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ラストカット 後編(14)

ラストカット 後編(14)





 最高に楽しい休日になった4月の連休。
 とっぷりと日が暮れた頃、二人は長野から帰ってきた。
 今日も朝から温泉三昧で、さすがに湯疲れしたのか、薪はヘリに乗ってすぐに眠ってしまった。気がついたら横浜だった。
 せっかくの風景を見損ねたことを青木に訴えると、まだレンタルの時間があるという。それなら時間いっぱいまで飛べ、と命じて遠回りさせた。青木の宿泊代も払ってやったのだから、これぐらいしてもらってもいいはずだ。

 空からの夜景は素晴らしかった。
 俗物と言われても否定できないが、レインボーブリッジやお台場の辺りは七色の光がきらきらしていて、男の薪ですら思わずため息が出た。
 これが女の子だったら、間違いなく落ちる。青木がその目的のために航空機免許を取ったというのは、あながち冗談ではなかったのかもしれない。

「すごいな。これ、全部人間が造ったんだよな」
「そうですよ。人間が創り出した芸術も、なかなかでしょう?」
「うん」
 いつもなら捻りのきいた皮肉の一つも返すところだが、この光景を見てしまってはとてもそんな気になれない。きらめく夜景は、人の心を素直にする力を持っているのかもしれない。

 夜の空中散歩を楽しんだ後、薪はもうひとつのお楽しみに出向くことにした。
 夜桜見物である。

 場所は、青木のアパートの正面に位置する公園。
 ここの桜は見事なもので、昼間はたくさんの花見客が訪れていた。しかし、日曜の夜ともなれば明日の仕事のことも視野に入れて、人出はぐっと少なくなるはずだ。薪の狙い目はそこだ。
 読みは当たり、ざっと見た限りでは煩い酔っ払いはいないようだ。人影もちらほらといったところで、ベンチに座って桜を見上げている男女が何組かいるだけだ。桜並木を散策しているものはおらず、薪はゆっくりと夜桜を楽しむことができた。

「ああ、もう桜も終りですねえ」
 隣を歩く背の高い男が、桜の木を見上げながら寂しげに言う。食い気ばかりのこの男に、行く春を惜しむ気持ちがあるとは驚きだ。
 青木の言うとおり、桜は時おり吹いてくる弱い風にも花びらを散らしている。その光景は先刻の夜景に負けず劣らず美しくて、薪の顔をうっとりとした微笑に変える。

「薪さん。憶えてます? 2年前も一緒に、ここで夜桜を見ましたよね」
 青木は突然、昔話を始めた。
 ああ、と適当に相槌を打って、薪は桜に意識を向ける。こんなにきれいな桜に、人間の声は似合わない。薪の花見は、沈黙がセオリーだ。
 しかし青木は喋り続ける。
「あのとき、薪さんはオレのことを助けてくれましたよね。第九に入ったばかりで、MRIの画に慣れることができなくて、不眠症だったオレに睡眠薬をくれました」
 先刻の夜景を見ていたときには奥床しく口数の少なかった男が、突然饒舌になっている。なにか、話したいことがあるのだろう。
 薪は自分のセオリーを、少しだけ緩めることにした。
「ああ、あの酸っぱいの」
「よく効きましたよ。今でも眠れないときは飲んでます」
「単純バカにはよく効くんだ、あれは」
 その薬の正体が、ただのビタミンCであることは、青木にも分かっているはずだ。今でも飲んでいると言うならば、同じものを探して自分で買い足したのだろうから。

「それから、安眠できる方法をオレに教えてくれて。あれからオレ、よく眠れるようになったんです」
 悪夢防止策として、眠る前に好きなものを見るといい、と青木に勧めたことがある。それくらいで安眠できるとは、羨ましいくらい単純な男だ。
「おまえ、寝る前になに見てるんだ?」
 薪の問いかけに、青木は返事をしない。無視しているのではなく、言おうか言うまいか迷っているようだ。
「わかった。食べ物の写真だろ。ごはんのおかず100選、とか」
「まあ、オカズといえばオカズですかね……」
「意地汚いやつ。ここに、こんなにきれいなものがあるのに」
 ひときわ美しい桜の前で、薪は足を止める。上を向いて、陶然と微笑む。
 
「ええ。本当にきれいです」
「なんで僕の顔見てんだ。花を見にきたんだろ」
 ひとと話をするときは相手の顔を見ろ、と部下に指導している薪だが、こういうときはまた別だ。応用の利かないやつだ。

「一昨年も薪さんはここで足を止めて、この桜を見上げてました」
 2年も前のことを、よく憶えているものだ。薪に苛められたことはすぐに忘れて、またそばに寄ってくるくせに。
「その横顔がとてもきれいで。オレはあなたから目が離せなくなった」
 いつになく真剣な青木の声音に、薪は肩を強張らせる。
 頭を巡らせると、青木の視線は真っ直ぐこちらに向けられている。
 
「オレは、あの時からあなたに恋をしました」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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花に嵐!

ロマンチックと言えない事もないですが‥
桜の木の下には死体が埋まってますよ‥

亡者に邪魔され続ける恋愛になりますよ。
‥‥桜は美しくも恐ろしい花‥

パッと咲いてパッと散るんですから‥

ブリザードフラワーにしてしまえばいいんです。
薪さんごと‥
そうすればいつまでも美しい桜と薪さん‥‥
‥などと気味の悪いことを言ってすみません‥しづさん。

改めて告白されて‥どうでるか薪さん‥


記事とは関係ありませんが‥
昨日やっと‥読みました。
しづさんのレスに書いたとおりです。

青木が‥な~んか‥気に入らない(笑)
ムカつく‥まあ、私は薪さんさえいいんなら‥別に。
でも、一回シメといた方がいいんじゃないですか?あの人。

浮かれちゃって‥酷い目にあえばいいのに‥
前言撤回です。酷い目にあうと薪さんが悲しむので
婚約解消くらいで許してあげます‥‥

ふふふっ‥ではしづさん、また。
失礼いたしました。

ruruさんへ

こんにちは、ruruさん。

> 桜の木の下には死体が埋まってますよ‥

だからキレイなんですよね(^^)←ちがう。


> 亡者に邪魔され続ける恋愛になりますよ。

そうなんですよ。
これから先、鈴木さんがずーっとふたりのジャマをするんですよ!(なんて嫌なあおまき小説(笑)


> 改めて告白されて‥どうでるか薪さん‥

どうって・・・うちの薪さんですから。答えは決まってます。
期待しないでください。(^^;


それと、原作のことですが。

> 青木が‥な~んか‥気に入らない(笑)

あらら、ruruさんも。
わたしはもともと彼のことはあまり好きではなかったのですが・・・・ええ、もう最初からダメでした。真っ直ぐな好青年って、苦手なんですよ。わたしのようなヒネクレ者には、眩しすぎるんです。


> 婚約解消くらいで許してあげます‥‥

結局、ruruさんの場合は、ここだと思いますよ。
青木くんと薪さんの関係が3巻ごろのままで、2月号の山本さんを庇うシーンがあったら、ruruさんは、青木くんのことを褒めるんじゃないですか?青木め、と舌打ちする薪さんを見て、ああ、このふたりの関係サイコー!って萌えるんじゃないですか?
青木くん自身は、もとからああいう性格の人だったと思います。それは今も変わってないと思います。彼を取り巻く環境が変わってしまったせいで、彼の行動がカンに障るようになってしまったのでは?
残念ですね。
彼の性格と行動は、一般的には評価されるべきものなのに、逆に魅力が下がってしまうなんて。
そう考えると、ちょっと彼が可哀相になりますが、わたしは元から彼のことは苦手なので、庇う気にはなれません。きっと青木くんファンは沢山いるので、その方たちに弁護は任せたいと思います。

実際、24にもなって天使みたいな男なんて、気持ち悪いですよねえ。それでも薪さんが彼を好きだっていうなら、青木くんのことを認めてあげないと、とも考えます。
あー、でもやっぱり天使くんは苦手です・・・・ダメですね(笑)

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遅ればせながら…

新年あけましておめでとうございます
今年もどうぞよろしくお願い致します

我慢した青木、グッジョブ。
てか薪さん、いくら上手くやっても翌朝、痛くないはずないでしょう(笑)

薪さんが青木を受け入れるには、ええ、これくらい少しずつハードルを越えていかなくちゃ、ですね。
このへんをスキップしないしづさん、やっぱり素晴らしいです(TT)
あの薪さんが簡単に青木とくっつくはずないですもんねー。

しかし…青木がこんだけ惚れれてもこんなに大変なのに…自分の気持ちにも気付いてない原作青木…薪さんが受け入れるのは、それこそ不可能に思えてきました(^^;
頑張れ、薪さん。

Kさまへ

丁寧なお返事、ありがとうございました。
失礼なことを申し上げてしまったのに、やさしく返答してくださって、感謝しております。

!!!!!
そうだったんだ・・・・うれしいですっっっ!!!
いえ、説明がなかったのは横着ではないと思います。無いほうが、受け取る側の想像が広がってよろしいのではないでしょうか。

ね、ね、偶然にしてもすごいでしょう?
波長が合うんでしょうね。わたしも浮かれております(^^

ありがとうございました♪

めぐみさんへ

めぐみさん、あけましておめでとうございますっ!
こちらこそ、どうかよろしくお願いいたします(//∇//)


> 我慢した青木、グッジョブ。

めぐみさんならそう言ってくださると思ってました(^^

> てか薪さん、いくら上手くやっても翌朝、痛くないはずないでしょう(笑)

ですよね(笑笑)
もう、上手くできたと思ってる時点で、ギャグ。(^^;

> あの薪さんが簡単に青木とくっつくはずないですもんねー。

それにしても掛かり過ぎですよね(笑)
ていうかねー、なんかもったいなくて。くっついたらおしまいなんで、長引かせたいだけなのかも・・・。


> しかし…青木がこんだけ惚れれてもこんなに大変なのに…自分の気持ちにも気付いてない原作青木…薪さんが受け入れるのは、それこそ不可能に思えてきました(^^;

どうでしょう。
原作のほうは青木くんの気持ちさえ固まれば、薪さんの方はウェルカム!なのでは?(笑)
それは冗談として、難しい状況ですよね。気持ち的にも、社会的な立場にしても。
わたしは薪さんが穏やかに、こころ安らかに笑っていてくれれば、それでいいんですけど・・・・そうは行かないんだろうなあ・・・・。
やっぱり切ないです。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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