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竹内警視の受難(5)

竹内警視の受難(5)




 再び廊下に出た竹内は、自分たちを取り囲む状況の厳しさを目の当たりにした。美穂を助け出して気が緩みかけていたメンバーに、さっと緊張が走る。
 いまや下方へ降りる階段は、完全に火に埋め尽くされて、来た道を辿ることは不可能だった。玄関からの脱出は、無理だということだ。
 残るは、非常階段と窓。
 高層マンションにおいては、各階に2箇所以上の脱出シュートを備えることが励行されているが、あったとしても何処の部屋に設置されているかわからないし、確認しているヒマもない。少なくとも、美穂たちの部屋にはなかった。
 
「非常階段は?」
「こっちです!」
 非常階段付近は、黒い煙に包まれていた。なんだか、火の音も激しいような気がする。
 そうか、こちらの方角は。

「ちっ。やっぱりこう来たか」
 非常階段は、ちょうど犯人の部屋のすぐ側にあった。鉄骨でできた階段は、1000度を超えた高温に炙られ、ぐにゃりと曲がっている。人間が歩ける形状をしていない。
「お二人の運動神経なら、いけるんじゃないですか?」
「鉄骨は、熱によって強度が下がるんだ。500度で1/2、600度で1/3。1000度でほぼゼロになる。住宅火災の最高温度は約1200度。危険だ」
 命の危険が差し迫っているというのに、薪は憎らしいくらい冷静だ。まったく、見かけによらず豪胆なひとだ。そこがまた、魅力なのだが。

「くっそ……生きて戻れたら、取調べのときに腕の2,3本、折ってやる」
「竹内さん」
 薪に、不穏な発言を聞きとがめられた。どんなときでも、竹内の揚げ足取りは欠かさない人だ。
「腕は2本しかありませんから。もう1本は、足にしてください」
 そこですか。
「上へ逃げるしかありませんね。なるべく火元から離れて。窓際で救助を待ちましょう」
「階段、もうひとつある」
 竹内の背中にしがみついていた美穂が、意外なことを言い出した。
「むかし使ってた階段が、反対側にあるの。こっちから火が出たなら、あっちの階段は大丈夫かも」
「えらい、美穂ちゃん! よく思い出したね」
「ただ、今は使わないように、階段の入り口に三角形のとんがり帽子みたいなのが置いてあって、黄色と黒の縞々の棒が掛かってるの。それを退かさないと」
「青木!」
「はい!ルート確保します!」
 薪が命令しようとしたときには、もう走り出している。走りながら、返事をする。
 この、打てば響くような動き。状況判断の速さ。やっぱり、青木は捜一に向いている。

「青木は使えますね。ますます、欲しくなりました」
「あげませんよ、ぜったいに。あいつは僕のものです」
 竹内から岡部を取り上げておいて、贅沢な。他にも第九には、精鋭が揃っているというのに。まあ、デキのいい部下は何人いてもいいものだが。

 青木の後を追って、走り出そうとしたそのとき。
 突然、轟音と共に廊下の天井が崩れて、火だるまになった梁が落ちてきた。咄嗟に身をかわすが、舞い上がった火の粉は避けきれない。
 美穂を抱きこんで床に伏せ、降り掛かる灼熱の雨を背中で受け止める。ジャケットには細かな穴が開き、髪の毛の焼けるいやな匂いがした。

「大丈夫? 美穂ちゃん」
 震えながらも泣くことはせず、何度も頷く少女に、竹内は胸を撫で下ろす。
 気丈な子だ。将来は、きっといい女になる。それもとびきりの美女に。
 ここで死なせてたまるか。美人の損失は、国家予算を投じても補填できない。
 問題はその方法だが。

 断続的に落ちてくる瓦礫の衝撃に床に伏せたまま、竹内は必死で逃げ道を模索していた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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