竹内警視の受難(1)

 遅くなりましたが、2000拍手のお礼です。

 竹内が主役の特別編です。
 彼の報われない人生に幸あれ。(笑)



 ご要望により、今回よりこちらに本文を書くことにします。
(鍵付きのお話に関しましては、これまでどおり『つづき』からお願いします。)
 わたしのSSは異常なくらいに長いため、なるべく読みやすくしたいと考えておりますので、こういうご指摘はとてもありがたいです。
 その他、読みづらい点等ありましたら、ご遠慮なくどうぞ!

 あ、文章自体が読みづらいですか。
 そうですか……。





竹内警視の受難(1)






 夜の9時を回ったスーパーマーケットは、買い物客もまばらで、閑散としている。活気のない店内で、しかしその分ゆっくりと、薪は商品を選んでいた。
 
 昔から歓楽街が少なく、夜の早い街として有名だった吉祥寺には、深夜営業の店はとても少ない。薪が住んでいるマンションの近くで夜の10時まで開いているスーパーは、ここ一軒しかない。
 何十年か前までは、24時間営業のスーパーは珍しくなかったと聞く。しかし、2062年の現代においては、エコロジーの観点から、真夜中まで営業する店舗は減少してきている。
 地球の資源が限りあるものだ、という当たり前のことに人類が気付いてから100年あまり。その事実によって促されるべき行動が端部にまで及んできたのは、つい最近の話だ。

「ネギと白菜、白滝に焼き豆腐に、あ、青木、シイタケはだめだ。岡部がキライだから」
「じゃ、人参も省きましょうよ」
「なに言ってんだ。すき焼きに人参は欠かせないだろ」
 これはもちろん、青木に対する意地悪だ。
 普通、入れないと思いますけど、と口の中で呟いて、青木はシイタケのトレーを棚に戻した。代わりにエリンギのパックを取って、カゴの中に入れる。

「明日の朝のサラダにも使うし」
「わかりましたよ」
 薪に促されて、青木は渋々オレンジ色の根菜を手に取る。
 青木の嫌いな人参と、薪の好きな黄色いパプリカ。アスパラガスにブロッコリー。何も言わなくても自分の好物がカゴに入ることに、薪は満足そうな笑みを浮かべる。

「後は、すき焼き用の肉だな。800じゃ足りないよな。1キロ買うか」
「そうですね。お給料出たばかりだし」
 薪ひとりなら200グラムもあれば充分だが、青木も岡部も、とにかくよく食べる。前のときは800グラムで足りなかった。

「あれ? 薪室長」
 食後のデザートにと、イチゴのパックを手にしたとき、嫌な声を聞いた。
 聞こえなかった振りをして、精肉売り場の方へ行こうとする。それを青木のバカが、いりもしない返事を返して、薪は仕方なく足を止めた。
 いやいや振り返ると、思ったとおり、不愉快な人物がそこに立っている。
 薪の天敵、竹内誠警視だ。

「こんばんは。買い物ですか?」
「……ええ」
 無愛想に会釈でその場を離れようとするが、青木と竹内は仲がいい。買い物で一緒になった近所の主婦同士のように、買い物カゴを片手に喋り始めてしまった。

「なんでおまえ、室長といっしょなの?」
「今から岡部さんと、3人で飲み会なんです。竹内さんは?」
「この近くで張り込みやってて。夜食買いに来たんだ。この辺て、コンビニないんだな」
 確かに竹内の出で立ちは、スーパーに買い物に来る人間のものではない。
 黒い光沢のある皮のジャケットに、胸の開いたインナー。幅広のベルトとジーンズは、やはり黒。靴は爪先が細い流行のもので、あの飾りの形はイタリアの有名ブランドだ。
 上から下まで黒で固めて、首には細かい黒曜石をつなげたネックレスをつけている。ペンダントトップは、金色の小さな長方形のプレート。刻印が読み取れるから、たぶん24金。

 ……チャラつきやがって。
 まるでファッション雑誌から抜け出してきたような竹内の服装に、薪は心の中で唾を吐く。
 薪だって出かけるときにはおしゃれを楽しむが、張り込みのときにこんな格好はしない。TPOを解しない人間は、好きになれない。

「ご苦労さまです。コンビニだったら、駅の近くにありますよ」
「パンと牛乳さえ手に入れば、どこだっていいんだ」
 そんなどうでもいい会話は早いところ切り上げて、さっさと肉を買いに行こう。喉まで出かかったセリフを、ため息と共に噛み殺す。
 薪は、この竹内という男が嫌いだ。なぜ嫌いかと言うと。

「このカゴの内容からすると、今日はすき焼きだな? いいなあ。俺、一人暮らしだから。すき焼きなんて、もう何年も食べてないよ」
「またまた。彼女に作ってもらってるくせに」
「この頃、あんまり女運良くなくてさ。金が掛かる女ばっかりだよ。いつも外食」
「あれ? 夏のころに、彼女に弁当作ってもらったって言ってませんでした?」
「いつの話してんだよ。その彼女から、今はもう4人目だよ」
 こういうところだ。

 竹内は、俳優と言われれば信じてしまいそうな美形で、都会的なセンスの持ち主だ。
 やや細めの眉とその下の涼しげな瞳。奥二重だが、そのぶんやさしく見える。黒目の部分が大きくて、一見誠実そうな印象を受ける。日本人にしては高い鼻。男のフェロモンを漂わせる、頬の削げ具合。適度な丸みを持ったシャープな顎。くちびるは理想的な厚さと形で、口角に締りがある。
 ところどころふわりと浮く焦茶色の髪は、計算された無造作ヘア。薪と3つしか違わないくせに、今時の若者みたいな頭をしている。左に流した前髪が長いのも、襟足が長いのも気に食わない。警察官ならきちんとするべきだ。彼の向かいで笑っている、薪の部下のように。
 身長は青木より低いが、それでも薪よりは10センチ以上高い。逞しいという体躯ではなく、スマートだが筋肉がついている、という感じだ。
 一番気にいらないのは、その日本人離れした足の長さで、身長は薪と10センチしか変わらなくても、股下は20センチくらい違うような……くっそ、柔道は体の重心が低い方が有利なんだ。別に、足の長さで人間の価値が決まるわけじゃない。

 この顔でこのスタイルで、京大出のエリートで、しかも警視庁の花形部署、捜査一課のエース。女性がなびく要素がてんこ盛りだ。
 薪もそれは認めているが、次々と付き合う女性を変えるという、その恋愛スタイルが許せない。もともと、恋愛ゲームを楽しむような人間は好きになれない。決して、自分よりも女にもてる竹内をやっかんでいるわけではない、と薪は心の中で叫んだ。

「すごいですね。半年で4人ですか。オレにはとても真似できません」
 まあ、青木にはムリだろう。
 容姿の違いもさることながら、青木の性格は一途でしつこくて。一人の女性を何年でも思い続けられるタイプだ。
「なんだ、青木。おまえ、まだ彼女できないのか。紹介してやろうか?」
 余計なことをしなくていい! こいつは……。
「竹内さん」
 薪の呼びかけに、竹内が「はい」と応えを返した。
 失敗した。口を挟むつもりはなかったのに。
 竹内がおかしなことを言うから、つい……別に、おかしくないか。彼女のいない男友だちに、知り合いの女性を紹介する。ごく普通のことだ。

「お仲間が張り込み中なんでしょう? いいんですか、こんなところで油売ってて」
 口調が剣呑なのは、いつものことだ。竹内のお節介に、腹を立てているわけではない。
「そうですね。早く行ってやらないと。失礼します」
 竹内はにこりと微笑むと、薪に軽く頭を下げた。
 昔は薪がこういうことを言うと、第九の引きこもりには現場の辛さは分からないだろうとか、逆にじっとしているのが得意な第九こそ張り込みの仕事をするべきだとか、こちらの神経を逆撫でするようなセリフを嫌味な口調で言ってきたのだが、ここ1年ばかりで、竹内は態度を改めている。
 しかし、薪にはその謙虚さすら面白くない。

 うさんくさい。バカにされている。
 心の中では嘲笑っているくせに、態度だけはしおらしくして。騙されてたまるか。
 とにかく、気に食わない。

 薪は不機嫌な顔で、もうひとつ意地悪を重ねた。こういうムカついた気分の時には、意地悪を言うと気が晴れるのだ。
「残念ですね。竹内さんがお暇でしたら、うちにお誘いしたのに」
「え?」
「今日は冷えますから。鍋を囲んで日本酒で一杯、と思って、いい酒も用意したんです。竹内さんとご一緒できたら、楽しい飲み会になったでしょうに」
「本当ですか?」
「ええ。歓迎しますよ。ああ、でも職務中じゃ仕方ないですね」

 自分たちがパンと牛乳の食事で張り込みをしなければならないときに、こちらは温かい部屋の中で、すき焼きと熱燗。
 ザマーミロ。せいぜい、悔しがるといい。

「伺います!」
「……は?」
「張り込みをしているのは、大友と木下です。俺は今日は非番なんです。差し入れだけしてやろうと思って、出てきたんですよ」
 うれしいなあ、薪室長に誘っていただけるなんて、と心にもないセリフを言って、竹内はパン売り場に歩いていった。思いついたように振り返って、張り込みの現場は薪の自宅への道の途中にあるので、そこにちょっと寄り道して下さい、とにこやかに笑う。

「いや、あの、ちょっ……!」
「薪さん」
 なんだ、と荷物持ちに連れてきた部下に目を向ける。
 青木は呆れ果てた顔で口をへの字に曲げると、軽く嘆息した。
「お肉、1キロじゃ足りないかも、って、痛ったあ!」
 目に付いた足に蹴りを入れて、薪はさっさと歩き出す。
 竹内が来るなら、牛肉は止めて豚肉にしてやろうか。いっそモツ鍋に……くそ!腹の立つ!

「なんでオレを蹴るんですか、もう!」
 青木は不満げな声を洩らしながら、薪の後ろを付いてくる。
 理不尽な八つ当たりを受けた部下の情けない声を聞いたら、少し気分が良くなった。

 それでも、アメリカ牛だな。

 肉の等級をワンランク落とすことで、招かざる客に対する憤懣に折り合いをつける薪だった。



*****


 自分の意地悪で墓穴を掘るお子ちゃま薪さん。(笑)
 果てしなくアホっすね☆


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

「たけまき」?いいえ、「たけ○○」でお願いいたします。

こんばんわ!

きゃー!竹内様よっ♡光の君よぉーーヽ(^。^)ノ
スーパーで買い物かご持って、お買い物してるぅ!
しかも!何だかすっごいモデルみたいな格好?!ああ・・実物見てみたい・・
「24金」・・・24K・・・K24・・・(*^_^*)i-80すみません。つい、反応してしまいました。

非番なのに、わざわざ張り込みの部下に差し入れなんて・・・
しづさま、やっぱり光の君はお優しいお方ですよお!(惚れた欲目・・じゃないですよ?!)

たとえ御本人がそこにいらっしゃらなくても、このk24、
竹内様の「お名前」が会話の中に出てくるだけで顔が二マッとしてしまうのに・・。
※「ラストクリスマス」のスガチャンと雪子さんの会話に、竹内様のお名前を見ただけで小躍りしてました。(あの後まさかあんな形で御本人が登場するなんて・・・。)

それにしても、いつ薪さんは、光の君が「良いお方」だって気付くのでしょうか?
「・・受難」ですから、ますます薪さんに嫌われるのかしら・・・?
何が起こるのでしょおか(@_@;) 「食当たり?!(違う違う!)」 
う~コワイ・・。
あまり苛めないであげてください・・・。

恋は盲目、迷走中。イタ~い酒飲みオヤ女でした!

どうしようかな?これ鍵コメにしようかな・・?なんか、すごいお茶らけコメントですね
恥ずかしい・・・でも、ここは勇気をだして、男らしく「公開」で。

お邪魔しました・・・。 

K24さんへ

こんばんは、K24さん!

> きゃー!竹内様よっ♡光の君よぉーーヽ(^。^)ノ

相変わらず、竹内が出て来ると異様にハイテンションですね(笑)
うれしいです(^^

> スーパーで買い物かご持って、お買い物してるぅ!
> しかも!何だかすっごいモデルみたいな格好?!ああ・・実物見てみたい・・
> 「24金」・・・24K・・・K24・・・(*^_^*)i-80すみません。つい、反応してしまいました。

あ、気がつきました?
これ、ひっかけなんですよ!
胸にK24さんをつけてるんですよ!(笑)


> 非番なのに、わざわざ張り込みの部下に差し入れなんて・・・
> しづさま、やっぱり光の君はお優しいお方ですよお!(惚れた欲目・・じゃないですよ?!)

違いますよ。
こんな格好してるんですから、いままでデートだったに決まってるじゃないですか(←ヒドイ)
でもって、また薪さんのこと考えてて振られたんですよ、きっと(爆)

> たとえ御本人がそこにいらっしゃらなくても、このk24、
> 竹内様の「お名前」が会話の中に出てくるだけで顔が二マッとしてしまうのに・・。
> ※「ラストクリスマス」のスガチャンと雪子さんの会話に、竹内様のお名前を見ただけで小躍りしてました。(あの後まさかあんな形で御本人が登場するなんて・・・。)

過敏過ぎです、K24さん(笑)
それ、街中で看板に『薪』という文字を見つけるだけで異常な反応を示すどこかのバカみたいです。(←わたしです、はい)

> それにしても、いつ薪さんは、光の君が「良いお方」だって気付くのでしょうか?

そんな日は永久に来ません。(笑)
そうなってしまったら、青木くんに勝ち目がなくなっちゃいますから(^^

> 「・・受難」ですから、ますます薪さんに嫌われるのかしら・・・?
> 何が起こるのでしょおか(@_@;) 「食当たり?!(違う違う!)」 
> う~コワイ・・。
> あまり苛めないであげてください・・・。

大丈夫ですよ!
わたし、ドSですから!って、ダメダメじゃん!

> 男らしく「公開」で。

おっとこの子だもんねえ!(違う)
すいません、管理人がいちばんオチャラケてます。
どんなにシリアスなお話のときでも、コメント欄はハジケまくってるのが理想です!そのギャップが楽しいの(^^

ありがとうございました!

Kさまへ

鍵拍手いただきました、Kさま。

ありがとうございます!
松阪牛、1頭いただきました!って、丸のまま!?
だれが解体するんですか(笑)

記事のこと、ありがとうございました!
こころから、感謝してます!!

Mさまへ

鍵拍手いただきました、Mさまへ。

>やっぱり竹内さん最高です。 第一声が体積的に言ってまず目に入る筈の青木じゃなくて薪の名前なのが流石、 恋する男ですね。

おお、鋭いです。たしかに青木くんのほうが先に目につくのが普通ですよね。
竹内ビジョン、謎です(笑)

>竹内さんは、いつか薪さんの手料理を口にする機会に恵まれて更にドツボに嵌ったら面白いだろうな…と思っていたので、今回のお誘いの流れは嬉しいです。

あ、でも、受難ですから(←悪魔)

>でもタイトルが「竹内警視の受難」なので、その受難っぷりにも期待です。

はい、これは期待してくださって大丈夫です!
こちらの方面の期待は裏切りません(笑)

>自分は嫌いな人参を入れて相手の好きな品をカゴに入れるって…どこの尻に敷かれたご主人ですかと笑ってしまいました。そしてそれに満足そうな薪さんが素敵です。

本当に(^^
うちのふたりは、ものすごく上下関係が確立してるんですよ。青木くんは薪さんに絶対服従なんです。女王様と奴隷です(笑)


>続きが凄く楽しみです。

ありがとうございます!
がんばってアップします(^^

Mさま、同人活動やってらっしゃるんですか?
秘密関係の同人誌とか、出してらっしゃるのかしら・・・・・もしも作ってらっしゃるなら、ぜひ読みたいです!
教えていただけるとうれしいです!

Aさまへ

Aさま。

> 薪さんと青木は今も吉祥寺に住んでるんでしたっけ?

そうです。 青木さんは薪さんのマンションにボディガードとして住んでます。
あそこは小野田さんが、薪さんと自分の娘を結婚させて、子供ができるまでは二人で住ませてあげようという深謀遠慮に基づき選定された物件なので、元々新婚さん仕様になってるんですね。 小野田さんにはご愁傷様です。


> 薪さん、頭いいのに墓穴を掘ってしまうのが可愛い(笑)

墓穴掘りはうちの薪さんの十八番です。
ええ、本当にね、バカな子ほどかわいいって。(^^


> でも、すき焼きでどんな受難にあうのか!?
> 青木にとっても、面白くない展開だと思うのですが、もしや・・(^д^)

ふふふー、
法十が「受難」という言葉を使ったら、それは笑えるようなもんじゃござんせん☆
なんか、絶叫された憶えがあるー。 シャレにならんもんばっか書いててすみません。(^^;

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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