ラストカット 後編(8)

ラストカット 後編(8) 





 薪はそこで、軽蔑したような顔で青木を見た。

「おまえ、ヤラシイこと考えてるだろ」
「はい!?」
「飲みすぎると、役に立たなくなるとか思ってんだろ」
 亜麻色の目は据わりきっている。完全に酔っ払いの目だ。

「何をバカなこと言ってんですか」
「だっておまえ、僕のこと好きなんだろ。今夜はチャンスだとか思ってんじゃないのか」
 チャンスだとは思っている。でも、それはからだの関係を持つチャンスだと考えているわけではない。
 青木は、保留中の答えを聞きたいだけだ。いくらかでも自分を好きになってくれているのか、それとも恋愛の対象にはなりえないのか。きちんと答えて欲しいだけだ。

「思ってませんよ」
「嘘つけ。この旅館だって、計画済みだったくせに」
「妙なことを言いますね。ここに泊まることは、急に決まったんじゃありませんか。第一、泊まるって言い出したのは薪さんのほうですよ」
「じゃあ聞くけど。この宿の予約、どうやって取ったんだ?」
「どうって、電話で」
「あの山の中のどこに電話があったんだ?」
「何言ってんですか。携帯があるじゃないですか」
「携帯電話ね」
 薪は腕を組んで顎を反らし、青木を睥睨した。
 亜麻色の瞳が煌いている。これは確たる証拠を掴み、今から容疑者(青木)を自白させ(イジメ)ようとするときの薪の表情だ。それを見て、青木は誘導尋問に引っ掛かったことに気付いた。
 ……あそこは圏外だ。

「おまえの携帯は便利だなあ。アンテナがなくても使えるのか」
 薪の嫌味が始まった。
 酒の席だし、ここは明るく冗談で返すことにしよう。
「いやあ。オレのは特別で、海の底でも宇宙でも使えるんで、――っ!」
 軽口を叩き終わる前に、薪の拳が飛んできた。顔面3センチのところで止まっている。華奢な手だが速度が速いので、急所を殴られるとかなり痛い。
「あの世でも使えるかもしれんな。試してみるか?」
「……すみません」
 さすが薪だ。
 青木の計画など、最初からお見通しというわけか。
 でもそうすると、それを解っていて自分についてきてくれたことになるが、その辺はどう解釈すればいいのだろう。もしかして薪もその心算で……いや、温泉に入りたかっただけだ、このひとは。

「僕は、おまえの思い通りにはならないからな。おまえなんかにいいようにされるくらいなら、サルと寝たほうがマシだ」
 ひどい。サル以下だ。
「オレはそんなことは考えてません。薪さんがちゃんとオレのこと好きなってくれるまで、そういうことはしません」
「おまえ最初、僕に無理矢理キスしてきたじゃないか」
 薪に初めて想いを告げたとき、薪は青木の気持ちをジョークにしてしまおうとした。それは決して青木の心を踏みにじったわけでも茶化したわけでもなかったのだが、恋情を募らせていた青木にはひどく冷酷な仕打ちに思えた。
 自分が本気だということを薪にわかってもらいたくて、行動に出てしまったというのがキスの理由だ。

「あのときのことは謝ります。でも、それからは無理強いしたことはなかったと」
「その後もあったろ。おまえが実家から帰ってきたときとか」
「あれは薪さんのほうから」
「僕はおまえの涙を拭いてやっただけだ。おまえが押さえつけたんじゃないか」
 ……そうだっけ? 舌を絡めてきたのは薪のほうだったと思うが。
「こないだも車の中で、僕が眠ってるときに盗んだだろ」
 だってあんまりかわいくて、つい……これは男の本能というやつで、どうにも逆らいがたいものなんです。
「すみません」
「すみませんで済んだら、第九は要らないんだよ」

 決まり文句を吐いて、薪は2本目の瓶の封を切った。手酌でコップに注ぐ。
 薪は飲むピッチが早い。少量しか入らない猪口は面倒なので使わない。いつもぐい飲みかコップである。
 
「キス以上のこともしたいとか思ってんだろ」
「思ってませんよ」
 本当は、力いっぱい思っている。
 夢の中でも頭の中でも、薪との情事は何度も繰り返されている。そこに出てくる薪は妖艶で淫らで、男を悦ばせる術を知っている。そのくせ夢のようにきれいで可愛くて。実際夢なのだが、それが現実になったらどんなに幸せだろうといつも思っている。
 しかし、いまは言いたくない。素面のときならともかく、この状態の薪に何を言っても無駄だ。明日の朝にはきれいさっぱり忘れている。

「おまえがいくらとぼけたって、僕にはわかるんだぞ」
 自分の夢の内容を知られているとしたら、殺されても文句は言えない。
 昨日の夜は今日の旅行が楽しみで、薪が温泉に入っているところを想像しながら眠った。
 当然のように夢を見て、薪は露天風呂の中から裸で青木を手招きした。誰か来るかもしれない野外のスリル満点の風呂で、薪は恥ずかしがりながらも切ないよがり声を上げて、青木を受け入れてくれた。
 しかし、それを薪が知っているはずがない。ここは地の果てまでシラを切りとおすところだ。ハッタリに引っ掛かって迂闊なことを喋ったら命はない。

「何のことだか分かりませんけど」
 青木が素知らぬふりでジョッキを呷ると、薪は両手を畳について、内緒話でもするように青木の方へきれいな顔を近づけてきた。
「おまえ、今日僕に欲情してたろ」
 咄嗟に否定できなかったのは、身に覚えがあるからだ。
「昼間、岩場の温泉にふたりで入ってたとき、やばくなってただろ」
 ……ばれていたのか。

 しかし、そのことで青木の邪心を疑うのはあんまりだ。
 嫌がる青木を無理やり風呂に入れて、あちこち触ってきたのは薪のほうだ。自分の気持ちを知っているくせに、あんな誘うような真似をして。応えてくれる気なんかないくせに、あれで青木が我慢できなくて襲いかかっていたら、きっと岩の上に投げ飛ばされていたのだ。このひとはそういうひとだ。

「タオルの下で、ここが」
 薪の白い手が、青木の太腿に置かれる。小さな手は青木の浴衣の裾を割り、迷うことなくその中に入ってくる。その手は膝から内腿へ滑っていき――――。
「こ……」
 亜麻色の頭が不意に落ちてきて、青木の下腹にぶつかった。
 足の間から、すくーっという音が聞こえる。薪の眠りはいつも唐突だ。
 
「薪さん……これはセクハラです」
 やわらかい頬がそこに当たっている。ちょっとでも動いたら、薪のくちびるが下着の上からそこに触れそうだ。
 まずい。これは昼間の状況よりやばい。
 薪の体勢は、畳に両膝をついて腰を上げ、顔を青木の股間に埋めている形だ。何をしているところか、100人中100人が間違った答えを出しそうだ。

「お待たせいたしました。蒼山をぬる燗でお持ちいたし――!」
 ……絶対にこうなると思った。

 仲居は床の上に静かに盆を下ろし、優雅にお辞儀をしてゆっくりドアを閉めた。
 旅館の仲居というものは、時に第九の室長をも上回るポーカーフェイスを持ちうるらしい。現況の理解は100%間違っていたにしても、青木にそれをどうしろというのだ。
「もう二度とここへは来れないな……」
 せっかく見つけた薪好みの宿を、一軒失ってしまった青木だった。




*****


 R系のギャグって、ほんっとに楽しいです!(ロマンチックはどこへ行った?)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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ア、アクオス様がっ!

‥‥山下達郎の「クリスマス・イブ」聞きながら‥
口の中にはアイスケーキ‥

おもいっきり‥‥噴きました‥ぶへぶへ‥ケ、ケーキがっ!
買ったばかりのアクオスの画面まで‥‥

しづさん‥責任とって頂きます!
責任とって頂いて‥‥次回は今回以上に吹かせてもらいますっ!

勿論、地震の時でも子供より先に守ったアクオス様の
いらっしゃらないところで‥読みます!!

R系ギャグの本領発揮‥素晴らしい。
ものすごく‥イブらしいお話でした(笑)

あ‥でも次回は期待に反してロマンチックだったりして‥
ええ、期待に反して‥(^_^;)

思いきり吹かせていただいて‥ありがとうございましたっ!
アクオス様もさぞかし‥お喜びになったことでございましょう‥(爆笑)

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ruruさんへ

いらっしゃいませ~、ruruさん♪
メリークリスマス!


> ‥‥山下達郎の「クリスマス・イブ」聞きながら‥
> 口の中にはアイスケーキ‥

おおお、いいなあ、ちゃんとクリスマスしてますね!
しづはこの時間、事務所のパソコンで図面ひいてましたよ。(^^;


> おもいっきり‥‥噴きました‥ぶへぶへ‥ケ、ケーキがっ!

まあ、大変!
気管に入っちゃいました?(すっごく白々しい)


> 買ったばかりのアクオスの画面まで‥‥

アクオス購入されたんですか?
いいなあ、画像がきれいだろうなあ。(と、さりげなく論旨をすり替える)


> しづさん‥責任とって頂きます!

あ、やっぱりダメ?(笑)

> 責任とって頂いて‥‥次回は今回以上に吹かせてもらいますっ!

あははは!
それって、責任取ったことになるんですか!?
ruruさんらしいよ~!


> 勿論、地震の時でも子供より先に守ったアクオス様の
> いらっしゃらないところで‥読みます!!

そんなに警戒しなくても(笑)
あ、でも、昔会社で読んでて麦茶吹いた方がいたみたいです。・・・・はた迷惑なSSですみません(^^;


> R系ギャグの本領発揮‥素晴らしい。
> ものすごく‥イブらしいお話でした(笑)

イブらしいでしょ?(笑)
うちのあおまきさんらしいでしょ?(ていうか、しづらしい・・・・)

> あ‥でも次回は期待に反してロマンチックだったりして‥
> ええ、期待に反して‥(^_^;)

そうですね、ロマンチックに切なく迫りたいと思います。
そして最後はやっぱり修羅場ですね!(どういうお話になるんだろう)


> 思いきり吹かせていただいて‥ありがとうございましたっ!
> アクオス様もさぞかし‥お喜びになったことでございましょう‥(爆笑)

ああ、お可哀相なアクオス様!
わたしからも、お見舞い申し上げます。アクオス様が、アイスケーキで風邪など召されませんように。(擬人化?)


追伸
地震の時には先に子供を守ってください。(笑)(もちろん、冗談だってわかってますよ!)

Rさまへ

熱烈なラブレター、ありがとうございました(≧∇≦)

わたしからも、お返事を。

大好きですよっ!

Mさまへ

いらっしゃいませ、Mさま!
メリークリスマス!

ふふふふー。
最終話だからって、容赦しませんぜ、だんな。
簡単に落ちると思ったら大間違いでさあ。(何故、時代劇調に・・・?)

薪さん、沈没30分前は記憶なくしますから。もう、やりたい放題ですね(笑)

>男爵、お誕生日おめでとう!

M 「ありがとうございます!Mさん」

Mさまにも、素敵なクリスマスを!

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Rさんへ

Rさま、いらっしゃいませ!

・・・・・・そうだったんですか!?(爆笑)

ああ、はい、なるほど・・・・4人・・・・そうですよね、それは咄嗟のことで無理はなかったかも。
そう、そうですよ、倒れて壊れて、それを彼らが踏んだりしたら危ないですもの。その危険を回避されたということで、やっぱり母は強し!ですね!

占い師に「まるで男のような性格」と言われてしまったのですか?
わたしも、小さい頃から男ばかりの環境の中で育ってきてしまったので、脳が完全に男脳でして。おかげで街でかわいい女の子を見つけると、つい眼で追っちゃいます。(ヘンタイ)
だから少年漫画が好きなんですよね~。
そんなわたしをがっつりはまらせたんですから、薪さんてコワイです(^^;

補足説明、ありがとうございました。
またお越しくださいませ♪

Aさまへ

Aさま。

薪さんが青木さんの恋情を弄んでいるように見えると、
ええ、見えますねえ。 嫌な男ですねえ。 わたしだったら願い下げです(笑)

本人は只の意地悪の心算ですが、青木さん、可哀想ですよね。
この頃の薪さんて、酷いんですよ。 青木さんの気持ちを受け入れる気がないから冷たく突き放すくせに、青木さんが自分から離れて行こうとすると引き留めるの。 ものすごく狡いんです。
鈴木さんに対する罪悪感とか、青木さんと恋仲になった時に予想される困難とか、青木さんの親とか将来のこととか、躊躇するのは分かるんですけど、だったら潔く断ればいいんですよ。
でも、どうしてもそれができない。 青木さんに惹かれているのも事実なんです。 だけどその気持ちを認めることは、鈴木さんを殺した自分には許されない。
この当時の薪さんは、理性と感情が常にせめぎ合ってる状態で、だからやってることが矛盾だらけなんです。


上記のような背景はありますが、ここは単純に、
最後のギャグが書きたかったからこの展開になっただけだと思います。<おい。
思いついたギャグは書かずにいられないんです、すみませんー(^^;




プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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