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運命のひと(5)

運命のひと(5)






 音楽が止まり、騒ぎが落ち着いたところで、薪は二階堂の本来の目的を皆に説明した。

 第九の職員たちは、誰もその真実を知らされていなかった。二階堂は自分が脳科学者だと言うことも、論文のために第九を訪れたことも言わなかったらしい。
 じゃあ一体何を話したんだ、と岡部に訊ねたら、『本当に聞きたいですか?』と返された。岡部の目つきから察するに、薪にとって相当不愉快な話だったようだ。
 ここは知らないままでいよう。でないと、あのモヤシの首をへし折ってしまいそうだ。

「さて。音楽の効果でリラックスした今の状態で、血液の採取をさせていただきましょうか」
 ミーティングルームには既に女性の看護師が待機していて、音楽はふざけていたのではなく、このためだったのだと知る。職員たちの精神状態を、モニターを見る前の状態に近づけたかったわけだ。

「あ、ツヨシはダメ」
 採血の列に並ぼうとした薪を、二階堂が引き止めた。
 こいつには耳がないのか。下の名前で呼ぶのを止めろと何度言ったらわかるんだ。
「ノルアドレナリンが過剰分泌されてる。平静でないと意味がない」
 だれのせいだ、だれの。
 
「それから君もダメ。全然、緊張感が取れてない」
 もうひとりダメだしを食らったのは、第九で一番からだの大きな部下だった。
 そのとき青木が二階堂に向けていたのは、招かざる客に対する不躾な視線。
 青木は普段は人当たりのいい男だが、昔から薪を傷つける輩には容赦しなかった。近頃はその攻撃対象に、薪に恋愛感情を持って近付いてくる人間が加わった。実際に、二階堂にくちびるを奪われている事実を知られたとなると、ここはフォローを入れておいた方がいい。そうしておかないと、自分の身が危うい。

 不可を付けられたのをいいことに、みなより先にモニタールームに戻る。秘密の恋人とふたりになって、薪はこっそりと青木に耳打ちした。
「青木。さっきのキスの話だけど、僕は別におまえのことを裏切ったわけじゃなくて」
「職場ではプライベートの話はやめましょう」
 口が酸っぱくなるほど青木に言い聞かせてきたそのセリフを返されて、薪は困惑する。たしかに公私混同はいけないけれど、このままじゃこいつだって精神的に不安定になって、仕事に身が入らないだろう。

 青木は自分の席に座り、検証作業の続きに戻った。黙りこくってモニターを見つめる。
 薪はさっと周囲に目を配り、誰もいないのを確認すると、素早く青木のそばに寄って彼の頭を両手で掴んだ。ぐいと引き寄せて、掠めるようにキスをする。
「ほら。おまえだって避け切れなかっただろ」
 ポカンとした顔で薪を見ている部下のバカ面に向かって、得意気に言い放つ。これでもう、こいつは僕のことを責められないはずだ。
「不可抗力だ。信じ」
 決め台詞は、最後まで言わせてもらえなかった。

 飢えたようなくちびるが覆いかぶさってきて、薪の声を奪った。薪の口腔内を知り尽くした男の舌が、その中を蹂躙していく。絡み合う快感を覚えた薪の舌が、反射的にそれに応じる。
 深いくちづけは、薪に昨夜のことを思い出させる。
 ベッドの上で、お互いの汗のにおいの中で。こんな風に何度もキスをした―――。

「釈明は、今夜ゆっくり部屋で聞かせてもらいますから」
「今夜って……昨夜しただろ。2日続けてなんて、僕にはムリだぞ」
「昨夜はすごくいい思いさせてもらいましたから。今日は薪さんにお返しします」
 いらない、と言おうとしたが、まだ青木の目が完全に笑っていないことに気付いて、薪は口を閉ざした。
「楽しみにしててくださいね」
 にっこり笑った青木の後ろに、大鎌を持った黒マントの骸骨が見えた。

 明日の朝まで命あるかな、僕。
 くちづけの余韻にいくらかぼうっとした頭で、今夜の夕食は最後の晩餐になるかもしれない、と本気で心配している薪だった。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Kさまへ

鍵拍手いただきました、Kさまへ


>うきゃ~~なんて素敵な展開でしょ★☆★☆
>青木こわ~い♪でももっといじめて~♪(笑)

あははは!!
Kさまって、青木くんS×薪さんMのお話、好きですよね。
うちは女王さまとドレイのはずなんですけど、時々逆転しちゃうんですよね。キレると青木くんの方が手におえないので・・・・どっちもどっちですねえ。割れ鍋に綴じ蓋ってやつですかね(^^;)

(関係ないけど、綴じ蓋ってこう書くんですね。今までずっと閉じ蓋だと思ってました・・・・バカだ・・・・。)

Kさまもお仕事大変そうですね。
無理しないでくださいね!どうかご自愛ください(^^

No title

こんにちは☆あ~ん、この前採血に失敗した左腕がまだ大きな痣になってて半袖が着れません(тт)漏れた血が吸収されて消えるのにまだ大分、時間がかかりそうです(´`)

普段は人当たりのいい青木が薪を傷つける輩には容赦しないって、まさに、滝沢に対してそうでしたね(^^;)元々、滝沢は怪しい人でしたが薪さんの首に手をかけてただけで掴みかかってましたから。姉を殺した犯人に対してより敵意剥き出しだった(@@)

この頃は青木の方が強い態度に出てますね。こいつ、やっぱりもう少し性欲を抑えさせた方がいいようだ(`∀´)Ψでも、薪さんはチュウに弱いみたいですね。

あやさんへ

あやさん。

採血、失敗されちゃったんですか?
血管細いっておっしゃってましたものね。 難しかったのかな。
痣なんて、痛々しいですね。 痛みはないのかな? 早く消えるといいですね。


>普段は人当たりのいい青木が薪を傷つける輩には容赦しないって、まさに、滝沢に対してそうでしたね(^^;)

んー、昔のことなので記憶があやふやなのですけど、これは多分、
7巻で薪さんが千堂大臣に殴られたとき、岡部さんが我を失うほど怒ったのに対して、青木さんは怒りを見せることもなく薪さんにハンカチ出してたでしょう。 あれが気に入らなかったんだと思います。
原作の青木さんは薪さんを傷つける人に対しても怒りを覚えないんだと思って、がっかりしました。

滝沢さんは、
薪さんを傷つけた云々というよりも、シットじゃないですか?(笑)

お姉さんを殺した犯人に対して青木さんが憎しみを顕わにしなかったのは、あの時点ですでに自分の責だと思っていたからなんでしょうね。 実際に相対してもスルーしたのにはびっくりしましたが。(@@) 「あの男が姉さんを」とか思わないんですね。 人間、なかなかそうは割り切れないものだと思いますが……青木さん、大物だな。


>この頃は青木の方が強い態度に出てますね。

ほんとだ。 青木さん、強気ですね。
それ以上に、薪さんの引け目が強いんですよね、この時期は。 うちの薪さんが我儘放題言えないというのは、相手に心を許し切っていない証拠なんです。 だからすれ違いも多いし、心も体もなかなか繋がらない。
歯痒いですが、書いてるときは楽しかったです。 やっぱりうちのあおまきさんはケンカしてナンボだなww。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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