竹内警視の受難(9)

 とりあえず、ふたりとも生きてましたよ!!
 て、生きてりゃ良いってもんじゃないですね。はい、反省してます。(^^;) でも、またこういうの思いついたら、書いちゃうんだろうな。(笑)




 続きです。





竹内警視の受難(9)






 ごめんなさいって、なんだろう。

 自分の口から出た子供っぽい言葉に、薪は耳を疑った。
 自分はもう少し、まともな謝罪の言葉を考えてきていたはずだ。
「申し訳ありませんでした」「お詫びの言葉もございません」「治療費は、こちらで持たせていただきます」
 それが、竹内の痛々しい姿を見たら、頭の中が真っ白になってしまって。まるで子供みたいに泣いてしまうなんて。
 どんな状況でも、竹内に自分の弱いところを見せるなんて、冗談じゃない。今回は確かにこいつのおかげで命を助けられたが、竹内は第九の敵だ。敵に弱味を握られるわけにはいかない。自分は第九の室長なのだ。
 そう思うのに。
 薪は、涙を止めることができなかった。ごめんなさい、と繰り返すことも、止められなかった。

「あなただけじゃない。青木のやつも以前、僕のせいで」
 自分の一番の弱点を敵に教えようとしている自分に気付いて、薪は口を閉ざそうとした。しかし、乱れる呼吸が、それを許さなかった。

「俺の怪我が自分のせいだと? 自惚れないでくださいよ。俺は相手があなたじゃなくても、同じことをしましたよ。一緒にいたのが美穂ちゃんでも、美穂ちゃんの母親でも。目の前に消えそうな命があったら、助けるのが当たり前でしょう」
 竹内は、そんな言い方で薪の罪悪感を消そうとしてくれた。
 自分は警察官としての規範に従って行動しただけだ、あなたのせいじゃない。
 竹内の気遣いは分かったが、薪にはもう、こみ上げる嗚咽を止めることができなかった。

「僕はもう……見たくない。僕のせいで誰かが死ぬのも、傷つくのも」
 震える吐息と一緒にこぼれだす言葉が、この先自分を追い詰めることになる。それが理性ではわかっているのに、吐き出さずにはいられなかった。
「僕は……僕なんかのために、誰にもなにもして欲しくないんです。僕はそんな価値のある人間じゃない……」

 自分のくちびるが、弱音を吐くのを止められない。
 きらいだ。
 こんな弱い自分が、大嫌いだ。

「どうして、そんなふうに考えるんですか」
 どうしてもなにも、それが事実だから。
 生きている価値など何もない人間が、それでも生きながらえているのは……死ぬことも許されないから……。

 いや、それは詭弁だ。
 僕はあのとき、死ぬことが怖かった。地面に叩きつけられて死んでいる自分の姿を想像して、心底こわいと思った。死にたくないと思った。
 足が震えて仕方がなかった。鈴木に勇気をもらわなかったら、一歩も踏み出せなかった。
 僕は、ただの臆病者だ。
 生きてる資格もないくせに、ちっぽけな生に執着して。どこまで汚い生き物なんだ……。

「俺なんかが口を出すことじゃありませんけど」
 宿敵の惨めな姿を前に、竹内が言った。その口調に嘲笑の響きがないことを、薪は意外に思った。
「そろそろ、前を向いてもいいんじゃないですか。俺はかれとは面識がありませんが、彼もそれを望んでると思いますよ」
 竹内の言う『彼』が誰を指すのかは、明らかだった。
 おまえなんかに言われる筋合いはない、と思いかけたが、図らずしも鈴木と同じ行動を取ったこの男に――― 自分を犠牲にして薪の命を助けようとした愚か者に――― 敵意を向けることはできなかった。

 薪は黙って頷いた。
 頭を軽く振るだけで、ぽつぽつと滴り落ちる涙が情けなくて、薪はスーツの袖に自分の弱さの証を吸い込ませた。

 こんなやつの前で、みっともなく泣いたりして。またこいつの皮肉のタネを提供してしまった、と後悔したが、竹内は薪のほうを見ていなかった。なにが面白いのか、特に変わり映えしない窓からの眺めを、ずっと見ていた。

 ―― 見ない振りをしてくれているのだ。

 今回ばかりは、竹内の心遣いに気付かないわけにはいかなかった。
 そういえば竹内は、親の敵のように薪のことを悪く言うが、あの事件のことだけは、ただの一度も口にしたことがなかった。そこが薪の唯一の弱点だということを、竹内は知っていたはずだ。それなのに、そこを衝こうとはしなかった。
 岡部が育てたにしては出来の悪い後輩だと思っていたが、見誤っていたのは自分の方かもしれない、という考えがちらりと頭を掠めた。

 竹内と一緒に窓を見ると、先刻まで暗く空を埋め尽くしていた雲が微かに割れて、やわらかな冬の太陽光が、一筋の光を地表に投げかけていた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

> 大人の薪さんでさえ、包帯だらけの竹内さんを見てボロ泣きするとしたら8歳の薪さんが自分を助ける為に全身火傷を負った人を見たらどんな気持ちだったでしょう(><)

きっとね、半端ない罪悪感の中で育ってきたと思うんですよ。
澤村さんの顔を見るたびに、自分を助けたせいでこの人は、って思いながら。 子供の頃からそんなもの背負って、薪さんたらどこまで不幸萌えなんだか♪(←ああっ、Sの血が末尾に!!)

そんなになってまで自分を助けてくれた人を、疑うことはできませんよね。
薪さんの為にも、澤村さんが黒幕だった、という結末は避けたいですね。 


> 将来の雪子の相手としてかなり男を上げられたと思います。

薪さんが雪子さんの相手として認める男なんて、本当はこの世にいないのかもしれませんね。 鈴木さんが愛した女性ですからね、鈴木さん以上の男じゃないと安心できない、でも薪さんにとって鈴木さん以上の男なんてこの世に存在しませんから。 だから(鈴木さんに瓜二つだと思った)青木さんを推してたわけですから。
きっと、誰が雪子さんのハートを射止めても、薪さんは面白くないんですよ。 だから最後まで竹内は貧乏くじってことで。(笑)


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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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