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エピソード・ゼロ(3)

 ご注意ください、暗黒系です。

 薪さんが好きな人は読まないでください。
 お食事中の方は読まないでください。
 動物好きの方は読まないでください。
 それからえーっと、……もう、すぎさん以外、読まないでください……。





エピソード・ゼロ(3)





 ―――僕に罰を。

「薪くん。あんまり無理しちゃ駄目だよ。昨日も床で寝てただろう」
「僕をベッドまで運んでくれたの、田城さんだったんですか? ありがとうございました。ええ、大丈夫です。これからはちゃんと仮眠室で寝ますから」
 ―――誰か、僕に罰を。

「薪くん。ぼくのところへおいでよ。歓迎するからさ」
「ありがとうございます。小野田さんのお気持ちは、とても嬉しいです。だけど、僕は第九に残ります。僕が今ここを離れたら、第九は潰れてしまいますから」
 ―――罰を。

「薪警視正の行動は、完全な正当防衛であります。鈴木警視は重度の錯乱状態にあり、長年面倒を見てきた部下に2発の弾丸を発砲された薪警視正はむしろ、被害者であったと検察側は判断します」
 ―――誰でもいいから、僕に罰を。

「マスコミの言うことなんか、気にしないで。元気出してください。わたしたちは薪警視正の味方ですから」
「ありがとう。差し入れ、美味しかったです」

「お前は悪くないよ。そんなに思い詰めるなよ」
「うん。もう大丈夫だよ。心配かけて、悪かったな」

 他人のやさしさが。
 僕を思いやってくれるみんなのこころが、僕を包む。
 
 ――――死にそうだ、と薪は思った。
 
 真綿で首を絞められるように、段々、息ができなくなっていく。
 優しい言葉はいらない。いらないんだ。
 僕に必要なのは。



***



 暗闇の中で、薪は目を開けている。
 久しぶりに自宅に帰って床に入ったものの、一向に眠気は差してこない。
 もう、何日寝てないんだろう。
 研究所にいれば仕事があるから、時間をもてあますことはない。薪は何も考えず、機械的に仕事をしていればいい。限界を超えれば、からだの方が勝手に休息を取ってくれる。あれが薪にとっては、一番楽な時間の過ごし方なのだ。

 こんなふうにやることもなく、漫然と空を見ていると。
 ほら、出てきた。

 白いワイシャツが、ぼう、と浮かび上がり、男のからだになった。顔は闇に沈んで見えないが、背が高く、若く逞しい。どちらかというと貧弱な体つきの薪が羨望する、大柄な肉体。
 その左胸から、真っ赤な血が流れはじめる。
 最初は針で突いたような小さな点。みるみる広がって、やがてはシャツから滴り落ちるほど。
 泉のように湧き出る赤い液体は、細い川のごとく流れ、薪の足元に集まって小さな池を作る。

 次第に水かさを増す血の池に、薪は陶然と立ち竦む。
 その液体は生臭く鉄臭く、不快な臭気を発していたけれど、たしかに親友の匂いがして。だから薪は彼に包まれていくような感覚に、うっとりと目を閉じる。
 白いつま先が、踵が、くるぶしが。侵食される細胞が、歓喜を訴える。

 ふくらはぎの中間地点で、水位は止まった。
 見ると彼の肉体はなく、シャツだけが池に浮かんでいた。ワイシャツは血に染まることもなく白いままで、それは彼の清廉な人格の証。でも、肝心の彼はいない。
 薪は慌てて、地べたに手をついた。夢中で血溜まりの中を両手で探る。しかし、そこには固体らしきものはない。
 この中に、かれは溶けてしまったのだろうか。

 かれはどこにもいない。
 永遠に、僕の前から姿を消してしまった。

 薪を包んでいた赤い水は徐々に引いていき、最終的に薪は真っ白な空間に取り残された。上も下もない、空虚な世界。色もなく、音もない。自分のからだ以外、薪の目に入るものはない。
 膝の上に投げ出された、華奢な手が2本。それを薪は、異質な生き物のように見つめる。その二つには、僅かな相違点があった。
 手のひらでは分からなかったが、裏返すと片方だけ、爪の間に血が残っている。魚の内臓を引き出した後のように、爪と肉の間に深く深く染みこんだ朱。

 この手が。
 この右手が、僕の大事なひとを奪った。この世でたったひとりの、僕の親友を殺したんだ。

 左手が、まだ血に汚れていない自分の左手が、罪を犯した右手を強く握り締めた。爪が右手の甲を抉った。微かに滲む朱。
 心地よさに、薪はうっすらと微笑んだ。

 ―――もっと。

 起き上がり、おぼつかない足取りでふらふらと歩いて、サニタリーに入った。鏡の前には歯磨きセットと片刃のカミソリ。
 カミソリを左手で持って、右の手のひらにあてがう。すうっと刃を滑らせると、ゾクゾクするような美しい色が、白い手から流れ出した。

 ―――もっと、罰を。

 ふと目を上げると、鏡の中に薄ら笑いを浮かべた男の顔があった。
 寝乱れた亜麻色の髪。出来の悪い蝋人形のように艶のない頬。長い睫毛に囲まれた髪と同じ色の瞳の、ガラス玉のように無機質な光。

 薪は、その人物がだれかを理解する。
 これは、鈴木を殺した男だ。

(こいつがぼくのすずきをころした)
 刹那、激しい憎しみが薪の全身から沸き起こった。
 身体中の血が、沸騰するような怒りだった。脳の部分は特に熱く、細胞が焼き切れるかと思った。
 怒りに任せて、血にまみれた右手を思い切り鏡に叩きつけた。鏡には細かくひびが入り、それは薪の右手の4本の指を本人が望むより遥かに軽く傷つけたに過ぎなかった。

 しかし、薪にはそれで充分だった。
 憎むべき男の顔は、不均一に崩壊した鏡面に副うように醜く崩れた。

 ―――もっと、もっと。
 人殺しに、重い罰を。

 鋭く薄い刃が、ゆっくりと白い頬に押し当てられる。冷たい金属の感触。
 そのとき、静寂を破ってガシャンと何かが割れる音が響いた。
 音のした方向に行って見ると、大きな石が窓ガラスを破って部屋に投げ込まれていた。部屋の入り口に立ち尽くしていると、続いて何かが放り込まれ、どさりと鈍い音を立てて床に落ちた。次いで、急ぎ遠ざかっていく足音。

 薪は、その場に剃刀を落とした。
 薄暗い部屋の中に、足を踏み入れる。迷いなく進む優雅な足を、ガラスの破片が傷つけていく。
 夏の夜の外気が流れ込む窓辺に寄り、床に両膝をつく。月明かりでキラキラと輝くガラスの欠片に彩られたそれを、薪は両手で抱き上げた。
 持ち上げると、その痩せた腹からずるりと長い筒状のものがこぼれだした。どす黒く腐敗して、蛆が沸き始めている内臓。泥だらけの乾いた毛並み。
 薪にプレゼントされたのは、中型犬の死骸だった。

 凄まじい悪臭を放つ死体を抱いたまま、薪はゆっくりと床に身を横たえた。ガラスが薪のからだを数箇所傷つけたが、痛みは感じなかった。

 ありがとう。
 どこの誰かは知らないけど、僕の欲しかったものをくれて。

 犬の首に顔を埋め、死の匂いを肺腑いっぱいに吸い込んで、薪は4日ぶりの眠りについた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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読んじゃいました!

おはようございます☆

読ませていただきましたが、イタグロも雪薪も大丈夫ですよ!
イタグロはもう悪夢で免疫ついてますし、
雪子は原作の雪子と全然違って素晴らしく格好良い女性で大好きですから☆
これだけはどーしてもお伝えしたかったので参りました!

この時期は生涯で一番辛い時ですね・・・
薪さんの絶望感は半端無かったでしょうね・・・
薪さんの中で大半、というかほとんどを占めていた鈴木さんの存在。(てか全部?)
その一番大切な存在が突然いなくなった、それも自分自身の手によって・・・

しづさんのコメレスの、
>薪さんは彼らに拒絶されてしまいました。彼らの人生から締め出されてしまったのです。だから、未来永劫許されないのです・・・・。

この一文が一番こたえました・・・(TT)(TT)(TT)
大好きな鈴木の、大好きな家族からも拒絶されるなんて辛すぎる・・・

薪さんが本当の意味で、この罪と罰の世界から解放される時を見守っております・・・
(青木ーーー!!!ガンバレーーー!!!はよ行けーーー!!!)

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コハルさんへ

いらっしゃいませ、コハルさん(^^
って、大丈夫ですか~~!?
コハルさん、こういうの苦手じゃなかったですか?

読んじゃいました、とお題にいただきましたが、わたしも見ちゃいましたよ。コハルさんのあれ・・・。
すごかったです・・・色々な意味で・・・・(//_//)


> 読ませていただきましたが、イタグロも雪薪も大丈夫ですよ!
> イタグロはもう悪夢で免疫ついてますし、
> 雪子は原作の雪子と全然違って素晴らしく格好良い女性で大好きですから☆
> これだけはどーしてもお伝えしたかったので参りました!

ありがとうございます(;;)
よかった・・・・。
はい、『デート』のときの悪夢に比べれば、なんてことないですね!とりあえず、五体満足ですからね!(どんだけひどいもの書いてんの、わたし)

うちの雪子さん、カッコイイですか?
うれしいです。彼女にはこうあって欲しい、と思いを込めて書いてます。

あの、それでコハルさん。
とってもうれしかったんですけど、その・・・・ひとつだけ、突っ込んでいいですか?

コハルさんのコメ、『薪×雪』じゃなくて『雪薪』になってるんですけど。

相手が女の人でも、薪さんが受けなんですか!?
男でも女でも、薪さんが下!?
もう、コハルさんらしくて大爆笑しちゃいました☆


> この時期は生涯で一番辛い時ですね・・・
> 薪さんの絶望感は半端無かったでしょうね・・・
> 薪さんの中で大半、というかほとんどを占めていた鈴木さんの存在。(てか全部?)
> その一番大切な存在が突然いなくなった、それも自分自身の手によって・・・

はい。
薪さんが自分を解放できる唯一の相手が、鈴木さんだったんです。笑ったり怒ったり泣いたり、薪さんが人間らしくなれるのは、鈴木さんの前でだけだったんです。それが失われてしまったので・・・・。
やっぱり、15年間積み重ねてきた年月は大きいです。


> しづさんのコメレスの、
> >薪さんは彼らに拒絶されてしまいました。彼らの人生から締め出されてしまったのです。だから、未来永劫許されないのです・・・・。
>
> この一文が一番こたえました・・・(TT)(TT)(TT)
> 大好きな鈴木の、大好きな家族からも拒絶されるなんて辛すぎる・・・

うちの薪さんは、小さい頃に両親を亡くしてます。家庭というものに、ずっと憧れていたんです。叔母さんの家では、それは得られなかったんですね。
で、それを与えてくれたのが鈴木さんの家族だったんです。
鈴木さんの家族は、みーんな薪さんのファンで。薪さんが家に来ると、お母さんは張り切って料理を作るし、お父さんは上等のお酒を買ってきちゃうし、妹はケーキを買ってくる、みたいな。(そういうお話も書いてあります)
それがあの事件の後では、こんな・・・・・本当に、辛すぎる・・・・(って、誰が書いたの)


> 薪さんが本当の意味で、この罪と罰の世界から解放される時を見守っております・・・
> (青木ーーー!!!ガンバレーーー!!!はよ行けーーー!!!)

よし、コハルさんのゴーサインでた!
行け、青木くん!

ありがとうございました(^^


あ、そうだ、こんなところでなんですけど、クレイモア読んでます!
涙なしに読めないんですけど・・・1巻の最後で泣き、覚醒しかけたクレアがラキによって元に戻るシーンで泣き、テレサのところで大泣きし・・・・・しづが泣くたびにオットがティッシュを取ってくれるんですけど、終いには箱ごと渡されました・・・・(オット、呆れてた)

素晴らしいです!
読み終わったら感想書きますね!コハルさんのブログのコメ欄に!(だからそれは迷惑だって)

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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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