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ナルシストの掟(3)

ナルシストの掟(3)






「それで? 協力することになったんですか?」
「仕方ないだろ。あのことをバラされたら、僕も宇野も減俸くらいじゃ済まない。僕の昇任話もお流れだ。あんなに苦労したのに。冗談じゃない」
 水曜日のいつもの流れで、青木は薪のマンションに来ている。
 青木がいるリビングに、薪の姿はない。クローゼットの扉の前と中で会話を交わしているところを見ると、薪はいま着替え中のようだ。

「潜入捜査って言っても、今回は証拠を押さえればいいわけですね? ホステスたちの控え室で恒常的に麻薬が配られてるから、それを確認すればいいと。その現場を見つけたら、すぐに連絡を入れる。すると5課の人たちが乗り込んでくる手筈になってると。危険なことは、何もないんですよね?」
「何回も同じことを聞くな。大丈夫だって、さっきから言ってるだろ」
 会話の間、ずっとクローゼットから出てこない。スーツを脱いで普段着に着替えているのだろうが、えらく長い。着物でも着ているのだろうか。

「薪さん。まだ着替えてるんですか? オレ、腹へって」
 痺れを切らした青木が控えめな抗議をしかけたとき、クローゼットのドアが開いて、薪が出てきた。
 その姿に、青木は目と口を大きく開けて、言葉もなく床に腰を落とした。

「どうだ? 女に見えるか?」
 真っ赤な生地に煌びやかなスパンコールが、あでやかな蝶の花を咲かせるチャイナドレス。右側の太ももの部分から、大きくスリットが入っている。布の間から見える白い足が、限りなく挑発的だ。
「やっぱりダメか? この肩幅が邪魔をするか」
 青木が二の句を継げないでいる様子をお得意のカンチガイで曲解して、薪は華奢な肩に自分の両手を載せる。そうやって胸を隠してしまうと、完全に女性にしか見えない。
「この頃、筋トレにも力いれてるからな」
 腕も足もすんなりと伸びて、しなやかな獣のようだ。よく撓りそうな腰の辺りから、男の下腹部を直撃するような色気がぷんぷん匂ってくる。

「この服なら詰襟だから、喉仏も隠れるし。なんとか誤魔化せるかと思ったんだけど」
「え、薪さんて、喉仏ありましたっけ?」
「バカにするな! 見た目に分からなくても、よーく触れば微かに出てるんだっ!」
 見た目に分からなければ、胸の空いた服でも同じだと思うが。

「大丈夫です。とてもお似合いです。てか、めちゃめちゃきれいです」
 キレイというNGワードに、薪の目が細められる。長い睫毛が重なって、その奥から宝玉のような瞳がぎろりと青木を見る。が、今の薪から青木に流れてくるのは彼の不興ではなく、淫靡な秘め事を予期させる甘い愁波だ。

 その静謐な美貌の持ち主は、包まれる衣装の違いで、魔性の生き物に変貌する。
 最高の快楽を保証してくれる官能的な肢体。背筋がゾクゾクするような流し目。誘われているとしか思えない。
 赤い布地の向こうから手招きしている細い足に、膝でにじり寄って手を伸ばす。いつも通りの滑らかな肌。割れたスカートの間から手を入れて片足を抱き寄せ、白い腿にくちづける。シルクのような肌から匂うのは、清冽な百合の香り―――。

「薪さ……痛ったい!」
 細い指が青木の髪を掴んで、力任せに引き剥がした。肩を蹴られて、床に尻餅をつく。
「今日はしない。不愉快なことがあった日は、僕は酒も飲まないしセックスもしない。知ってるだろ」
 そんな無体な。

 薪と肌を合わせられるチャンスは、一月に最大で6回。週末の土曜日と、2週間に1度の水曜日。それも事件だ出張だ研修だ、と様々な邪魔が入る上、薪の気まぐれな性格のせいで、実質は月に1度か2度がいいところだ。
 そのせいか、初めてからだを重ねた日から1年近く経つのに、まだ痛みが強いみたいで。
 もともと薪は、そちらの欲求が極端に薄い。3ヶ月に1回くらいがちょうどいい、とのたまわれた日には、青木は目の前が真っ暗になった。

 薪とは性格も好みもあまり合うとは言えないが、からだの相性は最悪に近い。リズムもサイクルもてんで合わないし、青木が欲しいと思うときは薪が疲れててダメとか、薪の方が欲しがるときは……いや、ない。薪の方から求めてくれたことなんて、一度もない。とにかく、薄いのだ。おかげで青木の欲求不満は、片思いだった頃とあまり変わらない。

 正直、相手に対する欲望の大きさの差は、愛情の大きさの違いか、とも思ってしまう。
 青木の方が、かなり一方的に薪のことが好きなのだ。薪はそれに応えようとしてくれているだけ。まだ薪の心の中には、あの男が住んでいる―――。

「青木?」
 床に座ったままの青木の前に、薪が膝をついて青木の顔を覗き込んでくる。
「悪い。そんなに痛かったか?」
 心配そうな亜麻色の瞳が、上目遣いに青木を見る。真紅のドレスの効果で、クラクラするくらいにかわいい。
「いいえ。平気です」
 にこりと笑って応えを返した青木に、ふっと頬を緩めて薪は微笑した。

 あ、あ、そんな……やさしい目で微笑まれたりしたら。

「薪さん!」
 飛びかかった青木の顔面に薪の拳が食い込んで、目の前に星が見えた。どさりと仰向けにひっくり返った青木の視界で、白い天井がスクリーンのように薪の微笑を映し出した。




*****


 付き合い始めて1年経ってないのに、すでにギスギスしてますね(笑)
 相性最悪とか言ってるし。(←ヒドイ)

 アツアツの新婚さんが読みたい方は、みひろさんの『晴れときどき秘密』へ、
 おしどり夫婦が読みたい方は、かのんさんの『この世界を愛したくて』へ、
 あま~い恋人関係が読みたい方は、ruruさんの『愛ってなんなのさ!』へ、ぜひどうぞ!

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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これは‥真性SMの世界‥ですか‥?

おはようございます‥しづさん。

あの‥‥この二人‥
付き合ってないでしょ‥
勿論、今ラブラブ描く訳にはいかないでしょうが‥

青木‥死にますよ?

生かさず、殺さず‥が正しいSM‥って違いますか‥

苛められるのはいいんですが‥
流血は避けていただきたい‥

でも‥いいか、怪我したら行きますから!
是非ともお電話を!

24時間フルで働きますから、いつでもご連絡ください。
しづさんとこの青木なら‥そうですね‥時給2000円で
構いませんよ‥

あ…マズイ‥リアルな金額書いちゃった‥(^_^;)

それにしても‥青木‥都合のいい女‥いえ、男か‥それに
なってますねえ‥(笑)

8か月後、もう、7か月後ですね‥その頃が思いやられます‥。

どうか‥それまで青木が無事でありますように‥

‥死んだらつまんないです‥

‥神様‥薪さんをこれ以上悪魔にしないで下さいっ(T_T)

せっかくご紹介下さったのに‥悪口雑言‥ご無礼いたしました。
‥愛すればこそなのですよ‥しづさん‥許してv-238

ruruでした(-_-;)




Kさまへ

いらっしゃいませ、Kさん。(^^


> 実はワタクシ、「竹内警視の受難(2)」に出てきた
> 「第九の凸凹コンビ」という表現を見た瞬間から、
> 「第九のオール阪神巨人」という言葉が頭にこびりついてしまい困っております。

うははははは!!!
たしかに、このふたりはあーゆー感じです!

> ‥‥だって、ここの二人、夫婦漫才にしか見えない‥‥ていうかドツキ漫才?

はいはい、ドツキの方ですね!
男同士ですし、両方ともそんなに口数が多いほうじゃないから、リアクションで笑いを取ると!


> 薪さんから助走つきの飛び蹴りをされて壁に顔面激突する青木くんが容易に想像できてしまう日が来ようとは‥‥
> 「桜」を読んだ時には想像もしていませんでした!!(大爆笑)

わたしも考えてませんでした(笑)
まさか、こんなアホ話になるとはねえ(^^;
ああ、でも、このお話はギャグなので、笑っていただけるのが一番うれしいです!
ありがとうございます、本望です!


Kさま、いろいろと大変みたいですね・・・・・・・。

わたしには何もできませんが、Kさまのご心痛が和らぐことを祈っております。
ほんのひと時でも笑っていただけたら、と切望いたします。
ありがとうございました。

ruruさんへ

こんにちは、ruruさん♪


> 青木‥死にますよ?
> 苛められるのはいいんですが‥
> 流血は避けていただきたい‥

あははは!
大丈夫です、これはギャグなので!
少年マンガでよくやってる、あのノリです。ええ、Kさまのご指摘通り、ドツキ漫才です(笑)


> それにしても‥青木‥都合のいい女‥いえ、男か‥それに
> なってますねえ‥(笑)

うちは女王様と奴隷なので(笑)
ruruさんのところの薪さんは、すっごく青木くんに優しいですよね。うちの青木くんが、チョー羨ましがってます。

> ‥神様‥薪さんをこれ以上悪魔にしないで下さいっ(T_T)

うちの薪さんは、悪魔っ子です(^^;
もー、こころの底から意地悪です。好きなら好きなだけ、イジメたくなっちゃうんですよ。コドモなんです。


> せっかくご紹介下さったのに‥悪口雑言‥ご無礼いたしました。
> ‥愛すればこそなのですよ‥しづさん‥許してv-238

いえいえいえ!
悪口なんて思いませんでしたよー!(←よくお前には皮肉がきかない、と言われる)
うちで不愉快になった方々がそちらに行くと思いますので、よろしくお願いしますm(_ _)m

ありがとうございました!

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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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