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エピソード・ゼロ(6)

 終章です。


 暗いお話を読んでくださった方、ありがとうございました。
 嫌な気持ちになってしまわれた方、申し訳ありませんでした。

 せめて最後はあおまきで。
 わたし、あおまきすとですから。





エピソード・ゼロ(6)




 耐え難い喪失感が襲ってきたのは、それからだった。
 雪子に許されて、鈴木の親には遠ざけられて、僕はこれからどんな理由で生きていけばいいのだろう。
 鈴木のいない、この世界で。
 すべての輝きを失った、灰色の空間で。
 目指すものもなく、励まし合う友もいない道を、どうやって歩いていけばいいのか見当もつかない。

 鈴木は、こんな僕をどう思っているんだろう。
 僕が殺した僕の親友は、僕に何を望むのだろう。

 生前の鈴木が望んでいたもの。それは、第九の仕事と―――愛しい婚約者。
 ならば答えは簡単だ。
 彼が命を懸けた職場を守り、彼の愛した女性の幸せに尽力し、僕の人生はそれだけのために。僕は鈴木が成したかったことを、必ず成し遂げてみせよう。

 考え抜いた末、やっと見つけた『自分がこの世に存在してもいい理由』。
 それを心に誓った日、薪はアルバムの中から鈴木の写真を幾枚か選び、部屋の中に飾った。写真の隣には、鈴木の好きだった白い百合を。

 朝に晩に、薪は写真に笑いかけ、話しかけ、キスをする。
 愛の言葉を語り、時には愛の行為すら。それは薪が取り戻した、15年ぶりの蜜月。

 僕は彼の囚われ人。
 鉄格子も拘束具もないけれど、この牢獄が僕の終いの住処。
 しなければならないいくつかのことを終えたら、きっと鈴木が迎えに来てくれる。


 

 そうして、新たに人生の目標を定め。
 粛々と人生の残務を消化する薪の前に、彼が現れた。
「青木一行です。よろしくお願いします」

 鈴木と同じ顔。
 同じ体躯、同じ性格、同じ魂。
 もしかしたら、と薪は思った。

 その予感は、青木が取った新人らしからぬ行動によって確信に変わった。
 彼こそ。
 天が使わした、執行人だ。
 躊躇なく、僕を煉獄の中に放り込んだ。僕の罪を暴き、知らしめ、確定させた。

 鈴木の脳を見てから始まった夜毎の悪夢を、薪は歓迎した。
 この断罪が続けられる限り、僕は生きていてもいい。

 待ち焦がれた処罰を受け入れたときの安堵感。自分の肌に爪を立てるときの安心感。一時の苦痛で、薪は暫しの平穏を得る。
 翌日、きちんと仕事ができるように、夜のうちにたっぷりと仕込んでおかなければならない。事前準備を念入りに行なうほど、明日はしっかりと立っていられる。
 だから、傷は深く、長く。
 いつまでもズキズキと疼くように、昨夜の傷跡の上を忠実に抉っていく。
 
 昼間は青木の顔を見る。そこに自分が殺した男の姿を重ねる。そうして薪は、自分の罪を毎日更新する。
 それは薪にとっては、生きていくうえで必要なこと。
 贖罪だけが、彼の生きる意味。




*****





 薪の穏やかな償いの日々が変化したのは、秋。
「オレが好きなのはあなたです」
 眇められた亜麻色の瞳が、目の前の男を訝しげに見た。

 執行人が?
 罪人に、好意を?
 バカバカしい。

 心の平常を取り戻すために、薪は書類に目を落とした。
「僕はそういうジョークは嫌いだ」
 
 不意に頭を掴まれて、上向かされた。声を上げる暇もなく、くちびるを押し付けられていた。
 口唇を閉じるのも間に合わなかった。無防備に開けられた口の中に、彼の舌が入ってきた。

 捕われる小さな舌と、驚きに瞠られた瞳。
 押しのけなければいけないのに、何故か動かない両手。
 心の奥で微かに蠢いた、あってはならない感情。

 神さま。
 これはなんの冗談ですか?


―了―





(2009.11)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Yさまへ

鍵拍手いただきました、Yさま。
ありがとうございます。

>そして、薪さんは毎日鈴木にキスをして・・・日曜日の朝は、写真たて磨きのお仕事が☆ だって、薪さんのキスマークだらけになっちゃうんだも~ん。

ほんとだ・・・・よく考えたら、ばっちい・・・・抱いて寝てたりするから、よだれとかついてそうだ・・・・。(こらこら)


>写真を何枚も用意したということは、キスマークの鈴木が部屋中に・・・!!! 

それに囲まれて生活してるわけですね。
痛すぎる(笑)
でも、うちの薪さんらしいでしょ?


えっと、情報ありがとうございました。
早速くぐってみますね(^^

Kさまへ

・・・・ありがとうございます!
うちの男爵に伝えておきます。きっと踊り狂って喜びますよ、彼は(^^

って、あれ?

・・・・やっぱり、誰が相手でも薪さんが受けなんだ・・・・てか、女性は認めないんだ・・・。
あーあ・・・男爵、泣いちゃったよ・・・。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
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