言えない理由 side A (1)

 5000拍手のお礼です。
 薪さんが鈴木さんに振られる話です。 暗いです。
 でも、読み直したら報告書みたいに書かれてたんで、そんなに辛くないと思います。(←突っ込んで書くのが辛かったらしい)

 そんなわけで、中途半端なお話で申し訳ないんですけど、
 リクエストをくださったドSの方々に捧げます☆






言えない理由 side A (1)







 後戯は恋人たちにとって、大切な時間だと青木は思う。
 激しい交歓のあと、お互いを慈しむように抱き合う時間。男というものは欲望が去ってしまうと愛情も冷めてしまうものだが、青木は違う。性欲に支配されがちなセックスの最中より、むしろこちらのほうがより強く相手を愛おしく感じることができる。
 しかし、青木の恋人はイヤになるほど男の特徴を持ったひとだった。それもそのはず、相手は12歳も年上の男性なのだ。

「ウザイ。離れろ」
 行為が終わった途端、口にしたセリフがこれである。ひどい、というよりいっそムゴイ。セックスの余韻を楽しむどころか、先刻までの情熱を消し去るような言い草だ。
「もうちょっと付き合ってもらえません?」
「いやだ。眠い」
 青木を受け入れたまま、そう言って大きな欠伸をしたかと思うと、ことりと横を向いて目を閉じてしまう。余韻も何もあったものではない。

「もう少しこのままでいたいです。お願いですから」
「うるさい、早く退け。もっとやりたきゃどっかの女に処理してもらえ」
 きれいな顔を歪めて、ぞんざいな口調で吐き捨てる。
 青木は穏やかで滅多に怒らない男だし、この恋人は2年もかかって口説き落とした相手で今もメロメロに惚れているし、しかも職場の上司だしで何を言われても口答えなどしたことがないのだが、さすがにこれには黙っていられなかった。

「薪さんて、オレのこと本当に好きなんですか?」
「さあ」
「さあって……オレのこと、なんだと思ってるんですか?」
「セフレ」
「そんなあ」
 このひとは平気でこういうことを言う。その無神経さが、青木をどれだけ深く傷つけているか知っているのだろうか。

 がっくりと肩を落として、情けない顔になった青木を、薪は心の中で嘲笑っている。
 青木のこういう顔を見ると、腹の底がぴくぴく震えてくるのは何故だろう。妙にハイな気分になって、笑い出したくなる。薪には自分が意地悪だという自覚はない。
 青木はため息混じりにベッドを出て、それでも薪にパジャマを着せてくれる。実際、薪は眠くて仕方がない。服を着る余裕もないのだ。
 正直な話、もともとこちらの方はあまり強くない。12歳も年下の男の欲望に付き合いきれるほどの体力も性欲もない。終わった後はぐったりしてしまって、指一本動かしたくないくらいだるい。

「シャワー借りますね」
 若い恋人が薪にキスをして寝室を出て行く頃には、薪はうとうとと夢の世界を彷徨い始めている。恋人に抱かれたすぐ後で、薪は昔の恋人を夢に見る。
 自分にベタ惚れの恋人をセフレと言い切ったり、ベッドの直後に昔の男のことを考えたりするなんて限りなく不実な行為だ。薪にも自覚はあるが、それを改めるつもりはない。

 だって、これは青木のためだから。

 付き合いはじめてもうすぐ1年。
 ちょうどこれぐらいの時期だった。鈴木との間がギクシャクし始めたのは。
 あの当時は分からなかったが、今の薪にはその原因が理解できる。自分の愚かさも、鈴木のやさしさも、雪子の愛情の深さも。
 今度はしくじらない。蒙昧だった幼い自分はもういない。

 深い眠りに落ちていきながら、薪は16年前の苦い日々を振り返っていた。




*****





 20歳の薪は、人生で最高の幸福期にいた。
 恋焦がれた相手が、自分の恋人になってくれた。自分の身に訪れた幸せが信じられなくて、毎日が夢のようだった。
 
 相手は同性の同級生で、薪は想いを打ち明けることもできずにいた。それまで男を好きになったことなどなかったから、そのうち冷めるだろうと自分でも思っていたのだが、彼を好きだという気持ちは薪の中でどんどん膨れ上がって、挙句の果てには我慢しきれず、無理やり彼にからだの関係を迫ってしまった。ずい分勝手な話だ。それなのに限りなくやさしい彼は、薪の気持ちに応えてくれて、薪のことを恋人として認めてくれた。

 この当時の薪は、文句なしに輝いていた。
 こころから愛した相手に自分も愛されているという自信が彼をきらめかせて、周囲の人間を虜にした。男女の別なく、引きも切らさず誘いが掛かった。
 しかし、薪が見ていたのは鈴木だけだった。他の人間など、眼中になかった。どうでもいい人間のことで、鈴木にあらぬ誤解を受けることのほうが怖かった。だから薪は、自分に寄せられた好意をことごとく跳ね除けた。そのせいで、薪の交友関係はひどく狭いものになっていった。

 鈴木によって開かれた薪の世界は、鈴木一色に塗りつぶされて収束しようとしていた。
 鈴木とただの親友だったころは付き合っていた他の友だちともゼミ仲間とも、プライベートでは一切関わらなくなった。いつも鈴木とふたりきりでいたかった。他の人間は必要なかった。

 僕の世界には、鈴木だけいればいい。
 薪は本気でそう思っていた。

 恋に溺れるというのは正にこういう状態を云うのだな、と後で分かったけれど、そのときはこんなにも深く愛せる相手と巡り会えた幸せに浸っていて、客観的に自分を見ることなどできなかった。
 思えば、それがよくなかった。あまりにも相手を愛しすぎた。大きすぎる愛情で相手を窒息させ、激しすぎる恋情で相手を焼き尽くしてしまった。

 鈴木との別れは薪に深い傷を残したが、薪には一生に一度の激しい恋だった。後にも先にも、あれほど強く誰かを欲したことはなかった。
 全世界と引き換えにしても、鈴木が欲しかった。命を捧げてもいいから、自分を愛して欲しかった。
 そんな身を滅ぼすような恋をしていた、あのころ。

 あの時代に戻りたいとは思わない。そこでなら鈴木が自分を愛してくれると解っていても、あんな愚かな自分に戻るのは嫌だった。どこまでも子供で果てしなく無知で、なにひとつ分かっていなかった20歳の自分。
 そんな嫌でたまらない過去の自分を、薪は鮮明に夢に見る。

 忘れてはいけない。
 恋をしたとき、自分がどれほど残酷な人間になるのか。自分の恋心だけに捕らわれて、相手をどれだけ傷つけてきたのか。
 あの過ちを二度と繰り返さないために、薪は幾度も辛い過去を思い出しては自分を戒める。

 薪の夢の中で20歳の自分が、またバカなことを考えている―――。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Cさまへ

Cさま。

はじめまして。
せっかくコメントいただいたのに、お返事が遅くなってすみません。
拙作を読んでいただいてありがとうございます。
萌えてくださってうれしいです(^^)

「ふじょしのもり」と言うのがあるのですか? 存じ上げませんでした。
実はわたし、薪さん限定腐女子でして。一般のBL小説も、他の漫画の二次の腐も読まないんです。薪さんだけがわたしを狂わせるのです。



ところでCさまは、
「秘密」の原作をまだ読まれていないとのことで、
ぜひ!! 読んでみてください!

うちのはとんだニセモノですが、(多分秘密コミュの中でも一番原作から遠いところまで来ちゃってます、すみません(^^;)
原作薪さんの美しさ、切なさ、カッコよさといったら!! 
とても言葉では言い尽くせません。

不肖わたくし、オタクの世界から足を洗って20年ほど経っていたのですが、
薪さんに出会ってそのお人柄に惚れこみ、結果、
それまでの20年が吹き飛んでこの世界に戻ってきてしまいました。

原作薪さんはそれほどの魅力を持っております。
ぜひぜひ、読んでみてくださいませ!
よろしくお願いいたします。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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