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エピソード・ゼロ(4)

 ようやく後半です。
 短い話でも、暗黒系は長く感じますね。
 推敲のための読み直しが辛かった~~。(><)←だったら書くなよ。

 ここからは辛くないです。
 落としたら上げないと。
 しづのお話の目的は、薪さんを幸せにすることですもの。



 みなさまの拍手とコメに励まされてます。
 すぎさん以外だれも喜ばない話だな、と読み直したとき思いましたから。(書いてるときは何も考えてない)

 でも、うちの薪さんはこういうひとだからこそ、青木くんが必要なんです……。





エピソード・ゼロ(4)




「岡部。今日も僕の家に来る気か」
「迷惑ですか?」
「かなりな」
 ムッと膨れるいかつい男の顔に、薪は笑いを噛み殺す。
 岡部は正直だから、思っていることが顔に出る。容疑者との駆け引きの時には見事に心を偽ることができるが、プライベートでは素のままの彼が表に現われる。そんな彼の率直さを、薪は好ましいと思う。

「今日は久しぶりに、チラシ寿司作ろうかな」
 独り言みたいに呟いてやれば、それが薪からの歩み寄りだと、ちゃんと彼は分かってくれて、引き結んでいた唇を苦笑の形に変える。
「茶碗蒸しも付けてもらえます?」
「けっこう図々しいな、おまえ」
「あー、本の整理、手伝いますから」
「プラス、風呂と蛍光灯の掃除」
「了解です」
 交渉が成立し、ふたりは軽く拳を合わせる。捜一にいたものなら誰もが知っている、それは喜びを表現する儀式。

 事件から約三週間後。
 第九は新しい仲間を迎えた。

 彼らとの出会いは、薪に新しい生活を運んできてくれた。
 様々な嫌がらせを受け、同じマンションの住民からの苦情が殺到したため、住まいも変えた。新しいマンションは、小野田が紹介してくれたいくつかの物件の中から選ばせてもらった。ローンの残りを清算するために、貯金の殆どを叩く羽目になったが、今の薪には大した問題ではなかった。当座の生活費があれば、それでいい。欲しいものなど何もないし、そんなに長く生きる予定もない。
 初めはそう思っていたが、岡部や他の職員との交流が増えるにつれ、捨て鉢な考えは為りを潜めていった。特に岡部との絆は日々深まり、今では仕事だけでなくプライベートの時間も多く共有するようになっている。
 警察内部の第九に対する反感は厳しかったが、薪の熱心なファンもいて、時々差し入れをしてくれた。女の子らしく、薪の苦手なプリンやケーキなどの甘いものが多かったが、中には薪好みの野菜がたっぷり入ったサンドイッチやピザなど、夕食代わりになるものもあり、こちらは素直にありがたかった。

 その日も、会議室から帰ってきた薪をクリスピータイプのイタリアンバジルが待っていた。
「いい匂いがするな」
「あ、室長。お帰りなさい。これ、室長の分ですよ」
 モニタールームに入った途端、鼻をひくつかせて部下のところへやってきた薪は、差し出されたピザの箱から一切れつまみ、その場でパクリと噛み付いた。可愛らしくすぼまったくちびるから、溶けたチーズが糸を引く。
 その様子を横目で見ながら、小池と曽我のふたりも別の箱からミート系のピザを取り出す。こちらはLサイズと大きくて、しかも二種類のチーズがこってりと載っていた。

「室長。システムチェックのことなんですけど。どうしても上手く行かなくて」
「どの辺でエラーが出る?」
「どの辺もこの辺も、なんかもう最初っから」
「どれ、見せてみろ」
 3人とも、モニターを見ながらピザを頬張る。時刻は夕方の6時過ぎ。ちょうどお腹が空く時間だ。

「お前らが食ってるのって、ハンドトスタイプだよな」
 テストが軌道に乗って機械任せになると、薪は、かねてから少しだけ疑問に思っていたことを口にした。自動的にウィンドウが開いていくモニターを眺めながら、エラーの兆候に神経を尖らせつつ、疑問の続きをふたりの部下に投げかける。
「どうしていつも、このピザだけクリスピーなんだろう」
 ふたりは何も答えなかった。黙ってモニターに集中している。
「これを差し入れてくれるのって、いつも同じ娘だろ? どんな娘なんだ?」
 カリッと焼かれた薄い生地と火の通ったトマトの強い酸味は、薪の好みど真ん中だ。他の差し入れには見向きもしない薪だが、このピザだけは外したくない。
「奥ゆかしい娘だよな。僕のファンだって言いながら、いっぺんも顔を見せない」
 チーズは少なめ、トマトは多め。そんな細かいトッピングまで薪の好みに合わせてある。よほど入念に自分のことを調べたのだろう。薪の友人の誰かが、彼女に協力しているのかもしれない。
「一度くらい会って、お礼を」

 そこまで言って、薪は突然立ち上がった。
 ピザの箱を抱えて、モニタールームを出て行く。

「……ばれたかな」
「薪さんのことだから。遅かれ早かれ気付いたろうけど、おわっ!」
 二人の呟きは、大きなエラー音に掻き消された。ピーピーという機械音が、ふたりの新米職員を焦らせる。
「エ、エラー出たぞ! どうすんだ、これ」
「慌てるな。まずはええと、このボタンだ!」
 曽我が手元のボタンを押すと、音はビービーという更に大きな警告音に変わった。
「なんか、怒ってるみたいだぞ!?」
「間違えたかな。じゃあ、これ?」
「いい加減に押すなよ、曽我! このままにして室長に聞いた方が確実……あ」
 モニターに意味不明の英数が流れ、急速に画面が切り替わっていった。4つの目が見つめる中で、やがてMRIシステムは沈黙し、真っ暗なモニターに初期設定の画面が。

「……リセットかかっちゃった」
「1週間分の捜査資料、飛ばしちゃったってこと……?」
 不吉な沈黙の後、小池の悲鳴がモニタールームに響いた。
「うあああ! 室長に殺される!」
「ヤバイ、ヤバイよ~。どうにかしないと」
「そうだ。岡部さんがやったことにしよう。室長、岡部さんの操作ミスは怒らないから」
「よし、それで行こう!」
「なにがそれで行こうだ!!」

 野太い男の声に怒鳴られて、二人の若者は思わず肩を竦めた。恐る恐る振り返ると、今まさに濡れ衣を着せようとしていた相手が、憤怒の表情で仁王立ちになっている。
「うわ!岡部さん、いたんですか!?」
「今、捜一から帰ってきたんだ。まったく、おまえらときたら!」
「ままま、お一つどうぞ」
「まだ温かいですよ、これ」
「いらん! ピザなんかで誤魔化されるか!」
 年長者の威厳を見せて、岡部は一通りの説教をした後、Lサイズのピザを手に取り、3口で食べた。
「結局、食べるんだ」
 小池がぼそりとこぼすのを聞かぬ素振りで、2枚目に手を出す。半分近くを一度に口に押し込んで、殆ど噛まずに飲み込んだ。良く噛んで食べろ、といつも薪に注意されるのだが、捜一で鍛えた早食いのクセはなかなか直らない。

「中庭で室長を見たぞ。ピザの箱を持ってた」
「室長、どちらに向かわれてました?」
「北」
 3人は心の中で、同時に同じことを考えた。
 北側に建っている研究棟に配置されているのは、第一から第四までの研究室。その1階でメスを握っているであろう女性のことを。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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