竹内警視の受難(4)

 お葬式が終わりました。
 今日は、いただいたコメのお返事をさせていただきます。
 いただいたコメントを読んで、そのお返事を書いてるときが一番楽しいです。(〃▽〃)



竹内警視の受難(4)





 住民たちの確認作業を木下に任せ、3人は薪の後を追った。
 もしも逃げ遅れた人が判明した場合には、大友の携帯に連絡が入ることになっている。見切り発進に近いが、一刻を争うこの状況には、有効な手段だ。
 薪の行き先は分かっている。美穂たちが5階に住んでいる、と言った竹内の言葉を、あの薪が覚えていないはずがない。

「くそっ! 煙がすごい……吸うなよ。一酸化炭素中毒で、あの世行きだぞ」
 出火現場は4階。目的の部屋は5階だから、かなり火の回りが激しいところだ。口元を濡れたハンカチで覆い、身を低くして階段を駆け上る。エレベーターはもちろん使えない。電気系統がいかれて閉じ込められたら、オーブンの中で焼かれるようなものだ。

「竹内さん、木下から連絡ありました。どうやらマンションに残っている住人は、あの母娘だけのようです」
「そうか。よかった。よし、ちゃっちゃと片付けるぞ。俺はこれから大事な用があるんだ」
「いいっすね、竹内さんは。オンナにもてて」
 相手は女性ではないが、女性よりも遥かに竹内のこころを乱す人物だ。ふたりきりではないが、薪の自宅へ招いてもらったのは初めてだ。何があっても逃したくない。
 左隣で身をかがめていた青木が、何となくこちらを睨んだような気がしたのは、気のせいだったろうか。

 大友の誤解を敢えてそのままにして、竹内たちが何とか5階まで登ると、轟々と燃え盛る炎の音に混じって、半狂乱で泣き喚く女性の声が聞こえてきた。
「美穂を! 美穂を助けてください!」
 次いで、どすっ!と何かがぶつかる音。「くそっ!」という聞き慣れた声がして、ドアを蹴り飛ばす音が聞こえてきた。
 声のした部屋に駆け込むと、果たしてそこには薪と美穂の母親がいて、内部屋のドアを破ろうと躍起になっていた。

「大友! 先にお母さんを保護して差し上げろ!」
「美穂っ!」
 自分を娘から遠ざけようとする男の手から逃れようと、母親は必死で身を捩った。気持ちは分かるが、いまは早く避難してもらわないと。
「大丈夫です。美穂ちゃんは、俺が必ず助けます」
 なおも渋る母親を、大友は無理矢理引き摺っていった。
 スポーツ刈りの頭がガテン系の職人を思わせる外見の後輩が、女性の身体を羽交い絞めにして連れ去る姿は、事情を知らない人間が見たら誘拐犯のように見えるに違いない。

 竹内たちが母親の保護に当たっている間に、第九のふたりは子供の救出に力を注いでいた。
「薪さん!」
「部屋の中に、子供がいるんだ。鍵が掛かってて」
 何度か体当たりを繰り返したのだろう。薪は細い肩を押さえていた。
 この部屋に美穂がいる。事情はよく分からないが、何らかの原因で閉じ込められたか、煙を吸って動けなくなったか。
「このドア、破れるか?」
「はい!」
 大きな体躯を武器に力任せにぶつかって、木製の障害物をぶち破ろうと試みる。何度目かの体当たりで、メリメリッという音が響き、ドアが内側に倒れた。

「やるもんですね。青木はやっぱり捜一向きですよ」
「あげませんよ」
 気の抜けた会話とまるでそぐわぬ素早さで、薪と竹内のふたりは部屋の中に飛び込んだ。
 美穂は後ろ手にガムテープで拘束されて、床に転がされていた。口にもガムテープが張ってある。助けを求めることもできなかったわけだ。

「だれがこんな」
「あの強盗犯です。母親の証言が取れてます。母親は、キッチンのテーブルの足に縛られてました。美穂ちゃんを部屋に閉じ込めて外から鍵をかけ、鍵は窓から放り投げたそうです」
 子供部屋の場合は、外から鍵が開けられるように、両側から施錠開閉ができるタイプのドアが主流だ。今回はそれが裏目に出た。
「そうなの? 美穂ちゃん。あのお兄ちゃんだった?」
 ガムテープの痕がひりひりするのか、美穂は細い手首をさすりながら、こくりと頷いた。
 彼女の証言によって追い込まれた犯人が、腹いせにこんな真似をしたのか。このまま放置して、焼け死ぬように仕向けるなんて。こんな子供に、なんて残酷なことを。
 最初の被害者も、放置の結果死亡した。初犯とはいえ、もう同情の余地はない。いっそトランクに入れたまま署まで運んで、いや、車ごと海に落としてやりたいくらいだ。

「美穂ちゃん、落ち着いてね。おうちが火事になったんだよ。俺たちと一緒に、ここから逃げるんだ」
 犯人に対する怒りは一旦、胸にしまって、今は無事に脱出することだ。この子を守らなければ。
 部屋に入り込んできた煙や匂いから、美穂は状況を把握していたらしい。竹内の言葉に取り乱すこともなく、くりっとした愛らしい目を瞠って、神妙に頷いた。
 母親より、よほど落ち着いている。今時の子供は大したものだ。

「さ、急いで」
 薪が差し出した手を、美穂は何故か振り払った。両手で竹内の腕を、ぎゅっと抱きしめるように身を寄せてくる。
 もしかして、誤解している……?
 まだ、薪のことを女性だと思っているのだろうか。薪の声は中高音のアルトで、女性の声に聞こえないこともないが。
 あの時は夜目の遠目と慰めることもできたが、今のこれは、ええと……。

 美穂を負ぶって、竹内は立ち上がった。
 恐る恐る横を見ると、薪は微笑んでいた。子供が無事でよかった、とホッとしている顔だ。さすがにこの状況では、自分の容姿のことを誤解されたくらいで、怒ったりはしないか。
 歩きながら、薪は自分の肩を押さえている。痛むのだろうか。
「室長。肩、大丈夫ですか?」
「平気だ」
 何でもないような顔をして見せるが、微かに眉がしかめられている。きっと内出血で、熱を持っているに違いない。そんな華奢な身体で、ドアに体当たりなんかするからだ。まったく、薪の勇ましさにはハラハラさせられる。
「あれ? 薪さん。空手二段じゃ」
 それは竹内も疑問に思っていた。空手の有段者なら、ドアを蹴破るくらい、簡単ではないのか。
「僕のは型空手で、実際にドアを破ったりはできない。もともと取調べのときに、容疑者に舐められないようにと思って習い始めただけだから」
 なるほど。
 たしかに容疑者を脅すだけの目的なら、型空手で充分なわけだ。

「なんだ、やっぱり薪さんて非力、っ!」
 ビュッと風を切って、青木の右頬3センチの場所に、華奢な拳が打ち込まれる。型空手とはいえ、そのスピードと威力はなかなかのものだ。
「人間の鼻くらいなら、折れるぞ」
「すいません……」
「じゃれあってる場合か! 早く逃げるぞ!」

 背中に背負った少女が、驚いたような声をあげた。
「あのひと、本当に男のひとなんだ」
「そうだよ」
「なんだあ。てっきり、誠さんはあの人のことが好きなのかと……誤解してごめんなさい」
 それは誤解ではない。

 美穂は、自分に微笑みかけた竹内の顔に、うっとりしたような声で言った。
「誠さん。美穂ね、昨夜誠さんの夢を見たのよ。美穂がきれいなお嫁さんになって、誠さんと結婚するの」
「はいはい。ここから無事に逃げられたら、結婚でもなんでもしてあげるからね」
 いまひとつ緊迫感のない会話に、竹内はため息を吐いた。



*****


 実は、この型空手というのを甥が習ってます。
 見た目だけはすごいんですけど、板は割れないそうです。
 見掛け倒しのうちの薪さんにはぴったりです。(笑)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

> 原作の薪さん、千堂の拳を左手で受け止めたり(あの細い腕で)警備員をあっという間に倒したり、かなりの有段者て感じですね(^^)

そうなんですよ!
てっきり事務系の人だと思ってたので、びっくりしました。 
滝沢さんに会うために茨城の病院へ行った時、車の中で青木さんに向かって「おまえをのしていくこともできた」と言うセリフがありましたが、その時はハッタリだと思ってました。(失礼)
わたしは強い男の人が好きなので、惚れ直しちゃいました。(^^


> 竹内さんが雪子と結婚したこと美穂ちゃんは知っているのかしら?

え。
さあ……あの二人が結婚するのって、この話の4年後ですからね。 美穂ちゃんは中学生くらいかな。 
「わたしのファーストキスのお相手は誠さんよ」と雪子さんにバラしたら面白いかも。(笑)


> ああ、薪さん!顔だけは傷や火傷しませんように(><)

ちょ、待って、一番大事なの、顔ですか。(笑)
うん、火傷くらいにしておけばよかったと今になって後悔……ごめんなさい、薪さん。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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