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運命のひと(11)

 拍手のお礼なのにすみませんー。
 絶賛ケンカ中です☆



運命のひと(11)







 室長室から聞こえてきた怒鳴り声に、第九の職員たちは度肝を抜かれた。
 青木がここへ来て3年になるが、彼のこんな声を聞いたのは初めてだった。しかもその怒号が、彼の敬愛する室長に向けられるとは。去年の夏に薪と衝突して、青木が第九を辞めると言い出したときでさえ、こんな大声は出さなかった。
 
 部屋から出てきた青木は、力任せにドアを閉めた。ドアが叩き割れるような音がして、モニタールームが振動したような錯覚すら覚えた。
「あ、青木。どこ行くんだ?」
「コーヒー豆、買ってきます」
 コーヒー豆の在庫は週始めに補充したばかりだ、と誰も声にする者はいなかった。モニタールームを出て行く広い背中は、一切のものを拒絶していた。
 自動ドアの向こうに青木の姿が消えると、職員たちは何となく、青木が怒りに任せて閉めたドアを見つめた。昨日、直したばかりのドアは、大男のバカ力によって早くも歪んでしまったようだ。

 そのドアの向こうでは、薪が頬杖をついて、憂鬱な顔をしていた。
 まったく、あいつときたら。聞き分けのない子供のように癇癪を起こして職場を抜けるなんて、社会人にあるまじき行為だ。戻ってきたら説教だ。
 部下の行動に対して怒りを感じているはずの室長の表情は、なぜかとても哀しげで。苦しそうに歪められた瞳から透明な液体が湧き上がるのを、必死で抑えているようにも見えた。

 だって、仕方ないじゃないか。
 僕があいつの子供を産んでやれるわけじゃなし。結婚どころか、付き合ってることだって誰にも知られちゃいけない。そんな間柄なのに。青木の縁談話に口を出すことなんか、できるわけがない。
 青木の親が僕との関係を知ったら、どんなに悲しむだろう。何食わぬ顔で話をしたけれど、本当は怖くて膝が震えてた。
『いつも一行がお世話になっています』と彼女は礼を言った。彼女にとって僕は、息子を誘惑して人の道から外れさせた悪魔にも等しいのに。謝らなくちゃいけないことをしているのに、それを告白する勇気は無くて……せめて、息子の顔を見せてやりたいと思った。
 こんな、世間から非難されるだけの関係なんて、青木にとっても僕にとってもマイナスになるばかりだ。早く清算したほうがいいに決まってる。
 でも。
 僕からは、とてもできない。あの手を放すことはできない。
 だってこんなに……。
 青木の方から、言い出してくれるのを待つしかない。覚悟はできている。みっともなく追い縋ることだけは、すまい。

 ぽたりと報告書の上に水粒が滴り落ちて、薪は慌てて目の縁を拭う。
 しっかりしなければ。今は仕事中だ。泣くのは後だ。
 ていうか、この泣き虫のクセもどうにかしないと。

「泣きたいときは泣いた方がいいんだよ、ツヨシ」
 後ろから声をかけられて、薪は文字通り椅子の上で飛び上がった。
 なんでこいつがここにいるんだ!?
「知ってるだろ? 涙を流すと、GABA神経系からエンドルフィンが分泌される。鎮静効果も高いし、免疫力の向上にも貢献する」
 二階堂は、寝椅子の背もたれに腕を掛け、こちらを見ていた。どうやら今まで横になっていたらしく、髪がいつも以上にくしゃくしゃになっている。
 
「いつからそこに居たんですか!?」
「モニタールームにいると邪魔だから室長室に篭ってろって言ったの、ツヨシじゃなかった?」
 相手に言われて思い出した。
 昨日、第九に回ってきた事件の被害者は現職の都議会議員で、通常以上に個人情報の流出には気を付けるよう念を押された。二階堂には室長室を提供するから、被験者のモニタリングはドアから覗くだけにして、モニタールームには絶対入ってくるな、と命令したのだった。

「今の話を」
「聞くつもりはなかったけど。聞こえちゃった」
 寝椅子はドアに背を向ける形で置かれているから、背もたれに隠れて彼の姿は見えなかった。平常なら人の気配に気がついたと思うが、さっきはふたりとも動転していて・・・・これは非常にまずい。
 今度は冗談では通じない。誰がどう聞いても、恋人同士の痴話ゲンカだ。
「ひとに喋ったら殺しますからね」
「ツヨシ。それは脅しじゃないの? 警察官がそんなことしていいの?」
「警官ですから。隠蔽工作はお手の物ですよ」
「あはは。完全犯罪成立だね」
 軽い調子で流されて、薪は心の中で舌打ちする。
 二階堂には、薪の眼力が効かない。暴力団対策課の捜査官たちにさえ、薪のブリザード攻撃は有効なのに。小野田家の血のなせる業か。

「ツヨシ。今日の帰り、忘れないでね。僕は先に病院に行ってるから」
 なんだっけ、と思いかけて、昨日の会話を思い出す。
 脳波の検査を受けてくれと頼まれたのだった。気乗りしないが仕方ない。約束は約束だ。
 わかりました、と頷いて、薪は席を立った。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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No title

こんにちは☆つい、続きが気になってここまで一気に読んでしまいました(^^;)
まとめてコメント書かせていただきます。

二階堂ってしつこくアタックしてくるとことか、めげないところが青木に似ていて憎めないのですね。脳科学者だけあって人の心をほぐすのがうまいし。青木と違って大人ですよね。本当はこういう人が薪さんにはよいのかもしれない。

でも、薪さんは子供のように癇癪起こす青木が可愛いのですね。何故、毎晩のように責められても耐えているのかと思ったら、いずれは青木と別れなければならないのを覚悟しているから身体を与えているのですね(;;)恋人付き合いするようになってからの方が薪さん的には辛いというか、青木も以前の方がやさしくてよかったなあと、この時点では思ってしまいます(^^;)

あやさんへ

あやさん、こんにちは(^^
いつもコメントありがとうございます。


悲しませてしまったみたいですみません。
ご指摘通り、この辺りは二人のすれ違いがまだまだ多い時期ですね。

>いずれは青木と別れなければならないのを覚悟している 薪さんと、それに対して、
>子供のように癇癪起こす青木

ですね。 すれ違いは必然なんですね。

>恋人付き合いするようになってからの方が薪さん的には辛い
>青木も以前の方がやさしくてよかった

言われた、みんなに言われたよ、それ!
別れるつもりなら最初から付き合わなきゃいいのにとかそんなに喧嘩ばかりしてるならいっそ別れちゃえばいいのにとか身体だけ繋がっても意味ないでしょうとか。
わたしはこの話のように、
マイナスにしかならない関係なのに離れられない、すれ違いばかりで相手の気持ちなんかまるで分かってないけど一番大事なところだけは外さない、という関係は割とツボなので、そんなにヒドイ話を書いてる意識はなかったです。 Sの感覚ってコワイっすねww。
まあ、二階堂の目的がアレなんで、それを否定するべくわざとすれ違いが多いように書いたんですけど、それは作者の都合なので。読まされる方はたまったもんじゃないですよね。 ゴメンね~(^^;


青木さんの変化はアレですね、
彼女が友達だったころは許せても恋人になったら許せなくなる。 男の身勝手ですね~。

二人が恋人として成長するに従って、こういうのも徐々に解決されて行って、段々に二人の気持ちが通じ合うようになって、というのがうちの話の骨子になってますので。 序盤はひどいです、読むなら覚悟して読んでください。
辛く感じるようでしたら無理することないんで、甘めのものを選んで読んでください。 原作なら辛くても後に感動が来るから頑張って読んでください、って言っちゃいますけど、うちの二次創作なんか無理してまで読むもんじゃないですよ。(^^;
どんな読み方でも、読む方に楽しんでもらえるのが一番です。 どうかお気楽に~。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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