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ラストカット 後編(18)

ラストカット 後編(18)






 室長室のPCモニターは、32インチという大型のものである。
 薪のパソコンは、MRIシステムの端末としても利用できる。そのため、ディスプレイもこのサイズのものが使われている。
 
 その液晶画面に。
 一昨年の11月以来の、無修正AV画像が映し出されていた。

「……うそだ」
 5課の要請で、裏AVの確認作業を手伝っていたときとは別人のように、薪はその映像に慌てふためいていた。
 画面の中では、2人の男が裸で抱き合っている。無修正のホモポルノだ。思わず椅子ごと机から離れるが、画面から目を離すことはできない。
 出演者の2人は、自分が良く知っている人物だ。ひとりは自分の親友だし、もうひとりは自分自身だ。まったく身に覚えのない映像を目の当たりにして、薪は青木の馬鹿げた仮説のルーツを知る。 

 青木が言ったことは嘘ではなかった。でも、これはラストカットではない。
 ラストカットは、ほんの十秒くらいだ。こんなに長く続くものではない。
 これはたぶん鈴木の想像か、でなければ夢のどちらかだ。現実ではない。画の中に、鈴木自身が映っているからだ。鈴木は昔の情事を思い出していただけだ。
 それだけのことで、あんな極端な仮説を捏ね上げるとは。青木は、捜査官より小説家になったほうがいい。このDVDを見終わったら転職を勧めてやろう。

 ディスプレイの中の薪は、ベッドの上にうつ伏せになって尻を高く上げている。そこに鈴木が後ろから覆いかぶさってくる。羞恥に頬を染めて、それを受け入れる。
 激しく突き上げられるうちに、薪の表情が変わってくる。恥ずかしそうな表情から、快楽に喘ぐ淫らな貌に。やがては自分から、夢中になって腰を動かし始める。
 たしかに、これは鈴木と自分に間違いない。
 でも、こんなにすごかったっけ? これじゃ、まるで……。

 読唇術の心得がある薪は、画の中に映る自分のくちびるを、おっかなびっくり読んでみる。
「言ってない! 僕はこんなこと言ってないぞ!」
 PCの画面に思わず突っ込みが入るほど、モニターの中の自分は淫らなことを叫んでいた。気持ちいいとかもっと深くとか、それから……とても言葉にできない。
 やってることも凄い。
 このDVDはのっけからセックスシーンだったが、様々に体位を変えて、その度にふたりは興奮を高めているようだった。薪の色欲に溺れた顔が鈴木の欲望に近付いていって、愛しそうにそれを口に含む場面もあった。今は薪が鈴木の上になって、からだを仰け反らせながら腰をくねらせている。

「やってない! 僕はこんなことまでしてない!!」
 こ、これを青木が見たのか!?
 あいつ、これが鈴木の想像だって解ってるよな? あいつの観察力は当てにならないから……不安だ……。

「鈴木……いったい、僕をどうゆう目で見てたんだよ……」
 あまりにも現実と違う画像に、薪は両手で頭を抱え込んだ。憂鬱な気持ちで、当時のことを振り返る。
 セックスが上手にできたことなんか、数えるほどしかなかった。
 相手とひとつになる幸福感と、肉の快楽はまた別のものだ。幸せだったけど、その行為には必ず痛みがセットになっていて。正直な話、鈴木が終わるのをひたすら待ってるときのほうが多かった。
 それでも、回数を重ねるごとに痛みはだんだん薄くなって。半年以上かかって、ようやく痛み以外のものも感じられるようになったけど。うまくすると鈴木を受け入れたまま、射精できることもあったけど。でも、それはほんの数回のことで。まぐれと言ってもいいくらいの確率でしか、訪れてはくれなかった。
 そのまぐれですら、こんなふうに感じられたことは1度も……きっと僕は、そっちの才能がないんだ。

 鈴木のことは好きだったけど、セックスは女の子のほうがずっと気持ちよかった。
 男はとにかく痛くて汚い。きれいでしたよ、と青木は言ったけど、そんなはずはない。あれは、見たら吐き気がするほど汚い光景だ。

 鈴木に恋をしていると自覚したころ、もしかしたら自分は女の子より男のほうが好きなのかと悩んで、そういう系統の雑誌やネットを見てみたことがある。それまで女の子にもいまひとつ本気になれなかったのはそのせいか、とも思った。でも実際に見たら、気持ち悪くて吐きそうになった。
 結局、僕は女の子も男も本気で愛せない、愛情の欠落した人間だということが分かった。それが何故か、鈴木だけは特別で。
 これが恋の魔法というやつなんだな、と自分でもびっくりするくらい、やさしい気持ちや相手を大切に思う気持ちが自然に沸き上がってきて。
 こんな冷血な自分でも、やさしい人間になれる。暖かい血の通った人間になれる。それがうれしくて、僕はますます鈴木のことを好きになった。

 画面は遷り変って、スーツ姿の薪が現れる。場所は室長室のようだ。
 ほっとして薪は画面に近付く。
 室長室の窓から外が見えた。雪が降っている。季節は冬だ。
 キーボードを叩きながら、薪は何かぶつぶつ言っている。これは現実の画らしい。画の中に鈴木の姿がなく、薪だけが映っているからだ。

 また場面が変わって、テーブルの上に置かれた美しい和懐石の膳が映る。それを美味そうに食べている自分の姿が見える。
 これは、山水亭だ。
 画面の中の薪はとても楽しそうに笑い、次の瞬間にはくちびるを尖らせ、その次にはまた笑っている。その美貌が、こちらにぐいと近付いてくる。目を閉じて口を大きく開く。10分前の画像では男の欲望を咥え込んでいたつややかなくちびるに、今度は大粒のイチゴが投入される。薪はリスのように頬を膨らませている。

 鈴木の前では、自分はこんなにやりたい放題だったのか。笑って怒って甘えて……そうだ、僕がこんなふうに自分を出せる相手は鈴木だけだったんだ。

 唐突に、画面の中の薪の顔が悲しげな翳りを見せる。が、それは一瞬で消え、穏やかな微笑を取り戻す。しかし、それはさっきまでの無邪気な笑顔ではない。薪は明らかに自分の心を隠している。

 思い出した。これは、鈴木が死ぬ前のクリスマスイブの夜だ。




*****


 鈴木さんと過ごした最後のクリスマスイブの様子は、カテゴリADの『聖夜』というお話に書いてあります。
 興味のある方はどうぞ。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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No title

はじめまして、しづ様。ルナルナと申します。
コメントは初めてですが、以前からこちらには良く伺っていました。
お話すごく楽しんで読んでます。
私の周りには「秘密」を語れる人は居なく、そういう方を求めてさまよってました。
勧めたのですがなかなか実らず・・・・。
おそらく皆様の所はほとんど回ったと思います(汗)。
コメント慣れてないし失礼があったらばと思うと・・・なかなかコメント出来なかったんですが、今日かのん様の所へコメントしたら何かが私の中で吹っ切れたようで(笑)
原作でも青木君と薪さんには幸せになって欲しいなとは思いますが、難しいですよね、多分・・・。本当に結婚しちゃうのかと思うと、うーんつらいです。
初めてなのに長々と語ってすみません。
また伺います、それでは失礼します。

ルナルナさまへ

はじめまして、ルナルナさま。ようこそ、いらっしゃいました。(^^

前々から来てくださってたんですね。ありがとうございました。それだけでも嬉しいです。そして、勇気を出してコメントくださったのは、もっと嬉しいです!

楽しんで読んでくださってる、とのお言葉、正に本望です。
わたしが書いてるのは、基本的にギャグ小説なので。笑ってくださるのが一番嬉しいのです。

> 私の周りには「秘密」を語れる人は居なく、そういう方を求めてさまよってました。

わたしもそうだったんですよ!
1年近くひとりでシコシコ小説書いてたんですけど、薪さん愛を語れる相手が欲しくなって、それでブログを開いたんです。だから、ここにあるお話は付録みたいなもので・・・本当はこうして、薪さんを好きな方々とお喋りがしたいだけなんです。

秘密を好きなひとなら、どなたでも大歓迎です!
お気遣い無用です。この小説以上に失礼なことなんて、何もないですから!(すみません、薪さんのイメージぶち壊してて(><))

> 原作でも青木君と薪さんには幸せになって欲しいなとは思いますが、難しいですよね、多分・・・。本当に結婚しちゃうのかと思うと、うーんつらいです。

原作では難しいでしょうね。結婚・・・・あ、今、目の前が暗転しました・・・・。
ううう、わたし、原作ではあおまき成立は諦めてて、結果としてあのふたりの婚約も結婚も致し方ないと理性では思っているんですけど・・・・
そんなシーンが出てきたら、間違いなく泣く・・・・・期待しないと言いつつも、諦めきれないのがつらいです。
あおまき派の方は、みなさん同じ気持ちを共有しているんですよね。ああ、もう・・・・なんとかならないものでしょうか・・・・。

すみません、わたしも長々とレスしてしまいました。(^^;
また、ぜひいらしてください! お待ちしてます!

お返事ありがとうございました。

コメントやっぱり苦手なのであまり出来ないかもですが、続き楽しみにしております。
と言いつつお優しいお心に甘えてつい語ってしまいますが(汗)
結婚は嫌だけど出来ればしてほしくはないけど、精神的に深く繋がっている二人ならそれで我慢すべきかな~とツラツラ思ってます。(最近では雪子さん見るのもつらいです(涙))
外でのお仕事寒い中大変だと思います。
お体にはくれぐれも気をつけて下さい。
また伺います。
それでは失礼します。

ルナルナさまへ

こんにちは、ルナルナさま。
コメント、ありがとうございます。うれしいです。(^^

>結婚は嫌だけど出来ればしてほしくはないけど、精神的に深く繋がっている二人ならそれで我慢すべきかな~とツラツラ思ってます。

我慢・・・・ぶっちゃけちゃうと、我慢ですよね・・・・。
現実的に考えて、その方が障害が少ないし薪さんの苦悩も最終的には軽くなるはず、とわたしは思っていたのですが、実際にあのふたりの結婚生活とか原作に出てきたら地の底まで凹みそうです・・・・。
わたしの場合、原作では望めない展開だから、そうなっても自分が傷つかないように、色々と理由をつけて予防線張ってたのかもしれませんね。

>最近では雪子さん見るのもつらいです(涙)

わかります。雪子さんを見るたびに、薪さんの哀しそうな顔が浮かぶんですよね。
雪子さんも悪い人じゃないはずなのに・・・・本当に、悲しい人間関係ですよね。誰が悪いってわけじゃないのに、どうしてあんな風になってしまうんでしょう。


励ましのお言葉、ありがとうございます。
はい、この商売冬の間が稼ぎ時なので、頑張ります!

Aさまへ

Aさま。

> あらまあ、鈴木さんたら

いつもこんな眼で見てたわけじゃないですけど。 時々は思い出してたってことで。
ジェネシスで第九編始まったら、鈴木さんが滝沢さんの薪さんに対するセクハラにヤキモキしてこんな夢を見ればいいと思います。(え)

雪子さんは、薪さんに似てますか?
わたしはこの二人は対照的だと思うんですけど……「女薪」なんて渾名はありましたが、あれは仕事に対する姿勢のみに冠されたもので、中身は全然似てない気がします。
薪さんは儚いイメージがあるけど、雪子さんは生命力が強くて元気一杯。 薪さんは色々気付き過ぎだけど、雪子さんは気付かな過ぎ。 薪さんは公私共に神経質だけど雪子さんは(仕事以外は)大雑把。 薪さんは粘着質だけど(笑)雪子さんは一晩寝れば恨みを忘れる。 薪さんは部下を苛めるのが大好きだけど、雪子さんは逆に部下(スガちゃん)に苛められてる。(笑・笑)
だから彼らが雪子さんを好きになったのは、薪さんの代わりではなかったと、わたしは思います。


> ジェネ薪さんが自分の出生の秘密を知る前から子供をつくる気は無いと言ったのは何故なんでしょうね?

ねえ、どうしてなんでしょうね?
まさかこの頃からガチ? 
できれば単なる中二病であってほしいです。←それもどうよ?


> 元々、性欲薄そうですが

え、そうですか?
わたし、原作の薪さんはお強いと思います。(きゃ)
だって~、目隠ししてまでエッチする人ですよ? 性的に弱い男が精神的にあれだけ追い詰められたら役に立たないと思……失礼しました。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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