ラストカット 前編(6)

 10000ヒット、ありがとうございました!(〃∇〃)

 桁が増えると嬉しさもひとしおです。
 マメに覗いてくださって、本当にありがたいです!


 それと、新規のお客様で、最初のお話から読んでくださってる方。
 律儀にポチポチと拍手を押していただいて、どうもありがとうございます。
 しづは単純なので、拍手をいただくと、読んでくださってるんだわ、喜んでくださってるんだわ、と思えて、とっても嬉しくなります。
 どんな方かしら、どの辺で引かれるのかしら、といつものようにビクついております。(笑)
 どうか、太平洋のように広いお心でお願いします。
 以上、お礼でした。






ラストカット 前編(6)




 隣のベットに座って美味そうにカレイの煮付けを食べている男は、顔と両腕を包帯で巻かれて、まるでミイラのようだった。
 顔の傷は覚えがあるが、腕は薪のせいではない。腕や足は凍傷を起こしていたそうだから、その薬が塗布してあるのかもしれない。

「オレ、病院の食事って生まれて初めてです。けっこういけますね」
 青木は味の薄い病院食を夢中で食べている。
 第九に入ったばかりの頃は、こんなによく食べるやつだとは思わなかった。あの時期青木は、初めて見るMRIの画の凄惨さに打ちのめされて、一時的に食欲を失っていただけだったのだろう。たしかにこのくらいの食欲がなければ、この体格は維持できまい。
 プラスチックの飯椀が空になり、青木は周りを見回した。嫌な予感がする。
 大きな手が枕もとのボタンを押す。「どうしました?」と言う看護師の声が聞こえてくる。

「すいません、ごはんお代わり」
「間違えましたっ、何でもありません!」
 薪は大声で言葉を被せて、スイッチを切った。
 昨日までICUにいたやつが、ごはんのお代わりって……!
 ICUを出たばかりの患者に普通食が供されるわけはないから、青木が今食べているのは薪の食事だ。青木の食事は5分粥と梅干だけだ。熱のせいで食欲のない薪は、青木と食事を取り替えることにしたのだ。こういうことは本当は良くないのだが、実際はけっこうやっていることだ。

「僕に恥をかかせるな! これを食え!」
「いいんですか? ありがとうございます」
 結局二人分の病院食を平らげて、それでもまだ物足りないらしい。食い意地の張った重症患者は、岡部が持ってきてくれた果物篭に手を伸ばし、中から林檎と蜜柑を取り出した。

「オレ、入院するの初めてなんです。なんかわくわくしますね」
「入院したことないのか」
「ないです。病気も怪我もしたことないです」
 果物ナイフで、林檎の皮をくるくると剥いていく。なかなか手際がいい。
 青木は、ちょくちょく薪の家に来ては夕飯を食べていく。部下には当然手伝いをさせる。初めはまったく役に立たなかったが、この頃はそうでもない。最近は包丁の使い方も上手くなった。
 少なくとも、雪子よりは遥かに上手い。雪子が林檎を剥くと、食べられるところは芯の周りだけになる。だから雪子は林檎は丸のまま齧ることにしている。
 
「風邪くらいひいたことあるだろう」
「まあそれくらいは。でも、最後に風邪ひいたのいつだっけ」
 器用に手の上で四つに割って、ひとつを薪に差し出す。
 飯粒は喉を通らなくても果物は大丈夫かもしれない。そう思って自分に剥いてくれていたのか、と気付く。
「たしか中学2年の夏に」
「そこまで遡るのか。どんだけ丈夫なんだ、おまえ」
 林檎は、カシッとした歯ごたえで瑞々しかった。蜜入りで、とても甘い。

「ていうか、バカは風邪ひかないってホントなんだな」
「薪さんはよく風邪ひいてますもんね。確か去年も風邪で入院してましたよね」
「あれはおまえが」
 ドアが開いて、岡部が入ってくる。
 手に捜査報告書を持っている。第九から薪のPCに送ってもらったものだ。病棟で電子機器は使えないから、病院の設備を借りてプリントしてきてくれたのだ。

「薪さん。犯人が判りましたよ」
「本当か」
「薪さんの言った通りです。会社の同僚の男でした。捜一のほうへ報告はしましたから、今日明日中には捕まるんじゃないですか」

 あの老夫婦の娘を殺害した犯人は、薪が睨んだ人物だった。
 別に、猟奇殺人ではなかったわけだ。それを装って捜査を攪乱しようとしただけだ。あまりに凝りすぎたのが仇になって、MRIにかけられてしまった。普通の殺害方法だったら、こんなに早く捕まらなかったかもしれない。
「担当は今井だったな。ご苦労だったと伝えてくれ」
「電話でもいいですから直接言ってやってください。喜びますよ」
「わかった。後で電話しておく」
 これで一安心だ。何もかもうまく行った。あとは、青木にお灸を据えるだけだ。

 薪は怒っている。
 青木がしたことに対して、心の底から憤っている。

「青木。もう二度とあんな真似はするな」
「はい? あ、やっぱり病院では、ごはんお代わりしちゃダメなんですか?」
「ちがう。僕を助けるために、自分を殺そうとしたことだ」
 食べかけの林檎を盆の上に戻して、青木は薪のほうを見た。静かな目だった。

「僕にコートを二枚とも着せて、棺の中に入れたそうだな。あの吹雪の中でコートを脱ぐなんて、自殺行為だ」
 薪の怒りを含んだ視線を受けてなお、青木は端然と微笑んでいる。
 オレはあなたを助けたのに、何故怒られなければいけないんですか――そう反論してくることを予想していた薪だったが、青木は何も言わなかった。

「次からは自分の安全を第一に考えるんだ。避難できる場所があれば、自分がその中に入れ」
「あの棺は小さくて、オレじゃ入れませんでした」
「そういうこと言ってんじゃないだろ! 僕なんかを助けようとして、自分を危険な目に遭わせるなって」
 薪の怒りを含んだ視線から目を逸らし、青木は蜜柑の皮を剥き始める。白い筋を丁寧に取って、房を小皿に並べ始めた。

「もう一度同じ状況になったら、オレはまた同じことをします」
「なんだと? 僕の命令が聞けないのか!」
「薪さん」
 岡部が口を挟んできた。
 岡部は何かと青木に甘い。後輩を庇うつもりなのだろうが、これは室長としての指導だ。邪魔はさせない。
「岡部は黙っててくれ。僕はいま青木と話を」
「いい加減に自覚してください。あなたは室長なんですよ」
「わかってる」
 部下を守るのは上司の仕事だ。だからこそ眠ってしまった青木を起こそうと、喉が痛くなるほど叫んだのだ。

「わかってません。いいですか。あなたはいつも室長として、俺たち部下を外敵から守ろうとする。それは上司として正しい姿です。でも、逆にあなたが危険な目に遭えば、俺たちはそれを守るんです」
「そんなこと、僕は頼んでない!」
 青木も似たようなことを言っていたが、岡部の影響だったのか。つまらないことをこの単純バカに吹き込んでくれたものだ。
「頼まれなくてもやるんです。俺たちはあなたの部下ですから。俺があなたと一緒だったら、たぶん青木と同じことをしましたよ」
 岡部の言葉に、亜麻色の大きな瞳が揺らめいた。
 視界がぼやける。熱が上がってきたらしい。こいつらがあんまり聞き分けのないことを言うからだ。

「……もう、たくさんだ」
 部下たちの目を見れば、彼らの言葉が口先だけのものではないことが分かる。薪のことを本気で心配し、大切に思ってくれている。薪に危険が迫れば、身を挺してでも守る気でいる。
 しかし、それは薪の望んだことではない。

「僕はもうたくさんなんだ。僕のせいで誰かが死ぬのは、もう見たくないんだ」

 稀代の殺人鬼、貝沼清隆の起こした28人殺し。その原因となったのは、薪への歪んだ恋情だった。
 貝沼の脳を見て自殺した旧第九の部下たちを含め、40人もの尊い命が失われたのは自分のせいだ―――薪はそのことで、ずっと自分を責めてきた。
 そんな自分を守るために、また誰かが命を失う。それは薪の背負った罪をさらに重くすることだ。
 これ以上、十字架(つみ)はいらない。すでにこの世では償いきれない量刑だ。
 今でさえ精一杯なのだ。ここにさらに重みが加わったら、間違いなく薪は潰れる。だから部下たちの気持ちは受けられない。

「大丈夫ですよ。オレたちは死にませんから」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Kさまへ

Kさま、こんにちは!

> そして、10,000ヒット、おめでとうございます。

ありがとうございます!
Kさまには色々と教えていただいて、本当に感謝してます。(^^


> しづさんの1万打をお祝いする(?)かのような、楽しい記事が今朝新聞に載っていました。
>
> 「スタイル自慢 女装警官出動中(朝日新聞)」

> 女性を狙うひったくり犯を逮捕するため、愛知県警の男性警察官が女装してパトロールしてるんだそうです。その変身ぶりは、一般男性からナンパされる程だとか。

・・・・・・マジですか!?
おおおー、本当だ・・・・・しかもナンパされるって。
室長の災難を地で行ってるよ(笑)

> そしてそのおまわりさんのお名前が‥‥「鈴木」さんと「曽我」部さんだったんです。
> 朝の静かなリビングに「‥惜しいっっ!!」という私の声が響き渡ったのは言うまでもありません。

惜しい!!
てか、あのふたりの女装って・・・・げらげら!!
ああー、でも偶然ですね。
そうですよね、まったく関係のない名前じゃないですから。

> 女装ポリスはこのお二方意外に二人いらっしゃるそうですが、青木さんとか今井さんとか宇野さんとか小池さんとかだったらどうしましょう‥‥

きっとそうです。
絶対、そうですね!(断定)


>薪さんはさすがにいないだろうけど、槇さんとか真木さんなら‥‥でも、岡部さんと山本さんは勘弁してほしい‥‥などと朝から楽しい思いをさせていただきました。

岡部さんと山本さん・・・・・ぶふっ!
それはもう、お化け屋敷の方へ回ってもらうとして(笑)

ええ、ニュースにもなってるくらいですから、オープンで問題ないと思いますよ(^^
引ったくり犯への牽制も兼ねてるんでしょうね。


> 青木くん、ICUに何日くらい入ってたのかわからないけど、いきなり普通食って‥‥どんだけ胃が丈夫なんでしょうか。胃弱の薪さんにその強靭さを少しでいいから分けてあげて欲しいです。

ギャグなんで。<こら!
ええ、あの、身体中傷だらけになっても、次のコマでは完全復活してる、あのノリだと思ってください。(現実感、ゼロ)

> お二人とも、早く良くなって下さいね。

はい、ありがとうございます。
明日には元気になってますよ、きっと(笑)
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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