運命のひと(19)

運命のひと(19)







 薪以外の第九の職員が、二階堂の訃報を知ることはなかった。
 小野田も薪も、それに関しては故人の遺志を尊重した。かれは、自分の為に誰かが悲しむことを望んではいなかった。

 手術のあと、彼の意識はとうとう戻らなかった。
 薪は時間の許す限り病院に詰めていたが、彼がICUから出ることはなかった。後ろ髪を引かれる思いで、日本に帰ってきた。
 その夜。
 ひとりでいるのがどうしても耐え難くて、無理やり恋人を呼び出した。無分別な行動だと解っていたが、薪の手は勝手に携帯のボタンを押し、くちびるは深夜の逢瀬を強要した。
 薪にはどこまでも甘い恋人が、自分の欲望を殺して薪に安らぎをくれたとき、その報せは届いた。

 青木は何も聞かなかった。
 ただ、抱きしめてくれた。薪の心の中は何ひとつ知らないくせに、青木は薪の欲しいものをくれた―――。

「薪くん。これ、潤也から君に。ラブレターだってさ」
 定例報告に訪れた薪に、小野田は1通の封書を手渡した。
 短い手紙を、薪は5分もかけて読んだ。
 その文字を、文章を、指でなぞって何度も読んだ。
 くちびるをぎゅっと噛んで、声を上げまいと拳を握り締めた。肉親の小野田が我慢しているのに、自分が崩れるわけにはいかない、と気張った。

「薪くん。泣いてもいいよ。みんなには黙っててあげるから」
「大丈夫です」
 ふっと息を吐いて、薪は天井を見上げた。照明器具の光がぼんやりと滲んでいるのは、疲れ目のせいだと思うことにした。
 上司の前で上を向いた姿勢というのも考えものだが、小野田はその日も薪の無礼を見逃してくれた。



*****



 ツヨシ。
 元気でやってる? 君が元気でいてくれると、僕はすごくうれしいよ。
 
 まさか、手術の前に君がストックホルムまで来てくれるなんて、夢にも思わなかったから。僕は心底驚いて、これはどうやら手術を受ける前に発作が起きて死んでしまって、いつの間にか天国に来ていたのか、と真面目に考えたよ。(天国では相手の生死に関わらず、好きなひとに会えるらしいよ)
 本当は君に言いたいことがたくさんあるんだけど、クスリが効いてて、長い文が書けないんだ。モルヒネのせいで、正気でいられる時間が短くなってる。

 いま、一番気がかりなのは、君のことだよ、ツヨシ。

 僕が死んだら、君は泣くのかな。
 哀しい思いをさせてしまうのかな。僕は、君を苦しめてしまうのかな。
 そのことが、とても心配だ。

 僕は幸せだったよ。
 君の存在が、僕に自分の人生を幸せなものだったと思わせてくれたんだよ。
 君に会った最初の日、狂った学者が「研究ができない」という理由で自殺したと君は話していたね。あの場では言えなかったけど、僕にはその気持ちが良く解ったよ。
 この病気が発覚したとき、僕も同じことを考えたから。
 これ以上、研究ができないなら、僕がこの世に生きている意味はないって。
 僕が死んだら、母や友人が悲しむだろうなんて、そんな当たり前のことすら頭に浮かばなかった。科学者なんて、みんな少し狂っているのかもしれないね。

 だけど、セイジから君の話を聞いて。
 新しい捜査の可能性を拓くために、懸命に努力する君の姿をメディアで見て、もうしばらく君のことを見ていたいと思った。
 セイジから君の話を聞くのが、君の活躍した新聞記事を読むのが、君の写真を見るのが。僕の唯一の楽しみだった。生きる支えだった、と言い直してもいい。

 8年もの間、僕は君に命をもらってたんだ。
 君は知らなかったと思うけど、僕はずっとずっと、君が好きだったんだよ。

 ほんの少しの間だったけど、君に会うことができて、最高に楽しかった。
 今まで生きてきて、本当に良かったと思った。この時ばかりは抗癌剤に感謝したよ。(しかし、あの抗癌剤の副作用ってのはどうにかならないのかね。君には生涯不要であることを願うよ)
 夢中で捜査をする君は、とても輝いてた。素敵だったよ。
 だから、いつまでも見ていたかった。少しでも長く、君と一緒にいたかった。

 憧れの君が目の前で動いて喋って、怒って怒って怒って……ああ、本当に君は怒ってばっかりだったね。
 でも、最後は笑ってくれた。
 僕の手を握って、「元気になったら、僕とデートしましょう」って、言ってくれたよね。その日が来ないことは分かっていたけど、僕はとってもうれしかった。

 ありがとう。

 何かお礼がしたいけど、僕にはもう、祈ることしかできないから。
 願わくば、これからの君の人生に、百万もの幸せが訪れますように。

                                                    潤也




―了―




(2009.10)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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二階堂先生は‥幸せ者

‥二階堂先生はずるい!

‥死んだら永遠に薪さんは先生のことを忘れられないでしょう?
そうして薪さんの中に生きていくんですね‥
ある意味幸せかも‥
だって薪さんの中で色あせずにあの笑顔で
いられるんだものね‥
ああ‥幸せ者‥
「運命のひと」の中でずっと生きていける‥
そういう逝きかたって‥
いいなぁ‥先生の人徳というか、生き方が素晴らしかったんで
神様が最後にご褒美をくれたという訳ですね‥
ひとはいつか死ぬので‥それは宿命なので‥
またいつか薪さんと会えるし‥そんなに悲しむことではないのかな‥

だけど辛いじないっ!!
ひどいぃっっ!
私の二階堂先生を返してっ!
‥と言いたくなってしまいます(T_T)
しづさんも辛かったです?
ごめんなさい‥責めてません‥ただの愚痴です。
でも‥泣けるなぁ‥

しづさん、お疲れ様でした。
ありがとうございました。

傷心のruruより‥連続コメ‥お許し下さい‥

ruruさんへ

ruruさん、コメントをたくさんありがとうございました。
とってもうれしかったですっ。


> ‥二階堂先生はずるい!
>
> ‥死んだら永遠に薪さんは先生のことを忘れられないでしょう?

ずるいですねえ。ある意味、鈴木さんと同じですからね。
でも、敢えて二階堂の弁護をさせてもらうなら・・・・・二階堂は、薪さんに自分の病気のことも死のことも、永遠に報せるつもりはなかった、小野田さんにはそのように頼んでいたのです。だから、これは本当に彼の筋書きにはなかったことで。薪さんに自分のことを覚えていてほしいなんて、ぜんぜん思っていなかったのでした。


> そうして薪さんの中に生きていくんですね‥
> ある意味幸せかも‥
> だって薪さんの中で色あせずにあの笑顔で
> いられるんだものね‥
> ああ‥幸せ者‥

ですよねー、鈴木さんって幸せな人だよな、ってよくうちの青木くんが愚痴ってるんですけど。気持ち、わかってくれます?


> 「運命のひと」の中でずっと生きていける‥
> そういう逝きかたって‥
> いいなぁ‥先生の人徳というか、生き方が素晴らしかったんで
> 神様が最後にご褒美をくれたという訳ですね‥

ああ、そうか、そういう見方、素敵ですね。
自分でも考えていなかった解釈をしてくださって、とても光栄です。ありがとうございます。


> ひとはいつか死ぬので‥それは宿命なので‥
> またいつか薪さんと会えるし‥そんなに悲しむことではないのかな‥

これは、避けられないことですよね。
二階堂みたいにいつ死ぬか、普通はわからないだけで、みんないつかは死んじゃうんですよ。もしかしたら、明日交通事故で死んじゃうかもしれないでしょう?
だから。
悠長なこと言ってないで、さっさと気付けよ、原作青木!


> だけど辛いじないっ!!
> ひどいぃっっ!
> 私の二階堂先生を返してっ!
> ‥と言いたくなってしまいます(T_T)

ありがとうございます、二階堂の死を悼んでくださって。感謝します。


> しづさんも辛かったです?

書いてるときはなんも感じません。
読み直したときにね・・・・実はちょっと泣きました(^^;
うう、自分が書いた話で泣くなんて、気持ち悪いやつですみません・・・・。


> ごめんなさい‥責めてません‥ただの愚痴です。
> でも‥泣けるなぁ‥

謝ることなんてないです、とてもうれしいです。
本当にありがとうございます。


> しづさん、お疲れ様でした。
> ありがとうございました。
>
> 傷心のruruより‥連続コメ‥お許し下さい‥

いえいえ、ありがたかったです。
傷心には薪さんのコスプレが効くと思います(^^
ありがとうございました。

Kさまへ

鍵コメいただきました、Kさまへ。

ええ、もう言葉よりもはっきりと、Kさまのお気持ちが伝わってまいりました。
ありがとうございました・・・!!

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一部、ご不快な表現がございます。m(_ _)m

しづ様
遅コメ、すみません。

死を告知された脳科学者でしたか。
そういう視点で読み返すと、冒頭の、リサイクルボックスに突っ込んでもニコニコしていた場面から、すでに意味が違ってきますね。
憧れの人のアクションシーンに巻き込まれるという、奇跡のような出会い方ができたのです。ここは日本だということを忘れて、抱きつきたくなるのも自然なことでしょう。
(唇にくちづけたのは、やっぱりヘンタイのどさくさまぎれの行いだと思いますけど。青木もチャンスを逃さず、眠っている薪さんの唇を奪ってましたものねえ。)

まったくもって、しづ様のドS…。
薪さん、鈴木さんの死を乗り越えつつあるのに。
第九の室長として、短期間とはいえ濃密な関係にあった人の死。
部下の死に劣らないショックだったでしょう。
スウェーデンから帰国した夜は耐えきれず青木を呼びつけたものの、冷静さを取り戻したとき、何を思うのでしょうか。青木の将来を憂い、ヒトデナシをやめようとするのではないでしょうか。

青木の「好きな人がいるから見合いはできない」発言も、では一度その人を連れて来いということになるでしょうし。(この年末年始、青木はどうしたのでしょう?)
青木がいつまでも彼女連れで帰郷しないと、勝手に食事の場をセッティングしてしまうおじさんが上京してきそう。
その場しのぎに薪さん、女装しますか? 雪子さんに恋人役を頼むとか?(この場合、薪さんはもちろん本気)

また喧嘩が予想されて心配です。(本当か? すったもんだを期待してたりして)

失礼しましたぁぁ~~~(←今回もまた逃走)

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サンショウウオさんへ

こんばんは、サンショウオさん。
遅コメなんかじゃないです、てか、こちらこそお返事遅くなってすみません(^^;


> 死を告知された脳科学者でしたか。
> そういう視点で読み返すと、冒頭の、リサイクルボックスに突っ込んでもニコニコしていた場面から、すでに意味が違ってきますね。

あ、これ嬉しいです。
あの時の彼の行動はこういう意味だったのか、って後からその裏を読んでいただけるなんて、作者冥利に尽きます。

> 憧れの人のアクションシーンに巻き込まれるという、奇跡のような出会い方ができたのです。ここは日本だということを忘れて、抱きつきたくなるのも自然なことでしょう。
> (唇にくちづけたのは、やっぱりヘンタイのどさくさまぎれの行いだと思いますけど。青木もチャンスを逃さず、眠っている薪さんの唇を奪ってましたものねえ。)

二階堂は外国生活が長いので、キスは本当に挨拶代わりだったんですけど、それでも唇だしなあ。
えーっと・・・・・結局ふたりともヘンタイってことですね!


> まったくもって、しづ様のドS…。
> 薪さん、鈴木さんの死を乗り越えつつあるのに。
> 第九の室長として、短期間とはいえ濃密な関係にあった人の死。
> 部下の死に劣らないショックだったでしょう。

すみません、反論できません(^^;
二階堂の計画通りなら、一生知らないままで済んだんですけどね。そうは問屋が卸さないのがSの血なのかしら。


> スウェーデンから帰国した夜は耐えきれず青木を呼びつけたものの、冷静さを取り戻したとき、何を思うのでしょうか。青木の将来を憂い、ヒトデナシをやめようとするのではないでしょうか。

そうですねえ。可能性ありますねえ。
ていうか、うちの薪さんて年がら年中そんなことばっかり考えてるような・・・・ははは。


> 青木の「好きな人がいるから見合いはできない」発言も、では一度その人を連れて来いということになるでしょうし。(この年末年始、青木はどうしたのでしょう?)
> 青木がいつまでも彼女連れで帰郷しないと、勝手に食事の場をセッティングしてしまうおじさんが上京してきそう。

げ。
そんなことは考えませんでした。
来ちゃったらどうしましょう。

> その場しのぎに薪さん、女装しますか? 雪子さんに恋人役を頼むとか?(この場合、薪さんはもちろん本気)

あ、これ面白そうですね♪


> また喧嘩が予想されて心配です。(本当か? すったもんだを期待してたりして)

大丈夫ですよっ。
なんのかんの言っても、どれだけシリアスな話が間に入ろうとも、このお話って結局はギャグなので。どんなケンカになったって、あおまきさんラブが崩れることはないし、ふたりが別れてお終い、って結末もないですから。


> 失礼しましたぁぁ~~~(←今回もまた逃走)

わたしこそ、失礼しました~~。
こんな結末になってしまって・・・・自分で書いてても、自分の思い通りにはならないんですよ。不思議ですねえ。

あ、それといただいたタイトルなんですけど、
どこが該当箇所なのでしょうか??
すみません、よくわかりません(><) ごめんなさいです。

Sさまへ

Sさま、お返事遅くなってすみません。
はい、非公開でとの仰せでしたので、コピーして再投稿して原本は削除させていただきました。(こういうこと、していいのかしら?)これでよかったかしら。


でもって、Sさん。
えへへ、泣かしちゃいました?すみません(^^;
ドクター、好きになってくださってうれしいです。

>苦しんで欲しいのは青木で、薪さんじゃありませんよ!

あ、ほんとだ!
Sさんのご意向と真逆の結果に!
すみませんでした~~。


>薪さんの控えのお相手として長く活躍していただいて、青木の嫉妬をかき立てて下さらなくてはいけなかったのに。

ぶはっ、控えのお相手って!!
Sさま、言葉のセンスが只者じゃありませんね☆☆☆


>ああ、私はもうドクターの中に入り込んでしまっているんです・・・。

うわ、どうしましょう。
そんなに二階堂に感情移入してもらって・・・・うれしいですけど、すっごい罪悪感が・・・・や、やばい(^^;


> しかし、私のリクが(単に薪さんに少しでもイイ思いをしてもらおうと願って)こんな深いお話になったとは、望外の幸せです。しづさんの狙い通り、こころを揺さぶられてしまいました。どうも有り難うございました。(ううう、ドクターに会いたいよ~)

ええ、Sさまのおかげでこのお話はできました。
二階堂というキャラも、Sさまのご要望の脳科学者という職業から生まれたものです。ありがとうございました(^^

しかし、あー、すみません。
単発キャラなのに、そんなに泣かれちゃうとは~~、えっとごめんなさいです。
二階堂は幸せ者です。
ありがとうございました!!

Aさまへ

Aさま。


幸せは生きた長さじゃない。 おっしゃる通りだと思います。
そして、決めるのは当人の主観ですよね。 短くても、自分がいい人生だったと思えれば幸せなんですよね。

現在、外では盛んにセミが鳴いております。 彼らの人生は地中に7年も居て外に出られるのはたった1週間、あとは死が待つだけでとても寂しい一生だと人間は思っているわけですが。 
実は彼ら、地表に出てからの快楽ホルモンの分泌が半端ないらしい。 覚醒剤の純モノかくやというハイテンションで疲れ知らず、最高の快楽を味わい尽くす。 その前の地中にいる間はさぞつまらないかと思いきや、大抵は寝てるので楽だし、いい夢見てるからそれもかなり楽しい。 本人からしてみれば最高の人生―― かもしれない(笑)、ということですね。

Sさまへ

6/11に鍵拍手コメントいただきました Sさま。

お返事ものごっつ遅くなってすみません。
見透かされてる気がしますが、SS書いてました、ごめんなさい(^^;


>まったく今更なんですけど、何度読んでも泣けます…

ありがとうございます(;▽;)
Sさま、二階堂お気に入りでしたものね。思い出して下さって、再読いただいて、本当にありがとうございます。

いや、バカって言われてもww(←うれしいらしい)
この終わりじゃないと、しっくりこなかったんですよね。なんでだかはわたしにも分からないです。書いた本人にも理由が分からないの、不思議だねえ。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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