそう、仰るとおり、青木さんの方が辛抱たまりません☆


> もし、薪さんと雪子が崖から落ちそうになったとして青木は一人しか助けられないとしたら、薪さんは自ら手を離すでしょう。でも、青木は雪子を助けた後に自分も崖から飛び降りるのでは・・

わたしも青木さんはそうすると思います。
でも、理由はちょっと違います。 
「薪さんを犠牲にして自分だけ幸せになれない」と考えて後を追うのは、わたしの中では鈴木さんです。 薪さんが結婚できないという理由で、自分も雪子さんと結婚しなかった人だから。
青木さんは、「薪さんを助けに行かなきゃ」て思って飛び込むと思います。 そこに死が待っているのが明白でも。 だって、滝沢さんのアタマぶち抜いた上に発砲してくる薪さんに向かって丸腰で突っ込んだ青木さんですよ。 もうバカとしか。(←暴言)
そういう青木さんが、わたしは大好きです。(^^


> だから、エピローグを読んで私の思った通りの青木だと思いました。

ああ、これはそうですね。
最終回で、青木さんは薪さんの絶対的な孤独に気付いたのですものね。 
自分だけ幸せにはなれないと思った。 だから雪子さんと縁りを戻すことができなかった……きっとそうなんですね。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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