ナルシストの掟(4)

ナルシストの掟(4)






 痛む拳をさすりながら、薪は床に転がった男の足を蹴り飛ばした。
 まったく、懲りない男だ。こいつは何度こんな目に遭っても、ところ構わず迫ってくる。薪が寝室以外ではその行為を嫌がるのを知っていて挑んでくるのだから、これはもう嫌がらせと解釈して間違いないだろう。

「下着が見えちゃいますね、それ」
 ひょいと腹筋で起き上がって、悪びれた様子もなくそんなことを言う。このパターンは何度も経験済みだから、今更気まずくなったりしない。

 足を上げたとき、スリットの間から下着が見えた、と青木は言った。立っていれば平気だが、座ったときには露わになってしまうだろう。

「ボクサーだと、どうしても見えるか。ビキニパンツだったらいけるかな」
「え? そんな下着、持ってたんですか?」
「もらいものだけど」
「もしかして、間宮部長がクリスマスの時に贈ってきたやつですか?」
 当たりだ。3ヶ月も前のことを、よく覚えているものだ。
 この記憶力があれば、警視の昇格試験も10位以内で合格できたはずだと思うが。まったく、肝心のところでダメな男だ。

「捨てるって言ってませんでしたっけ?」
 微かに咎めるような口調で言われて、薪は心の中で年下の恋人を嘲笑う。
 青木はけっこうなヤキモチ妬きで、とんちんかんな誤解が多い。周りの男がみんな薪のことを狙っている、という妄想に取りつかれている節がある。
「薪さんは隙だらけなんですから、気をつけてくださいね」などと注意を受けたが、38にもなる男にそういう目的で近寄ってくるバカは、こいつくらいのものだ。

「みんなの前では、そう言ってましたよね」
 言った。
 間宮が贈ってきたのはセクシーな黒いビキニで、こんなの穿けるか! と怒鳴った覚えがある。
 でも、べつにパンツに罪があるわけじゃなし。
 ……特別な日に穿いて、どこかのバカを喜ばしてやろうかな、なんて考えてたわけじゃない。断じて。

 バカは無視して、クローゼットに戻る。
 下着を替えて、姿見に自分を映してみる。
 これならしゃがんでも、下着は見えない。現場で捕り物になっても、男とバレずに動くことができそうだ。

 等身大の姿身に映る自分の姿に、薪はその日3度目のため息を吐く。
 服装を替えただけなのに、鏡の中の自分は他人のように見える。脇田課長に渡された黒髪のショートボブのカツラをつけなくても、充分女の子で通用する。

 薪は横を向いて、その画像を脳から消去しようと試みる。
 気持ち悪い。
 僕は男なのに。
 こんな格好をして、似合うとかきれいだとか言われて。化粧をしなくても不自然じゃないのが、気味悪い。

 イヤだイヤだ、女の出来損ないみたいなこんな顔。
 青木は好きだって言ってくれるけど、僕は大嫌いだ。

 乱暴に服を脱ぎ、パーカーとジーンズに着替える。眼の奥に居座る残像を振り払って、手で髪を整える。
 鏡に向かってイッと舌を出し、薪はリビングに戻った。





*****

 とうとう薪さんのオトメ化が最終段階へ……勝負下着まで用意して……こんな薪さん、イヤ。(笑)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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