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竹内警視の受難(3)

 ちょっと私信です。
 鍵拍手いただきました、かのんさん。(←鍵の意味ない(笑)
 はい、その通りです! また見抜かれちゃいました。相変わらず鋭いです!(>▽<)


竹内警視の受難(3)




「すみません、室長」
 思いがけず、長い寄り道になってしまったことを謝りながら駆け寄ると、薪が氷のような無表情になっている。薪がこの表情になるときは、めちゃめちゃ機嫌が悪いのだ。
 さっきまでは、ちょっと不機嫌ないつもの顔だったのに。どうやら美穂との会話は、薪に聞かれていたらしい。

「竹内さん、さすが女性キラーですね。あんな幼い子にまでモテるなんて」
「冗談よせよ。あの子は、そのマンションの5階に住んでてさ。こないだ聞き込みに行ったときに知り合ったんだよ」
「そうなんですか? 誠さん、なんて呼ばせてるから、てっきりあれが新しい彼女かと」
「俺はロリコンかよ! ってか、犯罪だろ、それ!」
 青木がわざとおかしな冗談を言って場を和ませようとしているのがわかったので、少々大げさに突っ込んでみる。そっと薪のほうを伺うと、いくらか気配がやわらかくなっている。
 白磁のような頬を緩め、寒さの中でも艶やかさを失わないくちびるを、まるで薄ピンクの山茶花が咲き初めるように開き、連なった真珠を覗かせる。
 うっとりするような光景なのに、出てくる言葉は辛辣だ。

「どうせ、目当ては母親の方でしょう」
 薪の悪意に満ちたセリフには、すっかり慣れた。まるっきり無視されるより、嫌味でも皮肉でも、会話をしてもらえるだけマシだ。
「俺は、不倫なんかしませんよ。監査課に目をつけられるような真似はしません」
「それじゃ、本当に娘のほうと? 女と見れば、子供でも口説くんですね」
 ……違います、薪室長……。

「監査課って、そんなにすごいんですか? 不倫とかも、すぐに解っちゃったりするんですか?」
「すごいなんてもんじゃないよ。あいつら、全員諜報部員で構成されてるんだぜ。不倫どころか、自分の奥さんと週に何回セックスしてるかまで、全部わかっちまうよ」
 青木があまり不安そうな顔で尋ねるので、思わず大げさなことを言ってしまった。こいつは年の割りに初々しいところが可愛くて、ついつい構いたくなるのだ。

「「本当に!?」」
 竹内のジョークを聞いた二人の声が重なる。
 ……どうして、薪まで反応しているのだろう。
「そっか、それでか。そうだよな、そうとしか考えられない。ずっと不思議だったんだ。なるほど、諜報部員か」
 なにやら納得しているようだが、身に覚えがあるのだろうか。

「あの、冗談で」
 薪はぶつぶつ言いながら、ふと立ち止まった。コートのポケットに手を入れたまま、後ろを振り向く。
 その視線が竹内を通り越して、長身の部下に注がれた。つられて竹内も後ろを向く。
 歩き続ける薪の背中についていたのは、いつの間にか竹内ひとりだった。青木はずっと後ろの方にいて、自分が歩いてきた道を見つめていた。
 いや、見つめているのは、空だ。

「どうした、青木」
「あれ、煙じゃないですか?」
「ほんとだ。夜だから見えにくいけど……っ、あの方角って!」
 竹内が火災現場の可能性に思い至ったとき、隣を小さな人影が走り抜けていった。疾走する小柄な人物を追いかけて、青木も後に続く。竹内も慌てて後を追った。

 薪は足が速い。荷物を持っていない分、身軽なのかもしれないが、それにしても速い。しかもペースが落ちない。毎日、警視庁のジムで走りこんでいるだけのことはある。
 それにぴったりと、青木がついて行く。最近は剣道の腕前も上がってきたと岡部が言っていたが、基礎体力のほうもばっちりらしい。なるほど、射撃の腕も上がるはずだ。発砲の反動に耐えうる強靭さを、身につけつつあるわけだ。

 現場へ走りながら、竹内はどうしてこいつは彼女を作らないんだろう、と疑問に思う。
 年も若いし、見た目も悪くない。キャリアだし、穏やかで明るい性格だから、女子職員の間でも評判がいい。実際、青木との仲を取り持って欲しい、という話も何件か来ている。本人が興味を示さないので、一度も会わせたことはないが。
 だれか、こころに決めた女性がいるのだろうか。三好雪子以外の女性が、青木の周りにいる様子はないのだが、やはり彼女が……いや、違う。どんな理由があっても、大切な女性をクリスマスディナーの席にひとり残して立ち去ったりするはずがない。

 などと、呑気なことを考えている場合ではなかった。
 嫌な予感は的中し、竹内の後輩が張り込みをしていたマンションは、激しい焔に包まれていた。
 先刻の、安穏とした風景が信じられない。
 燃え盛る炎は、哄笑を響かせる悪魔の舌のように暗闇に踊り狂い、人々の悲鳴や嘆き声がその饗宴に絶望を添えていた。火のはぜる音とバキッと何かが折れる音、ガラガラと重いものが崩れる音。
 この火の回り方は、尋常ではない。ガソリンか何かを撒いて、意図的に火を点けたのではないか。

「大友! どうしたんだ、これは」
「マルヒの部屋から急に火が出て。火事の混乱に乗じて逃げようとしていたところを、確保しました。消防には連絡済みです」
 容疑者の部屋は4階。火の元はマンションの西側だ。
「住民の避難は? 怪我人は?」
「今日はたまたま公民館で集会をやってて、住民は20人ほどしか残っていなかったそうです。木下が、いま人数を確認しています」
 大友の視線の先を見ると、木下が集会の責任者に連絡を取り、火災のことを伝え、マンションに残っているはずの住民の名前を聞いて、書き出している。そのリストができたら、中庭に避難している人々と照合を取る。逃げ遅れた住人が居ないといいのだが。

「犯人はどうした?」
「手錠掛けて、車のトランクに押し込んどきました」
「トランクっておまえ」
「だって、非常事態だし。逃げられたら困るし」
「……よくやった」
 竹内でもそうしただろう。こいつも機転が利くようになった。
「すいません、竹内さん。リストができたところから照合作業をしますんで、手伝ってもらえますか?」
「わかった。おい、青木、おまえも――ちょっと、待て!!」
 エントランスから中へ入っていこうとする青木の腕を掴み、竹内は彼を引き戻した。こいつが無茶なことをするのは知っているが、この火災の中に飛び込むのは自殺行為だ。

「放してください! 薪さんが、中にっ!」
「なんだって!?」
 こいつも無茶だが、上司はもっと無茶だ。第九は無鉄砲野郎の集団か。
「どうしたんすか?」
「薪室長が中に入って行ったって!」
「なんで!?」
「分かんないです。避難した人たちに、逃げ遅れたひとがいないかどうか、聞いてたんですけど」
「誰か、逃げ遅れた人がいたのか?」
「いいえ、みなさんパニック状態で、とても話が聞ける状態じゃなくて」

 竹内は中庭に身を寄せ合っている人々の顔ぶれを、ざっと見渡した。そして瞬時に理解する。薪がどこへ向かったのか。

「美穂ちゃんたちがいない!」




*****

 楽しいすき焼きパーティは、どこへ行ったんでしょう(笑)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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