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ラストカット 後編(3)

 半年近く前になりますけど。
 500拍手のお礼のリクを募集したとき、『ふたりきりで露天風呂』というのをいただきまして。(かのんさん、覚えてらっしゃるかしら)
 後の話に出てきますので、とその時は先送りにさせていただいたのですが。
 それがこの章です。

 これはもう10ヶ月も前に書いたお話なので、細かいところは忘れちゃったし、あれー、なんでこんなこと書いたんだっけって、あちこち綻びているのに修正もままならず。
 残念な記憶力ですみません。(^^;





ラストカット 後編(3)







 雪に囲まれた岩の狭間に、滾々と湧き出る熱いお湯。それが自然に出来た溝を通って窪みに溜まり、大きな池になっている。
 ここは地元の人しか知らない温泉だ。
 お湯の中には先客がいる。野生のサルだ。ここは彼らの大浴場なのだ。
 
「ここに来るサルは大人しいですから。ひとを襲ったりしませんよ」
 青木は回復期には、この温泉に日参していた。病院の看護師に凍傷に良く効くと勧められたからだ。サルたちはまだ自分のことを覚えているかもしれない。

 ボストンバックから大きな布とバスタオル、海水パンツを取り出す。手ごろな木の枝を探して布を掛け、簡易式の脱衣所を拵える。
「薪さん、この中で水着に着替えてください」
「ん? なんか言ったか?」
 ……もうお湯に入っている。
「薪さん……脱ぎっぷりよすぎです」

 薪が脱いだ服が、岩の上に置いてある。
 防寒対策の白いロングコートに、パステルグレーのジャケット、同系色のズボン。春らしい薄緑色の開襟シャツに深緑色のネクタイ。よほど急いで服を脱いだと見えて、ズボンと下着が重なったままだ。
 青木は苦笑して薪にタオルを差し出し、薪の衣服を脱衣所に運んだ。コートは雪が積もっていない木の枝に掛けておく。こんなところに置いたら濡れてしまう。
 ここには着替える場所もないし、地元の人が来るかもしれないから、それなりの準備をしてきた。布を木の枝に掛けて簡易式の脱衣所を作り、その中で薪に水着に着替えさせて、温泉に入ってもらうつもりだった。

「薪さん。水着、着たほうがいいですよ。誰か来たらどうするんですか?」
「こんなとこに、男の裸を見て悲鳴を上げるような若い女の子なんて来ないだろ。それに、僕は男だから見られたって平気だ。だいいち温泉に水着で入るなんて。サルに失礼だ」
 最後の理屈はよくわからない。しかし、薪がわけのわからない理屈をこねるのは、機嫌がいい証拠だ。

「サルが来る温泉があるって、あれ嘘じゃなかったんだな」
「はい。ホテルの人に聞いたんじゃなくて、病院の守衛さんに聞いたんですけど。場所も奥平じゃなくて、病院のすぐ側なんです。あの時は後ろにいた男を撒こうと思って。嘘ついて、すみませんでした」
「ちゃんと説明してくれれば、引っかいたりしなかったのに」
 もちろん、正直に話そうとした。後で必ず連れて行きますから、と叫んだような覚えもある。聞く耳を持たなかったのは薪のほうだが、それを言うとまた傷薬が必要になる。

 クーラーボックスから吟醸酒を出して、木の盆に載せてお湯に浮かべてやる。亜麻色の瞳がいっそう輝いて、つややかなくちびるが冷たい甘露にキスをする。
「天国だ~!」
 雪景色に温泉に『綾紫』。自分を幸せにしてくれる3大アイテムが揃って、薪は大はしゃぎだ。今回の青木の計画は当たりらしい。
 
 実は、今日のデートに青木は勝負を賭ける気でいる。
 告白してから1年半。薪は一向に答えをくれない。
 いや、何回かきっちり振られているのだが、この1年半の間には色々なことがあって、そのたびに薪との距離は縮まっていくように思える。
 今日だって、二つ返事でついてきてくれた。決して嫌われているわけではない。その証拠に、薪はこんなことまで言い出した。

「あ~、気持ちいい。おまえも早く入れよ」
 恐ろしいことをさらっと言ってくれる。青木の自制心を信用してくれているのかもしれないが、他の人間がいる公衆の大浴場ならともかく、2人きりの温泉なんて危なすぎる。
「オレはいいですよ」
「なんで?」
「なんでって」
 このひとは自分の気持ちを知っているはずなのに、どうしてこう鈍いのだろう。
 事件のときは視覚者の心情をあんなに的確に見抜くくせに、と恨みがましい目つきになってしまう。
「なんだ、その顔。いいから入って来い! 僕の言うことが聞けないのか。僕はおまえの上司だぞ!」
「はいはい。わかりましたよ」
 薪は早くも絡み酒だ。温泉で身体が温まっているから、酒の回りが早いらしい。

 薪のために用意した脱衣所を使うことにする。
 服を脱ぐところを見られるのは、変に恥ずかしいものだ。脱ぎ終わった後のほうが露出度は高いはずなのに、あれはどういう心理なのだろう。薪はぜんぜん気にしないようだが。
「なんだおまえ。男のクセに裸になるのが恥ずかしいのか?」
 腰にタオルを巻いて出て行くと、ひとにイチャモンをつけるのが得意な上司が、また何か言っている。男らしくないだの、さては自分の身体に自信がないんだろうだの、勝手に言っててくださいという感じだ。酔っ払いの戯言をいちいち真に受けていたらきりがない。

「タオルはお湯につけないのが温泉のマナーだろ」
「ほっといてください。いいんですよ、ここは。水着も大丈夫なんですから」
 こんなことなら、自分の水着も持ってくればよかった。薪のために用意した水着では、片足しか入らない。
 マナーを説くだけあって、薪はタオルを頭に載せている。しかし、普通こういう場合は前を隠すものだが。薪の羞恥心はサル並みだ。

 周りを雪に囲まれているから、気温はかなり低い。お湯に入って温まらないと、10年ぶりに風邪を引いてしまう。
 なるべく薪から離れた位置でお湯につかる。ここへ来るのは5ヶ月ぶりだが、やっぱりとても気持ちがいい。

「あれ? おまえって」
 薪がこっちを見ている。サルは他人の裸も気にしない。
「なんですか?」
「おまえって、こんなにいい身体してたっけ」




*****


 ま、薪さんがセクハラオヤジに……青木くん、ピンチ?(笑)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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犬ですから・・・

こんばんは 寝不足でへろへろのわんすけです。(冷え性だから冬は寝付けない)

えっと・・・とりあえず薪さん・・・・。「官房長の娘」で目覚めたはずの警戒心とか常識は風船つけてどっかに飛ばしてしまったのですか?

>こんなとこに、男の裸を見て悲鳴を上げるような若い女の子なんて来ないだろ

ええ・・まあ・・・みどりちゃんも、あかねちゃんも、あおいちゃんも来ないと思いますけど・・・

 >「なんで?」

「ファイヤーウオール」で何を学んだのですか・・・
頭が良いのに・・・・・・・・・・   鳥頭だったんですね!!



・・・・・・って、マウスの方がまだ学習能力ありますよ!(@_@;)
マウスと比べたら、あるじゃーのんに失礼なぐらいですよ!!!


 >「おまえって、こんなにいい身体してたっけ」

・・・・・・・・・薪さんのあほ・・・

フクロコウジ陸軍トリアタマ連隊員数外大佐・・・

Mさまへ

青木くんがどんな風に薪さんの水着を購入したか、ですか?
可笑しい・・・・おかしいよ、Mさま・・・・(笑い転げた)

いや、普通にSサイズの水着を買っただけだと思いますけど。
だけど、それを想像しながら購入したでしょうね。きっと、これを薪さんが穿くんだ、と思ったら頬ずりぐらいしたかもしれませんね。
・・・・・ヘンタイ・・・・。

わんすけさんへ

いらっしゃいませ、わんすけさん。

まあ、冷え性なんですか?
女の人には多いんですよね。
わたしの彼女も冷え性で、一緒に寝てても翌朝まで足が冷たいまんまなんですよね。足の毛細血管ないのかな、と思ってましたが、わんすけさんもそんな感じですか?
生姜紅茶は効く、と彼女が言ってましたけど。試してみてください。(^^


> えっと・・・とりあえず薪さん・・・・。「官房長の娘」で目覚めたはずの警戒心とか常識は風船つけてどっかに飛ばしてしまったのですか?
>
>  >「なんで?」
>
> 「ファイヤーウオール」で何を学んだのですか・・・
> 頭が良いのに・・・・・・・・・・   鳥頭だったんですね!!

おおお、わんすけさんが鋭い指摘を!
うちの薪さんは、本当に学習しないやつですね~~!!


> ・・・・・・って、マウスの方がまだ学習能力ありますよ!(@_@;)
> マウスと比べたら、あるじゃーのんに失礼なぐらいですよ!!!

アルジャーノンは特別でしょう。
ああ、でもあの話は泣いたな・・・・男爵に花束をあげてください・・・(爆)


>  >「おまえって、こんなにいい身体してたっけ」
>
> ・・・・・・・・・薪さんのあほ・・・
>
> フクロコウジ陸軍トリアタマ連隊員数外大佐・・・

トリアタマって(笑)
どんどんあだ名が増えるな、うちの男爵。(^∇^)
大佐って、かなり位は高いですよね?さすが男爵!(ちがう)

ふーふーふー。
たしかに薪さんの行動は矛盾しているように見えますが。
このときの彼の本当の気持ちは、果たして次のどれでしょう?

1.トリアタマ(ファイヤーウォールは2061.3のことなので。1年以上経ってて、警戒心も薄らいでいた)
2.ファムファタール(青木くんの気持ちを知った上で弄んでた)
3.腐ってもいいと思ってた(襲ってきたら受けちゃうつもりでいた)

さあ、正解はどれ?
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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