ラストカット 後編(17)

ラストカット 後編(17)





「僕を殺したかったからだろ」
 投げやりな調子で、薪は言った。青木はいったい何が言いたいのだろう。
 
「オレもその意見には賛成です。錯乱して発砲したことになってますけど、怪我をした他の職員は正確に足を撃たれています。薪さんに対する銃弾だけが頭部を狙ったものだった。これは明らかに殺意を感じます」
「貝沼の脳を見て、僕がすべての元凶だと解って。鈴木は僕を殺そうとしたんだ」
「違います。鈴木さんは薪さんに、自分の脳を撃ってくれって言ってましたよね。鈴木さんは、薪さんの手にかかって死にたかったんです」
「それで僕が恐怖から引き金を引くように、威嚇射撃を?」
 だから薪さんは悪くありません――そう慰めようと思っているのだろうか。
 そんなことは気休めにもならない。鈴木を殺した事実は消えない。

「オレも始めはそう思いました。でも、威嚇射撃にしては、急所に近すぎました。あと20cm右にずれてたら、薪さんは頭を撃ち抜かれて死んでました」
 そのほうが良かった。
 そうしたらきっと今頃は、あの世で鈴木と一緒にいられたのだ。
「薪さんの言う通りかもしれません。あれは心中だったのかも」
「心中?」

「鈴木さんに伝染したのは貝沼の狂気じゃなく、恋情だったんです。鈴木さんはずっと薪さんのことが好きだったんです。
 心の底に押し込めていたその気持ちが、貝沼の異常なまでに強いあなたへの想いを見たことで、抑えられなくなってしまった。それで薪さんを殺して自分も死にたいという思いに囚われてしまった。もちろん、貝沼の狂気に感化されて、正気ではなかったでしょう。
 だけど鈴木さんは、そんな自分の中の狂気と戦おうとした。それで自殺しようとしたんです。薪さんを傷つけないうちに、自ら命を絶とうとした。そこにあなたが来てしまった。
 あなたを見てしまったら、もう我慢できなくなってしまったんです。それで発砲してしまった。
 そうじゃなきゃ、説明が付かないんです。だって、オレも見てるんですよ。鈴木さんの脳を通して、貝沼の悪魔のような所業のすべてを。貝沼の動機が薪さんを自分のものにするためだったことも、全部。条件は鈴木さんと同じだったはずです。けど、オレは薪さんを殺そうとはしなかった。あの頃のオレは、薪さんに恋をしていなかったからです」

 青木の仮説を、薪は黙って聞いていた。
 鈴木と同じ画を見た青木が、彼と同じ行動を取らなかった理由を説明したつもりらしいが、人間というのは個人差があるものだ。青い色を見て空を連想する人もいれば、海を想像する人もいる。それと同じことだ。
 青木の仮説には、決定的な欠陥がある。
 鈴木は当時、雪子と婚約したばかりだった。青木はそれを知らない。薪と鈴木との間に、そんな感情は断じてなかった。鈴木はそんな不誠実な男ではなかった。
 薪が鈴木と恋人同士だったのは、事件が起きる14年も前の話だ。それも別れようと言い出したのは、鈴木のほうだった。鈴木は雪子に出会って心を移して、薪を捨てた。青木はそのことも知らないはずだ。

「鈴木とはずっといい友だちで、それ以上の感情は鈴木にはなかった。僕が一方的に好きだったんだ。だから、おまえの仮説は成り立たない」
「そうでしょうか」
「鈴木の気持ちを証明できない以上、おまえの話は仮説の域を出ない。こんなMRIの画をいくら見たって無駄だ。鈴木が死ぬ5年前までの画に、それを証明するものなんて絶対に出てこない」
 それは確実だ。
 鈴木が薪を愛してくれたのは、15年も昔。1年にも満たない短い期間だった。5年前までしか遡れないMRIに、現れるはずがない。

「この、モニタールームの画ですけど。鈴木さんの目から見た薪さんは、他の人に比べてとてもきれいに映っていると思いませんか?それに、ずっと薪さんのことを見てます。ほら、薪さんが部屋のどこに移動しても、そこに焦点が合わされている」
 仕事中の研究室で、鈴木は薪を目で追っている。しかしこれは、青木が主張するような邪な気持ちからの行動ではない。上司というのは、常に部下に見られているものだ。
「仕事のことで相談したいことがあって、話しかけるチャンスをうかがっていた。そんなところだろ」
「じゃあこれは?」
 芝生の上に寝転んで、安らかな寝息を立てている薪の姿が映る。周りの建物の様子から見て、場所は研究所の中庭だ。
「眠ってる薪さんを、ずっと見てますよね」
「天気がいい日は外で昼メシ食って、代わりばんこに昼寝をしてたんだ。僕は低血圧で寝起きが悪いから、起こすタイミングを見計らってたんだろ」
 簡単に説明がつくことばかりだ。
 こんな希薄な状況証拠から、そんな仮説を導き出すなんて。こいつがしていることは、捜査官の仕事じゃない。ただのホラ吹きだ。

 青木は両肘を机の上について、頭を抱えた。
「なんでそんなに鈍いかなあ」と失礼なことをほざいて、薪のほうに顔を向ける。
「これ、できれば言いたくなかったんですけど。薪さんがそんなふうに言い張るなら、やっぱり言わなきゃダメですね」
 青木は肩を落として、ため息混じりに言った。
 言いたくないなら言わなければいい。こっちだって、もうたくさんだ。
「オレ、薪さんと鈴木さんが、昔そういう関係だったの知ってます」

 青木の爆弾のような言葉に、薪は思わず腰を浮かした。
 そんなはずはない。こいつが知っているわけはない。これはブラフだ。
「馬鹿馬鹿しい。何を根拠に」
「鈴木さんの脳に残ってました。もう一度、見たんです。今度は貝沼の事件は飛ばして、鈴木さんの日常を5年分、全部」
「見え透いた嘘を吐くな!」
 5年の間に、そんなことはしていない。青木が見られるわけがない。

「鈴木さんの最後の画は、薪さんでした」
「当たり前だ。僕が鈴木を殺したんだ。最期に僕の画が映っていて当然だ」
 僕が人殺しになった瞬間を、こいつは見たのだ。
「いえ、そうじゃなくて」
 青木はそこで椅子ごと薪のほうに向き直り、薪の目をしっかりと見据えた。
「ラストカットです」
 
「……ラスト……カット?」

 ラストカットは、新皮質に残る微細なデータだ。ここ数ヶ月、青木が宇野について学んでいたのは、このデータの検出方法だったのか。
 殺人事件の捜査で、その作業が必要になることはない。何故なら、ラストカットには通常、視覚者の人生の中でいちばん幸せだったことが映し出されるからだ。そこに自分を殺した犯人が映ることは、まずない。
 普通の捜査では必要ないから、当然その手順も簡略化されていない。膨大なデータを網羅して、その中から拾い集めていくしかない。気の遠くなるような作業だし、とても難しい作業だ。システムのエキスパートの宇野でさえ、実際に行ったことはない。

「鈴木さんのラストカットは薪さんでした」
 青木の言葉の衝撃に、薪の仮面は剥がれ落ちた。
 弱気な形に眉尻を下げ、大きく目を開いている。その瞳は疑惑と不安とで震えていた。
 生命の最後に見る、その人の人生の中でいちばん幸せだったときの光景。鈴木のそこに自分の姿があったと?
「鈴木さんの腕に抱かれてる、裸の薪さんでした。とってもきれいでしたよ」
「そんな……嘘だ。だって僕は……鈴木は、雪子さんを」

 薪の頭の中は、パニック状態だった。何度も同じ言葉が繰り返される。
 そんなはずはない。そんなことはありえない。

「はい。鈴木さんは三好先生のことも、ちゃんと愛してたと思います。鈴木さんの脳に残っていた三好先生は、とっても女らしくてかわいくて、びっくりしました。でも、魂の深いところでいちばん大切に思っていたのは、薪さんだったんです」
 うそだ。
 こいつは嘘をついている。
「だからあのとき、貝沼の秘密を墓場まで持っていこうと――システムを破壊して自分の脳を撃ってまで、薪さんを守ろうとしたんです。鈴木さんは、薪さんのことを愛してたんです。
 これこそ、トップシークレットですよ。三好先生には絶対に内緒です」

 言葉も出なくなってしまった薪に、青木は一枚のDVDを差し出した。
 目を大きく開いたまま、気を失ってしまったかのように身じろぎひとつできないでいる薪の手に、プラスチック製のCDケースが握らされた。
「MRI捜査の基本は、仮説と検証です。報告書には証拠となるデータの添付が必要です」
 それは薪が、まだ新人だった青木に教えたことだ。新人は、いつの間にか立派な第九の捜査官になっていた。
「これが証拠です」
 青木は薪の腕を掴んで立たせると、室長室へ引き摺るようにして連れて行った。
「それは薪さんひとりで見てください。オレは」
 薪を残し、青木は部屋を出て行こうとした。室長室のドアを閉めるとき、青木は泣きそうな顔になって言った。
「オレはもう二度と、あなたと鈴木さんの邪魔はしません」

 両手にDVDを持って、薪は呆然と立ち尽くした。
 そのまましばらく自失していたが、やがて我に返って、DVDとドアを交互に見た。それから室長席に近付くと、パソコンの電源をオンにした。



*****



 書いちゃった後でなんなんですけど。
 わたしの原作に対する解釈と、二次創作は全然別物です。二次創作はあくまでもお話なので、この方が面白そうだ、と思われる方向に合わせて人物像は変えていきます。なので、これはわたしの鈴木さん像ではありません。ていうか、こんな鈴木さん、イヤ。(笑)
 原作の鈴木さんは、純粋に雪子さんを愛していたと思います。薪さんとの間に恋愛感情はなく、あったとしても薪さんからの一方通行だったと思います。恋愛の要素が皆無でも、友人のために死ぬ男はたくさんいますから。(←少年漫画ばっかり読んでるとこういう偏見が)

 でも、実際のところはどうだったのでしょうね。
 原作に描かれていないので、想像するしかないんですけど。やっぱり謎ですね。そこがまた、鈴木さんというひとの魅力を増しているのでしょうね。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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ドキドキドキドキ・・・

あああああ青木いいいいい!!!
(T口T)(T口T)(T口T)
なんてカッコいいんだ!イイ男なんだ!
惚れるぜ青木いいいいい!!!(≧口≦)
薪さんも惚れ直すぜえええええ!!!(≧▽≦)
・・・でも薪さんの永遠の恋人は鈴木さんなのね・・・

うふふ、いよいよクライマックスですね★
核心に触れちゃいましたね!
推理小説とか推理ゲームとの一番の盛り上がりシーン読んでる時みたいにドキドキしました~★

う~続きが早く読みたいです(><)
ずっとドキドキし続けながら待ってます♪♪♪

あ、リクエスト追加していただいてすみません(^^;
入れ替わりとタイムスリップ本気で読みたくなりましたwww
ていうかリクエストのお話ぜ~~~んぶまるっと読みたいです!!!
あぁ今年も来年もしづさんには焦らされ続ける運命なんですね(笑)

あ、銀魂大好きですよ~(*^□^*)
あの下ネタギャグ&他の漫画とかゲームのネタを端々に使うところがオタ心をくすぐります(笑)
それに銀さん格好良すぎ!結婚したいですwww
(めが・・って誰のことですかwww 土下座m(__;)m)

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コハルさんへ

おお、コハルさんが青木くんの名前を叫んでる!珍しい(笑)

> なんてカッコいいんだ!イイ男なんだ!
> 惚れるぜ青木いいいいい!!!(≧口≦)

ありがとうございます!
てか、これもう、青木じゃないですよね(笑)
うちの話って、薪さんも原作から離れてるけど、青木くんはそれ以上に別人のような(^^;

> 薪さんも惚れ直すぜえええええ!!!(≧▽≦)
> ・・・でも薪さんの永遠の恋人は鈴木さんなのね・・・

あははは!バレました?
実は、薪さんが鈴木さんのことを好き過ぎて困ってます。(>_<)


> うふふ、いよいよクライマックスですね★
> 核心に触れちゃいましたね!
> 推理小説とか推理ゲームとの一番の盛り上がりシーン読んでる時みたいにドキドキしました~★

ドキドキしてくださって、嬉しいですっ。
わたしもコハルさんの格納庫にドキドキしました!(←こっそり見てる。でも、コメは恥ずかしいので、すみません(//_//))


> あ、リクエスト追加していただいてすみません(^^;
> 入れ替わりとタイムスリップ本気で読みたくなりましたwww

こちらこそ、ありがとうございました。
入れ替わりは面白そうですよね、周りの反応が。 時間ができたら考えてみます。(^^


> あ、銀魂大好きですよ~(*^□^*)
> あの下ネタギャグ&他の漫画とかゲームのネタを端々に使うところがオタ心をくすぐります(笑)

わたしもっ、わたしもです!
アニメもいいですよね。あのギリギリのところが好きです。
いいのか、これ放送しちゃって。大丈夫か、プロデューサー!? 今頃、始末書何枚書いてるんだろう、なんて爆笑しながらも考えてます。彼らの勇気に脱帽です。


> それに銀さん格好良すぎ!結婚したいですwww
> (めが・・って誰のことですかwww 土下座m(__;)m)

コハルさんも銀さんですか。
わたしもです~~!! 普段はユルイくせに、仲間を守るために戦うときはものすごくカッコよくてっ!沖田とか桂みたく、美形過ぎないところでまたいいんです。(//∇//)
GWに映画もやるんですよね!甥(中二)と一緒に観に行く約束をしました。付き添いってことにして、実は自分が観たいという。(笑)
楽しみですっ! (どうしてコハルさんとはいつも、秘密以外のネタで盛り上がっちゃうんだろう(笑))

Mさまへ

こんにちは、Mさま(^^

そうです、これはアニメのラストカットを見て思いついたネタなんです。(5巻が出たのはその後でしたよね?)って、いつの話だー!?
実は、随分前からラストだけは決まってて、ここに向けてずーっと書いてきたのでした。

アニメの解釈は、あれはあれでよかったと思います。脚本としてはいい、とわたしは思いました。(←なにさま?)


ええ、原作鈴木さんは、ノーマルと言うことで。わたしもそう思ってます。(思ってることと別のこと書いててすみません(^^;))
これはあくまでお話として楽しんでいただけたら幸いです。(^^

No title

こんばんは。はじめまして。
「秘密」の薪さん、青木×薪さんにはまってしまいました、水無月恵美です。
小説大変面白いです。面白くってここ数日の間に読ませてもらいました。しづさんの書く薪さんは素直で人間味あふれていますね。原作薪さんとのギャップに最初は戸惑いましたが今はかわいらしいです。
ラストカットも続きがどうなるのか気になります。続き楽しみにしています。

水無月さまへ

はじめまして、水無月さま。ようこそいらっしゃいました!

URLから辿らせていただいて、水無月さまのブログを拝見しましたら。
秘密に嵌られて、たった2週間でブログを開設なさったとか。 素晴らしい行動力ですね!
わたしは薪さんに恋をしてから、なんと11ヶ月も経ってからようやくブログを始めたナメクジヤローでして(^^;) なので、水無月さまを尊敬いたします。

拙作を褒めていただいて、ありがとうございます。
まさかと思いますが、全作お読みくださったのですか?うちのお話はどれもこれも、やたらと文字数ばっかり多いから、苦労されたと思います。
ありがとうございました!

えっと、ご指摘の通りうちの薪さんは原作から3億光年くらい離れているので・・・・原作の薪さんがお好きな方には許せない部分も多かろうと思います。(って、薪さんが好きじゃない方は秘密コミュにいないですよね。すみません(><))
それを広いお心で読んでいただいて、とってもうれしいです。

>しづさんの書く薪さんは素直で人間味あふれていますね。原作薪さんとのギャップに最初は戸惑いましたが今はかわいらしいです。

ありがとうございます。
うちの薪さんは、見掛けだけは麗しいけど、中身はオヤジで恋愛に関してはコドモです。そして性格は悪いです。どうか原作とは切り離して読んでください。(って、それ二次創作の意味ない)

お話の続きを気にしていただいて、光栄です。
あと5,6回でラストですので、よろしくお付き合いください。(^^

Aさまへ

Aさま。

> 原作の鈴木さんのラストカットもやはり、薪さんだったんじゃないかという気がします。

わたしの中ではこれ、ガチです。
青木さんも同じ。 「舞に会えなくなってもいいと思った」=「死んでもいいと思った」ですよね。


> 最終回のMRI風の終わり方もちょっと、ラストカットを思わせますよね(>▽<)

あ、そうそう、そうなんですよ。
最終回のラスト、ページが黒かったでしょう? あれ、「青木さんの死後、脳を見たら」という仮定の元に描かれたのかなあと思ってて、やっぱり最後は薪さんの笑顔かwww、と嬉しくなりました♪
エピローグでMRI捜査の可遡年数延びたし、本当にそうだったのかもしれませんね。(*^^*)
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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