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竹内警視の受難(8)

 拍手SSなのに、絶叫コメをたくさんいただいちゃいました。(^^;
 逃亡準備は万端に整えて。
 はい、つづきです。




竹内警視の受難(8)





 竹内は、病室の窓から外を見ていた。
 窓辺には大きな銀杏の樹があって、先日の雪がまだ枝の付け根の部分に融け残っている。2月の空は暗い雲に覆われて、とても寒そうだ。こんな日は暖かい部屋の中で、気の置けない友人と鍋を囲んで一杯やりたいところだ。
 あとどのくらい、ベッドに縛り付けられていなければならないのだろう。痛み止めが効いているから痛みはさほどでもないのだが、とにかく退屈だ。これなら、いくら寒くても現場で張り込みをしていたほうが遥かにマシだ。

 ノックの音がして、竹内はドアの方を見た。
 もしかして、彼女だろうか。先週、来てくれたときは痛みが激しくて、キス以上のことはできなかったが、今日はもう少し、いい思いができるかも。

 弾んだ声で、どうぞ、と声をかける。
 しかし、入ってきたのは竹内が予期した人物ではなかった。
 濃灰色のスーツに落ち着いたブルーのネクタイを締めた、美貌のひと。左腕にコートをかけ、右手にはかれのイメージにぴったりの、華やかで愛らしい花かごを持っている。

「薪室長」

 相も変わらず気の強そうな瞳で、竹内のことを真っ直ぐに見る。仲の悪い人間と出会ったときの、硬い表情。キッと吊り上げられた眉と、不機嫌そうに結ばれた口元。
 薪の不興が顔に表われていることに、竹内は安堵と喜びを覚える。
 彼のきれいな顔になんらかの表情が宿るのは、相手に対して気を許している証拠だ。昔は、完璧な無表情だった。自分の気持ちは少しずつ、薪に伝わっていると解してもいいのだろうか。

 竹内と共に死地から生還した彼が、あばら骨を2本も折る重傷だったことを聞いて心配していたのだが、こうして見る限り元気そうでよかった。
「見舞いに来てくださったんですか? お忙しいでしょうに。ありがとうございます」
 薪は持っていた花かごをサイドテーブルに置くと、黙ってベッドの横の丸イスに腰を下ろした。
 膝の上に手を置いて、無言のまま竹内を見ている。見舞いに来たのかにらめっこをしに来たのか、よくわからない。
 薪が黙っているから、竹内も無言になる。その静寂を重いと感じないのは、薪の瞳がいつもよりずっと穏やかだからだ。

「冬は、それほどではないんです」
 長い沈黙の後、薪はぼそりと言った。一瞬、何のことだろうと思ったが、すぐに仕事のことだと気付いた。
「ああ、そうですよね。第九に回されるような猟奇事件は、夏のほうが多いでしょうね」
 薪はまた、黙り込んだ。
 穏やかだった薪の瞳に、苦渋めいたものが浮かんだ。
 竹内の身体に巻かれた包帯や、腕に刺さった点滴や、ギプスで固定された足を見て、自分のことを責めている。

 僕のせいで、こんなことに。
 僕を庇って、こんな怪我を。
 僕は、どうやってこの償いをすれば……。

 薪との会話は、とても不思議だ。
 口数は少ないのに、かれの気持ちは伝わってくる。それは言葉にしない分、生まれたままの純粋さを持って、竹内の心に浸透する。
 これまでにも、薪は何度も様子を見に来た、と竹内の母親が言っていた。竹内が眠っている頃合を見計らうかのように、こっそりと来ては寝顔を見て帰って行ったそうだ。
『自分のことを庇って、ご子息は怪我をされました。申し訳ありませんでした』
 そう言って竹内の母親に、深々と頭を下げた。それに対して、あの母親が何と答えたのか、実は竹内は聞いていない。なにか失礼なことを言ったのでなければよいのだが。竹内の母は夫を早くに亡くして、女手ひとりで竹内を育て上げたせいか、性格も口も、かなりキツイのだ。

「どうしてあんなことを」
 目を伏せたまま、薪は独り言のように呟いた。
 長い睫毛が震えている。弱気な薪の表情は、竹内の心をざわざわと騒がせる。
「あんなことって?」
「僕を庇うなんて。あなたは、僕が嫌いじゃなかったんですか」

 嫌ってなんかいません。
 俺は、ずっと前からあなたのことを。
 ええ、もう一年にもなります。ずっとずっと、あなたが好きだったんです。

「あなたが先に落ちたら枝が折れて、俺のクッションがなくなっちゃうじゃないですか。そうしたらカクジツに死にますからね。だからああしたまでです」
「まあ、そんなところでしょうね。あなたが僕のことを嫌っているのは、わかってます」
 膝の上に置いた白い手の甲に、ぼたたっ、と透明な雫が落ちる。
「お互い様ですよね。僕だって、あなたのことは大嫌いですから」
 器用なひとだ。
 ボロボロ泣きながら、平気で喋れるのか。普通だったら呼吸が乱れて、言葉が途切れそうなものだが。

 そんな薪の姿に、竹内は胸が詰まる。
 憎まれ口を叩きながらも、薪の泣き顔は、とても幼くて。眉が弱気に下げられるだけで、これほど庇護欲を掻き立てる顔つきになるとは。
 そういえば、ずっと昔、青木のジャケットに顔を伏せて泣いていた薪を見たことがあった。あのときは遠目だったし、青木の服で顔が隠れていたから気付かなかったが、こんなに可愛らしい顔をして泣くのか。

「……ごめんなさい」
 謝罪の言葉など、竹内は望んでいない。
 薪が元気で生きていてくれること。それだけで充分だ。

 下を向いた亜麻色の頭のつむじから、きれいに流れる絹糸のような髪に反射する室内灯の明かりを、まるで聖職者の後光のようだと感じながら。
 竹内は何も言わず、窓の方に顔を向けた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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No title

はあ・・やっと息が付けます・・。

でも薪さん・・おいたわしい・・・(TT)
薪さんの美しいあばら骨が・・(見たことないけど。きっと薪さんは骨まで美しいに違いないんです。骨の髄まで愛してるぜー薪さん・・←貝沼化)

え?あれ?薪さんのせい・・でしたか?(読み返してみた)
・・うう・・た、確かにそうかも・・

いえ!もし、竹内とあそこで会わなかったら、お買い物を終えて部屋に戻って鍋パーティーが始まってるころだったかもしれません。
だったら消防車の音を聞いて「近くで家事だな」と窓を開いて様子を伺う位で済んだかもしれません。

いえ、それ以前に、竹内が少女から目撃情報を取ったことから犯人は放火に至ったわけですから、竹内が悪いんです!(事件がそれじゃ解決しないとか、そういったことは、この際スルー・・)

あの状況だったら、薪さんは火事現場に駆け付けますし、ひと目で、さっき見た親子が逃げた人の中に居ないことに気付き、救出に向かってしまうんです。
こちらの薪さんはそういう方なのです。
仕方ないです。

・・でも、そんな薪さんを守りきった竹内には胸が痛みました。

>「俺は、ずっと前からあなたのことを。」

この一文が好きです。
女にはいい思いとかそんなことしか考えない彼が、薪さんには純粋に想いを向けているのが分かり、切ないです。

こんな風に真っ直ぐに、女性の事も想える日が、彼には来るのでしょうか。
4年後に至る彼の彼女に対する気持ちが、薪さんへの想いを越えるものであってほしいです。

竹内自身の為にも。
彼女の為にも。
薪さんの為にも。

竹内・・そんなに・・・

そんなに・・・ 竹内そんなに・・・・

ごめん、竹内。(白状するけど、君のこと時々「チャラ男」って呼んでた・・・・。)

でもその、かのんさんもおっしゃってますが、こんなに好きなのに四年後には・・・なんですか?
(・・;)
薪さんがダメだからとか、ちょっと似てるから・・とかじゃないですよね?

てか、なんであの二人が結婚!?という過程よりも、男爵のリアクションが気になってたりします・・。
いったいどんなスットンキョ―なことを・・(わくわく(^^)v)
でもこの一件で見直したんじゃないですか?男爵のことだから「警察官の鑑のようなヤツだ」とかそういう方向でしょうけど。(自分に対する好意だとは思わないのね)

楽しいすき焼きパーティが・・・。きっとあの肉は火事の現場で焼き肉に・・・!!
(それにしてもひでえことしやがる、犯人でしたよ!!)

ところで青木は?
たぶん燃え盛る建物に戻ろうと半狂乱になって、5人がかりくらいで取り押さえられてると思ってたんですけど。

Mさまへ

>無事で良かった!安心したのでやっと寝れます。

うぎゃ!
眠ってください!!(><)
睡眠不足は後でタイヘンなことになりますよ!


>薪さんのセリフが「すみません」でも「すいません」でもなく「ごめんなさい」なのが良い!

ありがとうございます。ここはこだわりました。

>ところで竹内さん傷みが激しい時に何やってんですか

まったくですよ。
どうしようもないキャラばっかですね、うちのは(笑)

ありがとうございました!
ちゃんとお寝みになってくださいね(^^;

かのんさんへ

いらっしゃいませ、かのんさん♪

> はあ・・やっと息が付けます・・。

す、すいません。
拍手のお礼なのに、このハードな展開・・・・・反省してます(^^;

> でも薪さん・・おいたわしい・・・(TT)
> 薪さんの美しいあばら骨が・・(見たことないけど。きっと薪さんは骨まで美しいに違いないんです。骨の髄まで愛してるぜー薪さん・・←貝沼化)

ああ、かのんさんが貝沼に!(笑)
美しいあばら骨って・・・・・・はい、そうでしょうとも(^^


> え?あれ?薪さんのせい・・でしたか?(読み返してみた)
> ・・うう・・た、確かにそうかも・・

でしょう?
薪さんが怪我をしたのは、自業自得でしょう?
むしろ、竹内の方が災難だったでしょう?

> いえ!もし、竹内とあそこで会わなかったら、お買い物を終えて部屋に戻って鍋パーティーが始まってるころだったかもしれません。
> だったら消防車の音を聞いて「近くで家事だな」と窓を開いて様子を伺う位で済んだかもしれません。

え?
いや、でも・・・・・。

> いえ、それ以前に、竹内が少女から目撃情報を取ったことから犯人は放火に至ったわけですから、竹内が悪いんです!(事件がそれじゃ解決しないとか、そういったことは、この際スルー・・)

ええ?
いや、だってそれは・・・・・。

> あの状況だったら、薪さんは火事現場に駆け付けますし、ひと目で、さっき見た親子が逃げた人の中に居ないことに気付き、救出に向かってしまうんです。
> こちらの薪さんはそういう方なのです。
> 仕方ないです。

・・・・・・・・・・。
はい、すべてかのんさんの仰るとおりです。負けました!!(爆笑)


> ・・でも、そんな薪さんを守りきった竹内には胸が痛みました。

これだけやっといて、あの仕打ちですからね。
かれはとことん、受難の男ですね(笑)

> >「俺は、ずっと前からあなたのことを。」
>
> この一文が好きです。
> 女にはいい思いとかそんなことしか考えない彼が、薪さんには純粋に想いを向けているのが分かり、切ないです。

そうですね。
竹内の薪さんに対する気持ちは、プラトニックな部分が大きいです。竹内はノーマルなので、身体の関係は望んでいない、という設定だったんですけど。
・・・・だんだん、あやしくなってきましたね(^^;

> こんな風に真っ直ぐに、女性の事も想える日が、彼には来るのでしょうか。
> 4年後に至る彼の彼女に対する気持ちが、薪さんへの想いを越えるものであってほしいです。

うーん、どうでしょう。
けっこう、未練たらたらかも。(笑)
まだその辺のお話は書いてないので、なんとも言えないです。

> 竹内自身の為にも。
> 彼女の為にも。
> 薪さんの為にも。

そうですね。
うちの場合、彼女の幸せ=薪さんの幸せ、になってますからね。(^^

ありがとうございました。

わんすけさんへ

こんばんは、わんすけさん(^^

> そんなに・・・ 竹内そんなに・・・・
>
> ごめん、竹内。(白状するけど、君のこと時々「チャラ男」って呼んでた・・・・。)

いいんです、チャラ男ですから。
むしろ本望です!


> でもその、かのんさんもおっしゃってますが、こんなに好きなのに四年後には・・・なんですか?
> (・・;)
> 薪さんがダメだからとか、ちょっと似てるから・・とかじゃないですよね?

あ、それは違います。
うちの薪さんと雪子さんは似てません。<おいおい!


> てか、なんであの二人が結婚!?という過程よりも、男爵のリアクションが気になってたりします・・。
> いったいどんなスットンキョ―なことを・・(わくわく(^^)v)

はい、これは書いてあります。
カンチガイ男爵、全開です。
もう、どこまで行っちゃうんでしょう、うちの薪さんは。(笑)

> でもこの一件で見直したんじゃないですか?男爵のことだから「警察官の鑑のようなヤツだ」とかそういう方向でしょうけど。(自分に対する好意だとは思わないのね)

当たりです。
さすが岡部が仕込んだだけのことはある、とか思ってます。バカです。

> 楽しいすき焼きパーティが・・・。きっとあの肉は火事の現場で焼き肉に・・・!!
> (それにしてもひでえことしやがる、犯人でしたよ!!)

あははは!!
これ、このギャグ、わたしも考えました!

> ところで青木は?
> たぶん燃え盛る建物に戻ろうと半狂乱になって、5人がかりくらいで取り押さえられてると思ってたんですけど。

やってます、まさにその通りのことを(笑)
だいたい、想像がつきますよね。忙しい消防士さんに手間を掛けさせて、はた迷惑な男です(--;

ありがとうございました!

Kさまへ

>骨折されたのはどちらの足ですか?

左足です。
て、どっちでもいいんですけど(笑)

>あ、お母様に御挨拶したかったな...(お仕事は老舗料亭の女将か何かでしょうか?...いえ、なんとなくそんな感じがしまして...)

はいはい!
Kさま、鋭いです!
老舗ではありませんが、料亭の女将です。
料理に関しては厳しいので、Yさんが困り果てて薪さんに助けてもらうエピソードを考えてます。
なんでわかったんだろう・・・・竹内に対する愛ですね(笑)

Aさまへ

Aさま。

幼少期にあんな経験をしていたら、火事はさぞトラウマになったでしょうね。 今書いたら、この話は全然違う話になるでしょうね。 薪さんは火事現場の悲惨さを知っているだけに、絶対に誰も死なせない、といっそう逼迫したんじゃないかしら。


ジェネ薪さん、鈴木さんに素直に謝ってましたね。
というか、自分の失礼を自覚していなかった感じで、とってもピュアな印象を受けました。 鈴木さん、まるで何も知らない子供を泣かせちゃったみたいになってしまって、可笑しかったです~。


巻末イラストから、うちの拙作を連想してくださって光栄です。(^^
黒田さんは、やっぱりあの人じゃないですか? ユーカリさんが仰ってた、SP。 見比べてみたら、髪型は多少違ってましたけど、顔は似てた、というかモブ顔というか、ごにょごにょ。
きっとそうなんですよ。 原作でも薪さんがキューピットということで♪

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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