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運命のひと(17)

運命のひと(17)







「薪さん。これ、ものすごくしょっぱいんですけど」
 いい加減に盛り付けられた煮物を一口つまんで、青木は顔をしかめた。
 食卓の上に並んだ薪の手によるものとは思えない哀れな料理。味付けも盛り付けもめちゃめちゃだし、ところどころ焦げてるし。キャベツの千切りはつながってるし、味噌汁に至ってはウインナーが入っている。
 だいたい、煮物と生野菜の夕食って微妙じゃないか? いつもだったらこれに、唐揚げとかハンバーグとか、メインディッシュの品がついてくるのに。

「文句言うな。食ったら帰れ。僕は今日はその気になれないから」
「帰れって……スキーに行くんですよ? 今から」
 スキー場へは夜中に出発するのがセオリーだ。3時ごろ家を出て、明け方にゲレンデに着くよう時間を調整する。雪山の夜明けは、背中に震えが走るほど美しい。必ず薪の気に入るはずだ。
「それはキャンセルだ」
「えええ! ゲレンデで朝を迎えて、スキー場で薪さんの誕生日のお祝いをしましょうって約束したじゃないですか」
「スキー場は寒いからイヤだ」
「だったら誘ったときにそう言ってくださいよ」
 先月このプランを話したときには、そんなことは一言も言わなかった。「晴れるといいな」などと笑みまで浮かべて、けっこう乗り気のようにも見えたのだが。

「その時は行くつもりだったんだ。急に行きたくなくなった」
「なんでそんなに勝手なんですか!?」
「うるさいな。文句があるなら、いつだって別れてやるぞ」
「あっ、あっ、またそんなこと言って……はああ、なんでこんな人を好きになっちゃったんだろ」
 後悔しても遅い。この人は、こういう人なのだ。
 青木の方が一方的に薪のことが好きで、デートもベッドも拝み倒して付き合ってもらっている状態だから、何も言い返せないのだが。
 薪は基本的にノーマルな男だから、本当は女の子と交際したいと思っていることも知っている。何ヶ月か前に行った自動車の展示会でも、あからさまにコンパニオンの足ばかり見てたし。青木のお気に入りのメーカーのブースは、スタッフの女の子がパンツスーツだったという理由で、クソミソに貶されてたし。
 それでも、やっぱり好きだから。
 青木は、顔の筋肉をムリヤリ動かして笑顔を作る。

「月曜日のディナーは大丈夫ですよね? 今年こそ、山水亭ですよ」
 12月24日は薪の誕生日。青木にとっては神の降誕祭ではなく、大切な恋人がこの世に生まれた記念すべき日だ。
「それもキャンセルしとけ。僕は明日から、スウェーデンだ」
「は!?」
「岡部に留守を頼んである。水曜には帰るから」
「仕事ですか?」
「ちがう。プライベートだ」
 仕事の鬼が、休暇をとって海外旅行?
 赤い雪どころか、レインボーカラーの雪が降ってきても不思議じゃない。

「プライベートで海外へ? お一人でですか?」
 一応は恋人として付き合っているはずの自分に一言の相談もなく、4日も日本を離れると言う。
 しかも、クリスマスに。
 何故だかこの日は昔からツキがなくて。クリスマスデートの申込みはこれで4回目だが、1年目は青木の父親が倒れ、2年目は薪が余計な気を回して雪子と食事をする羽目になり、3年目は突発の捜査が入って料亭から第九に直行し、4年目の今年は海を隔てて離れ離れ。何かの力が働いているとしか思えない。
「なぜ、スウェーデンなんですか?」
「北欧の雪が見たくなった」

 寒いからスキーはイヤだって言っといて、なんなんですか、それっ!

 怒鳴りたいのを必死で堪える。ここで感情を爆発させてしまったら、薪は機嫌を悪くする。薪が日本を離れる日数の10倍くらいは、徹底的に無視されるだろう。
「もういいです。今日は帰ります」
 薪の気まぐれには付いていけない。
 こういうときに話し合いを持とうとすると、修復不可能なケンカにまで発展してしまう可能性が高い。今まで何度もそんなことがあった。薪は絶対に自分から謝ろうとはしないし、青木の方がキレてしまったら、二人の関係はいとも簡単に破綻する。少し頭が冷えてから話をした方がいい。

 青木は黙って食事の後片付けをして、キッチンの掃除をする。それを手伝おうともせず、薪はリビングでテレビを見ている。騒がしいバラエティ番組の音。薪はこういう番組は嫌いだったはずだが、ソファの上に両膝を抱えて画面に見入っているところをみると、それほどの嫌悪感はないらしい。
「じゃあ、失礼します」
 声をかけるが、振り向いてもくれない。薪の背中はとても冷たくて、青木は悲しくなる。今夜の薪は、自分の恋人になる前の薪に戻ってしまったようだ。

 こんなに勝手なひとなのに、どうして嫌いになれないんだろう。
 青木は今まで、相手の人間性を重要視して交際相手を選んできたつもりだ。ところが、薪は恋人としては最低の部類で、やさしくもないし可愛くもない。見かけ以外はいいところがまるでない。たまにしおらしいことをするかと思えば、それは青木を焚きつけて事件を早期解決させるためだったりする。そんな計算高い人間に惹かれることなど、これまでは無かったはずだ。
 精一杯の純真を掌の上で転がされて、いいように使われている。こういうの、なんて言うんだっけ。都合のいい男――ミツグくんとか、アッシーくんとか――いや、奴隷か。

 地下駐車場の隅に停めた車に乗り込んで、不要になってしまった後部座席の荷物を振り返る。昨夜この荷物を詰めたときは、あんなに浮き浮きした気持ちだったのに。
「せっかく予約取ったのに」
 4WDのレンタカーも用意したし、スキーウェアだって新調したのに。山水亭の予約だって、何ヶ月も前から。
 みんなみんな薪の為なのに。薪はちっとも自分の苦労をわかってくれない。
 今に始まったことではないが、やっぱり薪と付き合うのは試練の連続だ。すれ違いは多いし、気持ちのズレはもっと多い。
 喜びも大きいが、ため息も深い。浮き沈みが激しいと言うか、良いときと悪いときの差が大きいと言うか。いつかこの気持ちが通じると、ずっと信じて頑張ってきたが、時々心が挫けそうになる。

「薪さん、オレのこと、本当にセフレだと思ってるのかなあ」
 自分のことをどう思っているのか、と薪に聞いたら、しれっとした顔でそう言われたことがある。もちろん、薪のいつものシュールな冗談だとその場は流したが、案外本気だったのかもしれない。
 過去に、女性に対してそうした愛のない行為をしたことをとても悔やんでいた薪だが、青木は男だし。女性と違って傷がつく、と言うわけではないから、悪いとは思わないのかもしれない。第一、青木の方から頼み込んでセックスしてもらってるわけだし。

 「薪さんのバカ」



*****

 って、またケンカかよ。 
 いい加減にしろよ、おまえら。←さも他人の仕業のように。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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三上先生が好きだっ!

しづさん、こんにちは。
コスプレ‥(笑)似合わない‥なんででしょう。

それはともかく‥15と16は辛くてコメ出来なくて‥パスしました。
すみません‥

ええっと‥ひとの真意を推し量る難しさ‥
‥ほんの少しの優しさが欲しい‥と青木は思うでしょうか‥
云う優しさと、云わない優しさ‥
どっちが正しいのか分かりませんけど。

肉親でも分からないことがあるのに他人同士では
本当に翻弄されてる―と思ってしまっても仕方ないのかな‥
でも、胸が塞がれる思いがして‥
なんでしょう‥
青木の薪さんを想う気持ち、
そして、薪さんの奥底の、表に現さない優しさが‥なんか‥痛い。

メロディ読んでナーバスになってるせいばかりでは
無いと思うんですけど。

薪さん、二階堂先生に会いに行くのね‥
ほんとに‥心底優しいひとなのですね‥

最後に‥二階堂先生にお見舞いの花束を。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

三上先生は永遠です・・・!

こんにちは、ruruさん、お返事遅くなっちゃいまして、すみません~~!!!
ちょっとリアルでばたついてて、落ち着いてお返事が返せなくて、申し訳ないです。


> コスプレ‥(笑)似合わない‥なんででしょう。

・・・・・あはははは!!!
だめ、それ言っちゃダメですよっ!!言ったらファン失格ですよっ!!
じ、実はわたしもがっつり思いまして~~、ファンとしてあるまじき感想だと反省いたしました。何回も見れば違和感も減ると思いますから、お互いがんばりましょう。(笑)


> ええっと‥ひとの真意を推し量る難しさ‥
> ‥ほんの少しの優しさが欲しい‥と青木は思うでしょうか‥

欲しいでしょうねえ。滅多にもらえないですからねえ。
うちの青木くんは、ほんっと不憫ですね(笑)


> 肉親でも分からないことがあるのに他人同士では
> 本当に翻弄されてる―と思ってしまっても仕方ないのかな‥

あー、えっと、うちの場合は、わかんないと思います。青木くん、決して鈍くはないんです。薪さんがとっちらかってるだけで、青木くんは悪くないです。


> でも、胸が塞がれる思いがして‥
> なんでしょう‥
> 青木の薪さんを想う気持ち、
> そして、薪さんの奥底の、表に現さない優しさが‥なんか‥痛い。

愛し合っていてもすれ違ってしまうことってたくさんありますよね。いや、うちのは多すぎなんですけど(^^;)やさしい気持ちがぶつかり合っているのに、お互い傷ついちゃうとか。
うーん、難しいですね。


> メロディ読んでナーバスになってるせいばかりでは
> 無いと思うんですけど。

おおお、コスプレの話があったからそうだとは思いましたが、読まれたんですね?
ruruさん、前号まであんなに迷ってたのに・・・・・勇気ですねっ、愛ですね!


> 薪さん、二階堂先生に会いに行くのね‥
> ほんとに‥心底優しいひとなのですね‥

本当に雪を見に行くだけだったりして(笑)
冗談です、行ってきます。


> 最後に‥二階堂先生にお見舞いの花束を。

ありがとうごございます。
ruruさんのやさしいお気持ちに、感謝です。(^^

Aさまへ

Aさま。

行きました、スウェーデン。 これが最後だと分かってたので。

薪さんの優しさ……なのかなあ?
書いたわたしが言うのも何なんですけど、これ、未だにわたしの中で正解が分からないんです。 本当に会いに行くべきだったのかな、って。
だって二階堂は自分の病気のことを薪さんにだけは知られたくなかったわけで、だったら知らないことにしたまま逝かせてあげた方がよかったんじゃないか。 そうすれば彼は最後の最後まで薪さんを心配しながら死んで行くんじゃなく安らかに死ねたんじゃないか。
結局薪さんがしたことって、無意識ではあるが自分の罪悪感を薄めるための利己的な行動だったんじゃないか。

てな具合に薪さん自身考えて、後からがっつり落ち込んでるんですよね。 それで耐えきれなくなって青木さんを呼び出しちゃった。



>病気のことは青木にも言いにくいかな。

二階堂が隠そうとしたことを自分の口からは言えなかったんですね。 もっと上手に嘘を吐けばいいのに(昔仕事で世話になった人にどうしても会わなきゃいけなくなったとか)、その余裕もこの時は持てなかったんですね。 知らなかったとはいえ、自分のしたことが辛過ぎて。



>もう、この二人はケンカするほど仲がいい、ということで・・(笑)

何でも話せるようになる、本当の意味で薪さんが青木さんを頼るようになるのって、タイムリミットの後なんです。 この頃はまだまだ。 3年後に別れる気マンマンですから(笑)


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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