ラストカット 後編(19)

 ヌルイRありです。 苦手な方はご注意ください。





ラストカット 後編(19)





 雪子が仕事でデートの相手にあぶれた鈴木は、薪を誘ってきた。そこで雪子との結婚話を告げられた。これはそのときの画像だ。
 自分もこのときは頑張った。動揺を表に出さないように、自分の感情を見事に抑え込んだ。
 この夜はたしか鈴木が部屋に飲みに来て、そのまま泊まって行ったのだ。図々しく薪のベッドを占領した鈴木は、雪子と間違えて自分にキスを――ほら、ここだ。
 鈴木にベッドに引き込まれて、赤い顔をした薪が映っている。リビングに行こうとそっとベッドを抜け出すが、鈴木の寝顔につい見蕩れて誘惑に負けそうになる。慌ててかぶりを振って、己を戒めている。困惑した薪の顔が急に近づいてきて、その亜麻色の目が大きく開かれて画面いっぱいに広がり、不意に暗転する。鈴木が目を閉じたのだ。

「あれ?」
 この画は少しおかしい。
 あのとき、薪はてっきり鈴木が自分と雪子を間違えたのだと思い込んでいたが、それならここには雪子が映っていないとおかしい。これは鈴木の脳の画だから、鈴木が見間違いをしていれば、現実とは違う画が映るはずなのだ。

 くちびるが離れた後の画にも、はっきりと薪の姿が映っている。これだと鈴木は、相手が薪だと分かっていながらキスをしたことになるが。まあ、寝ぼけていたのかもしれない。
 人騒がせな話だ。あの後、薪は千々に乱れたこころを抱えてリビングに逃げ込んだのだ。ソファの上で毛布にくるまって、さんざん泣いた。鈴木を忘れることができない弱い自分が、情けなくて口惜しくて。

 しかし、次の画は間違いでは済まなかった。
 ソファで丸くなって眠っている薪が、だんだんこちらに近づいて来る。鈴木のほうが薪へ向かって歩いているのだが、鈴木の視覚で見るとそうなるのだ。
 そして。

「何してるんだ、鈴木……?」
 薪の頬は涙で濡れていた。それを鈴木のくちびるが吸い、愛しげにくちびるにキスをした。
 それから鈴木は、長いこと薪の寝顔を見ていた。窓の外が白むまで、ずっと。
「嘘だ……こんな……だって……」

 それから再び、薪は娼婦のようになって画面の中に現れた。
 今度は室長室だ。薪の身に憶えはないから、これは完全に鈴木の想像だ。
 最初のころ、薪の体に透けて部屋の天井みたいなものが映っていたから、仰向けになった姿勢でこれを想像していたと思われる。
 これは男なら誰でもやることで、薪にも経験がある。つまり自慰行為だ。
 男が自慰をするときに、だれかとの情事を想像する。それはよくあることだけど、ただの友達だと思っている相手にすることじゃない。

 薪は立ったまま白いワイシャツを袖の部分に落とし、上半身をさらけ出している。鈴木を見て、嬉しそうに微笑んでいる。鈴木の手が薪のベルトを外し、ズボンを足元に落とす。そのまま薪の下腹部を口で愛撫しだした。
 立っているのが辛くなった薪は、執務机に手を伸ばす。机の縁に捕まって、快感に身悶えする。充分に潤った薪のからだを机の上に載せると、鈴木は自身を薪のそこに埋めてくる。薪はびくびくと震えながら鈴木を受け入れる。
 そのつややかなくちびるが、また叫びだす。しかし、今度のセリフは薪にも憶えがあった。
『すずき、だいすきっ!』
 大きく足を開いて男を受け入れながら、相手を抱きしめて、その耳元で何度も叫んでいる。
『愛してる、愛してるっ! すごくしあわせっ……!』
 鈴木のくちびるも、薪と同じ動きを繰り返している。

 男同士のセックスなんて、端から見たら吐き気がするほど汚い光景だけど、でも。
 でも、鈴木の脳に残されたその画はきれいで――青木が言う通り、確かにとてもきれいで。

 これは現実じゃない。鈴木の脳が作り出した画だ。
 だけど。
 鈴木には――鈴木の目にはこんなふうに見えていたと。
 僕と同じように、繰り返し繰り返し夢に見たと……あのころのことを思い出して、僕との情事を想像して、眠れぬ夜を過ごしたと。
 想いは通じ合っていたのだと――。

 画面の中の薪の眼には、うっすらと快楽の涙が浮かんでいる。それを映し出す亜麻色の瞳からもまた、涙が零れ落ちていた。
「鈴木……」

 もう、迷わない。
 おまえのまがい物に、惑わされたりしない。
 おまえはここにいる。ちゃんとここにいたんだ。

 僕の夢の中で、僕を抱いてくれたおまえが真実だった。
 僕に、夜な夜な逢いに来てくれていたんだ。僕の捻じ曲がったこころがおまえの愛情を信じられなくて、夢は悪夢に変わってしまったりしたけれど。鈴木は僕に逢いたくて、ただそれだけで。
 そうだ。鈴木はそういうやつだった。
 僕には限りなく甘くて、僕のすべてを許してくれて。

 薪は自分の手でベルトを外した。
 華奢な手が、ズボンの中に滑り込む。画の中の自分が鈴木にされているように、自分自身を愛しはじめる。
 触る前から薪のそこは痛いくらいに膨らんでいて、それはこの画像が、薪のからだの奥に眠った情事の記憶を引き出した結果だった。
「あっ、あっ、鈴木っ……!」
 昔の恋人を思い出しての手淫は何度も経験済みだが、今日は画像付きだ。頭の中の空想と視覚では、与えられる刺激に格段の差がある。その強烈な刺激は、薪の時計を一気に15年前に巻き戻した。

 独りよがりじゃなかった。
 鈴木は僕を愛してくれてた。もちろん雪子さんのことも愛してたけど、ちゃんと僕のことも愛してくれていたんだ。
 不誠実とか二股とか、部外者は勝手にほざけばいい。鈴木を知らない人間に鈴木の気持ちが解るわけがない。鈴木は雪子さんにも誠実で、僕のことも本気だった。

 興奮が高まるにつれて、体に纏いつく衣服が邪魔になる。夢中でズボンと下着を下ろし、床の上に脱ぎ捨てる。両手が自由に動くようになって、薪の快楽はいっそう深くなる。
 両膝を折り、椅子のふちに腰掛けて、画の中の自分と同じように大きく足を広げる。腰を浮かせて鈴木を受け入れている部分に自分の指を忍ばせ、画の自分と同じ愉悦を味わう。
 音のないMRIの代わりに、薪は大きなよがり声を上げる。堪らなくなって、ありったけの声で叫ぶ。
「すずきっ、すずきっ! 愛してるっ! あああ!」

 ひときわ大きな喘ぎと震えのあと、薪はぐったりと背もたれに寄りかかった。
 荒い呼吸を整えて、目蓋の裏の恋人に微笑みかける。汚れた手をティッシュでぬぐい、涙を拭く。床に脱ぎ散らかしたズボンを拾い上げ、身につける。
 再びディスプレイの前に座って、薪は画面に向き合う。頬杖をつき両手で口許を覆って、愛撫の余韻を味わいながら、自分たちの愛し合う姿を切ない瞳で見つめる。

 あのとき、僕が取った行動は間違っていた。
 鈴木を撃ち殺した後、僕がしなければならなかったことは、所長に連絡して救護班を回してもらうことではなく、雪子さんの携帯に連絡を入れることでもなかった。

 その場で自分の頭を打ち抜くことだったんだ。

 それが判ったいま――僕は鈴木に会いに行ってもいいんだ。
 きっと、鈴木は僕のことを待ってくれている。バカな僕が思い違いをして、鈴木にこんなに長いこと待ちぼうけを食わせてしまった。

「ごめん、鈴木……ごめんな」
 でも、明日は逢える。鈴木に逢いに行けるんだ。



*****


 なんか、すっかりすずまき小説に。
 が、がんばれ、青木くん!


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

すずまき‥って、ちょっと、しづさんってば

しづさん、ひどい、ひどい‥すずまき‥そんなぁ(笑)

鈴木さんは嫌いじゃないけど‥
でも‥まあいいか‥ああああああ!!だめじゃん!
あおまきすと‥のつもりなのに。

勿論、しづさんもね(^-^)←笑ってる私‥

どっちにしても薪さんはまだ‥気付いてないなんて‥
薪さん‥何してるのひとりで‥まったく。
青木って‥何‥(笑)笑ってる場合ではないけれど‥
こうなると笑うしかないです‥あははは‥ははは‥は‥はぁーー(ため息)

ええっと‥次回ですね‥
こういう展開なら次回を待つしかないじゃないですか(~_~;)
‥薪さんの心が少しでも軽くなったのなら‥
私は構わないですけど‥ずっとすずまきでも‥あれっ?!

‥次回も‥楽しみにしてます~♪



すみません、また来ちゃいました

でもこれだけはどうしても書きたくて(汗)。
しづさんの所の薪さんはとても幸せです。
鈴木さんに大事に思われて青木君には心の底から愛されて雪子さんは本当に薪さんの理解者で。
私の理想の秘密の世界がここにはあるんです、だから読んでしまうんです。
この前のコメントでもあおまき派の皆さん結婚嫌なんだなぁってでも仕方ないかな・・・とあきらめの気持ちでいる事を再確認しました。
だからそれぞれの形で薪さんの幸せな姿を描いてるんだなぁと思うと改めて切なくなりました(本当原作何とかなんないかなぁ~(あきらめの悪い私))。
話は変わってすずまき・・・・あおまき派としては複雑だけど、でも薪さんの悩みが晴れたなら幸せなら、それが一番重要です、大事です(笑)。
ってまさか後を追うためにお墓に行った訳ではないですよね?晴れたんですよね、悩み。
とにかく次回を待ちたいと思います。

私の独り言のような(正に)コメントなのでお返事は無理して頂かなくて大丈夫です、本当に。
というかすみません何度もお邪魔して(泣)。

ruruさんへ

いらっしゃいませ~、ruruさん。 イタイ薪さんから浮上しました?(^^

> しづさん、ひどい、ひどい‥すずまき‥そんなぁ(笑)

えへへへ、すみません(^^;
あおまきすとの皮を被ったすずまきすとだったりして。(嘘です)


> 青木って‥何‥(笑)笑ってる場合ではないけれど‥
> こうなると笑うしかないです‥あははは‥ははは‥は‥はぁーー(ため息)

大丈夫、大丈夫ですよっ。
ここから巻き返しますからっ!(あ、ruruさんが疑わしそうな眼で見てる)


> ‥薪さんの心が少しでも軽くなったのなら‥
> 私は構わないですけど‥ずっとすずまきでも‥あれっ?!

ruruさんたら(笑)
わたしもねー、結局は薪さんが幸せになってくれればそれでいいんですよ。相手は青木くんじゃなくても。だけど、薪さんが青木くんのこと好きだ好きだって言うから。(言ってない)

それに、これから生きていくのに、亡くなったひとと恋愛しててもねえ。
結局はそれは、自分の世界で自己完結するものであって、この世界と自分をつなぐものではない。そんなことを続けていれば、必ず歪みが生じて最終的には精神的に崩壊すると思うんですよ。うちの薪さんの場合、そうなりかかってました。
だからやっぱり、青木くんに頑張ってもらわないと。

あおまきすとの名にかけて、未来あるラストにしますので。
どうか最後までお付き合いください(^^

ルナルナさんへ

ルナルナさん、こちらにもコメありがとうございます♪ 嬉しいです(^^

> しづさんの所の薪さんはとても幸せです。
> 鈴木さんに大事に思われて青木君には心の底から愛されて雪子さんは本当に薪さんの理解者で。
> 私の理想の秘密の世界がここにはあるんです、だから読んでしまうんです。

でしょでしょ!?
わたしがSだから、うちの薪さんはかなり頻繁に泣いてますけど(笑)でも、状況を考えたらこんなに幸せな薪さんはいないと思います。
わたしは原作を読んだときに、薪さんが幸せになるに当たって、何がネックになっているかを考えました。
いろいろありましたけれど、
1、鈴木さんを殺めてしまったことに対する罪悪感により、自分が幸せになってはいけないと言う強迫観念に取り付かれている。周囲への攻撃的な行動は、その表れであると思われる。
2、青木くんが好きなのに、彼は雪子さんに恋をしている。
3、雪子さんは鈴木さんの元恋人であり、薪さんにとっては一生かかって償わなければいけない相手として、絶対的優位に立っている。
とまあ、これが大きなポイントだと思われました。(これは4巻までを読んで思ったことです。わたしがお話を書き始めたのはその頃なので)
障害物がはっきりしたなら、それを取除いてしまえばいい。そしてわたしの脳内で、薪さんの幸せな世界を紡いで、自分を慰めようと思ったんです。それがこのお話です。
あまりにも原作から離れてしまって、こんなん公開していいのか、と悩んだんですけど。今は勇気を出して公開してよかったと思っています。


> この前のコメントでもあおまき派の皆さん結婚嫌なんだなぁってでも仕方ないかな・・・とあきらめの気持ちでいる事を再確認しました。
> だからそれぞれの形で薪さんの幸せな姿を描いてるんだなぁと思うと改めて切なくなりました(本当原作何とかなんないかなぁ~(あきらめの悪い私))。

二次創作者は、みんな同じ気持ちだと思います。間違いないです。
創作をされる方々ばかりでなく、秘密コミュの方々は、一人残らず薪さんの幸せを望んでいるんですよね。こんなに沢山の人がこころから薪さんの幸せを望んでいるのに。本当に、何とかして欲しいです。わたしも諦めたと口では言いながらも、青雪さんを見ると複雑な気分になってしまうんですよね・・・・・かと言って、薪さんに新しい相手が出てきても、やっぱりイヤなんだろうなあ。


> 話は変わってすずまき・・・・あおまき派としては複雑だけど、でも薪さんの悩みが晴れたなら幸せなら、それが一番重要です、大事です(笑)。
> ってまさか後を追うためにお墓に行った訳ではないですよね?晴れたんですよね、悩み。

あ、わたしもあおまきすとですよ!
なので、ご心配なく。(^^
最終話なので、薪さんの憂いはきっぱり払っておきます。それが目的でここまで書いてきたんですから。


あの、しづはコメント欄のおしゃべりが大好きで、これがしたくてブログ始めたので。(SSはオマケ)ですので、コメント大歓迎です!(あ、もちろん、読み逃げも大歓迎(?)ですよ!)泣かれることなど、何もありません!
これからもよろしくお願いします!!

Mさまへ

Mさま、鍵拍手ありがとうございました。

・・・・・・それはだめ。(笑)
(なんだろう、このコメレス)

Aさまへ

Aさま。

「聖夜」の読み返し、ありがとうございます。 光栄です。(〃▽〃)
切なくなっちゃいましたか? でも、

> あの時の薪さんの切ない気持ちがこういう形で報われるとは(;▽;)しづさん、流石です!

ええ、辛い話はできるだけフォローするようにしてます。 中には、どうにもならない話もありますけど。


> 原作の鈴木さんも10年以上も薪さんのそばにいて一度も変な気持ちにならなかったとは思えない。

腐女子的は美味しい展開ですが。
わたしは二人は友情だったと思ってます。 譲って、薪さんの片想い。 鈴木さんの性愛の対象は雪子さんだったと。 薪さんへの気持ちはむしろ、親が子供を想うような感じだったんじゃないかと。 ジェネシスを読んで、ますますそう思うようになりました。
だからあの話で薪さんに狂ってしまったのって、滝沢さんが言ってた通り、貝沼と青木さんだけなんですよ。(笑)

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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