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竹内警視の受難(6)

 うちの薪さんの身の上を案じてくださってる方々へ。
 えーっと、えーっと、えーっと、
 ご、ごめんなさいいいい!!!





竹内警視の受難(6)





 目前に横たわったガレキの山に、薪は思わず呻いた。
 この大量のコンクリートの塊は、1階分の量ではない。おそらく、上の階の分も一緒に落ちてきている。塊の中から鉄筋が突き出しているが、その数は数えるほどしかない。
 工事の際に、鉄筋の数を故意に減らしている。手抜き工事だ。そのせいで、こんなに簡単に廊下の天井が落ちてきたのだ。
 3人は、崩れてきた天井によって分断された。こちら側には竹内と薪。もちろん、竹内から離れようとしない美穂も一緒だ。
 
「薪さん! 竹内さん、聞こえますか!?」
「青木。そっちは大丈夫か」
「大丈夫です! でも、このガレキを退けないと」
 ガレキの隙間から、青木の顔が見える。うまい具合に窓のような形になって、向こう側に通じている。この大きさなら、子供一人くらい抜けられそうだ。

「美穂ちゃん。さっきのメガネをかけたおじちゃんが、あっちにいるから。おじちゃんと一緒に、先にお外に行っててくれないかな」
「いや。美穂、誠さんといる」
「美穂ちゃん。俺のお嫁さんになってくれるんだろ? お嫁さんは先に帰って、俺のごはんとお風呂の用意をしといてくれなきゃ」
「誠さんは?」
「仕事が終わったら、すぐに帰るよ」
 美穂はこくりと頷いて、ガレキの隙間から青木の手を取った。

「早く行け、青木! 彼女を安全な場所に避難させるんだ」
 苦渋に満ちた青木の瞳が、薪の顔を見る。

 ―― あなたを残していくなんて。
 ―― そんなことを言ってみろ。このガレキの下敷きにしてやる。

「絶対に、絶対に助けに来ますから!」
 ぎゅっとくちびるを噛んで、青木は美穂を抱え走っていった。
 ホッと息をつく間もなく、またもや熱膨張で割れた天井のコンクリートが落ちてくる。危ういところでそれを避け、更なる襲撃を予測して上を見上げると、2階上の天井に十字に組み合わされた網状の鉄筋がむき出しになっていた。
 まるで、篭の中に捕らわれた虫のようだ。
 もう、どこへも逃げ場がない。ここは5階だし、階下へ降りる道も上へ登る道も、閉ざされてしまった。窓に寄って救援を待つしかないが、この火の回りでは。

「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ!」
 毛先が焦げていやな匂いがする頭を振り、薪は咳き込んだ。
 天井が抜けて空気の通りが良くなったせいか、火の勢いが増して来た。不燃材を多く使った壁材からは大量の有害な煙が発生して、薪をその中に閉じ込めようとする。
「薪室長。こちらへ」
 竹内の手が薪の腕をつかみ、手近な部屋へと連れ込んだ。建物火災の場合、火は廊下から回るから、救助を待つなら部屋の中にいた方が得策だ。
「屈んでください。これを」
 水に濡らしたハンカチを差し出す。
 いつの間にこんなものを。竹内の俊敏さに、薪は少しだけ感心した。

 ハンカチを口に当てて目で彼を追うと、竹内は窓際によって、窓から外を見た。
 助けが来るかどうか、階下の火の回りはどうか。この状況で取り乱すこともなく、冷静に逃げ道を模索しているようだ。
 なかなか肝が据わっている。竹内のことは大嫌いだが、やはりここで死なせるには惜しい男だ。

「薪室長。この窓から飛び降りましょう」
「5階の窓からですか?」
 体勢を低くしたまま、竹内の隣に寄る。窓から下を見て、薪は目眩を覚えた。
 一瞬、窓から飛び降りる可能性を考えたが、やはり無理だ。この高さでは、確実に死ぬ。

「あそこに木があるでしょう? 枝に掛かれば、助かる可能性はゼロではない」
 あるにはある。
 が、この建物からはかなりの距離だ。助走もなしにあそこまで飛ぶには、体操選手並の脚力が必要だ。
「お一人でどうぞ。僕は高いところが苦手なんです」
 飛び降りても、結果は同じだろう。焼け死ぬよりは楽かもしれないが、死んだときに脳の一部でも残ってしまったら厄介だ。それよりはこのまま、全部焼けてしまった方がいい。
 以前、岡部に自分の頭を潰してほしいと言ったことは、もちろん本気ではない。犯罪に手を染めるようなことを、部下にさせるわけにはいかない。
 あれは、自分の覚悟を岡部に見せておきたかったから。何としても、かれが欲しかったから。
 岡部は、期待通りに成長してくれた。自分がいなくなっても、立派に第九を守っていってくれるだろう。

 人間、いつどこでどう死ぬかなんて、わからないものだ。
 まさか、竹内と心中する羽目になるとは。

 雪山で青木と死ぬのと、どっちがマシだったろう、と考える。
 答えは、その質問が形を成さぬうちに出た。

 青木が生きててくれて、よかった。
 あいつがまたここに飛び込んできて、危険な目に遭ったりしないように。消防隊員たちがしっかりとあのバカを止めてくれるように、願うばかりだ。

 薪がその場に残る意を示すと、竹内はとても彼らしい表情になって言った。
「アクションは苦手、というわけですか」
 懐かしささえ覚える、その皮肉な口調。片頬だけを上げた、傲岸不遜な顔つき。
「はっ。これだから、第九の引きこもりは」
 亜麻色の瞳がぎらりと光って、竹内の顔を睨みすえた。
「じゃ、俺ひとりで行かせてもらいますよ。でもって、助かったらあなたの腰抜け振りをみんなに話して、第九は臆病者の集まりだってことをマスコミに暴露します」
「何を勝手なことを――ッ、ゴホッ、ゴホッ!」
 死を前にして、なお第九を愚弄する男に、こころからの憤りを覚える。
 こんな男と心中なんて。冗談じゃない!
 
「じゃ、お先に。薪室長。あなたは勝手にしたらいい」
 竹内も激しく咳き込みながら、それでも憎まれ口を叩き続ける。フェラガモの靴が窓枠にかかったのを見て、薪は竹内の腕をつかんだ。
「早まらないでください。ここで救助を待ちましょう」
 竹内の言うように、確かに木はある。
 でも……これは死ぬ。
 どう考えても、この高さからでは無理だ。うまく枝に飛べたとしても、加速度で枝が折れて地面に墜落だ。それよりは、ここで救助を待った方が可能性があるかもしれない。

「やれやれ。現場に出ない捜査官というものは、こうもカンが鈍るものですかね。危機感が麻痺しているとしか思えない。ま、無理もないか。第九の捜査は、死人が相手ですからね」
 この期に及んで、まだこんな皮肉を。なんてやつだ。
「間に合いませんよ、どう見ても」
 竹内に促されて、薪は後ろを見る。
 振り返るまでもなく、熱気で炎の激しさが分かる。
 すでに、炎は部屋の中に侵入してきている。ガラガラと大きな音で壁が崩壊していく地響きがしているし、煙もすごい。目が痛くて、開けていられないくらいだ。
 それでも、飛び降りたら確実に死ぬ。
 薪は、覚悟を決めることにした。

「僕が先に行きます」
 自分の死を目の当たりにすれば、竹内も思い留まるかもしれない。こんなやつ、死んだって痛くも痒くもないが、心中だけはゴメンだ。

 竹内を押しのけて、薪は窓枠に足をかけた。
 情けないことに、足が震えている。奥歯を噛み締めていないと、歯がカチカチと音を立ててしまいそうだ。窓から身を乗り出すが、やはり眩暈がするほど高い。下腹の辺りがひゅうっと冷えて、まともに息もできない。
 死ぬことなんか怖くないと思い続けてきたのに、人間の生存本能ってのは厄介だ。

 何を迷うことがある。これで、鈴木に会えるんじゃないか。
 親友の笑顔を思い浮かべると、少しだけ震えが止まった。ぐらぐらと揺れていた視界が、クリアになる。

 今だ。

 目的の枝を目指し、薪は右足をぐっと踏み切って、空に飛んだ。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Mさまへ

こちらに鍵拍手いただきました、Mさまへ

>竹内さんが薪さんの腕を掴んで手近な部屋へ連れ込んだ!

あはは!
そういう状況みたいですね(笑)

>危機的状況ではお約束の釣り橋効果も発動不可能な程の切羽詰った状況なんて…さすが受難話です。

はい。わたしのお話は、こんなんばっかです。
やるならとことん、です(←鬼)

>でも薪さんも竹内さんも貧乏くじ引きつつも最後は上手く切り抜ける強運タイプな気がするので

はい、大丈夫ですよ!
てか、うちのお話って、基本的にギャグ小説ですから。悲惨なことにはなりません(^^


>お買い物した荷物の安否が気になります。

マンションの玄関あたりに放置状態のまま、ゴミになったものと思われます。
ああ、もったいない・・・・・・大友くんあたりが拾っておいてくれたかしら・・・・・・。

>続きが早く読みたくて毎日早起きです(と云うか読んでから寝てます)

うれしい!ですけど、あの、夜は眠ってください!
お肌に悪いですよ!(><)
お仕事にも差し支えるし!
わたしもブログ始めてから睡眠時間減って、吹き出物が・・・・・年ですねえ。昔は夜通し本を読んでいても、お肌すべすべだったのに(^^;



それと、Mさま。
ファイルオークル、拝見いたしました。

びっっっっくり!いたしました!!

めちゃくちゃ上手い!!!

イメージが崩れるどころか、きゃあああ!!とのた打ち回ってしまいましたよ!!

これ、いただけるんですか?強奪、OKですか!?(すいません、図々しいですか?でも、欲しいです~~~!!!!)
略奪の上、プリントアウトして、額に入れてもいいですか?頬ずりしてもいいですか!?
・・・・・あまりの感激に、精神崩壊いたしました。ごめんなさい・・・・・。

>薪さんが『誰アンタ』状態・・・

いいえ!だれがどう見ても、どこから見ても薪さんですよ!
薪さんだああ!

美しい横顔、特にこの目。下から見上げる位置関係なのに、上から目線というところが!つんとした強気な眉が!(←眉、萌えポイント)
でもって、このスーツに包まれた華奢な肩と細い首がたまんない!顎から首の線がせくしぃ~~~!
あああ、ブロッコリになって齧られたい!(←ヘンタイですいません・・・・・朝からテンション高すぎ・・・・・)

青木くん、難しかったですか?
四苦八苦して描いたようには見えないです。あの、自然にカッコイイです!(あ、カッコよすぎた、ということか?『奴隷青木』だから?)

ふたりの手が、めちゃくちゃ萌えるんですけど~~~。(><)
ニンジンとブロッコリの状態に、お互い、というシュチに、萌え死にしそうなんですけど~~~(;;)
ピンクの背景が、このふたりにこんなに合うとは思いませんでした。
くあっ、たまらん!!
らぶい、ですっ!!

なんでこんなに上手に描けるんだろう・・・・・・ゴットハンド・・・・・Mさま、すごいです。尊敬します!

もう、これは早く『秘密本』作るしかないですよっ!!
こんな素敵な絵が描けるのに、作らないなんてありえない!
道は遠くないですよ!ぜひぜひ、作ってください!!
(Mさまの都合も考えず、欲望のままにおねだりしてみる。ヒトデナシですいません・・・・)

このイラストも、見られるのわたしだけなんですか?
公表しちゃ、いけないんですか?
鍵つきってことは、そういうことでしょうね・・・・・独り占めは嬉しいけど、もったいない!みんな、見たらぜえったいに喜ぶのに!
ご自分のサイトをお持ちでないとのこと、公開可だったら、うちのサイトに貼らせていただきたいくらいです(//▽//)

はあはあはあ・・・・・(ちょっと落ち着け、自分)

ありがとうございました、Mさま。
素晴らしいものを見せていただきました!
早速事務所のカラーコピーで写真用の紙にプリントアウトを!(自営業の特権)
(あ、強奪不可だったら仰ってください。データ消去・・・・したくない・・・・・どうかお許しを)

秘密本、楽しみにしてますから!
作ったらぜひ、ご連絡くださいね!!(^^




Aさまへ

Aさま。

> ここまで酷い受難だとは(><)

あははー、拍手のお礼とはとても思えない展開っすね☆
確かに、薪さんの受難話ですよね、これ。 
でも薪さんて、いつも自分が取りこぼしてしまった命を悼んでいるような人だから、消えかけている命が目の前にあったら突っ込んで行ってしまうのじゃないかな、て思うんです。


> 原作の薪さんも脳を見られたくないと思っていたので青木におまえが見ろと言ったのは意外でした。

「自分の気持ちを知って欲しかった」というAさまの考え、ロマンチックですね。(^^


わたしはもっと散文的に考えていました。 青木さんがその役目を託されるのは必然と言うか。 誰かが真実を明らかにしなければいけないだろうし、それを託すなら、あの場に居合わせた青木さん以外にはいないと思いました。

わたしが意外だったのは、薪さんが青木さんに「自分を撃て」と言ったことです。
彼に殺されたいと願う気持ちは理解できるので、心の中で思う分には同情していたのですが、それを実行するように仕向けた(威嚇射撃&命令)のにはびっくりしました。 正当防衛で鈴木さんを殺した自分が幻覚に悩まされていたのに、それと同じ苦しみを青木さんに与えようとするなんて。 
青木さんの幸せを願う薪さんなら、どんなに強くそれを願っていても、彼の手を汚させるようなことはせず、自分自身で命を絶つと思っていました。

でも、状況が状況でしたものね。
あの時の薪さんは、そこまで考える余裕がないほどに、追い詰められていたんでしょうね。
そう思うと可哀想で。 胸が痛みます。


> いつ死んでもいいとは思っていたのでしょう。

そうなんですよー、薪さんたらもう、死ぬ気マンマンなんだもん。
そんな彼は見ていて辛くて。 もっと自分の命に執着してよー、と思って「パンデミックパニック」を書きました。
それと、周りの人間を巻き込むまいとして、一人で秘密を抱え込む薪さんも辛くて。 うちの薪さんが周りに迷惑かけまくりなのは、その反動なんです。(笑)


> 竹内さんが成宮寛貴君とイメージが重なってしまうー(≧▽≦)

成宮さん、カッコいいですもんね。 
わたしも録りましたよ! 右京さんの変人振りに磨きが掛かってて、めっさ笑いましたー。 

それと、甲斐さんを取り押さえたところ、カッコいい―。 右京さん、強いー。(〃▽〃) ←すみません、若い子よりオヤジの方が好きなんです。


> モモンガ薪さん(>▽<)

あーはっは!!
それいい! 一気にギャグに、てか、可愛いと思う! 
じゃあ、次はケモノ系のコスプレに挑んでみます。(笑)



プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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